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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
175/360

進撃


「こりゃしてやられたの~」

 城から突然現れたリナ達に、ラズゴートの横でメロウは感心した様に唸る。

「転移の術を持つ者がまさか敵さんにいるとはね。 抜かったわ」

「過ぎたことを気にしても意味はない。 それより部隊の配備は?」

「ヴォルフが既にしとるよ。 恐らくすぐに出撃するじゃろうな。 ま、若いもんばかりじゃ心配じゃし、わしも行かせてもらうか」

「油断するなよ、メロウ爺」

「そこまで耄碌しとらんよ」

 メロウが姿を消すと、ラズゴートは後ろに意識を向ける。

「お前さんの所の連中も、準備は出来とるんだろ?」

 ラズゴートが後ろに声をかけると、ギゼルが姿を現した。

「ええ、既に結界の外にいるミューとアルファの部隊を除いた全部隊が出撃しています」

「流石に対応も早いのぅ」

「こうなることは予測出来ていましたので」

「ほぉ」

 ギゼルを咎めもせずラズゴートはその話に耳を傾けた。

「恐らく奴等と行動を共にしたアーサーも気付いていたでしょう。 それで敢えて放置していた」

「どの道攻められるならわざと入りやすい隙を作ってそこを精鋭で叩くか」

「仰る通りでしょう」

「ティトラ達はその為の囮か。 損な役割じゃのぅ」

 そう呟くラズゴートの上空を、幾つかの飛行部隊が飛んでいく。

「我が隊のデルタとカイザルの飛竜隊ですな」

「全面衝突か。 なら、わしらも本腰入れんとな」

 そう言い、ラズゴートはリナ達のいる戦場を見据えた。





「止めろ! 今すぐ奴らを止めろ!!」

 イグノラに残ったアーサー直属部隊は、リナ達が現れた現場に即座に駆け付けすぐに迎撃体勢を取った。

 防御の厚い者達を先頭に、後方から弓矢や魔術での迎撃、そして接近戦部隊が地上のレオナ達へと向かってくる。

「ふひひ、流石に対応が早いね。 でも、それじゃ僕らは止められないよ」

「うがああああああああああああああ!!!」

 エルモンドが不敵に笑うとその後ろからジャバが飛び出し、放たれた魔力弾や矢を物ともせず敵を凪ぎ払う。

「おれ! ノエル助ける! そこ通す!! うがああああああああ!!!」

 ジャバの咆哮が周囲の建物事敵を吹き飛ばしていく。

「相変わらずの化け物だな」

 それを上空から見たデルタは思わずそう呟くが、すぐに思考を切り換え自身の隊である第五部隊空中戦闘部隊に指示を出す。

「全隊員に告ぐ! 目標ジャバウォック! 飛竜隊と連携しまず奴に集中砲火を浴びせる!」

「ラジャー!」

 デルタと第五部隊は背中の鉄の翼から炎を噴出しながら、飛竜隊と共にジャバに標準を合わせる。

「ターゲットロックオン・・・ファイヤー!!」

 デルタの号令と共に第五部隊から一斉に魔道爆雷筒が、飛竜隊から乗っているワイバーンのブレスが一気に放たれる。

 だがその全てはジャバに当たることなくその場に停止する。

「な!?」

「そう何度もバンバンやらせるかよ」

 リナが斥力を発生させ、全ての攻撃を空中で止めた。

 そしてそのまま拳を握るとデルタ達の攻撃はその場で爆発した。

「ディアブロ!」

「おっと、リナばかり見てると怪我するよ」

 デルタがその声に反応するよりも速く、幾つもの熱線がデルタ達の翼を貫いていく。

「フレアダンス」

 クロードはいつの間にか作り出した多数の火球から熱線を放ち、第五部隊と飛竜隊の頭上に雨の様に降り注いだ。

「バハムート! 貴様~!!」

「悪いけど、今回は遊びは一切なしだ。 君達ならこの高さから落ちても死なないだろうけど、暫く退場してもらうよ」

 クロードの言葉を聞きながら、デルタは地面へと落下していった。

「全く、張り切っちゃってらしくないわねクロードも」

 上空の様子を見ながらそう呟くスカルヘルム姿のレオナだったが、その姿には闘志が滲み出ていた。

「ま、今回はあたしも人の事言えないか」

 レオナは一足飛びで敵の集団の中に飛び込むと、そのまま体から何本もの鉄の刃を産み出して敵を切り裂く。

「鉄分もたっぷり補給してきたし、今回はあたしも本気で行くわよ」

 そのまま敵の中で不規則に刃を振るうレオナに、アーサーの部隊は死神に刈り取られるが如くなす術なく次々と切り裂かれていく。

「ふひひ、皆張り切ってるね~。 なら、僕だけやらないのもおかしいよね」

 エルモンドは杖の宝玉を光らせると、地面から大地の巨人タイタンが現れる。

「アースクエイク」

 エルモンドの言葉に反応しタイタンは思い切り地面を殴り付ける。

 するとそれが衝撃となり大地が盛り上がり次々と敵を薙ぎ倒していく。

「ダッハッハッ! やはりやりおるのぅ五魔は! わしらもやっちゃるけぇの!!」

 五魔の姿に触発されたアクナディンは背中の大剣サンダリオンを抜くと、宙に飛び上がり勢いのまま振り下ろした。

「なんなら~!!」

 雄叫びと共に地面にサンダリオンが叩き付けられると、地面は陥没し周囲にいた敵は吹き飛ばされる。

「どうした!? そがあなもんかアルビア!?」

「うらぁ!!」

 そう言うアクナディンに舞い上がる土煙の中のから飛び出してきた影が爪を振り下ろした。

 アクナディンはそれを素早く受け止め弾き返す。

 弾かれた影、ヴォルフは体を回転させ着地した。

「ほぉ! 獣王んとこの小倅か!」

「なんで武王がこんなとこ来てやがんだよ!?」

「なんと!? わしの変装に気付くとはやりおるのぅ!!」

「んな覆面誰でもわかんだろうが!?」

 本気で驚き感心するアクナディンに思わずツッコむヴォルフだが、すぐに思考が戦闘モードに切り替わる。

 ヴォルフの後ろから獣王親衛隊のあらゆる獣人達が駆け付けてくる。

「面白うなってきたわ! アシュラ!

雑兵の相手は任せるけぇ! 無理矢理付いてきたんじゃからわしの邪魔させるな!」

「心得ております、陛下」

 アシュラはそう言いゴリラと像の獣人の攻撃をかわし、カウンターで薙ぎ倒す。

「陛下はその者との闘いをどうぞお楽しみください」

「ダッハッハッ! つうわけじゃ! たっぷり楽しもうけぇ!」

「楽しむって状況じゃねぇんだけどな。 ウオオオオオオオオン!!」

 構えるアクナディンに、ヴォルフも遠吠えを上げながらノエルと闘った時と同じ獣人の力を引き出した本気の姿へと変化する。

「獣王の牙ヴォルフ! 舐めると喰い殺ぞ!」

「上等上等! ラディン・アクナディン! 参る!!」

 アクナディンの剣とヴォルフの爪のぶつかり合いが始まった。

「たく、あの野郎滅茶苦茶やりやがる」

 ギエンフォードは呆れながらもパイプを軽く吹かすと、火を消し懐にしまった。

「俺達も遅れは取れねぇ! さっさとやるぞ!」

「「おう!」」

 ギエンフォードの号令で、ラグザ達亜人族長も戦いへと雪崩れ込んでいく。






「やられましたね」

 イグノラの外から結界を張っていたミューは中の様子に歯軋りする。

 絶対に破られることのなかった自分と部下達の結界がこんな形で破られ、静かに屈辱を感じていた。

 だがそれでも冷静なミューはすぐに部下達に指示を出す。

「直ちに結界を解除しなさい!」

「しかし、それではイグノラの守りが!」

「既に侵入を許してしまった以上、結界は邪魔なだけです! すぐに私達も戦いに加勢するのです!」

 ミューの指示を部下達が実行しようとした瞬間、地響きが鳴り始める。

「な!?」

 周囲が混乱する中、地面から巨大な蛇が姿を現した。

「あれは、五魔の移動用の!?」

 地面から伸びる大樹の様に現れたラクシャダは雄叫びを上げ、その口からゴブリンの兵達を吐き出した。

 地面に降り立ったゴブリンの先頭に立つのは、小鬼領主(ゴブリンロード)ゴブラドだった。

「魔甲機兵団のミュー殿とお見受けする! 我が名はゴブラド! ノエル陛下の為、ここは我らがお相手しよう!」

 棍棒を片手に名乗りを上げるゴブラド達ゴブリンに、ミューは覚悟を決めた様にローブのフードを外す。

 するとそこから白い長い髪の美しい顔立ちの女性の顔が露になる。

「ゴブリンの長ゴブラド様ですか。 いいでしょう。 第六部隊隊長ミューがお相手しましょう。 その命、我が主の為命を捧げていただきます」

 迎撃体制に入るミュー達第六部隊を前に、ゴブラドはゴブリン達に激を飛ばす。

「ゴブリンの戦士達よ! 今こそ我らの力を示す時! 突撃!!」

 結界を外で、ゴブラド達ゴブリンとミューの第六部隊の衝突が始まった。






「ムッハー!! このまま好きにはさせんぞ五魔!!」

「またあんたなの!?」

 乱戦の中、魔甲機兵団第四部隊隊長シグマが右手のティラノハンドでレオナに襲い掛かる。

 だがその間にレオノアが立ちふさがりシグマの攻撃を剣で受け止めた。

「ぬぅ!?」

「ここは我らに任せて、主らは早くノエル陛下の元へ」

「お願い! そいつ無駄に固いから気を付けてね!」

 レオナがその場から去ると、レオノアは目の前のシグマに向かい構えた。

「猫風情が! 太古の王の力を持つこのシグマ勝てると思うか!?」

「百獣の王を舐めるなよ、蜥蜴風情が」

 レオノアは狩りをする時の獅子の眼となりシグマに向かっていった。

「今の内に僕達も行くよ!」

「うがぅ!!」

 レオナに続きエルモンドとジャバも包囲網を抜けようと前進を始める。

「ここを抜かしてはなりませんわ! 全部隊、一斉掃射!!」

 包囲網を抜けようとするレオナやジャバ達にイプシロンは自身の銃や砲門を全開にし、第三部隊と共にエルモンド達に射ち始める。

 だがその銃弾と砲弾は幾つもの矢で相殺される。

「なんですって!?」

「あの方達の道は塞がせません」

 イプシロン達の前に立ちはだかったのは、戦装束のエルフの長キサラだった。

「小娘が! 邪魔をするんでないよ!」

「どちらが小娘か教えて差し上げますよ、お嬢さん」

 キサラは弓を構えイプシロンと射ち合い始めた。

「ちょっとちょっと! 二人とも何やってんの!?」

「やっぱり僕達がいないとしょうがないねゼータ兄さん!」

 第二部隊隊長の双子、ゼータとシータは体をバチバチと帯電させる。

「マグネットパワープラス!」

「マグネットパワーマイナス!」

 二人は地面に磁力を照射すると、巨大な砂鉄の巨人が産み出される。

「「マグネティックゴーレム」」

「うがぅ! おれこいつ嫌い!!」

 1度戦い手こずらされた相手を前に戸惑うジャバの横を、1つの影が飛び出した。

「鉄なら俺の出番よ!!」

 ドワーフ王ドルジオスは口から炎を吐きマグネティックゴーレムを熱すると持っていた大鎚でその体を叩き始める。

 マグネティックゴーレムはみるみる鍛えられ、只の鉄像と化した。

「俺達のゴーレムが!?」

「なんでドワーフが魔術使えるんだよ!?」

「はっ! ドワーフは鍛冶の一族よ! 特にその中で仮にも王と呼ばれる俺が、火術の1つや2つ使えねぇ分けねぇだろ!」

 ドルジオスは髭を撫でながらジャバに向き直る。

「つうわけでこいつらの相手は俺達に任せてさっさと行ってくだせぇ!」

「助かる! 無理するな!」

 ジャバがその場を後にするのを、オメガは遠目で眺めていた。

「流石亜人の長達と言った所か。 厄介だな。 だが、ここを通すわけにはいかない」

 オメガは右手から爪を出すと回転させ、右腕全体に稲光を発生させる。

「ライトニングフィスト!!」

 拳を前に突き出し巨大な雷撃の渦を五魔の方へと放った。

「おらぁ!!」

 その前に現れたラグザは大刀を振り下ろし、雷撃の渦を真っ二つに切り裂いた。

「な!?」

 珍しく驚くオメガに、ラグザは刀の峰を肩に当て対峙する。

「俺達全員リナ殿達の道を開く為に来てんだ。 てめぇらごときが、五魔の邪魔すんじゃねぇよ」

 戦闘民族鬼人族(オーガ)特有の殺気と闘気を放つラグザに、オメガは認識を改めた。

 目の前にいるのは只の雑兵ではなく、覚悟ある戦士だと。

「貴様らの力は理解した。 だが俺もギゼル様の為に負けられん」

「じゃあ、お互いの主の為戦り合うとするか!?」

 ラグザの大刀とオメガの爪がぶつかり合い、火花を散らせた。

「あいつら」

「彼等の意思を無駄にしない為に、私達も行こう」

 上空からラグザ達の姿を見ていたリナに、フレアダンスを射ち続けるクロードが促す。

「そうだな。 でも折角だ。 しっかり道造って行こうじゃねぇか」

 リナはそう言うと両腕に魔力を為重力場を産み出す。

重力螺旋(スパイラルグラビトン)!!」

 両手から放たれた2本の重力波は螺旋状に絡み合い、前方の敵、建物を全て巻き込みながら吹き飛ばしていく。

 それは勢いを落とさずアルビア城へと一直線で向かっていく。

「ずりゃああ!!」

 だが重力波はアルビア城に届く事なく真っ二つ斬り裂かれた。

 斬られた重力波の間にいたのは、巨大な戦斧を振り下ろす聖獣ラズゴートの姿があった。





「全く、相変わらず加減を知らん奴だ。 ノエル殿が巻き添えになることを考慮出来んのか」

「わしがいるから大丈夫じゃと思ったんだろう。 全くいらんとこで信頼しよって」

 ラズゴートはつくづく自分が嫌になる。

 これからかつての戦友達と戦わなければならない。

 殺し合わねばならない。

 しかも、かつて忠誠を誓った主の子を取り戻しに来る友達と。

 そんな状況なのはわかっている。

 悲しむべき状況だ。

 だがそれでも・・・。

「それじゃわしもそろそろやってやろうかの! ガッハッハッハッ!!」

 ラズゴートは笑った。

 戦場の空気に、強者と戦うこの緊張感に、全身の血が騒ぐ。

 体が高揚し、活力がみなぎってくる。

 それはラズゴートが心の底から武人であることを現していた。

 そんなラズゴートの心境を知ってか知らずか、ギゼルは変わらぬ調子でいた。

「城は私とクリスにお任せを。 貴方は存分に暴れてきてください」

「頼むわ! うおおお! やらいでか!!」

 そう言って飛び出していくラズゴートを、ギゼルは静かに見送ると城の中に戻っていった。





「相変わらず出鱈目だなおっさんは」

「彼らが動き出すなら、私達も覚悟しないとね。 それとリナ」

「あ?」

「やっぱり君は先に行っててくれるかい?」

 そう言うクロードの視線の先には、古竜ジークに股がるカイザルの姿があった。

「しゃあねぇな。 お前の客だ。 しっかりケリ着けてこい」

「了解。 なに、私とリーティアならすぐに追い付くよ」

 軽い調子で言いながら、クロードはカイザルの方へと飛んでいった。

「さて、俺も行くか」

「いや、ここまでだよ」

 リナが背後を向くと、クナイを構えるメロウの姿があった。

「ジジィ!!」

 完全に虚を突かれながら構え様とするリナは一匹のワイバーンが目に入った。

(透明になってへばりついてやがったか! しくじった!)

 油断していたわけではない。

 だがそれでも完全に気配を消していたメロウに気付けず、隙を突かれてしまった。

 それはメロウが本気でリナを殺す気だということの表れだった。

「邪魔すんなジジィ!」

「敵にそんな言葉通用しないよ」

 メロウの鋭いクナイの一撃がリナの首筋に迫る。

 だがそれがリナに届く事はなかった。

「おらあああああ!!」

「ッ!?」

「ライル!?」

 凄まじい勢いでジャバの背を駆け登ったライルはそのまま跳躍し、メロウに渾身の拳を叩き込んだ。

「ジジィはすっ込んでろ!」

「本当、頭に来る小僧だね!」

 辛うじて拳をガードしたメロウはそのまま落下し始める。

「姉さん! カメレオンジジィは俺に任せてノエルの所に急いであああああああ!?」

 ライルはそのままメロウの後を追い落下していった。

「あいつ、着地の事考えてんのか?」

 呆れながらも、リナは自分を助けるまでに成長したライルの姿に嬉しさを感じつつ、アルビア城に向かった。

「舎弟にばっかいい格好させられねぇからな!」


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