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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
聖魔最終決戦編
174/360

決戦開始


「納得いかねぇっての!!」

 その日、ヴォルフとオメガは突然ノエル監視の任を解かれた。

 ノエルはアーサーの管理下に入る為、二人はそれぞれの部隊に戻り備えろとアーサー直々に命じられ、ほぼ強制的にノエルから引き剥がされてしまった。

 ヴォルフも獣王親衛隊戻されたが、突然の事で納得いかず、城の親衛隊の詰め所で憮然としていた。

(俺が大将の言うこと聞いちまったからか?)

 ヴォルフはノエルが聖帝フェルペスとの会談を希望しているとラズゴートに告げた。

 その後この事態だ。

 その事が無関係だとは思えない。

 オメガも外された事を考えれば別に自分の行動が咎められた訳ではないのだろうが、突然の事でスッキリしない。

 フェルペスが会談を承諾したのか?

 それとも自分が告げた事でフェルペスを刺激してノエルが不利になったのか?

 そんなことを考えていると、ヴォルフの眉間にシワが寄り始める。 

「なにらしくないことしとんじゃ小僧?」

「どわっ!?」

 いきなり目の前に逆さまのまま現れたメロウにヴォルフは驚き後ろに転びそうになる。

「お、驚かすんじゃねぇよジジィ!!」

「わしの気配に気付かん程呆けとったお前さんに言われとうないわい」

 メロウが目の前に降りるとヴォルフはこめかみに青筋を立てて怒鳴りだす。

「うるせぇな! 俺だって考えことの1つや2つすんだよ!」

「だからそれがいらんことじゃも言っとんだよ」

 メロウは軽く指でヴォルフの額を小突いた。

「お前さんの役目は牙。 わしは目よ。 牙は主の為に戦い、目はその為の情報を整理し各所に伝える。 つまり頭を使うのはわしの仕事。 お前さんはいつも通り思いきり暴れりゃいい」

「な、なんだよ? らしくねぇな? 今日は随分優しいじゃねぇか」

「フェッフェッ。 ハンナ達もおらんしな。 お前さんに暗くされちゃ後々面倒なだけよ」

 普段と少し態度の違うメロウに戸惑いつつ、ヴォルフは体の力が抜けてる事に気付いた。

「たく、素直じゃねぇな。 ありがとよ」

「止めとくれ。 お前さんに礼を言われるなんて、それこそらしくなくて槍の雨でも降りそうだよ」

「うるせぇよ! つか親父はどうしたんだよ!?」

「ああ、奴ならあそこにおるよ」

 メロウが指指すと、部屋の外にあるバルコニーで完全武装した状態で遠くを見詰めていた。

 まるで戦場にいるかの様な空気に、ヴォルフは一瞬圧倒される。

「親父、どうしたんだよ?」

「何か起こりそうな予感がするんで臨戦態勢だそうじゃ。 ま、実際今日辺りどんぱちを始めそうじゃがね」

「そっか。 今日か」

 プラネ・ラバトゥ連合軍とアルビア軍が今日辺りぶつかる。

 数的にはアルビアが不利だがそれでもアルビアの主戦力の集団だ。

 更に自分達の所からハンナ達も行っている。

 いくら五魔がいるとはいえそう簡単には負ける事はない筈だ。

 少なくとも、今日中にここに来ることは不可能。

 にも拘らず、ラズゴートの姿は今すぐ戦闘が始まるかの様に隙がなかった。

「まさか、瞬殺してここに来るなんてねぇよな?」

「そいつは距離的にも無理だね。 第1、来たとしても簡単には入れんよ」

 現在イグノラは住民の皆避難させ、更に全体をミューの結界で覆っていた。

 今イグノラに残っているのは聖帝フェルペスとその近衛兵60人、アーサー達最高幹部の部隊約6000人、そして政務に必要な一部の文官と城勤めの者のみだ。

「だが、あのエルモンドがおるんだ。 何やらかしても不思議じゃないよ」

「本当にやらかしそうで笑えねぇな」

「まあ、さっきも言った通りわしらはわしらの役割を果たすだけじゃ。 お前さんも戦える様に準備はしときな」

 メロウがその場から去ると、ヴォルフも何があっても対処できるように隊の様子を見に行った。






 その頃、アルビア軍総勢25000は既にプラネ軍を視界に捉えていた。

「まさかかの五魔と戦う日が来るとは! 何とも不思議な縁よ! 腕が鳴るわ!」

 顔に幾つも傷を持つ第5部隊隊長リーバス・グッジは全身から闘志をみなぎらせ馬上から戦場を見据える。

 ラズゴート達より若輩ではあるが、魔帝時代からアルビアに仕える古参の将軍だ。

「はぁ~やだやだ。 昔気質のおっさんは。 無駄に暑苦しいし声でかいし」

「聞こえているぞベルス!」

 リーバスに怒鳴られ、馬の上で器用に寝そべりながら顔をしかめるのは第4部隊隊長ベルス・ローリングス。

 気だるげかつ軽い雰囲気だが、若手ながら将軍として隊を任せられる実力派の一人だ。

 ベルスはリーバスの相手は面倒と近くの者へと話題を振る。

「しっかし、アーサー様もケチ臭いッスねぇ。 最高幹部部隊殆ど出さねぇし。 俺らに負けろって言いたいんスかね? どう思いますティトラさん?」

 ベルスが話し掛けたのはティトラ・ダイム・アレクトラ。

 第1部隊隊長にして、今回の事実上の総司令官である。

 フェルペスの魔帝討伐の時の副官をしていた事もあり、聖帝フェルペスが信頼する将軍の一人だ。

 重厚な白い鎧に身を包んだティトラは、視線だけベルスに向け静かに口を開く。

「今のプラネが我々だけで対処出来るとの判断だろう。 それに兵は少ないがアーサー殿は自ら出陣なされている」

「あれ影武者っしょ? いくら俺が新参でもわかりますよ」

 ベルスの視線の先には白い馬に乗るアーサーの姿があった。

 だがベルスの言う通り、このアーサーは以前も影武者を勤めた副官のニコライだ。

 それを見抜いたベルスに感心しながらもティトラは眉を細める。

「あまり安易にそういうことを口にするな。 兵の士気が下がる」

「はいはい。 俺も負けたい訳じゃないんで気を付けますよ」

「ベルス!! 貴様俺を無視するだけでなくティトラ殿にまで無礼な態度を!!」

 いつの間にか近付いてきて怒鳴りだすリーバスに、ベルスは「面倒なのが来た」と小声で愚痴いた。

「構わない。 それより今は目の前の敵だ」

 ティトラが二人を制すると、魔甲騎兵団からの合流したアルファとアンヌが目の前に現れた。

「戻ったか。 偵察ご苦労。 して、敵の数は?」

「はい。 前方のプラネ軍はラバトゥ含め約30000。 加えて五魔、ギエンフォード、更に武王アクナディンも戦列に加わっております」

「五魔ってあのでかいのだろ? たく、あんなよ相手にしろなんて反則だよな」

 プラネから見えるジャバウォックの巨大な姿に、ベルスは愚痴る。

「アクナディンか。 昔裏をかかれた借りを返す時が来たか!」

 リーバスは軍の前方で馬上から此方を見据えるアクナディンに更に猛る。

「しかし30000とは? 事前の情報では40000程いる筈ではなかったのか?」

「はい。 何度も測定しましたが30000と」

「五魔が前線にいるならばイグノラ進攻の為に温存か、または伏兵か」

「ふん! 舐められたものよ!

俺達とて五魔頼りだった時とは違うのだ! それを思い知らせてやる!」

「あ~んなことは別にいいんスけど、実際どうなんスか今の五魔? お宅らが一番やりあってるんスよね?」

 ベルスが細い目を軽く見開き見ると、アルファは冷静に続けた。

「かの勇名に違わぬ実力は持ち合わせております。 特にディアブロは魔王の名に恥じぬ怪物です」

「怪物ね~。 聖王様にボコボコにされたって話っスけど、どこまで本当だか・・・ん?」

 ベルスが前方を見ると、プラネ側に動きがあるのに気付く。

 先程いたジャバウォックの前方に、幾つかの人影が現れる。

「あれは、魔王っスか?」

 宙に浮かぶ漆黒の鎧に身を包んだ魔王ディアブロの姿に、ベルスは軽く息を飲んだ。

 ディアブロだけでない。

 ルシフェル、バハムート、デスサイズといった五魔全員が軍の先頭に並んだ。

「はぁ、実際目にするとやべぇわ」

「ギエンフォードまで出て来よった。 名乗りでも上げるつもりか?」

 プラネ軍から五魔だけでなくギエンフォード、ライル、ラグザ、キサラ、ドルジオス、レオノア、更にラバトゥ軍からアシュラと、謎の獅子仮面が前に出てきた。

「気を抜くな! ディアブロの重力攻撃に備えよ!」

 ティトラの号令にアルビア軍全員が身構える。

 すると、ディアブロはニヤリと笑った。

「あばよ」

 瞬間、ディアブロの言葉の意味がわからずにいるアルビア軍の目の前から、前に出てきた全員が消えた。

「な!?」

「馬鹿な!? 奴らどこに!?」

 驚く周囲を他所にティトラは自分達が来た方向、イグノラの方を見た。

「謀られたか!!」






「うがああああああああああああああ!!!」

 その時イグノラでは、巡回していた兵士が悲鳴を上げた。

 何もなかった筈の場所から、凶悪な姿の巨人が雄叫びを上げながら出現したのだから。

 その周囲で、同じ様にリナやエルモンド達も転移していた。

「どうやら上手くいったみてぇだな」

「こがあもあっさりイグノラに入れるとは、爽快じゃのぉ!!」

 謎の獅子仮面、アクナディンは楽しそうにイグノラの街を見渡した。

「つうかその仮面なんだよ?」

「これか!? 虎仮面は正体がバレたけぇ、新しく新調したんじゃ! これなら敵もわしに気付かんけぇの!」

 本気でバレてないと思っているアクナディンに呆れるギエンフォードに、ライルとアシュラも苦笑する。

「ふひひ、ベクレム君が上手くやってくれたみたいだね」

「本当、失敗したらどうしようかと思ったわ」





「全軍! 直ちにこの場を離脱し急ぎイグノラに・・・ぐ!?」

 五魔達が転移した事にアルビア軍は自分達がまんまと嵌められた事に気付き、ティトラはすぐに軍を反転させようとした。

 だが後方にいつの間にかトロールやペガサス隊まで有する大軍が出現しており絶句する。

「馬鹿な! あんな軍、先程までどこにも!?」

 混乱する周囲を他所に、アルファとアンヌは突然の軍の出現の原因に気付いていた。

『あの坊や、随分成長した様ね』





「だっはっはっ! 連中慌ててやがらあ!!」

「ここまではエルモンド殿の策通りか。

ご苦労だったなイトス殿」

「おおそうだった! やっぱりあんたも大したもんだ!」

 荒くれ連合ゴンザと元コキュートの王エドガーが労うと、ジンガに乗り息を切らすイトスは少し笑った。

「俺じゃあっちに行っても役に立たねぇからな。 これくらいやってやるさ」

 エドガーやゴンザ達の軍はイトスの姿を消す術で気配もなくこっそりとアルビア軍の背後に回っていたのだ。

 最も、10000を越える大軍という広範囲に術を展開したせいで、イトスの消耗は激しかった。

「大丈夫ですかイトス様?」

「このくらい・・・て言いてえけどちとキツい。 後は任せたぜ」

「任せてよ。 ラグザの留守は私達が守るから」

 サクヤとノーラが構える姿に、マグノラとドリアードの長老も前に出る。

「ふっふっふっ、後は我らにお任せをイトス殿」

「ノエル様奪還が成るまで、彼らを足止めしなくてはな。 指揮は頼みましたぞ、総司令殿」

 マグノラはエドガーに視線を向ける。 エドガーはコキュートの王として大軍を指揮していた事から適任だと、リナ達に主力軍の総司令を頼まれていた。

(かつての宿敵の長に随分な大役が回ってきたものだ)

 エドガーが不思議な感覚を抱いていると、その横に突然一人の男が現れた。

「おおベクレム!! 無事だったか!?」

「この程度、私には造作もない」

 ゴンザにそう答えながらも、ベクレムは消耗してる様だった。

 ベクレムはエルモンドの命で密かにイグノラに潜入し、自身の秘術である転送の術式を施してきたのだった。

 敵のど真ん中でリナ達全員を転送させるまで潜伏していたせいか、精神的にも疲労が見てとれた。

「弱者は強者の糧に。 私はそれを実践したに過ぎない」

 そう話すベクレムに、エドガーは先程の自分の感覚を何となく理解した。

 かつて敵だった者も、理由はどうであれノエルの為に力を尽くそうとする。

 それは皆、ノエルに惹かれているからに他ならない。

 リナ達が自分に総司令を任せたのも、それを理解しているからこそ自分にまかせてくれたのだろう。

(なら、それに応えなければならないな)

 エドガーは決意を新たに前方を見据えた。

「全軍防御体勢! ジャック殿のトロール隊とサライ隊は前面で敵進軍を阻止! オーガ隊と荒くれ連合、ペガサス騎士はその補助を! ヘラ殿とノーラ殿のドルイド隊は死霊術と魔術で撹乱! ドリアード隊は樹木で防壁を! なんとしてもこの場を死守する!」

「「おお!!」」






 エドガーの的確な指示で動き出すプラネ軍に、アルビア軍は混乱する。

「く! どうする!? このまま突っ込むか!?」

「向こうは主力が集まってるみたいっスからね。 数は有利でも厳しいでしょう」

「ならば横だ! 横から一気に抜ければ!」

「それこそ相手に後ろと前から挟み撃ちにあうだけっしょ? もう少し考えてくださいよ」

「ベルス貴様!?」

 リーバスとベルスが言い合う中、アルファはティトラに視線を向ける。

「して、ティトラ将軍はどう見ます?」

「後方の部隊に正面突破だ」

 ティトラの一言にその場は静まり返る。

「敵の主力が集まっているのは承知している。 だが、軍としての練度は我らが上。 ならばその軍としての力を駆使し、中央突破を狙う。 敵の体勢が整う前にな」

 そう言うとティトラはアーサーの影武者であるニコライに視線を送る。

 ニコライは腰の剣を抜くと全軍に叫んだ。

「全軍突破体系!! リーバス隊を先頭に戦力を一点集中し敵の包囲を突破する! 続け!!」

 ニコライの号令にアルビア軍は一気に動き出す。

 ティトラ達も剣を抜き、プラネ軍との戦う覚悟を決めた。





 一方イグノラでは、クロードは周囲の変化に気づく。

「皆、雑談はそのくらいにしようか。

此方も来たみたいだ」

「しゃあ! 腕が鳴るぜ!」

 ライルが拳を鳴らすと、皆戦闘に意識を切り替える。

「待ってろよノエル。 迎えに来たぜ」

 リナはノエル奪還の為宙を力強く蹴り、皆もその後を続いた。

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