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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
169/360

護送


 リナ達がノエル奪還を決意したその頃、帝都・イグノラに帰還する為行軍する軍があった。

 

 聖五騎士団最高幹部直属部隊。

 

 その名の通りアーサーを始めとした聖五騎士団最高幹部達直属の部隊だ。

 アーサー率いる聖帝守護隊2000、ラズゴート率いる獣王親衛隊1500、ギゼル率いる魔甲機兵団2500、そして最近新設されたカイザル率いる飛竜隊1000の総勢7000。

 最高幹部直属の名に相応しい精鋭の集団だ。

 その中の馬車に、プラネ王ノエルは軟禁されていた。

 武器は取り上げられ、両手は魔力封じの手枷で拘束されていた。

 そしてその監視には・・・。

「全くよ、いつまでこんな中に閉じ込めとくんだか」

「帝都に着くまでだ」

「んなことわかってるんだよ! いつまでもこんな中に押し込まれて体がなまっちまうっつってんだよ!」

 不服そうに体を伸ばすの獣王親衛隊・獣王の牙ヴォルフ。

 その隣には魔甲機兵団第一部隊及び魔甲機兵団総隊長オメガ。

 どちらも両部隊最高クラスの戦力にして、ノエルと戦ったことのある者達だ。

「しかしあんたも災難だな大将? こんな狭っ苦しい中何日も閉じ込められてよ」

「いえ。 むしろ捕虜としては厚遇してもらっていますし、感謝しています」

 ヴォルフに答えるノエルの言葉は本音だった。

 実際手枷はされているが、それ以外は普通に扱われていた。

 食事なども皆と同じだし、寝る時も毛布や枕が渡され苦労はしていない。

 馬車自体も通常より大きくヴォルフが言うほど狭くは感じないし、揺れも少ないから快適だ。

 むしろ初めてラバトゥに向かった時の方が過酷だった位だ。

 恐らくラズゴート等ノエルに対し好意を持つ者達への配慮もあるのだろうが、普通の捕虜と比べれば明らかに優遇されていた。

「親父からしちゃ、今の扱いだって本音言えば不満だらけなんだけどな」

「あまり不用心な事を言うな。 貴様の主にいらぬ疑いがかかる」

「わかってるよ! つうかてめぇは無愛想過ぎんだよ! ちっとはなんか言って場を和ませろ!」

「なんか」

「よし! その喧嘩買った!」

「ヴォルフさん! 落ち着いて!」

 オメガに食って掛かるヴォルフを宥めながら、ノエルは救われる思いがした。

 実際二人が監視になったのはノエルの事を知り、有事の際確実に抑える事の出来るというアーサーの判断だ。

 だが一時とはいえ戦闘以外で交流したことのある二人が側にいてくれる事は、精神的にかなり助かった。

 ヴォルフはノエルが少しでも何かと不自由そうにしてるとすぐに対応してくれるし、オメガはオメガで表にはあまり出さないがノエルを気遣ってくれている。

 現にヴォルフが不意にノエルを擁護する様な発言をしても先程の様に少し嗜める程度か黙認してくれる。

 そんな二人の存在が、リナ達から離されたノエルにとってはありがたかった。

「・・・本当に貴方は強いな」

「え?」

 ヴォルフを止めるノエルに、珍しくオメガが本音を漏らした。

「普通この様な状況ならもう少し悲観的になる。 だが貴方は普段と変わらない。 少なくとも表面上ではだが。 あのディアブロが付いていった理由が、改めてわかる気がする」

「そんなことありませんよ。 僕は弱い人間です。 現に、そのせいでリナさんもあんな怪我を・・・」

「その状況であのアーサーに向かって最適な判断が出来たのだ。 十分強い」

 オメガが励ましの言葉をかけてくれる中、ノエルは当時の事を思い出す。

 あの時、ノエルは自分の出来ることを考えた。

 自分では確実にアーサーには勝てない。

 逃げることも味方が来るまでの時間稼ぎも出来ない。

 なら出来るのはただ1つ。

 自分が捕まること。

 公に裁判にかけるか、それとも有無を言わさず処刑するか、もしくは懐柔するか。

 何れにしろ、確実に聖帝の判断を仰ぐ為帝都に1度戻る必要がある。

 そうなれば、プラネへの追撃は少なくとも起こらない。

 無論あのまま本気で抵抗していたら、この7000の部隊が一気にプラネに侵攻し、どんなに楽観的に見ても再起は不可能だっただろう。

 エルモンドの考察通り、ノエルの判断はあの場で最適なものだった。

「でもあのリナの姉貴がボコボコにされるなんて、どんだけ強いんだよアーサーの野郎は? 親父も殆ど傷つけられなかったしよ」

「オメガさんはアーサーさんと戦った事は?」

「ない。 ただ魔力が戻ったディアブロに倒された俺が敵う道理はない」

 実際、リナが万全ではない事を差し引いてもアーサーは強かった。

 最後の攻防は賭けだったと言っていたが、それまでの攻防ではリナを圧倒し、あのキレて恐ろしい力を発揮したからですら殆どの攻撃で大きな傷は付けれていない。

 最も、アーサーが回避に専念していたせいもあるのだが、それが出来てしまうこと自体が驚異的だ。

 アーサーの力は速さのみ

 だがその速さのみというのが強い。

 そして真に恐ろしいのはそれをあそこまで武器として磨きあげたその精神力。

 アーサーの、エミリアのその精神的な強さはどこから来るのだろう。

 ノエルはそこが気になっていた。

 だがヴォルフもオメガもそれはわからないだろう。

 何せ二人ともアーサーが女性であり、聖帝の娘であることも知らない様だ。

 そんな彼らが彼女の根幹を知ることはないだろう。

「ま、済んじまった事はしょうがねぇ。 こんな形で決着ってのもなんかスッキリしねぇが、大将も観念してこっち来ちまえよ。 親父達が説得してくれるみてぇだし、悪い様にはしねぇよ」

「本当にそう思うか?」

「なんだよ? 大将が処刑されるとでも言いてぇのか?」

「違う。 お前は五魔がこのまま何もせずに終わると思うか?」

 オメガの言葉に、ヴォルフは口ごもる。

「恐らく既に奪還に向けて何かしら動いているだろう。 そしてノエル殿を懸けて戦いが起こる。 それは確実だ」

「で、でもその大将はこっちにいんだぞ? その大将の命が掛かってるんだから、そんな無茶はしねぇだろ?」

「それでもやるだろうな。 何せ、当の本人がまだ心が折れていないのだ。 その事に気付かない連中じゃないのは、俺より奴等と付き合いの長い貴様ならわかるだろう」

 ヴォルフに見られ、ノエルは苦笑する。

「やっぱりわかりますか?」

「当たり前だ。 魔甲騎兵団が何度そちらと戦っていると思っている」

 ノエルの心が折れていないトイウ事実を、オメガは当たり前の事実として冷静に受け止めていた。

「それに、誰にでも譲れぬ想いはある。 私もギゼル様の為なら、誰とであろうといくらでも戦う。 例えアーサーや、1度は見逃してくれたノエル殿が相手だろうとな」

「お前! アーサーと戦うとか俺以上にヤバイこと言ってんじゃねぇよ!」

「貴様もラズゴート殿がその意思を見せれば、誰とでも戦うだろう? それと同じだ」

 完全に言い負けるヴォルフに、オメガは静かに続けた。

「まあ、大局で俺達に出来ることはない。 後は流れに任せ己の信念に従うのみだ。 それは貴方も同じだろう、ノエル殿」

「そうですね。 例えリナさんが動けなくても、僕は僕の出来ることをするだけです」

 聖帝に屈するつもりはない。

 そう明言していると同意の事を言っても、オメガは「そうか」と言って否定しなかった。

「ならせめて後2日は大人しくしていてくれると助かる。 そうなれば帝都に着き、俺達の役目も終わっている」

「はい。 それじゃそうします」

 勝手に話を進めるノエルとオメガに頭を抱えるヴォルフは、諦めた様にハアと息を吐いた。

「親父悲しませる様なことだけはしないでくれよ大将」

「気を付けます」

 少し申し訳なさそうなノエルの態度に再びため息を吐くヴォルフは「俺将来禿げねぇよな?」と愚痴り始めた。

 事は確実に動く。

 ヴォルフ達には悪いが、ノエルはそう確信している。

 その為にノエルは、なんとしてもやらなければならない事がある。

 聖帝・フェルペスと会い真意を問うこと。

 その為にどうするべきか。

 ノエルは馬車に揺られながら、静かに思考を巡らせる。

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