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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
168/360

再起


「姉さん落ち着いてくれって!!」

「リナ! 寝てないとダメ!!」

「うるせぇ! 放しやがれ!」

 ノエルの事を聞いたリナは必死の形相でベッドから飛び出そうとし、ライルとジャバが抑えつけようとする。

「リナ落ち着いて! あんたの怪我だった軽くないのよ!?」

「うるせぇ! 俺が守らねぇと! ノエルが!」

 レオナの言葉に聞く耳を持たず、リナは暴れライルとジャバを払い退け様とする。

「ぐ!? 姉さん本当に傷開いちゃうよ! 頼むから落ち着いてくれ!」

「それじゃダメだよ」

 ライルの顔の横を杖が通り、その先端がリナの額に当たる。

「カッ!?」

 リナが怯んだ隙に、エルモンドは杖を押し倒し杖で喉元を押さえ付ける。

「この子にはこれくらいしないとね」

「どけエルモンド!! ぶっ殺すぞこの野郎!?」

「冷静になりなよ。 五魔じゃ一番体術が苦手な僕に簡単に抑え込まれてる今の君に、一体何が出来るんだい?」

 いつもと違い厳しい口調のエルモンドに、そばにいたライルはゾクリとした。

  だがリナはそんなことを気にせず尚も暴れる。

「んなこたぁ知るか! 俺はノエルを! あいつを守らなきゃならねぇんだよ!!」

「その認識が今回の結果になったんだよ」

 エルモンドの言葉に、リナの動きが止まる。

「どうせ君の事だ。 アーサー君の速度を見切れないノエル君を防御に専念させて自分だけで戦ったんだろう。 でもね、今の彼はその程度で何も出来なくなる程無能じゃない。 単純に見積もっても10年前の五魔に近い実力は既にあった。 見えないなら見えないなりに何か出来た筈だ。 例えば黒の魔術の強化魔術で君を強化するとかね。 それだけでも十分勝率は上がった筈だ。 なのに君はその選択肢を捨てさせ、彼に何もさせなかった。 わかるかいリナ? 君のノエル君に対する認識が、今回の結果を招いたんだよ」

 エルモンドに突き付けられた言葉が、リナの体に突き刺さる。

 ずっとノエルは守るべき存在と認識し続けた事は無意識にリナの目を曇らせ、ノエルの本当の力を見誤らせた。

 それはリナがノエルの力を信じていなかったということと同義だった。

「エルモンド! そんな言い方しなくてもいいじゃない!」

「事実だよ。 その事から目を反らしてもなんの解決にもならないしね」

「でも・・・」

「レオナもういい」

 レオナの制したリナは先程から一転、押し返そうと杖を握った手の力が抜け、その顔は普段のリナから想像も出来ないくらい弱々しかった。

 エルモンドはそんなリナの様子に、もう必要ないと判断しリナから離れた。

「もういい、レオナ。 悪かった」

「何謝ってんのよ? らしくないことしないでよ」

 レオナが再び涙ぐむ中、リナは上体のみを起こした。

「ノエルは、生きてんのか?」

「それは確かだよ」

 リナの問いに、クロードが説明を始めた。

「私達が結界を解いてそちらに合流しようとした時、アルファ達がやって来てね。 こう言ってきたよ。 ノエル陛下の身柄は確保した。 危害を加える気はないが、そちらがこのまま抵抗するならそれも保証できない。 だがもし大人しくしているなら、これ以上プラネに危害は加えない。 そして、これが本当に最後の警告だと」

「完全に脅しじゃねぇか」

「実際そうだろうね。 実際近くに部隊を控えさせていたみたいだし、ラズゴート殿達残りの幹部も全員揃っていた。 もし警告を無視して抵抗していたら、今頃プラネは滅んでいたよ」

 いくら五魔やアシュラ達ラバトゥの猛者がいようと、状況があまりに不利過ぎた。

 リナの敗北とノエルの捕縛、その事実に混乱するプラネの民達にアーサーやラズゴート達の部隊が襲いかかれば、どうなるかは簡単に想像できる。

「そういう意味では、ノエル君の判断は正しかった。 戦うことを選択せず囚われる事で、僕らに危害が加わらない様にしたんだからね。 最も、そんな決断をさせたのは僕なんだけどね」

 リナはそこで始めてエルモンドの顔をまともに見た。

 エルモンドの目から悔しさが滲み出ており、そんな表情をリナは今まで見たことはなかった。

「アーサー君が何かしら行動を移すことは予想出来ていた。 なのに僕は、それに対する対応策を怠った。 ライル君達やラバトゥの面々がいるこの状況なら軍隊を使った軍事行動だろうと思い込んでね。 今回の事は、全て僕の失態だ」

「エルモンドやリナだけじゃない。 私達は結局、誰もあの場に間に合わなかった。 私達全員の責任だ」

 クロードを始め、その場にいた全員が悔恨の念を抱いていた。

 もう一度守り抜こう。

 皆そう決意し旅してきたノエルを、何も出来ず敵の手に囚われた。

 それはある意味、リナよりも悔しく情けない思いだった。

「ノエル陛下は、王としての役目を果たしたのだな」

 皆が沈黙する中、声を発したのは元コキュート王エドガーだった。

「ならば我らは臣下としての役目を果たさねばならない。 新参の、ましてついこの間まで敵だった私が言えることではないが、それが私達を信じ捕まったノエル陛下に出来る唯一の事だ」

 ノエルとの関わりが一番短い筈のエドガーの力強い言葉。

 それはこの場で誰よりも王を信じている臣下の言葉の様に聞こえた。

「ふひひ、勿論そのつもりさエドガー君。 僕達もこのまま終わるつもりはないよ。 既に手はいくつか打ってあるしね」

「手だと?」

「それは私の事かな古き友よ?」

 エルモンドに答えるように魔術で部屋にいきなり現れたのは、ルシスの賢王マークスだった。

「やあエルモンド、それにプラネの皆さんもお久しぶり。 初め見る顔もいるようだが、自己紹介は省かせてもらうよ」

「まさか、賢王か?」

「賢王!? あの北の国の王様エルフか!?」

 マークスと初対面のエドガーとライルが驚く中、リナはマークスに視線を向ける。

「てめぇ、なんの用だよ?」

「おや久しぶりだねディアブロ殿。 いやここはリナさんとお呼びしようかな? う~ん弱々しい君も魅力的だね。 今度ルシスのカフェでデートもでも?」

 ナンパする様に話しかけてくるマークスを、リナはギロリと睨み付ける。

「ふふ、やはり君はそのくらい覇気がある方が魅力的だ」

「いいから用件言え? こっちはてめぇのギャグに付き合う余裕はねぇんだよ」

 マークスは「女性に対しては本気なんたけどね」と肩を竦めながら、軽い調子を残しつつ少し表情を引き締める。

「いやなに、ノエル殿とのチェスでの約束を果たしに来ただけだよ」

「約束だ?」

 少し考えると、リナはマークスが個人としてノエルに力を貸すという口約束を思い出した。

「わざと勝たせた勝負の対価払いに来るたぁ、律儀なこったな」

「ああ、やはり気付いていたか。 ノエル殿はいい目をしてる」

「で、一体何してくれんだ? ノエルを連れ戻してくれんのか?」

「まさか! 私個人として助けるのにそこまでの事は出来ないよ」

 マークスは少し大袈裟に驚く仕草をすると、すぐに賢王の顔に戻した。

「ルシス軍2万を国境付近に出陣させる。 勿論、エルフ騎士(ナイツ)と私も出るよ」

「本気か? そんなことすりゃどうなるかわかるだろ?」

「勿論アルビアと戦う気はないよ。 私達はあくまで国境付近で軍事演習するだけだからね」

 軽く言うマークスだが事はそう簡単ではない。

 魔帝ノルウェとの大戦の時ですら軍を動かさなかったルシスが、2万もの大軍でアルビア国境付近まで進軍する。

 それはアルビアからすれば無視することの出来ない異常事態だ。

「ルシスが動けば当然アルビアも動く。 例え国境を越えて攻め込まなくても、アルビアは万一の事を考えてそれに対抗出来るだけの軍を動かさなきゃならなくなる。 そして例え何もないとしても、アルビア軍はルシス軍がいなくなるまでその場を動くことが出来なくなる。 その隙に、僕達が動けばいいという訳だね」

「私の説明取らないでくれるかなエルモンド?」

 解説を取られ苦笑するマークスだが、すぐにエルモンドの意見に補足を加えた。

「私達ルシスは魔術に特化した軍だ。 だからアルビア軍の規模から考えると、魔術師関連の部隊の大多数が此方に裂かれる。 後は、君達が残りのアルビア軍と戦うなりなんなりしてノエル殿を取り戻せばいい」

 アルビア軍は約4万5000。

 ルシスに対処する為には、恐らく半分の2万前後の部隊を派遣することになる。

 そうなれば、リナ達が戦う戦力も当然半分になる。

 これはリナ達にとって大きな助けとなる。

「一体なんのつもりだ?」

「別に? 私は個人的に軍事演習の日にちと場所を変えただけだ。 大したことはしていない。 むしろ君達とアルビアが潰し合ってくれるなら、ルシスとしてはお釣りが来る程お得な取引だよ」

「やっぱそういう事かよ」

「目的がわからない善意より、目的がはっきりしている打算の方が時には信用に値するものだよ」

 悪びれもせず話すマークスは「それに・・・」と付け加えた。

「あの強欲な王をこのまま終わらせるのは私としてもつまらないしね。 もう少し楽しませてもらいたいんだよ」

 そう言い微笑むと、マークスはリナに小瓶を放る。

「ルシス特製の丸薬だ。 それを飲めば君クラスでも最短で3日で魔力が回復する筈だよ。 あ、早く戻そうとしていっぺんに全部飲まないようにね。 1日5粒、用法要領を守って飲んでね」

 リナは受け取った小瓶から小さな丸薬を出し口に放り込んだ。

「胡散臭えけど、今は信じて飲んでやるよ」

「君に信じてもらえるなんて、光栄だね。 信じたついでに今度デートでも?」

「てめぇが破産するまでケーキ食っていいなら行ってやるよ」

「私が破産するって、それルシスの財政破綻させるってことだからね」

 リナの返しに苦笑しつつ、マークスは周囲に視線を向ける。

「それでは、私はそろそろ退散しよう。 健闘を祈ってるよ、プラネの諸君」

 そう言うと、マークスの体が光の粒子になり消え去った。

「分身体使いすぎじゃないかな、あの人」

「ま、此方にそれだけの価値があるってことだよクロード」

 いつもの笑みを浮かべ、エルモンドはリナに向き直る。

「彼以外にも、今ギエンフォード君やラバトゥも動いてくれている。 準備が出来次第ノエル君奪還に向かうつもりだよ」

「どのくらいかかる?」

「7日、いや5日で終わらせる。 それまでの君の仕事は、体を全快させてることだよ」

 エルモンドが目配せすると、イトスが前に出て回復呪文をかける。

「5日で意地でも全部治してやる。 だからてめぇは必ずノエル助けろよ」

「心配すんなよイトス! 今度は俺が姉さんに付いてんだ! 聖帝だろうがアーサーだろうがぶちのめしてやんよ!」

「お前が一番心配なんだよ」

「んだとこら!!」

 イトスとライルのやり取りに、周囲から笑いが起こる。

「やっぱりライル君がいるといいね。 いつも笑わせてくれる」

「俺は芸人じゃねぇぞクロードこの野郎!」

「誉めてるんだよ。 君のその性格に正直救われるよ」

「ライル褒められた! ライル偉い!」

 ジャバにも褒められ、ライルは満更でもない様子だった。

「リナ、次はあたし達もいる。 だから皆でノエル君を取り戻そう」

 レオナの決意に満ちた目を見て、リナは小さく息を吐く。

「さっきまで泣いてたくせにほざいてんじゃねぇよ」

「落ち込んでたあんたにだけは言われたくないわよ」

 いつもの調子で返すレオナに、リナは漸く笑みを浮かべ、そして決意を新たに皆を見据えた。

「俺達の王を、いや、ダチを取り戻すぞ」

「「おう!!」」

 ノエル奪還。

 その目的の為、プラネは再び動き出した。

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