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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
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束の間の平穏


 バルドの騒動が落ち着いた頃、ノエルはリナと周辺の森に来ていた。

「どうしたんですか? いきなり散歩だなんて」

「たまにはいいだろ? 息抜きだよ息抜き」

 そう言いながら、リナはおやつ用の袋からカップケーキを取り出すとひょいと口に放り込む。

 持ち運び出来る様にノエルに作らせた小さめのカップケーキに、リナは満足そうに頬を緩める。

「どうですか? いい木苺が入ったので入れてみました」

「美味い。 これならいくらでも食える」

 リナはまたカップケーキを出すと再び口の中に入れた。

 久しぶりの穏やかな時間に、ノエルも気持ちが休まる。

 思えばここの所色々あった。

 プラネの開拓にラバトゥでの武術大会、賢王マークスの訪問にコキュートとの大戦。

 はっきり言って休む間もない状況だった。

 今もゴブラドやラグザ達各族長やエドガーが精力的に動いてくれている。

 そのお陰もあって少し時間の出来たノエルは、いつもの如くリナに半強制的に散歩に連れ出されたのだった。

 もっとも自分の息抜きの様に振る舞っているが、本当はノエルの為に連れ出したのだろう。

 そのくらいの事はわかるくらい、二人は長い付き合いになった。

「この辺りでいいか」

 少し開けた場所に来ると、リナは最後のカップケーキを飲み込み袋を投げた。

「なあ、久しぶりに組手しないか?」

「リナさんとですか?」

「他に誰がいんだよ? この前エルモンドとなんかやったんだろ? だったら俺とも久々に相手しろよ」

 バキボキと指を鳴らすリナにノエルは苦笑しつつ、腰に下げていた刀を近くの木に置いて構えた。

「まだ体本調子じゃないんですから、無理しないでくださいよ」

「誰の心配してんだよ? お前が俺の心配なんて、100年早ぇよ!」

 リナは飛び出すと右のストレートをノエルに放つ。

 大振りなリナの一撃を避けると、ノエルは懐に飛び込んで拳を繰り出す。

 リナはそれを受け止めてそのままノエルを後方に投げ飛ばす。

 飛ばされたノエルは空中で体制を立て直して木に着地、と同時に蹴ってリナに勢いよく飛んでいく。

(強くなったもんだな、こいつも)

 ノエルの蹴りを受け止めながら、リナはその成長と感じていた。

 ノエルは今まで、獣王親衛隊のヴォルフやセレノアの元帥ダグノラ、ラバトゥでは八武衆のテンに武王アクナディン、そしてこの前はコキュートの王エドガーという猛者達と渡り合ってきた。

 リナもそんなノエルの戦いを見てきたからその強さは理解していたが、こうして直接戦うとそれをより感じることが出来る。

 現に本気ではないとはいえ、今も格闘のみでリナと打ち合えている。

 出会った当初だったら、魔術を使おうと相手にはならなかったろう。

 ノエルの確実な成長を肌で感じ、リナは自然と口角を上げた。

「随分楽しそうですね!」

 リナの様子に気付いたノエルに、リナは好戦的な笑みで答える。

「強い奴とやり合うのは楽しいに決まってるだろ!?」

 その言葉に、かかと落としを放ちながらノエルは思わず笑んだ。

 本調子でもなく本気でもない。

 だがリナが自分との手合わせを楽しんでくれている。

 それがノエルには嬉しくて堪らなかった。

「お世辞言ってもおやつのケーキはオマケしませんよ!?」

「んだよケチ! なら俺が勝ったらケーキの量増やせよ!」

「これ以上増やしたら太りますよ!?」

「戦えば痩せるんだからいいんだよ!」

 攻防を繰り返しながら軽口を叩き合う二人の姿は、生き生きてして楽しそうだった。

「じゃあ、僕が勝ったら何くれるんですか!?」

「あ? そうだな・・・」

 リナはノエルの攻撃を受け流しながら少し考えると、イタズラっぽく笑った。

「キスしてやるよ」

「へ? へぶあ!?」

 リナの言葉に一瞬思考の飛んだノエルは、リナのカウンターをモロに喰らいぶっ飛んだ。

「り、リナさんズルいですよ!」

「あんくらいで集中力乱す方が悪い」

 リナは歯を見せながら悪い顔をすると、少しノエルから顔を反らした。

「それに、嘘は言ってねぇしな」

「・・・・え?」

 ノエルは再びポカンとすると、すぐに言葉の意味を理解し顔を真っ赤にする。

「もし欲しけりゃ、早く俺に勝ってみろ」

 耳元でからかう様に言うと、ノエルは更に顔を真っ赤にした。

 そんなノエルを可笑しそうに笑うリナだったが、内心勢いで言ってしまった事に自分もかなり焦っていた。

(ヤバい。 言っちまった。 どうする俺? これでノエル本気出したらノエルは俺の事が・・・でも出されなかったらそれはそれでショックだし。 つかなんでこんな時に限ってあの馬鹿いねぇんだよ!?)

 普段ならこんな時「姉さんのキスは俺のだ~!!」とライルが突っ込んできてリナがそれを返り討ちにしてうやむやにという流れなのだが、生憎そのライルは今自分の部隊の管理でこの場には今いない。

 ライルに心の中で八つ当たりしながら、リナはなんとか平静を装っていた。

 そんなリナの姿に、今度はノエルがクスリと笑った。

「ありがとうございます、リナさん。 でも僕はもう大丈夫ですよ」

「へ?」

「僕がちゃんと戦えるか見る為に言ってくれたんですよね?」

 一瞬キョトンとするリナだったが、すぐにノエルの言葉に合わせた。

「ま、まあな! 最近色々あったし、エサぶら下げた方がお前もやりやすいと思ってな!」

「エサって、もっと自分を大事にしてください。 そんなことしなくても、僕は大丈夫ですから」

「お、おう。 そうだな」

 キスの事は自分を気遣って言ったと深読みしているノエルにホッとしつつ、どこか残念な気持ちになるリナだった。

「僕もそのくらいはもうわかりますよ。 この前のエルモンドさんの事とかね」

 その瞬間、リナは慌ててノエルを見た。

「お前、この前の話気づいてたのか?」

「ええ。 全部嘘だとは思ってませんけど、エルモンドさんが何かしらしたんだろうなっていうのはわかります」

 エルモンドの思惑に気付いていた事に驚くリナに、ノエルは小さく笑った。

「大丈夫です。 もう全部飲み込みましたから。 それに僕は本当にあの話が全部嘘だとは思えないんですよ。 少なくとも、バルドさんのエドガーさんに対する想いは。 それにあの一件のお陰で、僕も漸く本当の覚悟が出来ました」

「なんの覚悟だ?」

 問い掛けるリナを見詰めるノエルの目は、会った時と同じ、それでいて輝きを増した真っ直ぐなものだった。

「誰も死なせない覚悟です。 その為に僕はもっと強くならなきゃいけない。 力も、心も。 だからリナさん。 これからも僕を見守っていてください」

 乗り越えたノエルの姿に、リナは柔らかい笑みを浮かべた。

(本当、頼もしくなりやがって)

 リナは静かに片手をノエルの頭に乗せた。

「約束してやるよ。 これから先何があろうと、俺だけはお前の味方だ。 どこへだって付いて行ってやる。 だから安心して全力で進め」

 王への契りではない、だがリナの心からの言葉にノエルは強く頷いた。

「はい、リナさん」

 いつも誰よりも自分を気にかけ、不器ながら見守ってくれた大事な人の言葉に、ノエルの心は満たされていった。

「素敵な光景ですね。 久しぶりにいいものが見れましたよ」

 突然した声に、リナとノエルは瞬時に臨戦態勢に入った。

「本当に素敵でした。 まさに理想の主従という所ですか。 いえ、貴方方の関係はそんな言葉では表せませんね」

 近付いてくる気配にノエルは刀を拾い構え、リナは魔力を体に纏う。

 その声は二人がよく知る者であり、最も警戒すべき相手の声だった。

 かつて共闘し、そして恐らく最大の障壁となる存在の。

 姿を現した金色の鎧を纏った相手に、リナは好戦的に笑う。

「よお、今日は随分派手な格好じゃねぇかエミリア。 いや、聖王アーサーさんよ?」

 聖五騎士団最強の人、聖王アーサーが二人の前に立ちはだかった。


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