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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
160/360

幕間 ソビアにて


 アルビア南の国境防衛の要ソビア。

 その要塞にある一室で、ギエンフォードは水晶に映し出されるライルと会話をしていた。

「そうか、勝ったか」

『おおよ! 姉さん達に加えて俺が助太刀したんだ! どんな野郎だって蹴散らしてやるよ!』

「調子乗ってんじゃぇよ馬鹿息子が。 だかまぁ、ラバトゥの連中と合流したのはいい判断だ。 そこは褒めといてやらあ」

 パイプを吹かしながらぶっきらぼうに言うギエンフォードに、ライルも少し照れながら満更でもない顔をした。

『んでどうするよ? 俺達一旦そっちに戻った方がいいか?』

「いや、戻すのは半分でいい。 こんだけの事しでかしたんだ。 アーサーの野郎が黙ってねぇだろ。 だから念の為お前含めたもう半分は暫くプラネにいて警戒してろ」

『任せとけって! あのカメレオンジジイが来ようが、ぶっとばしてやらあ! んじゃ、また何かあったら知らせるからよ、親父も気を付けろよ!』

「てめぇに心配される程耄碌しちゃいねぇよ」

 そう言って通信を切ると、ギエンフォードは後ろの人物に向き直る。

「つうわけでプラネの勝ちみてぇだ。 お前はどうするよサライ?」

 短い顎髭を生やしたこの椅子に座らされている男はサライ。

 聖五騎士団第十一部隊隊長だ。

 妨害工作を得意とする部隊の隊長であるサライはアーサーの命でギエンフォード隊の監視、及びプラネへの支援の妨害の為ソビアに来ていた。

 ギエンフォードに敵わないまでもアーサーに連絡し、援軍が来るまでの足止めする位は十分出来る筈だった。

 だがサライの思惑は見事に外れた。

 ギエンフォードは単独でサライの部隊を襲撃し、自分の部隊は息子に預けてプラネへの援護に向かわせた。

 すぐに追撃しようとしたがギエンフォードの桁外れの戦いぶりにアーサー達に連絡する暇もなく部隊は壊滅。

 2000を誇るサライの部隊は要塞の牢獄に捕らえられ、サライ自身椅子に拘束されギエンフォードの部屋に監禁されていた。

 よく見ると顔には戦闘の時に殴られたアザが幾つか残っている。

「本気かギエンフォード将軍? 本気で聖帝陛下に反旗を?」

「俺は聖帝の味方じゃねぇ。 民の味方だ。 聖帝だろうがなんだろうが、民になんかしようってんなら容赦しねぇよ。 その事はお前にも話したろ?」

 サライは表情を曇らせる。

 ギエンフォードに捕まった時、サライはノエルが国を興した理由、つまり聖帝やアーサーが裏でしているラミーア復活の生け贄行為について話した。

 それはサライにとって信じがたい事実だった。

 だがギエンフォードはその様な虚言は使わない事を知るサライは信じざるおえなかった。

 そしてその危険性も理解した。

 それでも自分が忠誠を誓った聖帝が、いくら罪人や反乱分子であってもその様な非道な行為をしていたというショックは大きく、気持ちを整理出来ずにいた。

「なあサライよ。 俺は頭使った交渉とかは苦手だし、お前の気持ちもわかる。 だがよ、それでもこのままじゃヤバい事ぐらいわかんだろ? だからよ、俺と国民守ってくれねぇか?」

 苦手なりに素直に気持ちを話すギエンフォードに、サライは複雑な表情を浮かべる。

「・・・本当に、ノエル殿は止められるのだろうか?」

「? なに?」

「ギエンフォード将軍の言うことはわかる。 ノエル殿が動いた理由も理解した。 だが聖帝陛下は、いや聖王アーサーは余りにも強大だ。 そして聖帝の敵には決して容赦しない。 例えそれが誰であろうとも、一辺の情けもなく断罪する。 そんな強固な力と意思を持つアーサーに、ノエル殿は対抗できるのだろうか?」

 サライの問いに、ギエンフォードはパイプの煙をたゆらせる。

 サライの懸念もよくわかる。

 実際、彼の盟友であるラズゴートですらアーサーに殆ど傷をつけられなかった。

 加えてこの前のボルゴー輸送の時見せた冷徹さ。

 ギエンフォードがノエルに足りないと思う所はそこだった。

 ノエルの優しさは美徳だ。

 王としての自覚も出てきているし覚悟も出来ている。

 だが、極端に人死にを避ける傾向がある。

 それも味方だけでなく敵の死者すら減らそうとする。

 無論人死にを減らそうとする事それ自体は悪いことではない。

 だがそれも極端になると必ず綻びが出る。

 今回の戦も敵の死者を可能な限り抑えようと味方にかなり無茶をさせたと聞く。

 それではいつか、本当に守るべき味方が死ぬ。

 ノエルのやり方は、本来自分が敵より圧倒的に強くないと成立しない。

 そしてそんな状況は決して続かない。

 嫌な話だが、他人の命を預かる者なら、ある程度割り切らないといけない。

 でもノエルはそれをしない。

 それはノエルとの初めて会った時確信した。

 恐らくこれからと敵の死を気にし、可能なら敵すら救うだろう。

 とても危うい。

 だがそれが眩しくもある。

 結果自分もそんなノエルに力を貸したくなってしまった。

 民の為というのが大前提だが、それでもこの未熟で無茶な王の理想の先を見てみたくなってしまったのだ。

「さあな。 んなもん俺にはわからねぇし今更だ。 俺はあの小僧に力を貸すって決めた。 リナ達五魔の連中もな。 後は自分の信じたもん信じて行くだけだ」

 サライにそう答えると、ギエンフォードはプラネのある方を向く。

 聖帝と本格的に争えば敵も味方も誰かしら確実に死ぬ。

 その時ノエルが耐えられるか。

 ギエンフォードはノエルを案じる様に煙を吐き出した。


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