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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
155/360

ノエル対エドガー


「素晴らしい! なんと面白い展開になりましたな~これは!」

 丘から戦場を見詰めるアルゼンはとても楽しそうだった。

 圧倒的不利な状況からのギエンフォード、ラバトゥ、荒くれ連合やセレノアといった援軍という展開に加え、リナやジャバウォックは勿論、ギエンフォードの息子であるライルや八武衆の力まで見ることが出来たのだ。

 戦いを至上とするアルゼンからすれば、最上級の見世物と言っていい。

 現に血が騒ぐのか、参戦したい気持ちを抑える様によりその挙動はオーバーになっている。

「しかし、少数とはいえまさかセレノアまで駆け付けるとは、なんと豪華な援軍でしょう! そう思いませぬか賢王殿」

「確かに面白い展開だ。 でも私は、プラネと国交があるラバトゥはいいとして、何故セレノアがこの事態を知ったのかの方が気になるけどね」

 そう言うマークスに視線を向けられ、メロウは仏頂面で煙管を吸っていた。

「やれやれ、そんな顔しなくてもいいじゃないか。 私は年長者の意見を聞きたいだけなんだけどね」

 自分の方が年上なのに白々しく話すマークスに、メロウは心の中で舌打ちする。

 だがマークスの疑問もよくわかる。

 王に認められたラバトゥならともかく、セレノアはプラネと友好関係ではないし、それどころか王からすれば自身の面子を潰したプラネに援軍等確実に有り得ない。

 そんなセレノアからプラネに援軍を送る人物がいるとしたら、かつてノエルに協力したセレノアの元帥であるダグノラだろう。

 そのダグノラに極秘裏に連絡が取れる者となると、メロウの中である3人組が頭の中に過る。

(あの嬢ちゃん達、小僧に情でも移ったのかね)

 かつて一時的にノエル達と共闘したアルファ達がダグノラに援軍を頼んだと察したメロウだったが、部隊も違うし自分には関係ないと思考を切り替える。

(どっちが勝つのがこっちの為になるかわからんしの。 それに盛り返しはしたが、今はまだコキュート側の方が数的に有利なのに違いはない)

 数が増えたとはいえ未だにコキュートの数がプラネを上回っている。

 加えて、この謎の強化の正体もわからないままだ。

 このまま消耗戦を続けては、プラネは確実に不利になる。

「結局は、小僧次第ってとこか」

「そうだね。 彼がコキュートの王をどうにかしないと、彼にとって敗北に等しい虐殺でもしない限り勝ち目はなくなるね」

「独り言に勝手に返事してもらいたくないんじゃがね」

「そうかい? 私は君達ともう少し考察したいんだけどね」

 メロウはマークスの言動がどうも気に入らず、うんざりするように煙を吐く。

 すると突然、ラクシャダの奥から氷柱が聳え立つ。

「なんと! 見事な氷柱ですな~!」

「これは、向こうはなかなか手こずりそうだね」

 現れた巨大な氷柱にそれぞれ感想を漏らす中、メロウは静かに再び煙管をくわえた。






 ノエルは黒炎を展開しながら、エドガーと対峙していた。

 深緑の長い刃の尖槍(せんそう)を手にするエドガーに、ノエルは緊迫した表情を見せる。

「ふふふ、どうだ、ノエル・アルビア? 我がコキュートに伝わる宝槍・ジュラクと氷術の威力は?」

 狂喜の笑みを浮かべたまま、エドガーは尖槍を構える。

「せあ!!」

 そのまま刃で地面を抉る様に振り上げると、巨大な氷柱がノエルに向かって突っ込んでくる。

 ノエルは黒炎を刃に纏わせ、氷柱を斬り防ごうとする。

 氷柱はノエルのいる空間のみ溶け、そのまま奥に進み激突する。

「器用なものだな。 だが!」

 エドガーは尖槍を氷柱に突き立てると、魔力を送り込む。

 瞬間、ノエルの周りの氷柱の側面から何本もの氷の刺が出現し、ノエルを刺し貫こうとする。

 ノエルは黒炎を周囲に展開しガードするが、氷の刺は黒炎を突き抜け向かってくる。

 ノエルは刀で刺の先端を直接斬りつけ、全て叩き折ってみせた。

「なるほど、五魔を率いるだけの力量はあるか」

 エドガーはそう言いながら氷柱から離れ距離を取る。

 ノエルも素早く氷柱から出るが、距離を詰めずにエドガーを見据える。

 エドガーは狂喜じみた態度を取るが、その実は冷静そのもの。

 決してノエルの得意な間合いに入らず、遠距離からジワジワと追い詰める。

 確実にノエルを倒す為に常に最適な攻撃法を考え、そして実践している。

(全く、やりづらい相手だな)

 ノエルの今までの相手は幸か不幸か、殆どの場合正面から全力でぶつかってくる者達ばかりだった。

 それはダグノラの様な間合いの外から攻撃してくる者も同じだった。

 だがエドガーは一見大技を使っている様に見せながら常に余力を残しながら、戦略的に徐々にノエルを削っていく。

 この手の相手はノエルにとって、戦いづらいものだった。

「どうした? 一気に攻めてこないのか?」

「いえいえ、貴方がのんびりした攻めばかりするので、そちらに合わせたんですよ」

「顔の割になかなか言ってくれるな。 だが、そうこなくては屠り甲斐がない」

 挑発を気にする様子もないエドガーに、ノエルは小さく舌打ちする。

「ふ、今更その程度の戯れ言等なんでもない。 私にとって重要なのは、我が恨みの分貴様を痛め付ける事なのだからな。 こんな風にな!」

 エドガーが尖槍を地面に突き刺すと、ノエルはその場を飛び退いた。

 するとノエルの立っていた場所から何本もの氷柱が出現する。

「黒雷!」

 ノエルは反撃で黒雷をエドガーに向けて放つ。

「無駄だ!」

 エドガーは自身の周りに何本もの氷柱を出すと、黒雷は分散し氷柱へと吸い込まれる。

「な!?」

「我が氷術は、かの賢王が治める氷の国ルシスのものよりも戦闘に特化している! 更にこの宝槍ジュラクは我が一族の魔力によく馴染む! この2つがある限り、貴様に勝利はない!」

 エドガーは更に魔力を込めると、ノエルを囲む様に氷柱が出現し、曲がりながらその先端で貫こうと一斉にノエルに向かってくる。

 何本もの氷柱がノエルに降り注ぎ、エドガーはニヤリと笑う。

「あの大きさでは、流石にかわしきれないか。 もう少しいたぶる予定だったが、思ったより呆気なかったな」

 瞬間、黒い火柱が出現し氷柱を一気に溶かしていく。

 融けた氷柱の水蒸気から、ノエルが悠然と立っている。

「何を勝ち誇っているんですか? まさかこの程度で勝ったと本気で思っていたんですか?」

「き、貴様・・・・」

「先程術や槍の自慢をしていましたが、こっちには五魔に鍛えられた技と、ウチのドワーフ最高の職人が造ってくれた刀があります。 そして何より、僕は付いてきてくれた人達の想いも背負っているんです。 そう簡単に崩せるほど、甘くはないですよ」

 言い放つノエルを、エドガーは睨み付ける。

「図に乗るなよ。 付いてくる者の想いだと? それならば私もある! 貴様らに苦しめられた我が同胞(はらから)の怨念と憎しみを私は一身に背負っているのだ!」

「それは、その同胞とやらを死なせても果たさなきゃならないものですか?」

「? なんだと?」

 訝しむエドガーに、ノエルは更に続けた。

「貴方があのバルドという人に命じた強化の術。 貴方はあれがどれだけの負担を与えるか知っているんですよね?」

「無論だ。 皆承知でそれを受け入れているのだからな」

「年端のいかない子供もですか?」

 ノエルの言葉に、若干の怒気が混ざる。

「貴方の兵の中には、明らかにかつての大戦を知らない年齢の子供もいました。 貴方はあの子達の様な何も知らない子供達にすら、命を削らせ、本人達の知らない恨みの為の復讐に加担させるんですか?」

「当然だ! 彼らは祖国を奪われたのだ! 本来育つべき国を! 文化を! 故郷を奪われた! 大戦の時に産まれていなくとも、産まれる筈だった国を奪われたのだ! ならばその命を捧げてでも、その無念を晴らすのは当然の帰結だ!」

 言い切るエドガーに、ノエルは鋭い視線を向ける。

「僕は今まで、何人かの王に会いました」

「なに?」

「皆それぞれ性格もやり方も違いますし、中には間違いを犯した人、相容れない方法を取る王もいました。 でもその全ての王に共通していたのは、全て民の為に動いていたということです。 今の貴方は、自分の恨みばかりに囚われ、残った民をどうするか等何も考えていない。 そんな民をただ消費し、独り善がりな復讐に気を取られる貴方に、王を名乗る資格はありません」

 ノエルの言葉に、一瞬エドガーの顔から表情が消え、次の瞬間目を血走らせ怒りの形相で激昂する。

「貴様ごときが王を語るか!? 死した者の怨みも背負い、この10年間王として散った民を纏めあげた私の何がわかる!?」

 その時エドガーの脳裏にある光景が浮かぶ。

 魔帝に蹂躙されていく国。

 軍勢に包囲され、自分を逃がそうとする両親と兄。

 そして、産まれてからずっと過ごしてきた城の焼け落ちる姿。

 自分を城から連れ出したバルドと見た城の風景は今も鮮明に思い出せる。

 その時感じた悲しみ、憎しみ、怒りといった感情も全て。

 その後バルドに導かれコキュートの新たな王として、復讐を決意した。

 コキュートの新たな王として、全てを飲み込む覚悟をしたのだ。

 自分は勿論、死んだコキュートの民、生き残った民、更にアルビアに怨みを持つ者達の全てを飲み込み、アルビアに復讐を果たす。

 それこそがコキュートの新たな王としての役割だとこの10年疑うことなく進み続けた。

 それをノエルに完全否定された。

 それは先程まで挑発を受け流せていたエドガーを本気で怒らせるには十分過ぎる行為だった。

「貴様は確実に殺す! 貴様も五魔もプラネの民も全て殺し、聖帝への見せしめに首を串刺しにして並べてやる!!」

 怒りを爆発させるエドガーに、ノエルは納刀し構える。

「僕に手間取る貴方に、リナさん達を殺すのは無理ですよ。 それに、僕も簡単には殺されてあげません」

「黙れ! この悪魔の子が!!」

 エドガーの感情に呼応する様に氷柱がいくつも出現し、ノエルに襲いかかる。

 ノエルは黒の魔術で肉体を強化し、氷柱の間をすり抜ける。

 そして一気にエドガーへと距離を詰めた。

「な!?」

「冷静さを欠いた攻撃程、読みやすいものはないですよ」

 ノエルは素早く刀を抜き、エドガーを居合い斬りで斬りつける。

 エドガーは咄嗟に尖槍で防御するが、間に合わず左肩を斬られた。

「ぐがぁ!?」

 エドガーは肩を抑え膝を着くと、ノエルは刀を向ける。

「さあ、降伏してください。 その傷では、もう槍を扱うのは無理です」

 ノエルの降伏勧告に、エドガーは歯軋りしながら睨み付ける。

「舐めるな! この程度で、私を倒せると思うか!?」

 エドガーは再び地面から氷柱を出しノエルを牽制する。

 飛び退き距離を取るノエルに、エドガーは尖槍を右手のみ持ちながら構える。

「まだだ! 貴様らを殺すまで、私は負けるわけにはいかないのだ!」

 未だに尽きないエドガーの怨念に、ノエルは刀を構えながらどうするべきか思案する。

「ふひひ、凄まじいね。 彼の目からはコキュートの兵達と同じ、いやそれ以上の深い闇を感じるよ」

 シルフィーを出しバルドを牽制しながら、エルモンドはエドガーから発するどす黒いオーラの様なものを感じ取る。

「エドガー陛下の覚悟は、貴殿方の様な悪しき者達には理解できないでしょう。 陛下だけでなく、我等皆、同じ覚悟を持ってこの戦に望んでいるのです」

「ふひひ、同じ覚悟か。 そりゃそうだろうねバルド君」

「? 何が言いたいのです?」

「君達の王様の様子を見て、漸く理解したよ」

 エルモンドは静かにバルドを指差した。

「君が、本当の王だねバルド君」


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