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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
153/360

絆の利


 ジャバがベラルガを下したが戦況は不利なままだった。

「ゲッシャ!?」

「クラーク!?」

 前線で戦うイカの海人(シーマン)であるクラークの8本の腕の1本が斬り落とされ、近くで戦っていたサクヤはすぐに援護に駆け付ける。

「大丈夫クラーク!?」

「ゲシャシャ・・・・なに、心配ない・・・・ふん!」

 クラークは力を込めると斬られた腕を再生させる。

「これでまだ戦える」

「無理しないで! これで何度目よ!?」

 腕こそ戻ったが、既に何度か再生をしていたらしく、クラークは明らかに消耗していた。

「なに、ノエル様に拾われた命、ここで尽きようと本望」

「それは承諾出来ませんね」

 言葉と同時に飛んできた矢が、サクヤとクラークの側の近くに来ていたコキュート兵を射抜いた。

「キサラさん!」

 後方でエルフの指揮を取っていたキサラの登場にサクヤが驚く中、戦装束姿のキサラは近付きクラークに手当てを開始する。

「ノエル陛下は我々が命を散らすことを望んでいません。 陛下に救われたと思うなら生き残る事を考えなさい」

「す、すまない」

「キサラさん、なんで貴方がここに?」

「この状況で(わたくし)も後方にいるわけにはいきませんからね。 少しでも敵を押し返さないと」

 ジャバやレオナ達がで奮戦してくれる事で死者こそ出ていないが、プラネ側の戦力は確実に削られていっている。

 石動兵(ゴーレム)は既に大半が破壊され、ノーラ達ドルイドは攻撃から負傷者を護る障壁を張り防御に徹している。

 敵味方入り乱れ、サクヤ自身もラグザとはぐれた状態だった。

「しかし、このままでは・・・・」

「大丈夫。 ノエル様達はセレノアであんな状態だった私達すら助けてくれたのよ。 今度もきっとなんとかなる。 だから私達も踏ん張らないと」

 サクヤの励ましに、クラークの顔に生気が戻る。

「ゲシャシャ、そうだった。 抗うことすら出来なかったあの時の絶望に比べれば、この程度の苦境なんともないな」

 再び立ち上がろうとするクラークだったが、すぐにその顔色を変えた。

「サクヤ殿!」

 クラークの声に振り返ると、黒装束の集団がサクヤ達に襲い掛かってきた。

「く!?」

 サクヤはすぐに小太刀を構えるが、集団の方が明らかに速い。

「サクヤさん!」

 キサラが割って入ろうとする瞬間、一筋の熱線がサクヤと黒装束の集団の間を横切った。

「申し訳ありませんが、信頼して下さっている仲間を傷付けさせる訳にはいきませんからね」

 白銀鎧(プラチナアーマー)を纏ったリーティアがサクヤ達を護る様に黒装束の集団の前に立ち塞がる。

「リーティアさん!」

「遅くなり申し訳ありません皆さん。 ここは私が突破口を・・・・」

「そうはさせん」

 声に反応すると2本の刀がリーティアの首を挟む様に斬りつけられる。

 だが刃は鎧で防がれ、リーティアは後ろに飛び退きながら熱線を放つ。

 リーティアを斬りつけた黒い影は素早く離れて、間合いを取る。

「オーランの暗殺者(アサシン)ですか」

「ほぉ、まさか我等の事を知っているとはな」

 元オーラン国暗殺者(アサシン)リドは部下の前に立ちリーティアを見据える。

「当時は随分かき回されましたからね。 嫌でも覚えていますよ」

「それは此方の台詞だ魔竜バハムート。 と言っても、今は本人ではないようだがな」

 リーティアの正体を見抜いたリドの目も、他の強化された兵達の様に血走っている。

「しかしなんとも無意味なことを。 この期に及んで未だ人形の性格を演じるとは」

「演じるも何も、これが私ですから」

「まあいい。 せいぜい無駄なことに神経を浪費しろ。 貴様の一番お気に入りの人形と後ろの3人、纏めて排除する」

「貴方達程度で、私を倒せるとお思いですか?」

「普通なら無理だろう。 だが今の貴様なら容易い。 100体近くの人形を操り、あらゆる所に神経を張り巡らせている貴様ならな」

 全て見抜かれているとリーティアは感じた。

 今クロードは戦場全域で自身の人形達を戦わせている。

 時に仲間を援護し、時に敵を迎撃して味方を支えていた。

 ハッキリ言って人形全てを操る魔力コントロールと、あらゆる局面を同時に処理するその思考能力は驚異的の一言である。

 だがその分当然クロードの負担は大きく、2、3体操っている時に比べ操作の制度は当然落ちる。

 先程リドに完全に不意を突かれたのがその証拠だ。

 更にサクヤを助けた時も、本来なら対集団戦用のフレアダンスを使う所を、普通のフレアランス1発のみ。

 明らかにリーティアの能力は普段より格段に落ちている。

 加えて敵は例の謎の手段でパワーアップ済みな上数の利もある。

 圧倒的不利と言っていい状況だった。

「甘く見ないでよね!」

 リーティアの横でサクヤとクラークがそれぞれの獲物を、そして後ろでキサラが弓を構える。

「五魔だけに頼るほど、プラネは単純じゃないよ!」

「ゲシャシャ、恩人に全て任すほど海人(シーマン)はゲスではないのでな」

「貴方達がどの様な手を使おうと、私達には絆の利があります。 その利を活かし貴方達を制して見せましょう」

 共に戦う覚悟を決めた3人を見て、リーティアの目に闘志が宿る。

「そういうわけです。 例え不利でも、私達が力を合わせれば必ず打開できます。 いえ、してみせる」

 力強く言うリーティアに、リドは珍しく笑い声を上げる。

「く、ふふふ、はははは! 絆の利だと!? ならば見せてやろう! 主の捨て石となるべき存在にも拘らず、それすら出来ず生き長らえてしまった我等の無念と怨念の絆をな!」

 リドの号令と共に、部下の暗殺者(アサシン)達が一斉にリーティア達に襲い掛かった。






 リナは強化されたアムド相手に片手で相手をしていた。

 同じ様に強化され速度の増したペガサスから繰り出される槍の一撃一撃を、リナは時に避け、時に反らしながら防ぎ続けている。

 加えて、ベアコンドルをすり抜けた何人かのアムドの部下の攻撃も加わり、防戦一方となっている。

「どうしたディアブロ? 両手を使い反撃してこないのか?」

「てめぇなんざ片手で十分なんだよ」

「そうか? 自分には下への力の制御で余裕がない様に見えるが?」

 アムドに見抜かれていることにリナは舌打ちをした。

 リナはアムドと戦いながらも戦場への重力操作を止めてはいなかった。

 効果が薄くなったとはいえゼロではない。

 自分が重力をかけ少しでも敵の動きを鈍らせることで味方の被害が出ない様にしていたのだ。

 その為アムドとの闘いに集中しきれず、防御に徹するしかなかった。

 そして本来なら重力の出力も上げたいが、アムドの攻撃により当初の10倍よりも重力の出力を上げられずにいた。

 闘いも味方へのサポートも中途半端な状況に、リナは苛立ちながらも必死に重力を戦場に放出し続けた。

「なんとも奇妙なものだ。 数多の命を奪った貴様が、今は生かすことに必死になり満足に闘えずにいるとは」

「これでも結構義理固いんでな。 ましてや大事なダチとの約束なら守らねぇとな」

「奇遇だな。 我が王も自分を友と呼んでくれたよ。 貴様らに殺されたがな」

「そうかよ。 でも今のてめぇの姿見たら、アシール王は何て言うだろうな?」

 その一言で、アムドの表情は一変する。

「貴様に何がわかる!?」

 アムドは激情のまま槍でリナへと連続で突きを放つ。

 明らかに先程とは違う殺意に満ちた突きが、リナの頬を掠めた。

 歯を剥き出しにし怒りを露にするアムドに、リナはアムドの変化にも気付いた。

 それはアムドの性格の変貌。

 強化される前から怒りを見せることはあったが、それでもまだ理性的ではあった。

 だが今のアムドは自我を保ってはいるが、明らかに先程より感情的に、そして攻撃的になっている。

 謎の強化の影響なのだろうか、そのせいで自身の体を省みない攻撃ばかりしてくる。

 自分の攻撃の速度に耐えられずに、アムドの体は徐々に負傷していく。

「自分はこの日の為に全てを捨てた! 己の理想も! 騎士としての矜持も! 命すらもはやどうでもいい! 全ては貴様ら五魔とアルビアへの復讐の為! その為なら、例え悪鬼外道へと成り果てようが構わん! その代わり、貴様らに我等と同じ絶望と地獄を!!!」

「っざけんな!!」

 リナの反撃の拳が、アムドの槍と激突する。

「自分も何も捨てて何が復讐だ!? 本当にいなくなった連中が大事なら、んな下らねぇもんに頼らねぇで自分の力で来いや!!」

「黙れ! 全てを奪った貴様に何がわかる!? 失う絶望を知らぬ貴様に何がわかる!?」

「てめぇらだけが大事なもん亡くした思ってんじゃねぇよこの甘ったれが!!」

 リナが力を込めるとアムドは弾き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直した。

「こっちだってな、散々ドン底味わってんだよ! 守れなかった連中だっていた! それでも自分だけはぜってぇ捨てなかった! 前に進むことを止めなかった! てめぇらはただ現実を受け入れられなくて、死んだ連中言い訳にして逃げ回ってるだけじゃねぇか!」

 五魔として一般兵とはそこまで関わってはいなかったが、それでも顔見知りを何人も失った。

 部下や戦友を死なせて無力に打ち震えるラズゴートやギエンフォードの姿も見た。

 そして、何より守りたかった初めての主であるノルウェの死。

 リナにとって今でもそれらは大きな傷だ。

 だがそれで自分が立ち止まる事を死者が望まないことをリナは知っている。

 死者の想いを知るからこそ、リナはこうして今も生きて戦い続けている。

 生きて前に進むこと。

 それがリナなりに導きだした死者達に報いる方法だ。

 そんなリナにとって、今のアムドの行動は絶対認めることが出来るものではなかった。

 そんなリナの言葉に、アムドは更に怒りの形相を浮かべる。

「黙れ! 貴様らと自分達では、失ったものの重みが違うわ!!」

 アムドは手をかざすと、彼の部下のペガサス騎兵が二人下へと急降下した。

「この乱戦で空中から攻撃されればどうなるか、貴様ならよくわかるな!?」

「てめぇ!!」

 リナが阻止しようとするとアムドは目の前に割って入る。

 ペガサス騎兵達が向かう先には、リド率いる暗殺者(アサシン)達と戦うリーティア達の姿があった。

「! 逃げろリーティア!!」

 リナの叫びも虚しく、騎兵二人の槍がリーティアを背後から貫こうと突進する。

「ッ!?」

 完全に前に気を取られていたリーティアは貫かれることを覚悟した。

「ふぅ、間に合ったみてぇだな」

 リーティアが声に反応すると、2つの褐色の腕が騎兵の槍を受け止めた。

「!? 貴方は!?」

 リーティアが人物に驚く中、その大男は不敵に笑った。

「待たせたな! 五魔最強の魔王! リナの姉さん1の舎弟! ライル様堂々参戦だ!」

 見下ろしていたリナは一瞬驚きながらも懐かしそうにニヤリと笑った。

「漸く来やがったか、ライル」

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