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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
151/360

二人の王


「ふひひ、よくやったよイトス。 大分腕を挙げたじゃないか」

 エルモンドがジンガから降りながら誉めると、イトスは少し照れながらもすぐに表情を引き締める。

「師匠、今はそれより前に集中してください」

「ふひひ、本当に成長したね」

 自分の賛辞にも狼狽えずすぐに今やるべき事に集中するイトスを、エルモンドは嬉しそうに表情を綻ばせる。

「何をしている!? 即刻討ち取れ!」

 バルドの言葉に我に返った兵士達はジンガから降りたノエル達に襲いかかる。

「ぎゃあう!!」

 だが、その兵士達はジンガによりすぐに凪ぎ払われる。

「ふひひ、君も成長しているみたいだね」

 エルモンドに誉められジンガは「ギャウ!」と嬉しそうに鳴いた。

「おのれ・・・・」

「バルド、止せ」

 突如現れたノエル達に対し、エドガーは歪んだ笑みを浮かべながらもその態度は冷静だった。

「貴様が、ノエル・アルビアか」

「貴方がコキュートの王、エドガー・リノリス殿ですか」

「私を王と認識しているか。 なかなか利口な様だ」

「少なくとも、貴方はそう名乗るだろうと思いましてね。 それがこの集団の希望になることを理解しているでしょうし」

 エドガーは「ほぉ」と感心した様にノエルを見る。

「しかし不思議なものだ。 こうして顔を会わせるのは初めてだというのに、お互いを知り、そして深い因縁で結ばれている。 奇妙なものだ」

「僕を知るというなら、何故僕がここに来たか察しは付いているでしょう?」

「主軍やあの蛇で私を孤立させその間に私を討つ。 それが貴様の軍が勝つ最も可能性の高い方法だからな。 そして可能なら話し合いで私を説得する、と言ったところか」

「よくわかりますね」

「私を殺すだけならあの蛇に飲み込ませるか、貴様より五魔の誰かを急襲させる方が確実だからな。 それをせずわざわざそちらの大将自ら来たということは、私に対する礼というところだろう。 なんとも甘い男だ」

「そこまでわかっているなら駆引きは無用ですね。 今すぐ軍を退き、プラネとアルビアへの侵略行為を止めてください。 このまま続けても、いらぬ血が流れるだけです。 それだけの見る目があるなら、そんなこと位理解しているはずでしょう?」

 ノエルの言葉に、エドガーは思案する仕草を見せる。

「確かに、理屈で言えばそもそも貴様の父の代にアルビアを攻めたコキュートに、いや、他のどの国にもアルビアにとやかく言う資格はない。 ましてやその魔帝は死に、息子である貴様がその責を負う必要も本来ならないだろう」

「だったら・・・」

「だが、人の感情はその様な理屈では通らない」

 そこから少し、エドガーの空気が変わり始める。

「此方から攻めてきて返り討ちになったら今度はそれを恨み戦を仕掛ける。 普通の感覚で言えば身勝手な逆恨み以外の何物でもない。 だが、それでも我らは止まれない。 愛する者を、祖国を滅ぼした者達への憎しみ、惨めに生き永らえなければならなかった屈辱、そしてただ見ているだけしか出来なかった己への怒り、それらは時間等というものでは消えはしない。 むしろ日に日に大きくなり、やがて全てを焦がす業火へと変わる。 そう、我々はあの大戦から10年、毎日地獄の業火に焼かれていたのだ! その業火を消す為には、この憎しみを、怒りを晴らすしかないのだ!」

 エドガーの表情は一変し、強い怒りに包まれる。

 その目には10年もの間蓄積されたあらゆる怨念に満ちている。

 そんなエドガーに対し、ノエルはあくまで冷製に勤める。

「例えそれが新しい恨みを産む逆恨みにしかならないとしてもですか?」

「逆恨み結構! それに新しい恨みは産まれない! 貴様らを含め、アルビアの全てを滅ぼせば、恨む者も消え憎しみの連鎖も必然と消えるのみ!」

「随分乱暴な理屈ですね」

 ノエルは覚悟を決めた様に、腰の刀に手をかける。

「ならば僕は、僕のやり方でこの憎しみに終止符を打ちます。 それがプラネ王ノエルとしての最初の役目です」

 ノエルの目を見て、エドガーは再び笑みを浮かべる。

「いいだろう。 我らの憎しみを終わらせる事が出来るか、見せてもらおうか。 バルド」

「畏まりました」

 バルドは懐から香炉を取り出す。

 そして香炉に火を入れ、そこから独特の香りのする煙が舞い始める。






 その異変に最初に気付いたのは、操る100体もの人形の目と繋がっているクロードだった。

 リナの重力で動けない筈の一般人のコキュート兵が、ゆっくりと立ち上がってくる。

「これは、一体?」

 クロードが周辺の皆に異変を伝えようとしたその時だった。

「ぐあああああああああああ!!!」

 まるで体の全てから絞り出した様な叫び声と共に、コキュート兵の体が変化し始める。

 筋肉が膨張し、その体も大きくなっていく。

「なんなんだこれは!?」

 クロードは人形で応戦しようとするが、元は子供だったであろうコキュート兵の剣の一振りで人形が1体破壊される。

 クロードはその光景に目を疑った。

 壊された人形は主力ではないが、この日の為にクロードが戦闘用に整備し直したものだ。

 それを一般人の、それも子供の兵の力で壊されたのだ。

「これはマズイ。 皆! 敵の様子が変わった! 急いで守備陣形に切り替えるんだ!」

 クロードは各所に散った人形達を通し各プラネ軍に指示を送る。

 すると上から何かが落ちてくるのが見えた。

 それは、上でリナを護る為に戦っていたベアコンドル達だった。

 その空中では、ジンガと同格だったベアコンドルと、スカーベアコンドルのみが辛うじて飛んでいる様な状態で残っていた。

 その目の前には、先程とは別人な程に肉体が強化されたアムド達の姿があった。

「おいおい、随分変わっちまったな。 なんかヤバいもんでも食ったか?」

 リナは軽口を叩きながらもその変化に内心危機感を覚えていた。

「ディアブロ。 本来ならこの様な手段は使いたくなかったが、これも全て我等の悲願の為。 このまま消えてもらうぞ!」

 アムドが槍を手にペガサスを駆りリナに突撃し、リナは重力操作をしたままそれに応戦せざるおえなくなった。






 ノエル達もすぐに異変に気づき始める。

「てめぇ、一体何しやがった!?」

「なにもしていないさ魔人の弟子よ。 私はただ、皆の憎しみを引き出しただけだ」

「ふひひ、なるほどね。 薬物でもなければ魔術でもない。 随分不思議な術だ。 でも、面白がっている場合じゃないね」

 エルモンドは真剣な表情で杖を構える。

「彼は僕が相手をしよう。 二人は自分の役目に集中して」

「させません! 皆詠唱を!」

 ロシュが魔術師達とエルモンドに向け魔術の詠唱を始める。

 が、詠唱によって集められた魔術はすぐに霧散してしまう。

「なんだと!?」

 驚くロシュの視線の先には、杖を宝玉を光らせながら意識を集中するイトスの姿があった。

「馬鹿な! あの年でこの人数の詠唱を打ち消したというのか!?」

「ふひひ、その子を甘く見ない方がいいよ。 なにせその子は魔人ルシフェルが認めた唯一の弟子なんだからね」

 エルモンドは自慢気に言いながらノエルに目配せし、ノエルもそれに頷いた。

「頼みましたよ。 エルモンドさん、イトス」

 ノエルは刀を抜くと、エドガーは槍を手に取った。

「さあノエル・アルビア。 我々の憎しみ、止められるものなら止めてみろ!!」

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