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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
150/360

乱戦


 両軍入り乱れる中、戦場で鬼人(オーガ)達の活躍は凄まじかった。

 戦闘種族の名の通り少数ながら、リナの重力下でも動ける兵士相手にその力を発揮する。

 その先頭に立つのがラグザだった。

「おらぁ!!」

 片手で巨刀を振り抜き、一気に3人の兵を吹き飛ばし、空いた手で刀をすり抜けた相手を殴り飛ばす。

 生き生きと戦うラグザの横に、サクヤが並び立つ。

「全く、張り切りすぎてやり過ぎない様にしてよ」

「わかってるよ。 ノエル様の初戦だ。 王の意向位叶えねぇとな!」

 そう言ってラグザが更に巨刀を振ると、刃で切り裂くのではなく峰打ちで敵兵を吹き飛ばしていた。

 可能な限り死者を減らしたいというノエルの意思をラグザが必死に守ってる証拠だった。

「それにリナ殿の重力が効いてるお陰で動ける連中も動きが鈍いからな! お陰でこれでも十分戦える!」

 好戦的に笑うラグザにサクヤも同様に笑う。

 実際プラネの軍は健闘していた。

 鬼人(オーガ)達が先頭で突破口を開き獣人と魔獣達が攪乱、トロール達が盾となり海人(シーマン)と人の部隊がそれに続き、エルフの弓矢とドルイドの魔術で援護する。

 軍の動きとしてとてもいい形で機能している。

 一方コキュートは本来数の多さを活かしプラネを包囲するのが有効な策なのだが、横長の地形とリナの重力、そしてプラネ最前線で暴れるジャバとレオナのせいでそれが出来ずにいる。

 これにより数は多くとも、実際戦闘に参加している数はプラネの方が多かった。

 戦は軍の数ではなく実際戦う者の数で決まるという、エルモンドの策が今の所上手くいっている。

「うがあああう!!」

 ジャバは咆哮と共に腕を振るうと何人もの兵を凪ぎ払う。

 反撃に出ようにも、コキュートの兵はその巨体の前ではまるで塵の様に無力だった。

「ちゃんと子供とかは避けなさいよジャバ!」

 そう言いながらレオナは鉄根を巧みに使い気絶させていく。

 最低限のダメージのみを与え確実に動きを封じる。

 レオナはそうして気絶させた兵士を脇へと弾き飛ばす。

「うがう! 大丈夫!」

 ジャバはリナの重力の影響を最も受けている一般人の兵に注意しながら再び豪腕を振るおうとする。

 その時、1つの影がジャバに飛びかかってきた。

「おらあ!」

 コキュート獣兵を率いる虎の獣人ベラルガは勢いよく飛び上がり、ジャバを爪で切り裂こうとする。

「ジャバ!」

「任せる!! うがあう!」

 ジャバは咄嗟に腕で防ぎベラルガを弾き返す。

「ここ、おれがやる! レオナみんな助けろ!」

 レオナは頷くとその場をジャバに任せ、敵の中へと走っていった。

「ハハッ! やってくれるじゃないか五魔! そうこなくっちゃ面白くないね!」

 ベラルガはリナの10倍の重力をものともせずジャバに襲い掛かる。

 ジャバがそれに対抗しようと殴りかかるが、ベラルガは拳の上に乗ると爪を立て挑発的に笑う。

「あんたとやれるのを待ってたんだジャバウォック! どっちが最強の獣か決めようじゃないか!」

「うがあああああ!」

 ジャバは咆哮を上げるとベラルガと戦闘を開始する。

 その様子に、冷静さを取り戻したアムドは上空から舌打ちする。

 下は完全にプラネのペース。

 そして此方もスカーベアコンドル達空の魔獣に手こずっている。

 負けることはないが、一刻も早くリナを倒したいアムドにとってこの状況は歯がゆかった。

「どうした? 機嫌悪そうだな?」

 リナの挑発にアムドは冷静に返す。

「抜かせ。 例え今は優勢でも、このままいけば先に崩れるのはそちらだ」

 そこでリナは小さく笑った。

「何が可笑しい?」

「いやな、俺達に復讐しようって割には随分楽観的だなと思ってな」

「なんだと?」

 そこでリナは今度はハッキリ不敵に笑ってませた

「ウチの魔人の悪知恵舐めんなよ?」






「全く何をやっているのですか前線は?」

 ギュスタブは自身を傭兵部隊に囲ませながら椅子に座りながら好物のサラミをつまんでいる。

 戦場とは思えぬその態度は、彼の戦への関心の低さを表している。

 そもそも彼には祖国は勿論、コキュートに対しての忠誠心の欠片もない。

 あるのは金、金、金である。

 実際国に仕えていた時もその手腕で利益を上げながら横領、密売等でさんざん私腹を肥やしていた。

 コキュートに参加したのも、金の匂いがした為だ。

 その為エドガーや他の幹部の前では表面上それらしく振る舞っているが、真は金さえ儲かれば後は好きにしてくれというのが本音だ。

 現にリナの重力場が届かない後方で、こうして自分の部隊に守られながら安全圏で寛いでいるのが何よりの証拠である。

「小勢相手に随分乱されていますね。 全くだらしないですね~」

 まるで闘技場で見物でもしている様な感覚で、ギュスタブはサラミを貪ろうと手を伸ばす。

 だがそこで微かな変化に気付く。

「? なんですこの揺れは?」

 地面が揺れている感覚にギュスタブは辺りをキョロキョロと見回す。

 やがて揺れは徐々に大きくなり、周りの兵達も騒ぎだす。

「ええい、静まりなさい! それより早く私を守りなさ!?」

 ギュスタブが言い終わるよりも先に、地面から巨大な柱の様なものが飛び出してきた。

 天をも突くと錯覚する程の巨大ななにかは、赤い瞳でギュスタブ達を見下ろしていた。

「なな、なんですかあの蛇は!?」

 慌てふためくギュスタブを他所に、巨大蛇ラクシャダは大口を開けてコキュート兵に向かっていく。

「ひ、ひぎゃ~!!」

 ギュスタブは慌てて逃げるとラクシャダは一気にその口でコキュートの兵達を飲み込んでいく。

 そしてまるで壁の様にその場に横たわり動かなくなった。

「ホッホッホッ。 流石はノエル様達と旅をしてきた巨大蛇。 見事ですな」

 ラクシャダの体の上に現れたのは、ガマラヤに残ったドリアードの長老とノーラの父であるドルイドの長、マグノラだった。

 その背後にはゴブリンを従えたゴブラドの姿があった。

「しかし助かりましたぞゴブラド殿。 あなたが迎えに来てくれたお陰で、なんとか間に合いました」

「なに、私はエルモンド様の策に従ったまでです」

 せめてガマラヤ勢力だけでも戦場に間に合わせようとしたエルモンドは、ラクシャダの扱いに長けたゴブラド達ゴブリンに迎えに行かせたのだった。

「さてさて、これで3000位は彼の腹の中かな」

「ラクシャダの腹の中なら、例えどの様な攻撃であろうと脱出は不可能ですので、戦が終わるまで大人しくしていてもらいましょう」

「ホッホッ、となると我等の役目は・・・・」

 ドリアードの長が見下ろすと、そこには慌てて地面を這いながら傭兵の中に紛れるギュスタブの姿があった。

「彼らを拘束し動けなくすることですな」

 ドリアードの長が両手を広げると、地面から何本もの大木が壁の様に生え、そこから伸びた枝が兵士達を襲い始める。

「相変わらずドリアードの植物はえげつないですな」

「なに、お宅の魔術には負けますよ」

「ならば、期待に応えましょうかね。 我がドルイドの魔術の数々でね!」

 マグノラは魔力を両手に集めると空中に放つ。

 次の瞬間、火球や水球等いくつもの属性の魔力球が雨の様に降り注いだ。

 生き物の様に襲ってくる植物と魔力球の雨にコキュートの後方部隊は完全に混乱する。

「さあゴブリンの戦士達よ! 今こそ、ノエル陛下の為に力を尽くす時! 突撃!!」

 愛用の棍棒を手にしたゴブラドを先頭にゴブリンの兵達はラクシャダから飛び降りると、そのまま混乱するコキュート軍へと雪崩れ込んだ。






 後方のラクシャダの存在に気付いたアムドは表情を一変させる。

 仲間が突然現れた巨大蛇に飲み込まれ、更に共に現れた亜人達による挟撃。

 アムドは冷静さを保ってはいたが、こんな出鱈目な手を使うプラネ陣営に、いや、魔人ルシフェルに驚愕と脅威を感じていた。

「どうだ? ウチの知恵袋の悪知恵は?」

 尚挑発する様に言うリナを、アムドは睨み付ける。

「まさかあんな化け物まで飼っていたとは。 流石邪悪な魔帝の手下だっただけあるな」

「ありゃ邪悪じゃなくて無茶って言うんだよ。 もっとも、息子の方も無茶具合は負けてねぇよ。 なあ、ノエル陛下?」

 リナはそう言い、プラネ陣営の中でデスサーベルタイガーに騎乗するノエルに呼び掛ける。

 そこでアムドは違和感を覚える。

 ノエルは前線には出てきているが今の所無茶所か目立つ行動はしていない。

 更に言えば、後方のラクシャダを暴れさせずあの場に留めさせているのも不自然だ。

 まるで壁の様に・・・・。

 そこまで思考すると、アムドはハッと何かに気付き下のノエルを見る。

「まさか、奴は!?」

 見られたノエルは苦笑しながら小さく呟く。

「全く、本当に無茶苦茶ですよ。 いくら好きに使えと言われてるとはいえ、私に影武者をさせるんですから」

 ノエル姿のラシータは愚痴りながら、ラクシャダの向こうを見詰めた。






 コキュート軍最奥に陣取っていたエドガーは、バルドとロシュ率いる魔術師達、そして最低限の護衛兵のみ残してラクシャダにより本隊と完全に分断されていた。

「陛下! これは!?」

「落ち着けロシュ。 どうやら敵もただの愚か者ではないようだ」

 本隊への強化魔術を続けながら焦るロシュを嗜め、エドガーは動かないラクシャダを見詰め思案する。

 何故あの蛇は自分を飲み込まなかったのかと。

 いくら僅かな兵しか近くにいないとはいえ、大将である自分を飲み込めばそれで全て済む話だ。

 なのに何故それをしない?

「エドガー陛下。 少し早いですが、そろそろ例のものを」

「待てバルド。 その前に客人をもてなさないとな」

「客?」

 バルドは首を傾げるが、すぐに何かに気付きエドガーの視線の先を見る。

 瞬間、何もなかった場所にジンガに乗ったノエルとエルモンド、そして杖を掲げるイトスの姿が現れた。

「なんだと!?」

「透明化!? あんな少年が!?」

 突然現れたノエル達にバルドが、イトスの透明化の魔術にロシュが驚く中、エドガーは歪んだ笑みを浮かべる。

「ようこそ、プラネ王・ノエル・アルビア」

 ノエルとエドガー。

 対面ながら因縁深い二人の王が対峙した瞬間だった。


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