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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
148/360

出陣


 ノエル達の戦支度も佳境に入っていた。

 物資と各種装備品のチェック、部隊の編成と細かい作業にノエル達追われていた。

 援軍を抜きにしたプラネの総戦力は以下の通り。

 ラグザ率いる鬼人(オーガ)の近接隊65。

 レオノア率いる獣人の騎獣部隊220。

 キサラ率いるエルフの弓・救護隊140。

 ドルジオス率いるドワーフ工作部隊100。

 ジャック率いるトロールの重装部門88。

 ノーラ率いるドルイドの魔術隊108。

 ゴブラド率いるゴブリン遊撃隊300。

 その他に海人(シーマン)300にケイル達の造った石動兵(ゴーレム)50、エルモンドが引き入れた人間から500、ジャバの魔獣92頭にクロードの操る人形部隊100。

 そしてノエルと五魔とイトス。

 総勢1969人。

 もっと人員を割くことも出来たが、プラネを空にする訳にもいかずこの人数となった。

 本来ならこれに、ガマラヤからの戦闘可能な助っ人644、ゴンザの荒くれ連合2000、ギエンフォードの軍約5000が加わる筈だった。

 だが皆まだ間に合わない。

 恐らく決戦に間に合うかどうかという所だろう。

 それでも十分勝機はある。

 問題はノエル達が援軍到着まで持つかどうか。

 いかに五魔や並の人間より能力の高い亜人が大量にいるとはいえ人数的にあまりにも不利だ。

 しかもクロードは人形100体の操作がある為本人の戦闘はほぼ不可能だ。

 一体どうすべきか。

 ノエルと五魔達を中心に話し合いを始められた。

「さてと、これはなかなか面白い状況だね」

「よく笑っていられるわね」

「勿論さレオナ。 何せこれだけ不利な戦だ。 そうそう経験できないよ?」

 ふひひと笑うエルモンドに、レオナは呆れた様に首を振る。

「それで、実際私達が勝つ為には何をすべきだと思う?」

「そうだねクロード。 単純に勝つだけなら簡単さ」

「? どういうことです?」

「君の父上と同じことをすればいいだけだよノエル陛下」

 その言葉の意味がわかり、場の空気が変わる。

 父親と同じこと。

 それはつまり、コキュート軍の皆殺しを意味していた。

 エルモンドは淡々と続けた。

「三万を越える大軍だろうと、僕達がその気になればそれも可能だよ。 リナの重力で敵軍を圧殺。 それに加えてクロードの熱線の雨にジャバの強力、レオナも剣技で追撃。 当然、僕の精霊達もフルに使えば三万ちょっとならなんとかなる。 何より、実際僕らにはその経験もある」

 かつて魔帝ノルウェの元で実際に何万もの命を刈ってきた五魔。

 その力を殲滅の為だけに使えば、確かに援軍がいなくても勝機はある。

 そしてそれが一番自分達の犠牲が少なく確実な方法だ。

 しかしそれはかつて魔帝として恐怖の対象とならざるおえなかった父と同じ方法であり、なによりノエルリナ達に再びそんな事はさせたくなかった。

「念のため言っとくが、俺達の事は気にしなくていいぞ」

 ノエルの心中を察したのか、リナが口を開く。

「どうせ俺達はとっくに手を汚してんだ。 それこそ比喩でもなんでもなく何万人もぶっ殺してる。 今更その数が増えようが何も変わらねぇよ」

「確かに、それが確実なら私も構わない。 ましてこの後聖帝や聖五騎士団が控えているんだ。 ここで消耗するわけにはいかないからね」

 クロードに同意する様にレオナとジャバも頷く。

 それはノエルの力になると決めた彼らなりの覚悟なのだろう。

 人の命を奪う覚悟。

 自分もそれをしなければ、そしてさせなければならないのか。

 ノエルが苦悩する中、急に扉をノックする音が聞こえ、続いてサクヤの声が聞こえてきた。

「ノエル様。 来客が来ています」

「来客? こんな時期にか?」

 ラグザを始め皆がいぶかしがるが、用心深いサクヤが通したのであれば問題はないと入室を許可した。

 すると、見覚えのある趣味の悪い服装の男が大仰に入ってきた。

「これはこれはノエル殿に五魔の皆様! お久しぶりですな~!」

「アルゼンさん!?」

 かつてセレノアから亜人を救出した時に出会った商人、アルゼン・ボナパルトのいきなりの登場にノエル達は驚きの表情を見せる。

「いや~探しましたぞノエル殿! おお! それに亜人のお歴々の皆様もお初にお目にかかります! 我輩はアルゼン・ボナパルト! 古今東西なんでも扱う大商人でございまぶ!?」

 芝居がかった仕草で自己紹介するアルゼンの脳天に、彼の秘書であるエルフのリザの肘鉄が炸裂する。

「いつまで馬鹿やってんのよ全く」

「リザさん、お久しぶり」

 ノエルに声をかけられ、リザは清楚な雰囲気を纏い佇まいを正した。

「お久しぶりですノエル様。 いえ、今は陛下とお呼びすべきですね。 その節は大変お世話になりました」

「いえ、此方こそ。 それよりお二人はどうしてここに?」

「そう! それなのですよノエル殿!」

 肘鉄から復活したアルゼンは勢いよく起き上がり話始めた。

「いや~水くさいですぞノエル殿! 折角通信用の水晶を頂いたというのに、こんな大事な時にお呼びくださらないなんて! お陰で探すのに苦労しましたよ本当にもう!」

 大袈裟に大変だったとアピールするアルゼンに、リナが痺れを切らす。

「その胡散臭い話はいいからよ、なんでここに来たのかさっさと言え。 こっちがてめぇの芝居に付き合う暇がねぇくらい知ってんだろ?」

 リナの言葉にアルゼンはニヤリと笑った。

「ふふん、なんでも何もリナ嬢。 我輩は商人ですよ? 商人足る者やることは1つです」

 アルゼンが目配せするとリザはあるリストをノエルに渡した。

 そこには食料を始めとした大量の物資が書かれていた。

「アルゼンさん、これは?」

「この度の大戦、色々と入り用だと思いましてな。 武器や鎧は既にドワーフの職人方がいるので省きましたが、食料や医療品、海人(シーマン)用に海水入りのボトル等必要そうなものをかき集めて持って参りました。 ああ、医療品に関してはエルフの薬の効力を疑ったわけではないので、そこはご理解くださいキサラ殿」

「ええ、わかっています。 薬や治療道具はいくらあっても構いませんのでありがたいです」

 フォローするアルゼンにキサラは気にしていないと丁寧に感謝を述べる。

「本来なら傭兵も用意したかったのですが、流石に時間の都合もありそこまでは手が回りませんでした。 申し訳ありません」

「いえ、それは大丈夫です。 むしろよく短期間にこれだけ・・・・」

 時間が無かったというが、アルゼンが用意した量の物資は半年は籠城しても足りる程だった。

 短時間でこれだけ集めたアルゼンの手腕に、ノエル達は驚きを隠せなかった。

「あ、因みにお代ですが、今は結構です。 ノエル殿勝利後に開かれる祝勝会で再びノエル殿の美味なる食事を頂ければ我輩は構いませんので」

「アルゼンさん、なんでここまで?」

 ノエルの問いに、アルゼンは軽く、だが先程までの芝居臭さを消して話し出す。

「なに、我輩も此度の戦は興味がありましてな。 恨みと怨念の集団をノエル殿がどう対処するのか。 どの様な結末を迎えるのか。 我輩無謹慎ながら非常に楽しみなのです」

 そこでアルゼンは小さく笑みを浮かべる。

「貴殿なら、今までとは違う道を見つけるのではないか。 我輩にはそう思えるのですよ。 ですからノエル殿、是非我輩にそのお力を見せていただきたい。 ノエル殿個人ではなく、王としてのノエル殿の力をね」

 アルゼンの言葉に、ノエルはどこか試されている気がした。

 それが商人としてなのか、それとも別の思惑かはノエルにはわからなかったが、ノエルの答えは変わらない。

「ええ。 必ず王としての僕の答えをお見せします」

 その答えにアルゼンはニコリと笑った。

「おお! なんと頼もしい! 期待しておりますぞ! では我輩、運んだ物資の引き渡しを此方の担当の方としなければならないので、この場は一旦失礼させていただきます。 それではまた後程」

 アルゼンはまた芝居がかった大袈裟なお辞儀をすると、リザを伴い退出する。

「相変わらず騒がしい人達ね」

「まあ、ああいうタイプは嫌いじゃないけど」

 レオナとクロードが苦笑する中、エルモンドが仕切り直しとふひひと笑う。

「さてさて、ノエル陛下には先程の策を使うかどうか判断してもらわないとね。 で、どうするんだい?」

 エルモンドの問いに、ノエルはまっすぐ全員を見据える。

「五魔による殲滅はしません。 そしてコキュート側の被害も最小限にします」

 ノエルの答えに周囲がざわつく中、ノエルは言葉を続ける。

「もし殲滅したとしても、それでは僕が魔帝と変わらないと周囲の人達は思うでしょう。 でもそれでは駄目なんです。 プラネが魔帝ではなく、ノエル・アルビアの意思の元産まれた国であることを知らしめなければ、僕達はただの魔帝のコピーになるだけです」

「だから殲滅はしないか。 理屈はわかるけど、それはかなり大変だよ。 今の兵力で敵の死者まで気を配って戦うのはね」

「それはわかっていますエルモンドさん。 そこは考えがあります。 ただそれをするには・・・・・」

 ノエルはそこでリナに視線を向ける。

「リナさんにかなり無茶をしてもらう事になりますけど、頼めますか?」

 ノエルのまっすぐな視線を受け、リナは不敵にニヤリと笑った。

「言ったろ? 俺達に気を使うなってな。 てめぇがしたいを叶えるんだ。 無茶なんていくらだってしてやるよ」

 出会った当初から変わらぬ頼もしさを感じさせるリナに、ノエルも軽く笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。 皆さんにもかなり厳しい戦いを強いる事になりますが・・・・」

「構わないよ。 私とリーティアにとって、多少無茶な遊びの方がやる気が出るしね」

「おれ! ノエルの為に頑張る!」

「ま、無茶なんて五魔時代散々してきてるしね。 やってあげるわよ」

 クロード、ジャバ、レオナが答えると、ゴブラド達亜人達も頷いた。

「我ら皆、元よりどの様な事があろうと陛下に付いていく覚悟をしております。 ですからどうか、ノエル陛下は自身の理想の為進んでください」

 自分を信じて付いて来てくれる。

 そう言ってくれる皆の言葉一つ一つがノエルは嬉しかった。

 心の底から感謝をすると共に、絶対に彼らを死なせてならないという想いが、ノエルの中で大きくなる。

 それが自分を信頼してくれる皆に出来る、王としての勤めだ。

「ふひひ、方向は決まった様だね。 なら聞かせてもらおうかな。 君の、そして僕達の命運を決める戦いの策を」

 そこから、ノエルは皆に自分の作戦を話し、エルモンドがいくつか修正をしながら形にしていった。

 そして・・・・・。






 翌日、戦支度を終えた皆は広場に集結していた。

 全員がドワーフ達が鍛えぬいたの武器と鎧を装備し、それぞれの部隊で整列している。

 その先頭には各亜人の代表が並び立つ。

 数は少なくとも、全軍覇気に満ち士気は十分上がっている。

 そんなプラネ軍の前に、五魔が現れる。

 ジャバ以外の四人も今回は魔帝時代を思わせる鎧姿だ。

 リナやレオナは兜を外した状態だったが、それでもいつもと違う本気の姿の五魔に軍全てが高揚する。

 五魔全員が並ぶと、ノエルが現れる。

 ドルジオスが造った新しいノエル専用の甲冑に身を包み、五魔の中央まで歩むと軍の方を向いた。

「これより、出陣します!」

 ノエルの号令に皆が姿勢を正し声を上げる。

 今、プラネ最初の大戦の場所へと、ノエル達と進み始めた。






「おお! なんとも勇ましいですな~! とても少数の兵力とは思えない士気の高さ! いやはや流石ノエル殿。 信頼されてますな~」

 物資を届けた後プラネの近くで様子を伺っていたアルゼンは、楽しそうにプラネ軍の声を聞いていた。

「本当なんのつもりよ? プラネに物資なんて送って」

 横に控えるリザに問われたアルゼンはニヤリと笑う。

「だって気になるでしょう? 今の五魔と復讐の為に力を蓄えたコキュート。 どちらが勝るか実に興味深い」

「よくそんな楽しそうにしてられるわね。 下手したらその五魔と戦わなきゃならないかもしれないのよ?」

「それこそまさに至福の極み! 我輩にとってそれはまさにどんな美食よりも欲する至高の一時となるでしょう!」

 自身の態度に呆れるリザに、アルゼンはニコニコしながら続けた。

「なに、まだ聖帝側に付くとは決めていませんよ。 第一この戦でプラネが勝つとも限りませんからな。 それにノエル殿達に味方して聖五騎士団と戦うのもまた一興」

「・・・・本当戦闘狂って理解できないわ」

「と言いつつ付き合ってくれてる貴殿には感謝してますよ」

「だったら少しは私に平穏な時間を頂戴よ」

「ふふふ、それはまたいずれ」

 アルゼンは眼鏡をクイッと上げると武術家としての顔になる。

「さあ! 我々も参りましょう! 久しぶりに最高のショーが見れますぞ!」

 こうして、役者はゼノへと集う。

 プラネとコキュート。

 新しき信念と古き怨念のぶつかるその場所に。

 その結末を見届ける為。


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