戦支度
プラネでは皆急ぎ戦支度をしていた。
ドルジオス達ドワーフは武器と鎧を、レオノア達獣人は騎乗用に魔物達を、キサラ達エルフは治療用の装備をと準備を進めている。
鬼人のラグザは兵の準備をしながらそんな各部門を回っていた。
「どうだ!? 武具は間に合いそうか!?」
「任せろって! 後2日ありゃバッチリ整備して全軍に渡してやるよ!」
「頼んだぜドルジオスのおっさん! そっちはどうだ!?」
「こっちは流石にそう簡単にはいかねぇな。 どう頑張っても石動兵50体が限度だ。 すまねぇ」
ラバトゥから来た単眼のケイルは申し訳なさそうな顔をする。
「気にすんなって。 むしろ来た早々そんだけ作ってくれたんだ。 助かるよ」
「すまねぇ。 代わりに性能は可能な限り上げとくだ」
「ああ、頼む」
ラグザはケイルを励ますとその場を後にしようとする。
「ラグザ!」
去ろうとするラグザを、サクヤが呼び止めた。
「おお、そっちはどうだ?」
「鬼人やトロールは問題なし。 というか、兵に関しては全種族やる気十分よ。 ただやっぱりガマラヤの皆は間に合うか微妙みたい」
「やっぱそうなるか」
現在、エルモンドが出したセノ盆地にコキュートが到着するまでの予測日数は5日。
規模が小さなプラネはコキュートより早く動けるにしても、移動と布陣の事を考えると準備期間は2日。
更に援軍到着時間を考えると、正直間に合うか微妙な所だった。
「まあそこは戦闘中に間に合えばまだいい。 問題は俺達がそれまで持つかどうかだ」
「勝てるか不安?」
「そこじゃねぇよ。 勝つのは勝つ。 問題は犠牲をどう出さねぇかだ」
難しい顔をするラグザに、サクヤは背中をバチンと叩く。
「いってぇ!? 何すんだよ!?」
「そういう難しい事はエルモンドさん辺りが考えてくれるでしょ。 私達はいつも通り暴れればいいのよ」
ニカッと笑うサクヤに、ラグザは少し呆れながらも自分も笑う。
「そうだな。 俺のやれることなんてたかが知れてるわな」
ラグザは背中に背負う愛刀に触れる。
「こいつで敵をぶちのめすだけだ」
鬼人らしい好戦的な笑みを浮かべ、ラグザは気合いを入れ直した。
『旦那! これから全員ですぐに発つ! 医事でも間に合わせるから安心してくれ!』
水晶から写し出されたゴンザに、ノエルは真っ直ぐ頷いた。
「わかりました。 でもあまり無茶はしないでくださいよ」
『へっ! そいつは無理な注文だぜ旦那! なんたって旦那初の大喧嘩だ! 意地でも間に合わせてやらぁ!』
ゴンザはニカッと笑うと通信を切った。
ノエル達は戦力を集める為に各所に連絡をしている。
ゴンザ率いる荒くれ連合約二千、ガマラヤに残った亜人達、そしてギエンフォードの兵力約五千。
本音を言えばガマラヤは巻き込みたくなかったが、ラバトゥからの援軍が期待できない以上仕方がない。
集められるだけの戦力を集め、少しでも兵力差を埋めなくてはならなかった。
だが事態はそこまで甘くはなかった。
コキュートとの決戦までとにかく日がない。
ゴンザにしろガマラヤにしろ、到着はギリギリか戦闘中になる可能性が高い。
更にこの隙に聖五騎士団が急襲してくる可能性もある為、最低限の守りはプラネに残しておく必要がある。
その為、コキュート決戦の為の人員を集めるのは予想以上に難航した。
そこへリナの怒声が響く。
「んだと!? どういうことだおっさん!?」
リナの目の前の水晶にはギエンフォードが写し出されていた。
『だからこっちも全戦力をそっちに回すのは難しいっつったんだよ。 リックスの野郎が死んだんで国境警備強化しろって命令が下ってな』
不機嫌そうにパイプをふかすギエンフォードに、エルモンドが話に加わる。
「なるほど。 要は君の動きを封じる為の口実か」
『そういうこった。 ご丁寧に援軍って名の監視まで来てやがる。 アーサーの野郎、思った以上にやりづれぇ』
「援軍はどこだい?」
『サライの第十一部隊二千だよ。 潰そうと思えばやれるが、んなことしてたら間に合わねぇからな。 とにかくこっちはなんとか援軍送っから、それまでなんとか持ちこたえろよ』
そう言ってギエンフォードは通信を切った。
「思ったより集まりそうにないですね」
「ふひひ、そうだね。 プラネ戦力約三千に、荒くれ連合、ガマラヤを加えて約七千。 ギエンフォード君の所が半分でも来てくれれば、兵力で言えば一万位にはなるんだけどね」
「心配すんなノエル。 俺達五魔で千人分働いてやるからよ」
リナは勇ましく拳を鳴らす。
ノエルもそれに応える様に頷いた。
「わかっています。 それに兵力だけで全てが決まるわけではないですしね」
「その通りだよノエル君。 例え援軍が間に合わなくても、勝てる様にするのが僕の勤めだ。 その為の作戦はいくつか考えてあるしね。 勿論君好みのやつだよ」
「助かります、エルモンドさん」
「なに、頭を使うのが僕の役目だよ」
そう言ってエルモンドはふひひと笑った。
「それに、僕の計算だと君の想定外の援軍がそろそろ着く頃だよ」
「え? それって・・・・」
「ウロロロロロロロロロロロ!!」
ノエルが尋ねようとした瞬間、いきなり外から大きな雄叫びが聞こえてきた。
「な、なんですか!?」
「こいつは・・・・ジャバか?」
「の、ノエル陛下!」
声に続き、ゴブラドが慌てて部屋に入ってきた。
「どうしたんですかゴブラドさん!?」
「ま、魔物が、大量の魔獣がこのプラネに!」
ノエルはリナと顔を見合わせると急いで外に出た。
すると辺りに様々な種類の魔獣達がジャバの周りに集まってきていた。
事情がわからないノエル達は慌ててジャバに駆け寄った。
「うが! ノエル!」
「ジャバさん! どうしたんですかこれは!?」
「こいつらどっかで見たことある様な・・・・ん?」
その時、見覚えのある影がリナ達の前に降り立った。
「あ! こいつら!」
「ノクラの森にいたジンガの仲間の!」
それはかつてジャバを仲間にする為訪れたノクラの森でノエル達と戦ったベアコンドルとアシュラコングだった。
仲間の気配に気付いたのか、ジンガも駆け寄り久しぶりの再会に喜んでいる様だった。
「お前が呼んだのかジャバ?」
「ウガゥ! 大きな戦いがあるから、故郷の森の奴等呼んだ! それに今度はもっと強い奴も呼んだ!」
「もっとだと?」
リナが首を傾げると、更に新しい影が降りてきた。
それは傷だらけながら先程のベアコンドルより大きなベアコンドルと、その背に乗った白い毛の混じったアシュラコング、更に赤い毛のジンガより一回り大きなデスサーベルタイガーだった。
「ふひひ、スカーベアコンドルにアシュラコング・シルバーバック、更にブラッドデスサーベルタイガーとは、ノクラの森のボス格勢揃いじゃないか」
エルモンドは集まった魔獣達を見て楽しそうに笑う。
「え? 森のボス格ってジンガ達じゃないんですか?」
「違うよノエル君。 確か君達がジャバと戦った時彼は操られていたんだろ? そんな状態のジャバじゃ、真のボスを使役することは無理だよ。 ジンガ達は、精々群れの若頭って所だろうね」
言われてみれば、後から来た3匹はジンガ達に比べて威厳も風格も違う。
まさに群れを束ねるボスと言える様な姿だった。
「こいつら、この前の時来なかったけど、今回は平気! ノエルの為に力になる!」
ジャバの言葉に同意する様にブラッドデスサーベルタイガーを筆頭に魔獣達はノエルに頭を下げた。
それは彼らもノエルに従うことを意味していた。
「彼らクラスの魔獣なら、下手な兵士より強力だね。 元々いる山脈巨象を加えれば、攻め手にもここの防衛にも役に立つよ」
エルモンドの言う通り、全部で百頭程の魔獣達の参戦は今のノエル達にとってこの上ない戦力だった。
「ありがとうございます、ジャバさん」
「ウガゥ! おれもノエルの為、やれることやる!」
ノエルに礼を言われ、ジャバは嬉しそうに胸を叩く。
「これでちったぁ戦力の不安は無くなったか」
「だね。 クロードもなんかやってるみたいだし。 後は今出来る準備を急ぐだけだね」
リナとエルモンドの言葉にノエルも頷いた。
皆出来る事をそれぞれ全力でやってくれている。
なら自分は、王として彼らが戦える様にやるべきことは・・・・。
そう考えたノエルは、周囲に目を向ける。
魔獣達の様子に驚きながらも、皆戦支度の為に動いていた。
そんな彼等に、ノエルは声をかける。
「皆さん! 五魔ジャバウォックのお陰でノクラの魔獣軍団が援軍に駆けつけてくれました! その他ガマラヤ、荒くれ連合と援軍が此方に集結予定です! 数は劣りますが、人の利は確実に此方にあります! ですから今は、各自万全の準備をお願いします! そして勝ちましょう! 勝ってまたこの地に帰ってきましょう!」
ノエルの言葉に周囲の皆の目付きが変わり、それに応える様に「おお!」と声が上がる。
「ふひひ、今ので士気は十分上がったね」
「らしいこと言う様になったじゃねぇかノエル」
「まだこれからですよ。 だからリナさん達にもしっかり働いてもらいますよ」 キリッとするノエルに、リナもニヤリと笑った。
「ああ、任せとけノエル陛下」
五日後の決戦に向け、ノエル達の準備は続いた。




