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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
145/360

交渉


 マサラを治める貴族、ベルトルド・ゼブラ伯爵は頭を抱えていた。

 原因はコキュートの侵攻。

 ベルトルド伯爵は悪人ではなく無能と呼ぶほど愚かでもない。

 だが物事を楽観視し過ぎる傾向がある。

 今回もコキュートをただの反アルビア勢力としか見ておらず、その危険性を理解していなかった。

 更にリックス将軍率いる第十二部隊がマサラ地方を守護していた事がより彼の楽観的な思考に拍車をかけた。

 結果対策を怠り、近隣の村や町に避難指示を出さなかった。

 リックス将軍が上手く収めてくれる。

 そう確信を持って最低限の警戒をするのみだった。

 だが今はそんな甘い考えなど消し飛んだ。

 コキュートは三万を越える大軍で既に幾つかの村と町が蹂躙され、頼みの第十二部隊は半壊しリックス将軍は戦死。

 後手策として自分の所有する兵をかき集め、急いで住民の避難や被害者の救出を開始したが焼け石に水。

 第十二部隊の敗残兵を再び集結させ部隊の再編成をしたとしても、聖五騎士団の本隊が来るまで持ちこたえる事は出来ない。

 となればコキュートにマサラは蹂躙され、最悪アルビアがかつてしたように虐殺される。

 それだけはなんとしても避けなくてはと頭を悩ませるが、なかなか策が浮かばない。

 一体どうすれば・・・・と悩んでいるその時、扉をノックする音が聞こえた。

 入る様促すと、その人物が入ってきた。

 ベルトルドはその人物に驚愕する。

 何しろ自分と同じ姿の人物が入ってきたのだから。

「突然の訪問失礼いたします伯爵」

「な、き、貴様は一体・・・・」

 動揺するベルトルドに、もう一人のベルトルドは「お静かに」と指を口に当てると、次の瞬間美しい美女へと姿を変えた。

「勝手にお姿を借りた無礼をお許しください。 この方がすんなりここに入れると思ったので」

「な、何者だ貴様は?」

「申し遅れました。 私はラシータ。 本来はラバトゥに属す者ですが、現在は新プラネに身を置く者でございます」

「ら、ラバトゥだと!? それに、プラネとは?」

 ベルトルドはプラネは知らなかったが、ラバトゥの名前が出て表情を変える。

 あの城塞王国ラバトゥの者が何故自分の元に?

 だが続けて出た名前に、ベルトルドは更なる衝撃を受ける。

「はい。 魔帝ノルウェ様の御子息、ノエル・アルビア様が建国された国です。 本日はノエル陛下の使者として参りました」

「ま、魔帝!?」

 魔帝の名にベルトルドは椅子から転げ落ちそうになる。

「な、何故魔帝の、いや、ノルウェ前陛下の御子息が私に何の用で!? いやそもそも、何故前陛下の御子息が建国等!?」

 プラネの事もノエルの事も完全に把握してなかったベルトルドは完全に混乱する。

「落ち着いて下さい。 今は詳しくお話しする時間はありませんので、とにかく此方の用件をお伝えします」

 ベルトルドが何とか落ち着くのを見計らい、ラシータは口を開いた。

「ノエル陛下は今回のコキュートの件はプラネが引き受ける。 なので少し協力してほしいとのことです」

「な、なんですと?」

 ベルトルドの楽観的思考が動き出す。

 魔帝の息子が手を貸してくれるならば、事態が上手く収まるかもしれない。

 そう考えたベルトルドは座り直し、佇まいを直す。

「失礼しました。 詳しくお話しして頂けますかな?」

 ベルトルドは丁寧に対応し、ラシータは話を続けた。


 ノエルからの提案はこうだ。

 

 コキュートの目的は恐らく魔帝の子である自分だ。

 ならば自分が出てくれば他に被害出ない筈。

 そこで、コキュートを迎え撃つ為セノ盆地へとコキュート勢力を誘導する。

 ベルトルドにはそのルート上の住民の避難、そして叶うなら誘導の補助を頼みたい。

 その後戦闘への手助けは一切不要。


 コキュートの問題を全て引き受けるというノエルの提案は、ベルトルドにとってかなりの好条件だ。

 本来なら二つ返事で了承したいが、彼もそこまで単純ではない。

 肝心なことはノエルがコキュートに勝てるかどうかということ。

「なるほど、話はわかりましたが、そちらの兵力をお聞きしたい」

「此方は現在戦闘可能な人員をかき集めていますが、現段階では約三千

「三千? たったの三千ですと?」

 コキュートの十分の一にも満たない兵力にベルトルドはつい口を滑らせる。

 ラシータはそれを気にする様子はなく話を続けた。

「確かに数は少数ですが、此方にはかの五魔がいます」

「五魔!? かの大戦のですか!?」

「ええ。 一騎当千といえる彼らの力はよくご存じでしょう。 加えて、プラネの後ろ楯にはラバトゥもいます。 ですので、戦力は数以上と見ていただいて構いません」

 五魔とラバトゥの存在に、ベルトルドの心は揺れる。

 魔帝の元で数々の国を滅ぼした五魔と戦に長けた武王率いるラバトゥ。

 その2つが付く以上コキュートといえど負けることはない。

 万一負けたとしても聖五騎士団本隊が来るまでの時間稼ぎにはなる。

 唯一不安なのはノエルに手を貸す事を聖帝に咎められること。

 ノエルと聖帝との間にイザコザがあった位はベルトルドも把握している。

 手を貸せば反逆罪の可能性もあるが、そこは楽観的なベルトルド。

 コキュートを迎え撃つ為に利用したと言えばどうとでもなると深くは考えなかった。

「わかりました。 本来ならどうするか会議で検討するのですが事は急を要します。 プラネ側の提案、お受けしましょう」

「英断、感謝致します。 ではこれを」

 ラシータはガラス玉程度の小さな水晶をベルトルドに手渡した。

「必要な時それがあれば通信できますので、常に身に付けていてください。 そして事が終われば疑いの証拠にならぬ様砕いて下さい」

「しょ、承知した」

 ベルトルドは頷くと慌てて胸ポケットに水晶を入れた。

「では、後程此方から1度連絡致しますので、渡はこれで失礼させていただきます」

 ラシータはそう言うとベルトルドの言葉を待たずその場から素早く消えた。

 ベルトルドは暫く辺りをキョロキョロ見回したが、ラシータが去ったことを理解すると小さく息を吐く。

「これが吉と出るか凶と出るか・・・まあ、五魔がいれば大丈夫か」

 ベルトルドはすぐに思考を切り替え、急ぎ人を呼び住民避難の手筈を整え始めた。





 一方、再び変装してプラネに引き返すラシータは、内心焦っていた。

(上手く誤魔化せたが、さてこれからどうするか)

 ラシータの先の発言の中で唯一嘘があった。

 ラバトゥからの援軍は期待出来ない状況だった。






「どういうつもりじゃファクラ!? 正規軍が動かせんちゅうのはどういうことじゃ!?」

 ラシータが援軍要請した時の事、アクナディンの怒声が玉座の間に響く。

 ファクラはアクナディンの迫力に動じることなく直立不動を貫いていた。

「わしはノエルに力を貸すと約束した! プラネはラバトゥの弟分じゃ言うてな! それがこがあな肝心な時に出来んじゃと!? そがあな筋の通らん事をわしに出来るか!?」

「陛下、私もお気持ちは同じです。 ですが今回ばかりは軍を動かすことは出来ません」

 ファクラはそう言うと地図を広げた。

「プラネはこの様にアルビア国内にあります。 我々がプラネに援軍を出すには、アルビアの中に入らねばなりません。 つまり、我々が正規軍を援軍として出せば、それはアルビアに軍事侵攻をかけることになります」

「それがどがいした!? 邪魔するもんは凪ぎ払えばいい話じゃ!」

「事はそう単純ではありません。 我々はノエル陛下達のアルビアとの決戦まで可能な限り両国の関係を伏せておく必要があります。 もしここで我々とプラネとの関係が露見すれば国境は封鎖。 ノエル陛下の真の決戦時に合流が遅れる、もしくは不可能な状態に陥ります。 更に言えば、ノエル殿と繋がるギエンフォード将軍もその巻き添えになる可能性もあります。 ですので今我々は正規軍を出す事は出来ません」

 今正規軍を出せば結果としてノエル達にマイナスになる。

 ファクラの説明を理解しながらも、アクナディンは感情をぶつける様に玉座の肘掛けを砕いた。






 ラバトゥ正規軍は来ない。

 勿論当初からラバトゥ全軍が来るとは思っていなかったが、まさか援軍自体が困難とは思ってもみなかった。

 最低でも一万は欲しかったが、上の判断ならラシータはそれに従うしかなかった。

 幸いノエル達も理解してくれたが、正直ラバトゥの援軍がないのはかなり痛い。

 だが嘆いてばかりもいられない。

 ならば現在動けるラバトゥ勢力として自分が動かなければ。

 ラシータはそう決心し人混みの中へと消えていった。

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