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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
144/360

動き出す復讐者達


 マークスの突然の訪問から数日経ち、プラネの開拓は順調に進んだ。

 ラバトゥから預かったケイル達石工の単眼族(サイクロプス)達もドルジオス達ドワーフの職人とすぐに打ち解け、採掘してもらった石から既に石動兵(ゴーレム)の製作に移っている。

 幸いゴンザ達の拠点から良質な石材や石動兵の核に使う魔鉱石が取れる為、既に何体か仕上げの段階まで進んでいるものもある。

 また、ラバトゥへのドリアード派遣も無事に行われた。

 エルモンドとガマラヤにいるドリアードの長により比較的暑さに強いメンバーを選んでもらい、すぐに転送魔法でラバトゥへと送られた。

 無事ラバトゥに到着したドリアード達はファクラの指揮の元、ラバトゥでも育つ野菜や穀物の品種改良に取り掛かったそうだ。

 派遣されたドリアード達によると、既に専用の畑やドリアード達が負担なく過ごせる住居まで用意されていたというのだから、ファクラの手際の良さには驚かされる。

 そしてもう1つ、ラシータも諜報員として活躍してくれている。

 ファクラの片腕として重用されていただけあり、その変装技術を駆使し周辺の村や町からかなりの情報を手に入れてきてくれる。

 中には町の権力者からも情報を引き出し、これにはエルモンドも感心していた。

 順調にして平穏。

 今プラネはまさに勢いに乗っていた。

 だがその平穏は、ラシータの報告より崩された。






 その日ノエルがジャバを除く五魔やキサラ達各部門の責任者達を集めラバトゥを含めた各協力勢力とどう連携していくかを改めて話し合っていた時だった。

 ルクスマ近くの町まで情報収集に出ていたラシータは、帰還早々いつもの女性の姿で部屋に駆け込んできた。

「の、ノエル様! 至急お知らせしたいことが!」

 その必死さからいかに緊急か察したノエルはすぐにラシータに歩み寄る。

「大丈夫です。 落ち着いて。 何があったんですか?」

 落ち着かせるよう話すノエルに、ラシータは何とか平静を取り戻し報告を始めた。

「先程町で手に入れた情報で、現在此方に向かい大規模な勢力が進軍中とのこと

 その報告に、その場にいた全員の顔色が変わる。

「なんだと!? それは誠か!?」

「はい。 近隣のマサラ地方を治める伯爵筋の兵士から聞いた情報です。 既にその勢力の進路にあったいくつかの村や町が壊滅。 更に周辺を守護していた聖五騎士団第十二部隊も半壊したとのことです」

 レオノアの質問に対するラシータの答えに皆驚き固まる。

 仮にもアルビアの主力である聖五騎士団の部隊が半壊するなど、普通あり得ないことだ。

「おいおい、聖五騎士団ってのはそんなどこの連中か分からねぇ奴等にやられる程度なのかよ?」

「いや、それはないよラグザ君。 あそこは最高幹部の部隊じゃないにしても手練れ揃い。 それに確かあの部隊はリックス君が率いていた部隊の筈だよ」

「リックス? まさか、堅牢のリックス将軍か!?」

 ドルジオスの問いにエルモンドは頷いた。

 リックス将軍とは、先の大戦でノルウェの下にで活躍した将軍の一人。

 ラズゴートやギエンフォードの影に隠れながらも、堅実な守備力が売りで“堅牢”の名に相応しい用兵を用いる男だった。

 ギエンフォードが守護するソビア近くのマサラを護っていたのも、その守備力を買われ有事の際ギエンフォードと共に国境を護る為でもあった。

「リックス将軍は、隊の生き残りを逃がす為少数の部下と共に奮戦、戦死されたそうです」

 ラシータの報告に、リナ達リックスと面識のある五魔達に動揺が走る。

「そんな、リックスさんが?」

「部下の命を優先するとは、あの人らしい」

 レオナとクロードが悲痛な表情を浮かべる中、リナがラシータの襟首を掴んだ。

「どこのどいつだ!? おっさん殺ってここ攻めようなんて連中は!?」

「リナさん落ち着いて!」

 ノエルに止められリナが離すと、ラシータは口を開いた。

「その勢力はこう名乗ったそうです。 我らはコキュート、と」

 コキュートの名に、その場の全員、特にリナ達五魔の空気が変わった。

「ラシータ君、それは確かかい?」

「はい。 兵士の話によると、壊滅させられた村の生き残りがそう話していたと」

「そうかい」

 エルモンドからいつもの笑みが消え、宙を見上げる。

「マークスの言っていたのはこれのことか。 本当、今回に関しては恨むよ」

 近い内に大きな戦いがある。

 マークスの残した言葉の意味を知り、エルモンドは珍しく愚痴る。

「エルモンドさん、コキュートというのは?」

 唯一コキュートについて詳しく知らないノエルに、エルモンドは説明を始めた。

 コキュートとは、ラバトゥとセレノアの間にあったアルビアの周りにある五つ目の大国だった。

 ラバトゥと隣国で大国としての力を維持していたことからも、その力の大きさがよくわかる。

 事実、ラバトゥよりも豊かな土地を多く所有し、国の総合力という意味では当時のラバトゥより上だったかもしれない。

 そんなコキュートも、今は影も形も無くなった。

 アルビアで幾つもの蹂躙したコキュートに対し、魔帝ノルウェ・アルビアは容赦しなかった。

 攻める直前に出された降伏勧告をコキュートが断ると、五魔やラズゴートといった強者を総動員し侵攻。

 奪われた領土を取り戻すだけでなくコキュート国内まで徹底的に侵攻し、その全てを破壊し尽くした。

 過ちに気付いたコキュートからの降伏も受け入れず、王族もその殆どが殺され、コキュートは完全に滅ぼされた。

 エルモンドの説明を、ノエルは静かに聞いていた。

「父さんが、そんなことを・・・・」

 魔帝の悪名は既に十分知っていた。

 現にコキュート程ではないにしろ、幾つもの国を滅ぼし、多くの命も奪った。

 現にアルビアに怨みを持つ者が反アルビア組織としていくつか暗躍している事も知っている。

 だが改めてかつての話を聞き、その怨みを持った者達がこうして身近に現れた事で、その事実がよりリアルにノエルの体に突き刺さる。

「あの当時のノルウェ陛下は、アルビアに大きな被害を出した者には容赦なかった。 それでも降伏勧告をし、それに応じた者は許した。 正当化するわけじゃないけど、結局は最初に此方の話を聞こうともしなかったあちらの落ち度だ」

 励まそうとするクロードに、ノエルは「大丈夫」と言って表情を引き締める。

「いつかこういう時が来ることは予想してました。 僕が表に出れば、必ず父に怨みを持つ者達が来るだろうと。 それを受け止める覚悟は、既に出来ています」

 力強く話すノエルに、クロードも安心した様に頷く。

「まあ、確実に彼らの目的はノエル君だろうね。 最終的にはアルビアを滅ぼす気なんだろうけど、その前に五魔を集めて表舞台に出てきた此方を潰すつもりだろう。 そういうのも含めてノエル君に王となる様に言った身としては、なんとも複雑だね」

「後悔なんてらしくねぇなエルモンド」

「後悔じゃないさリナ。 魔帝に怨みを持つ者達の目をノエル君に向ける事も僕の計算には入っていたからね。 そうすることで避ける予定だった民の犠牲が出てしまった。 コキュートの怨みの深さは、僕の予想以上だったらしい」

 ノエルが王となることで魔帝に怨みを持つ反アルビア勢力の動きをノエルに向けさせる事で、余計な犠牲が出ないだろうと想定していたエルモンドにとって、今回の被害は想定外だった。

「ですが、まだ止めることは出来る筈です。 ラシータさん。 可能な限り情報を集めと、ラバトゥへの援軍要請を。 これ以上被害が出る前に、僕達でコキュートを止めないと」

「はい。 お任せください」

 ラシータが退出すると、ノエルは上に向かい声をかける。

「というわけです。 可能なら、また情報を此方に流してくださいね、アルファさん」

 突然アルファの名を呼んで周囲が驚く中、ノエルは何でもないな顔をした。

「恐らくまだ此方の監視をしているでしょうし、こう言っとけば意外と聞こえてるかなと思って」

 ノエルの答えにリナは苦笑する。

「たく、本当図太くなったなお前は」

「使えるものはなんでも使わないと。 特に今回はアルビア側にも直接的な被害か出ているんですから、多少は協力してくれると思いますよ」

 そう言うノエルに呆れながら、同時に頼もしさを感じリナはニヤリと笑う。

「しゃあねぇ。 大将がこんだけやる気なんだ。 こっちも気合いいれるか」

「当然。 あたし達がやらないでどうするの?」

「向こうが怨んでいるのは私達だろうしね。 出ないわけにはいかないよ」

「ふひひ、ならジャバにも早く伝えようかな」

 五魔メンバーがそれぞれ闘志を見せる中、ゴブラド達亜人の長達は一斉にノエルに向き直る。

「我々も全力で戦う所存。 どうかご命令ください、ノエル陛下」

 ゴブラドの言葉に、ノエルは頷いた。

「直ちにプラネ全国民に通達! これより、コキュート迎撃の準備を始めてください!」

「「ハッ!」」

 ノエルの号令により、プラネ初の大戦への準備が始まった。






 プラネ近郊の夜営地で、アルファは頭を抱えていた。

 原因は当然、仕掛けた盗聴機を利用したノエルからの協力要請だ。

「あらら、また頼りにされちゃって。 本当ウチの隊長は人気者だね~」

「殴るわよベータ?」

 ベータの軽口にイラッとするアルファに、ガンマはおろおろしだす。

「まあでも真面目な話、今回は向こうに手を貸すのが吉だと思いますよ。 コキュートの連中は前のセレノアの時とは比べ物にならないくらいの驚異ですからね」

「わかってるわよ、それくらい」

 ベータの言う事も理解している。

 もはや国ではないが、反アルビア勢力としては最大級の規模と能力を持つコキュートの者達の驚異は、恐らく前回協力したセレノアの比ではないだろう。

 ましてや、その規模を知るアルファにとってそれはより確かなものだった。






「馬鹿な! リックス将軍が!?」

 アルビア城の会議室で新聖竜となったカイザルが驚愕の声をあげる。

 コキュート進軍はアルビアにとっても無視出来ない問題であり、本格的に軍として動き出したという報を聞いたアーサーはすぐに緊急対策会議を開催。

 聖五騎士団最高幹部であるラズゴート、ギゼル、カイザル、クリス、そして軍師が招集された。

 そして一番近隣にいたアルファ達にコキュート勢力を調べさせ、今その詳細とリックス戦死の報告が通信機でされていた。

「部下を逃がす為か。 奴らしい死に様よの」

 ラズゴートは旧知の仲であるリックスの死に驚きながら、静かにその死を悼んでいる。

「将軍の死は大きいですが、今はまず現状把握が最優先。 話を進めてもよろしいかな?」

 アーサーが頷くと、軍師は通信機のアルファに報告を促す。

「それではアルファ殿、敵の規模は? 此方の事前情報では一万は越えると聞いていましたが?」

『はい。 敵の数は此方の想定を大きく上回り、約三万五千』

「三万五千!?」

 カイザルを始め、百戦錬磨のラズゴートやアーサーですらその数字には驚いた。

 単純に比較するなら、セレノアやルシスの軍の総員数は約二万、軍事国家であるラバトゥは四万、そしてアルビアは最も多い四万五千。

 つまりコキュート一は一反アルビア勢力であるにも関わらず、大国クラスの人員がいるということだ。

 更に言えば、かつて壊滅させた同じ反アルビア勢力で元大国のダグラ国再興連は三千人。

 それでも反アルビア勢力の中では飛び抜けていたのだ。

 その10倍以上の人員がコキュートに付いているのは、驚異以外のなにものでもない。

「何故たかが反アルビア勢力ごときがそれほどまでの人員を?」

『恐らく、他の反アルビア勢力を取り込んだかと思われます。 少なくとも旧アシールのペガサス騎兵、バッカスの獣兵、サムタン国の魔道兵が確認されました』

「どこも反アルビアの中じゃかなり強力な所じゃのぅ。 単に復讐心からの共闘か、あるいはコキュートの当主がそれほどの傑物か」

 ギゼルの質問に対するアルファの答えに、ラズゴートは冷静に分析する。

『それと、もう1つ気がかりな事が』

「なんだ? 言ってみろ」

『ハッ。 コキュートは皆全身に鎧を装備し行軍していたのですが、その中には女子供、年寄りも混じっている様です』

「なんじゃと!? 奴ら戦う力のない者まで戦場に駆り出したというのか!?」

 その報告にラズゴートは激昂する。

 だがそれなら人員も納得出来る。

 他勢力の吸収だけでなく、本来なら非戦闘員となる者達を戦列に加えたのだ。

「なるほど、それが数の正体ですか」

「くっ! 力弱き者で戦場に立たすとは、なんたる外道! コキュートは気が狂ったか!?」

 怒るカイザルに、クリスは不思議そうに首をかしげる。

「でも、ならなんでリックスのおじさん負けたんだろ? 数が多くても、弱ければおじさんが凌ぎ伐れるはずだし・・・・・」

 無邪気なクリスの疑問はアーサーも感じていた。

 リックスは守りの将。

 いくら数で勝っているとはいえ、彼の実力なら少なくとも聖五騎士団の援軍が行くまで持ちこたえる事は出来た筈。

 なのにリックスは死んだ。

 つまり、コキュートにはまだ何かあるということになる。

「いずれにしろ、早急に対策を練る必要があるな。 どうするアーサー?」

「別にどうもせずとも良いでしょう」

 ギゼルの質問に答えたのは軍師だった。

「敵の目的はノエル殿率いるプラネとかいう集団です。 あれが此方の驚異に成りうる存在なら、そのままぶつけて潰し合わせるのが上作でしょう」

「馬鹿な! プラネとコキュートの間には幾つ村や町があると思っている!? それを全て見捨てろと言うのか!?」

「うむ! 軍の数も此方が上ならば、早々に全軍で叩けぱいいじゃろう!」

 カイザルとラズゴートの反論に、軍師は動じなかった。

「アルビアがより強固になる為なら、多少の犠牲も致し方ないでしょう。 そこはアーサー殿もご理解頂けるでしょう?」

 軍師の視線に、アーサーは多少の嫌悪感を抱きながら頷く。

「確かに、プラネとコキュートが潰し合えば此方としては、後に対決する時好都合」

「流石アーサー殿。 ご理解が早い」

「ですが、民の犠牲に関しては恐らく最小で済むと思いますよ」

「なんですと?」

 いぶかしがる軍師に、アーサーは続けた。

「ノエル殿はかなり甘い性格をしている。 恐らくこれ以上の民の犠牲を良しとはしないでしょう。 ですから何らかの手を打つと思いますよ」

「確かに、あの甘い王ならあり得るな。 どうせまたお前を使い回す気だろうしな」

『いえ、それは・・・・・』

 アーサーに賛同するギゼルの指摘に、アルファは動揺する。

「構いませんよ。 もしその時は多少の手助けは容認します」

「寛大な処置、感謝する」

「なら僕も行きたいな~。 最近出番なくてつまらないし」

「クリス、貴方にはまた今度活躍してもらいますよ。 それにプラネはまだ此方に付く可能性もありますからね。 コキュートを倒せれば、民も彼らを受け入れやすくなるでしょう」

「しかし、プラネが此方に付かなければそれは我々にとって新たな驚異になるだけでは?」

「大丈夫ですよ。 その時は私が責任を持って潰しますので」

 アーサーの微かな殺気を感じ取り、軍師はそれ以上の言葉を飲み込んだ。

「では、第十二部隊を除く全部隊を帝都イグノラに集結。 プラネ、コキュートの対決後勝者がアルビアの驚異となるとわかった後にこれを殲滅します」

「ハッ!」

「おう!」

「すぐに準備に取りかかるとしよう」

「皆集めてなんか、楽しそうだね」

 アーサーの号令に聖五騎士団最高幹部は全員同意。

 軍師は無言ながら、反論はせず退出した。





 アルファはアーサー達へ報告した時のことを思い出す。

 アーサーの許可は出ているからノエルに情報を渡すのは可能だろう。

 そして個人的にはノエル達の事を受け入れているアルファにとって、それはいいことの筈だ。

 だが、それでも不安が残る。

 この戦いで、何かが確実に大きく動く。

 それだけは確かだ。

 ならば自分がプラネに肩入れするのは正解なのか。

 無論、結局はプラネに情報を渡し手助けすることにはなるだろう事はわかっている。

 仮に自分がなにもしなくとも、どのみち変化は訪れる。

 それはわかっている。

 だが、アルファはその一抹の不安を拭い去る事は出来なかった。


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