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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
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賢王


 現在王と呼ばれる者は数多くいるが、当代賢王と呼ぶに相応しい王はと問われれば、ほぼ全ての者がマークス・アクレイアと答えるだろう。

 彼はキサラと同じエルフでありながら、本来エルフの住みかである森ではなく雪国や氷雪地帯に住むスノーエルフと呼ばれる種族だ。

 彼の逸話や功績は、元は奴隷に近い扱いを受けていたにも関わらず、その知謀を駆使し国の王にまでのしあがったという事から始まり、国の改革から氷を使った暖かい住居の建設等数えれば切りはない。

 中でも近年彼の知が注目されたのは魔帝との大戦。

 マークスは魔帝ノルウェの力の片鱗に早々気付き、どの国より早く和平交渉を行いアルビアに進攻した国の中で“唯一”外交で事を治めたのだ。

 しかも驚くことに、マークスはノルウェが魔帝として振る舞うその真意を他国の王でありながら気付き理解したのだ。

 魔帝ノルウェの恐怖や力を知り降伏、交渉を持ち掛けた国が殆どの中、その心理を理解した王はマークスただ一人だった。

 それだけ彼の人を見透す目、そして智謀は他の王よりも郡を抜いており、まさに賢王と呼ぶに相応しい王といえる存在だ。

 そんな大物が単身でプラネに訪れた。

 ノエルだけでなく、リナ達ですから驚きを隠せていなかった。

「おいおいどういうこった!? なんで賢王がこんなとこいんだよ!?」

「というより、本当に賢王? エルフでもちょっと若すぎない?」

「リナさん達はマークス・・・殿の顔を知らないんですか?」

「俺達が攻める前に全部片がついちまったからルシスには行ってねぇんだよ! つうかどういう事だよ本当に!?」

「それに関しては僕の失策だね」

 混乱するリナに、エルモンドが珍しく自身のミスだと告げた。

「人集めに使ってたシルフィーの風。 あれには味方になる意思のある者以外には情報が残らない様にしてたんだけど、彼にどうも解析されちゃったみたいでね」

「ええ!? あのシルフィーの風を!?」

 レオナが驚くのも無理はない。

 シルフィーは四大精霊という、普通の人間では一生懸かって会えるかどうかと言われるほど珍しく、精霊の中でも最上位に位置する精霊の一人だ。

 当然、その魔力は人の遥か上のものであり、エルモンドみたいに友好関係を築けているならともかく、他人が解析するなどほぼ不可能と言える行為だった。

 エルモンドは肯定するように頷くとやれやれと首を振る。

「全くシルフィーの風を解析するなんて常識はずれなことする程魔術の腕を上げてるなんて予想外だよ」

「君に常識はずれとは言われたくないけどね古き友よ。 どうせ君の事だから私にも接触するつもりだったのだろう?」

「それは認めるけど、物事には順序ってものがあってね。 まさかこのタイミングで来られるとは思わなかったよ」

 完全に想定外の展開だったらしく、エルモンドにしては珍しく後手に回っている。

 そんな珍しいエルモンドを見て満足したのか、マークスはノエルに向き直り手を差し出す。

「いや、一国の王を前に少々はしゃぎ過ぎたかな? 改めてよろしくプラネ王ノエル殿」

「あ、此方こそ、御目にかかれて光栄です。 我が国へようこそ、ルシス王マークス殿」

 ノエルは当初の落ち着きを取り戻し、マークスの手を取った。

 すると、小さな違和感を感じた。

「?」

「どうしたのかな?」

 首を傾げるマークスに、ノエルは恐る恐る聞いた。

「貴女は、本物のマークス殿ですか?」

 ノエルの発言に、リナとレオナは慌て出す。

「ちょっとなに言ってんのよノエル君!?」

「いくら俺でも、初対面でんなこと言わねぇぞ!?」

「いや、そういう意味じゃなくて!」

「く、はっはっはっはっ!」

 慌てるノエル達を余所に、マークスはいきなり笑い出す。

「いや、失礼。 正直予想外の反応でね。 因みに何故そう思ったか教えてくれるかい?」

「体に触れた時、微弱な違和感を感じたので」

 ノエルの答えに、マークスは感心した様な顔をする。

「なるほど。 エルモンドが王と認めるだけあってなかなか鋭い」

「あ? どういうことだよ?」

 リナが混乱していると、マークスはイタズラを成功させた子供の様にネタばらしを始めた。

「そうだね、ある意味私は偽物なんだ。 ただしこの体だけね」

「とても精巧な人形と言った所かな?」

 クロードの指摘にマークスは頷いた。

「流石に魔竜と言われる人形使いだ。 その認識でほぼ合ってるよ。 最も、この体を構成するのは殆どは生身と変わらないけどね」

分身体(ドッペル)という彼のお忍び用の体でね、魂だけ移して行動することが出来るというわけだよ。 この体の状態なら万一殺されても魂は元の体に戻るだけで安心なんだよ」

 エルモンドの補足でノエルは漸く納得した。

 大国ルシスの王が何故護衛も付けずたった一人でここまで来たのかずっと気になっていたが、襲われても死ぬことがないならそれも頷ける。

「最も、1回限りの使い捨てだし、造るのに時間はかかるし、おまけに魔力も本来の10分の1程度だから面倒も多いんだけどね」

「つまりその顔も若作りってことか?」

「ちょっ! それは違うよ! というより私はそんなことする必要なにもないし! ねぇ、キサラ?」

 リナのツッコミに慌てるマークスが同意を求めると、キサラは呆れた様に溜め息を吐く。

「はい、その体の姿は本体のマークス様と同じです。 最も、本体には色々してるみたいですけどね」

「キサラ!?」

「エルフで若作りが必要って・・・・」

「実はかなりおじいちゃん?」

 リナとレオナの言葉に苦笑するノエルだったが、すぐに切り替える。

「エルモンドさんとキサラさんはマークス殿とお知り合いなんですか?」

「ふひひ、そうだね。 なんだなんだで僕の仲では古い友人の部類に入るね」

「私同じエルフとして多少面識がある程度です」

「つれないなキサラは。 あんなに私の国に一族皆連れておいでよって誘ったのに」

「私達は貴女と違い森こそが真の住みかです。 ですからスノーエルフの様に雪国で暮らすのは難しいと何度もお断りしただけです」

「そんな頑なな君も素敵だよ。 だけどそんなずっと私の誘いを断り続けた君に主と認めされるんだから、彼は僕以上ってことかな?」

 瞬間、マークスの目が先程の軽い態度のものではなく、賢王としての目に一瞬変わった。

「つまり、僕の品定めがここに来た目的、ということでいいんでしょうか?」

「品定めという言葉は好きじゃないけど、まあそんなところかな。 私の認める二人が認め、更にあの単純戦馬鹿のアクナディンまで君を認めた。 魔帝の子云々抜きにしても、興味深いよ」

 マークスは少しノエルを見つめると、急にニコッと笑みを浮かべる。

「ノエル殿はチェスは出来る?」

「え? あ、祖父に付き合って少しは・・・」

「じゃあ私と勝負しないかい?」


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