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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
141/360

帰路


後日、正式な文書が作成され、極秘裏に調停が行われた。

 内容は大きく二つ。


 1:相互技術支援。


 2:両国家危機での軍事支援。


 イトスは何度も文書を見返し、此方に不利なものがないか真剣にチェックしていた。

「そんなに気にしなくてもおかしな所はないはずだよ」

「あんたみたいなタイプは信用できねぇからな。 用心するに越しとく事はねぇ」

 レオナに言われた様にイトスにまで警戒され、ファクラは苦笑しながらも「まあ、そのくらいの警戒心は必要だね」とイトスを評価した。

「安心せい。 下らん小細工はわしの名に置いてさせん」

「あんたじゃ簡単に騙されるだろ」

「んじゃとこのガキ!?」

 イトスにムキになるアクナディンに、ノエルを始め調停に参加したメンバーから笑いが漏れる。

「では、異論は無ければサインを」

 イトスのチェックが終わりファクラから声が上がると、ノエルとアクナディンはそれぞれの文書に調印する。

 これにより、正式にプラネとラバトゥの協定が成立した。

 同時にそれは、まだ極秘ではあるが大国ラバトゥがプラネを一国家として正式に認めた事を意味する。

 ラバトゥに認められたという事実は、これからノエル達にとって大きな助けとなるだろう。

 調印が終わると、アクナディンはニカッと笑う。

「これでわしらは兄弟同然じゃ。 胸を貸したるけぇ、精々気張れや」

 そう言って差し出された手を、ノエルはしっかり握った。

「ええ。 こちらも何かあれば必ず手を貸しますよ」

 そう言ってのけるノエルに、アクナディンは愉快そうに笑った。






 調印から3日後、ノエル達はラバトゥを出国しプラネへと向かった。

 ファクラの気遣いで冷気の刻印が施されたローブ等砂漠超えの為の装備品や物資を大量に用意してもらったお陰で、最初にラバトゥへ向かった時よりもその道中は楽なものだった。

 何より、帰りのメンバーも増え賑やかになっている。

「ノエル陛下、暑さは大丈夫だか?」

 ラクダに乗るノエル達に影を作る様に歩きながら、1つ眼に緑色の肌を持つ巨体の人物の一人が声をかける。

「ええ、皆さんのお陰で快適です。 ケイルさん達は大丈夫ですか?」

「俺達は暑さに強ぇからな。 こんくらいなんでもねぇさ」

 ケイルと呼ばれた1つ眼の人物はケラケラと笑う。

 彼等は単眼族(サイクロプス)

 彼等はラバトゥで石工、つまりラバトゥの石動兵(ゴーレム)を造っている職人だ。

 此方の空間転移に見合う技術として、アクナディンがノエル達の国へと職人達を派遣してくれたのだ。

 更にファクラから連絡役としてラシータも付けてもらい、必要ならその力も好きに使っていいとのこと。

 そこまでして大丈夫かとノエルが聞くと「こういう時はケチケチせんでバーンと大盤振る舞いするもんじゃ!」とアクナディンが言い、ファクラは頭を抱えながら同意していた。 

 ファクラもラシータを連絡役にすることでプラネやアルビアの情勢を知れるから良しとしたのだろう。

 アクナディンの心遣いに応える為、ノエル達も調印後すぐにエルモンド達へ通信をし、帰還したらドリアードをラバトゥに送れる様に手筈を整えて貰っている。

 既に送る人材の選定も終わり、いつでもラバトゥに送れるという。

 これでラバトゥとの関係も上手くいきそうだ。

 ノエルはそう胸を撫で下ろしていた。





 数日かけ、ノエル達は無事プラネへと帰りつく。

 久しぶりの緑溢れる大地と慣れ親しんだ空気に、ノエル達もホッとした様に表情を和らげる。

 が、それは長く続かなかった。

 皆の生活圏である岩山内に入ると、どうも皆の様子がおかしい。

 ノエル達の帰還を喜んでいるが、どこか皆慌てているというか、落ち着かない様子だった。

「うがああああ!! ノエル~!! リナ~!! レオナ~!! お帰り~!!」

 そんな中、ノエル達の帰還を匂いで知ったジャバが駆けつけ、ノエル達に熱いハグをする。

「ジャ、ジャバさん! 苦し・・・・」

「てめ! その癖直せっつったろが!?」

「骨、骨が!?」

 ノエル達が悶える姿に、ラバトゥから来たラシータやケイル達は呆気に取られる。

「相変わらず凄まじいですね」

「これがラバトゥの城壁ぶっ壊したジャバウォックだか? おっそろしい奴だな~」

「芯は気のいい奴だから安心ていいぜ。 所で、何かあったのか?」

「それが少々面倒な事になってね」

 イトスの言葉に反応したのは、後からやって来たクロードだった。

 傍らには相変わらずリーティアが控えている。

 それに漸くジャバから解放されたノエルが反応する。

「クロードさん、何かあったんですか?」

「ああ、ノエル君。 長旅お疲れ様。 そうだね、ある意味とんでもないことになっててね。 帰ってきた早々悪いけど、ちょっと来てくれないかな」

 クロードの様子に事態の大きさを感じたノエルは頷くと、後処理をイトスとラシータに任せ、リナとレオナと共に迎賓館に向かう。

 クロードに案内され、王族クラスをもてなす為に造られた部屋に入ると、エルモンドが誰かとチェスをしている姿が目に入った。

 エルモンドの横にはキサラがやや固い表情で二人の給治をしている。

「チェック。 待ったはなしだよ」

「ああ、またか。 やはりこの手のゲームで君を任すのは難しいな」

「ふひひ、なに、前よりかなり手強かったよ。 おお、ノエル君! リナ達も帰ってきたかい!」

 エルモンドがノエルに気付くと、チェスの相手をしていた人物もノエル達に振り返る。

 白銀の絹の様な美しい髪を靡かせ、透き通る様な白い肌のその青年はノエル達を見ると立ち上がり近付いてくる。

「ああ、君がプラネ王ノエル・アルビア殿だね。 いやぁなかなか可愛らしい姿だ。 男でなければ是非一晩お付き合い頂きたいね」

「え?」

 突然の青年の言葉にノエルが驚くと、青年はリナ達の方を向く。

「おお、これはこれはお美しいお嬢様方だ。 貴女がディアブロ殿とデスサイズ殿だね。 なんともお美しい方々だ。 とてもかの勇名を馳せた五魔のお二人とは思えない。 もし良ければ今度食事でもどうかな?」

「は?」

「あの、あたし旦那いるんだけだ」

 リナとレオナ相手にナンパを始める青年にノエルがどう反応していいかわからないでいると、キサラはわざとらしい咳払いをした。

「マークス様。 場を弁えていただけますか?」

「ああキサラすまない。 美しい女性を見るとついね。 でも安心してくれ。 私が愛するのは君だけだよ」

「そう言う発言は控えてください」

 キサラに諌められ肩を竦めるマークスを見ながらノエルは思考を巡らせる。

 このマークスという青年が、エルモンドが迎賓館の最上位の部屋で相手をしなければならない程の大物だということはわかる。

 そしてキサラと雰囲気が似ていることから、恐らくはエルフ。

 エルフでエルモンドが対応しなければならない大物、その人物が頭を過ると、ノエルの表情が一変する。

「マークス? ・・・・え? まさか!?」

「おや、私を知っていてくれるとは光栄だね」

 ノエルの様子に気付いたマークスはニヤリと笑うと佇まいを直す。

「そう言えばまだ名乗っていなかったね。 私の名はマークス・アクレイア。 北は氷の都、ルシスを納める者だよ」

 マークス・アクレイア。

 それはラバトゥに並ぶ北の大国ルシスの王であり、世間からは賢王と称えられる名君の名だった。


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