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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
138/360

後夜祭


 ラバトゥ杯はアクナディンの優勝で幕を閉じた。

 本来なら決勝の後に開かれる授賞式が行われるのだがアクナディンとノエル共に大怪我を負っている為中止。

 代わりにファクラによる箝口令が出された。

 決勝での黒騎士の正体やアクナディンのプラネとの国交宣言など外に漏れれば確実に混乱を招く様な事は一切口外してはならない。

 万一口外すれば厳罰対象となる事まで説明し、あくまで虎仮面対黒騎士の闘いが行われたということで通す事を徹底された。

 無論、厳罰という脅しだけでなく飴もしっかり観客に与えた。

 ラバトゥ国民にはプラネとの国交によりもたらされるドリアードの支援等の恩恵。

 他国からの者には相応の金銭を渡すことで話がついた。

 完全に封じた訳ではないが、当面はこれで防げるだろう。

 万一酒の勢い等で漏れたとしても、ラバトゥ国内でならどうとでもなる。

 少なくとも、プラネとの国交によるメリットを聞けば国民の大多数は納得する筈だ。

 そんな訳で、ファクラの機転によりなんとか情報漏洩は防ぐことが出来、現在ラバトゥは後夜祭が開催されていた。

 国を上げての大武道大会最後の締め括りだけあり、国民達は大いに賑わっていた。

 そして首都ダルラにあるアルハン宮殿でも、ラバトゥ杯最後のイベントが行われようとしていた。






 アルハン宮殿の大広間では、今アクナディンとノエルが並んで座り、その前には数々の料理や酒が並べられたテーブル、そして今大会の本戦出場者とファクラや八武衆等の一部の関係者が集められていた。

 無論、その中にはレオナやリナ、イトス達の姿もあった。

「えっと、この状況は?」

 ノエルは困惑したように辺りを見回す。

 ノエルは与えられた部屋で治療を受け休んでいたのだが、突然やって来たアクナディンに強制的に連行され、今に至る。

 混乱しているノエルにファクラが説明する。

「これは大会を盛り上げた者達為の慰労会、簡単に言えば打ち上げですね。 選手達の中では注目を浴びて外の祭りで騒げない者もいますし。 だからこうして皆で宮殿に集まり、関係者も交え飲み明かそうというものです」

「ようするに無礼講の宴じゃ。 全力で戦った後は酒に限る! なら戦ったもん同士で騒ぐんが一番じゃけぇのぅ!」

 アクナディンが説明を引き継ぐと、酒の入った杯を持ちながら立ち上がり周りを見回す。

「しゃあ! おどれらよう戦った! よう頑張った! わしも久々に楽しかったわ! 今日はとことん飲んで騒いでくれや!!」

 アクナディンは杯を高々と上げると一気に飲み干し、慣れてるラバトゥ勢も同じ様に杯を飲み干す。

「さあジャンジャン喰ってジャンジャン飲めや! がハハハハハ!!」

 上機嫌のアクナディンの言葉で宴は始まり、皆思い思いに食事を取ったり話したりし始める。

「さああんたも飲めやプラネの!」

「こらおっさん! ノエルにあんま飲ますなっての!」

 ノエルに酒を注ごうとするアクナディンにイトスが割って入る。

「そう固いこと言うなやイト公!」

「変なあだ名付けんな! 第一あんたもノエルも重傷で本当ならまだ安静なんだからな!」

「んなもんお前の治癒で治ったわ。 いや~流石ルシフェルの弟子じゃの~」

「そんなすぐ治るか~!!?」

 ぎゃあぎゃあ言い合うイトスとアクナディンに苦笑するノエルの横で、リナは呆れ顔でデザートの菓子を頬張っていた。

「たく心配性だな。 ノエルもおっさんもんな柔じゃねぇよ」

「試合終わるなり顔色変えて俺抱えて飛び込んだてめぇに言われたくねぇ!」

「おお! あれは傑作じゃったの~! まさかあのディアブロがあがあな顔するとは!」

 二人の言葉にリナは顔を赤らめプルプルと震えだした。

「どうやら本当の決勝しなきゃならねぇみてぇだな?」

「おお! 望む所じゃ!」

「ちょっ! リナ止めろ!!」

「陛下もお止めください!!」

 そのまま戦い始めようとするリナ達をイトスとファクラが必死に止める。

 勿論本気でやり合うつもりはないのだろうが、一国の王に対してもこうなのだからリナらしい。

 ノエルがそんな事を思っていると、人影がノエルに近づいてきた。

「ノエル陛下! 少しよろしいか!?」

 近づいてきた大柄な人物に、ノエルはで少し驚いた。

「あなたは、確かサディールさん?」

「おお! 覚えてもらえているとは重畳! 左様! ラバトゥ正規軍軍団長サディールとは自分の事!」

 予選で戦ったサディールは暑苦しい笑顔でノエルに語りかけてくる。

「いや、自分は本戦に出れなかったのだが、ノエル陛下と語らいたくて参加させていただいたのです!」

「それは嬉しいです。 お体の方は大丈夫なんですか?」

「なんの! あの程度の傷なんともありません! むしろかの魔帝の御子息との手合わせで出来た傷ならいい勲章でしょう!」

 豪快に笑うサディールだったが、すぐノエルの事を想い謝罪する。

「いや、一国の王にいつまでも魔帝の子と言うのは不敬でしたな。 申し訳ない」

「いえ、大丈夫です。 それにサディール殿もやはり魔帝の子というのには思うところもあるでしょうし」

「いや、それは違いますぞノエル陛下」

 ノエルの指摘をサディールはキッパリ否定した。

「確かに自分も過去の大戦には参加していました。 ですが、魔帝殿に対し恨みを抱いてなどおりません。 先に仕掛けたのはラバトゥ。 それで痛い目に合ったのだからそれは自業自得と言う話です。 それに、先の大戦とノエル陛下は関係ない。 ノエル陛下は魔帝の子ではなく、プラネの王として立派にその誇りを示した。 それは自分を含め、あの試合を見た全ての者が感じたことでしょう。 それだけのものを示したノエル陛下に対し不当な批判を口にするならば、それを正面から受けたアクナディン陛下すら批判することと同義。 ですのでノエル陛下も、変な負い目を負う必要はありませんぞ」

 サディールの素直な言葉に、ノエルは心が軽くなる。

 事実、今回の事は不安が大きかった。

 どれだけアクナディンが正面から自分を受け止めようと、他がそうとは限らない。

 それほど恨み等の負の感情とは残りやすく厄介だ。

 だがサディールの言葉で、少なくとも闘技場にいた人達には自分の事を認めてもらえた。

 それがどれだけ大きな事かノエルは知っている。

 ノエルはその事を伝えてくれたサディールに改めて礼を言う。

「ありがとうございますサディール殿。 受け入れてくれたあなた達に感謝します」

「なんの! アクナディン陛下も仰っていたが、貴殿らプラネはこれからラバトゥと兄弟分! 何かあればすぐ駆けつけますぞ!」

 サディールは元の暑苦しく豪快な笑みを浮かべると、その横にテンがやってくる。

「これサディール。 ノエル陛下も決勝の傷がまだ癒えていないのだ。 あまりそう大声で迫るものではない」

「お、これは失敬」

 テンは穏やかな笑みを浮かべたままノエルに向き直る。

「体の方はどうかなノエル陛下?」

「はい。 お陰様でなんとか。 テン殿は?」

「テンで構わぬよノエル陛下。 拙僧は八武衆ではあるが、所詮破戒僧だからな。 余分な気遣いは無用」

「ではテンさんでいいですか?」

「ええ。 それより、もし良ければ此方で話さぬか? ヤシャ等は主の体を気にしているのだが、あの性格ゆえ素直に聞きに来れぬものでな」

「聞こえてるぞ和尚! 余計なこと言うんじゃねぇ!」

 文句を言うヤシャに、ノエルから笑みが零れた。

「ええ。 僕も皆さんとお話したいと思っていました」

「自分が手を貸しましょう!」

 サディールに助けられながらノエルはヤシャやカルラのいるテーブルへと歩んでいく。

「すぐに人の輪に入れるたぁ、大したさいのうじゃのう」

 アクナディンは八武衆や他の参加者に混じるノエルを見ながら呟いた。

 王でありながら自然と他の者と打ち解けられる。

 しかも少し前まで反感を持っていた者もいるにも関わらずそれが出来る。

 アクナディンからすればノエルの姿は羨ましい限りだった。

「あんたも混ざればいいんじゃねぇのか?」

「わしが行くと気を使わせるけぇ。 もうちっと様子見てからにするわ」

「王様ってのもめんどくせぇな」

 そう言うとリナはアクナディンの隣にドカッと座った。

「しゃあねぇから少し話し相手になってやるよ」

「魔王相手に酒か。 それは楽しそうじゃのぅ」

 リナの気遣いにニヤリと笑うと、アクナディンは杯を煽った。






 宴は暫く続き、皆思い思いの時を過ごした。

 ノーラとイトスはオズワルドと魔術談義に入り、カルラの踊りにレオナや他の八武衆達が歓声を上げる。

 そんな中、アクナディンはチラリとノエルを見た。

「さてと、そろそろ頃合いかの」

「え? うわ!?」

 アクナディンは立ち上がるとノエルをいきなり持ち上げた。

「怪我人はそろそろ退散しようかのぅノエルよ。 あまり無茶して傷開いても敵わんしの」

「え? だったら自分で・・・・」

「ファクラ、後は任せるけぇ。 皆はまだ楽しんどれ」

「はっ」

「ちょっ! アクナディン殿!?」

 アクナディンはノエルの言葉を聞かずそのまま連れ去ってしまった。

「おい、なに堂々とウチの王様拉致ってんだよ?」

「いやぁ、陛下も不器用な方なので」

 苦笑するファクラに、リナはやれやれと首を振る。

「んじゃ、俺もちっと抜けるか」

「あら、どこ行くの?」

「野暮用」

 レオナは何となく察し「遊びすぎないでよ」とだけ言い宴に戻っていき、リナはそのまま部屋を後にした。

 

 一方部屋を出たアクナディンは、ノエルを自室へと連れてきていた。

「どうしたんですかアクナディン殿?」

 下ろされたノエルが首をかしげると、アクナディンはテラスの窓を開ける。

「うわぁ・・・」

 テラスからの景色にノエルは声を漏らす。

 街には祭りの明かりが灯り、街全体が淡いオレンジ色に染まっている。

「どうじゃ? ええ眺めじゃろう?」

 アクナディンはグラスを2つと酒瓶を手にノエルの背後に立った。

「ここは街もよう見れるけぇ。 王になってから気軽に散歩も出来んからのぅ。 わがまま言うて部屋を作り替えたんじゃ」

 アクナディンはテラスに備え付けてある椅子に腰掛けると、小さなテーブルにグラスを置き注ぎ出す。

「わしは賑やかなんが好きなんじゃが、折角じゃけぇ。 あんたと二人ではなしてみとうての」

 アクナディンに促され、ノエルは向かいの席に付くとグラスを手に取った。

 一口飲むと、甘い味と果実の香りが口の中に広がった。

「美味しい・・・」

 ノエルの反応に、アクナディンは嬉しそうにニヤリと笑う。

「ならよかった。 あんた宴で酒殆ど飲んどらんかったからのぅ。 苦手かと思うて弱めの果実酒にしたんじゃ」

 そう言ってアクナディンもぐいっと酒を飲んだ。

 ノエルはアクナディンの気遣いが嬉しく、頭を下げた。

「ありがとうございます、アクナディン殿」

「二人きりじゃけぇ、畏まらんでええ。 わしもさっき呼び捨てにしてしもうたしの。 ファクラに後でどやされそうじゃ」

 バツの悪そうな顔をするアクナディンに、ノエルも自然と笑みが浮かぶ。

「では、アクナディンさんで」

 そう言うと、ノエルは気になっていたことを聞いてみた。

「そう言えば、アクナディンさんは元々王様じゃなかったんですか?」

「おお。 王族でも何でもないただの軍属よ。 アルビアに攻めとる途中で代替わりしての」

 なんでもないように話すアクナディンだったが、次の言葉でノエルの表情が変わった。

「まあ、正確にはわしが殺したんじゃがのぅ」


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