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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
137/360

ノエル対アクナディン


 開始の合図が出るや否や、ノエルとアクナディンの剣がぶつかる。

 その一撃の重さを表すように剣がぶつかった瞬間周囲に衝撃が走る。

「ほぉ、わしのサンダリオン受けるたぁ、大した膂力じゃ」

「師匠が師匠ですからね。 それに、小手調べを受けれない程度じゃ、話にならないでしょ?」

 鍔迫り合いをする中、ノエルの言葉にアクナディンは笑んだ。

「よぉわかっとるのぉ! ならこっからあげていくけぇの! 着いてこんかい!」

 アクナディンはノエルを弾くとサンダリオンを分割し、レオナの時に見せたジャグリングの様な不規則な構えを取る。

「なんならなんなら~!!」

 アクナディンは怒濤の勢いで3本の剣で斬りかかる。

 ノエルはその一撃一撃を時には受け、時にいなしながら対処していく。

 その一進一退の攻防に、観客達は大いに湧いた。


「凄いですノエル様! あの武王と互角に戦えるなんて!」

「そこまで甘くねぇよあのおっさんは」

 ノーラの言葉を否定するリナに、レオナも同意する。

「一見互角だけど、ノエル君の方が不利ね。 攻撃を防ぐのが精一杯だし、その攻撃だって、一撃貰えば致命傷確実。 まだまだ余裕のある武王と対して、ノエル君は精神的にもかなりキツいわよ」

「そんな・・・・」

 ノーラが心配そうな顔をすると、リナは不敵に笑った。

「ま、あいつもこのまま済ますタマじゃねぇけどな」


 アクナディンの重い剣を辛うじて防ぐノエルに、アクナディンは更に攻勢を強める。

「どおした!? こがあなもんかおどれの力は!?」

 アクナディンが剣を振るおうとした瞬間、アクナディンは咄嗟に顔を反らした。

 同時に、さっきまでアクナディンの顔のあった場所に黒い雷が通り過ぎる。

(この攻防の中で魔力貯めとったか。 思ったより侮れん)

 アクナディンはすぐに視線をノエルに戻すと、サンダリオンをノエルに振り下ろす。

 だがそのノエルは防ぎもせずサンダリオンをまともに喰らった。

「!?」

 アクナディンは一瞬驚きながらも、すぐに手応えで本物ではないと悟る。

 それを証明するように、斬ったノエルの姿が崩れ、黒い炎となりアクナディンに襲いかかる。

「小賢しいわ!」

 アクナディンはサンダリオンの一閃で炎を払い本物のノエルを探す。

「黒雷!!」

 背後から聞こえたノエルの声に反応すると、先程より圧倒的に大きな漆黒の雷がアクナディンに迫ってくる。

 避けるのは不可能と思えるその攻撃を前に、アクナディンはサンダリオンの1本を宙に投げた。

 すると黒雷は軌道を変え、その1本に直撃する。

「避雷針か!?」

 ノエルが黒雷に気を取られた隙に、アクナディンは残り2本の剣で一気に迫る。

「なんなら~!!」

「せぁ!!」

 剣と刀がぶつかり、二人は互いの後方へと吹き飛ぶ形で距離を取った。

『・・・・な、なんという怒濤の攻防でしょうか!? 私思わず見とれて、実況を忘れてしまいました~!!』

 シンの実況に会場全体が興奮の声で埋め尽くされる。

「思ったよりやるのぅ。 正直もうちっと生っ白いと思うちょったが、なかなか楽しませよる」

「まだまだ、もっと楽しんでもらわないと僕が困りますよ」

「ハッハッハッ! よう吠えるのぉ! この状態でそがあに吠えられるなら上等じゃ!!」

 愉快そうに笑うアクナディンを見ながら、ノエルは見透かされていると感じた。

 ノエルは黒炎の分身はもう少し温存するつもりだった。

 この手のひっかけは何度も使えば精度が落ち通用しなくなる。

 だからここぞという所で使いたかったのだ。

 だがノエルは使わざるおえなかった。

 それはアクナディンが、少なくともセレノアの元帥・ダグノラよりも強いことを意味していた。

 アクナディンはそんな圧倒的に不利な状態でも強がりを言うノエルとの戦いが楽しかった。

「しっかし、このままじゃちぃと狭いのぉ」

「え?」

 アクナディンはサンダリオンを1本に戻すと、大きく振りかぶる。

「どうせなら、もっと楽しもうや!!」

 アクナディンは武舞台に向かいサンダリオンを振り下ろした。

 するとまるで爆発でも起こった様な衝撃が周囲を襲う。

 同時にいくつもの石片が飛び交い、八武衆は観客を守る為その石片を破壊した。

 リナも重力で吹き飛んできた石片から貴賓席の周辺をガードする。

「ど、どうなってんだよ!?」

「ちぃ、無茶やらかすなそっちの王様はよ」

 イトスが衝撃に驚く中、リナはファクラに向かい舌打ちをする。

「それは私も同感です。 ですが・・」

「あ~~どぎゃ!!?」

 答えようとするファクラの言葉を遮り、貴賓席に吹き飛ばされてきたシンが飛び込んでくる。

「ふ、ふぎゅ・・・・こ、ここは?」

「おいおい大丈夫か!?」

 イトスは慌てて治療をしようとするが、我に返ったシンは慌てて武舞台の方を見下ろす。

『あっ~とこれはアクナディン陛下の強烈な一撃が炸裂! 一体武舞台はどうなってしまったのか~!?』

「・・・実況の鏡ね」

「だな」

 吹き飛ばされながらも実況を続けるシンに呆れ半分感心半分で言うレオナとイトスにファクラは苦笑で答える。

 武舞台はアクナディンの一撃で大きな土煙が立ち上ぼり中を見ることは出来なかった。

『これはなんということでしょうか!?

 陛下の余りにも強い一撃のせいで舞った土煙のせいで、武舞台が全然見えません!』

「どけ」

『え?』

 リナはシンを押し退け前に出ると、拳を構える。

「ちったぁ加減しろってんだよ、おっさん!」

 リナが重力を乗せて拳を振るうと、土煙が一瞬で吹き飛んでしまった。

 シンはその光景に呆然としながら、慌てて実況を再開する。

『お、おお! 突然吹いた突風で土煙が晴れていく~!』

 さりげにリナの事を伏せて実況を続けるシンが武舞台を注目していると、そこには武舞台となる石盤は完全に砕け散り

、アクナディンとノエルの二人が立っているのみだった。

「おいおい、あの王様武舞台全部吹っ飛ばしたのかよ!?」

「ノエル様は・・・・怪我はないようですね」

 イトスはアクナディンの非常識な行動に驚き、ノーラはノエルの状況に安堵した。

「これで場外勝ちは無くなったわね。 ノエル君かなり厳しいんじゃない?」

「だろうな。 それでも、後はあいつに託すしかねぇ。 これは、ノエルが望んだ戦いだからな」

 レオナにそう答えると、リナは再び武舞台に視線を戻した。


 武舞台を吹き飛ばしたアクナディンは、首をゴキンと鳴らしながらほぐす。

「これで場外なんちゅうもんは気にせず戦えるのぅ。 まあ、あんたは勝ち目が減ってそれどころじゃないじゃろうがな

 不敵に笑うアクナディンに、ノエルは何故か落ち着いていた。

 単純な実力差は勿論、場外勝ちという勝てる要素が更に減ったのだ。

 圧倒的不利なのは変わらない。

 それでも落ち着いていられるのは、恐らく今までの経験もあるだろう。

 だがそれ以上に、自分に正面から向き合ってくれるアクナディンが嬉しかった。

 覆面を捨てたのも武舞台を壊したのも、全てはノエルと向き合う為。

 それだけの価値をノエルに見出だしたからこそ。

 ノエルは焦りとは違う気持ちの高ぶりを感じながら、体に黒雷を帯電させる。

「いえ、むしろ動きやすくなってよかったです。 ありがとうございます」

 尚も闘志を失わないノエルに、アクナディンは嬉しそうに笑った。

「くくく、ハッハッハッ!! この状態で尚吠えよるか!」

「いくらだって吠えますよ。 こう見えて僕も、王ですからね」

「そうけぇ! だったら最後まで吠えきってみせぇ! プラネの王よ!!」

「ええ! 行きますよラバトゥ王!!」

 ノエルとアクナディンは再び中央で激突する。

 アクナディンがノエルの剣を受けた瞬間、全身に痛みが走る。

 ノエルの纏う黒雷が剣を通してアクナディンにも流れたのだ。

 だがアクナディンは尚も笑む。

 その戦いを心から楽しむように。

「ぬっるい電気じゃのぅ! そんなもんかい!?」

 アクナディンはサンダリオンを分割するとノエルに斬りかかる。

 だがノエルはそれをかわし上空へと飛び上がる。

(雷で筋肉刺激しよったか! なかなか考えよる!)

 強化魔法に加え黒雷で筋肉を無理矢理刺激し速度を上げている事に気付いたアクナディンは、上空のノエルに向けて構える。

 ノエルは得意の踵落としをアクナディンに向けて放ち、アクナディンは剣を交差させそれを防ぐ。

 激突した重い音が響く中、ノエルは更に力を込めた。

「うおおおおおおおおおお!!」

 するとアクナディンの剣を弾き、アクナディンの頭に踵落としが決まる。

「ぐが!?」

 出来た隙にノエルは刀に黒雷と黒炎を纏わせる。

「これで、終わりです!」

 ノエルが渾身の力で振り下ろすと、

アクナディンの目がギラリと光る。

「舐めんな若造が~!!」

 アクナディンは瞬時にサンダリオンを1つにすると、フルスィングでノエルを弾き飛ばす。

 ノエルは吹き飛ばされ闘技場の壁に激突する。

 衝撃で息を詰まらせながらノエルは黒炎の分身を数体産み出す。

「そうじゃ! どんどん来てみぃや!!」

 アクナディンは分割したサンダリオンで分身を次々となぎ倒す。

 高温の黒炎の分身を斬る度に体にダメージを負うアクナディンだったが、本人は欠片も気にする様子もなく、むしろ更にその勢いを増す。

 これが武王かと納得する様な猛々しいその戦いぶりに、ノエルは目を奪われそうになる。

 ノエルはそんなアクナディンに応えるべく、体に魔力を高め、強化魔法と黒雷を全身に纏う。

 黒雷と黒炎、分身、身体強化、体術を織り混ぜた剣術、ノエルは使える手段を全て使い、アクナディンへと最後の特攻を仕掛ける。

 分身を凪ぎ払うアクナディンも、ノエルの最後の特攻に気付くと、小細工無用と言う様にサンダリオンを1つに戻す。

「しゃ! かかってこんかい!!」

 ノエルの漆黒の雷と炎を纏った刀と、アクナディンの渾身のサンダリオンが交差する。

 瞬間、アクナディンが武舞台を破壊した時以上の衝撃が起こり、闘技場全体に走る。

『す、凄まじい衝撃です! 一体アクナディン陛下とノエル陛下! 軍配はどちらに!?』

 観客は勿論リナ達や八武衆ですら防御に専念する中、シンは必死に現状を伝えようとする。

 やがて衝撃が治まり、皆が舞台に視線を戻した。

 そこにはまだノエルとアクナディンが立っていた。

 ただ二人ともボロボロの状態で、アクナディンは右斜めに大きな刀傷が出来、ノエルは立っているのがやっとと言う状態で刀を持ち構えていた。

 観客もリナ達も、実況のシンでさえ静まり返り事態を見守る中、アクナディンはふぅと息を吐く。

「本当に最後まで吠えよったか。 大した男じゃけぇ」

 アクナディンの言葉にはもう闘志はなく、満足感と敬意の混ざった様な声だった。

 その時リナ達はノエルの状態に漸く気付く。

 ノエルは、立ったまま意識を失っていたのだ。

 全てをぶつけ、出し尽くしながらも、ノエルのの王としての想いが、その体を立たせた。

「決して退かず、膝を付かず、最後まで闘志を失わずか。 言葉ではなくそれを体で示しよった。 戦士として、王として、あんたの事は認めちゃるけぇ、ノエル王よ」

 アクナディンは軽く触れると、崩れ落ちそうになるノエルの体を支えた。

 瞬間、戦いの決着を悟ったシンが勝者を告げる。

『ラバトゥ杯決勝戦! 優勝者は、ラディン・アクナディン陛下です!!!』

 シンの勝者宣言に闘技場は歓声に包まれた。

 その称賛の声は勝者であるアクナディンは勿論敗者であるノエルにも浴びせられた。

 それは仇敵アルビアの魔帝の息子として散々罵声を浴びせていたラバトゥの民が、ノエルを認めた瞬間でもあった。

 闘技場に歓声が響く中、リナはイトスを抱え貴賓席から飛び出した。

 そしてアクナディンに近付くと、イトスをノエルの方へと放る。

「ってぇな! 何すんだよ!?」

「んな事どうでもいい!! 早くノエル治せ!!」

「あ、ああ、わかった」

 必死の形相のリナに気圧されイトスはノエルに近づくと、アクナディンは治療しやすいようにノエルを下ろした。

「ふん、随分過保護じゃのぉディアブロ」

 面白いものを見たという顔をするアクナディンに、リナは舌打ちで答える。

 必死に手を出さない様に踏ん張っていたリナの我慢も、流石に限界だったのだ。

 その事を見透かされ渋い顔をするリナを面白そうに見るアクナディンだったが、表情を引き締めて闘技場全体を見回した。

「おどれらようく聞け! わしは今ここに、プラネ国王ノエル・アルビアを認め、正式にプラネとの国交を結ぶことを決めた! これは王としての、わしの正式な声明じゃ!!」

 突然のアクナディンのプラネとの国交宣言に周囲は驚きどよめきだす。

「ええか! これからはプラネはわしの、いやラバトゥの弟分じゃ! なんかあったら手ぇ貸してやってくれや!」

 当初こそ唖然としていた観客達だったが、次第に状況を飲み込み、大きな同意の声が響く。

「おいいいのかよ? ノエルは優勝してねぇぞ?」

「わしはこの大会で力を図るっちゅうたんじゃ。 誰も優勝が条件なんて言っとらん」

 あっけらかんと答えるアクナディンに、リナは軽く頭を押さえる。

「あんた見てるとファクラの苦労がよくわかるわ」

 今頃貴賓席で頭を抱えているであろうファクラの事を思い、リナはファクラに同情する。

 だがすぐに切り替え策を考えるだろう。

 なんせ彼もこんな無茶をやる王に惚れてしまった男なのだから。

「それより、起きたらこいつ褒めてやれ。 わしを納得させたんは、紛れもないそいつの功績じゃ」

 アクナディンに言われ、リナは眠るノエルの顔を見つめる。

「そうだな。 こいつにしちゃ、上出来だ」

 柔らかい表情を見せるリナにアクナディンもニヤリと笑った。

 こうして、激動のラバトゥ杯は無事終了した。


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