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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
135/360

幕間 決勝前夜


『う~ん、こいつは流石に間に合わねぇな』

 通信用水晶に写し出されたドルジオスは難しい顔をして目の前の物を見ていた。

 それは黒騎士としてのノエルの鎧。

 テンとの試合で出来た破損を直してもらおうとドルジオスと連絡を取ったのだが、思ったより損傷が酷く直すのに時間がかかるらしい。

「おいおい、そこはどうにかならねぇのかよ?」

『無茶言わねぇでくれよリナ殿。 単純に形整えんのならともかく、本来の性能通りに直すとなるとすぐとはいかねぇ。 しかも水晶越しに見た限りじゃ、デカい破損箇所以外もガタが来てやがる。 やるならしっかりメンテナンスしねぇと途中でぶっ壊れるぞ』

 ドルジオスも困った様に頭をかいた。

 ドワーフ最高の職人である彼の腕を持っても、本当に完全に直すのは無理なようだ。

「もういっそ形だけでいいんじゃないの? 今回鎧着けてるのって単純に正体隠す為なんだし」

『ちょっと待ってくれよレオナ殿! そんな半端なもん着せられる訳ねぇだろ!? ましてや相手はあの武王だろ!? すぐにぶっ壊されて正体バレんのがオチだ!』

「では私の魔術で鎧に強化の術式を組み込むというのはどうでしょうか?」

 ノーラまで加わりどうするか話し合いが続く中、ノエルはある決心をしていた。

 






 ノエル達が鎧の事で話し合っている頃、アクナディンは自室で日課の筋トレをしていた。

 元軍におり、王となった今でも肉体派である彼にとってこれは欠かせぬ行為だった。

 通常よりもはるかに巨大なダンベルを何でもないように上げ下げする中、アクナディンの目が右腕にいく。

 ここまでの傷を負ったのはアクナディンにとっても久しぶりの事だった。

 普段大会に出てもサンダリオンを抜くに足る戦士は殆どおらず、八武衆でもテンクラスでないとある程度本気が出せない。

 無論大会の目的である新人発掘や兵士の練度向上という点では上手くいっているから問題はないのだが、やはり戦士としては物足りない。

 それが今日は久しぶりにテン以外の相手で楽しめた。

 結果は正直不本意ではあるが、伝説とまで言われた五魔の実力の一端に触れられてアクナディンは充実した気持ちになっていた。

「もうちっと楽しみたかったがのぅ」

 アクナディンは名残惜しそうに右腕を見つめると、再びダンベルを上げ始める。

 すると背後の扉からノックの音が聞こえる。

「陛下。 今よろしいでしょうか?」

「ファクラか。 構わん。 入れ」

 入ってきたファクラは怪我をした右腕でダンベルを持ち上げるアクナディンに呆れ顔になる。

「陛下、明日は決勝なのですからもう少し体をお休めください」

「こういう日は体が疼いてしょうがないけぇ。 じっとなんかしてられん」

 ファクラはやれやれと苦笑いするが、いつもの事なのですぐに切り替え本題に入った。

「実は陛下にお客が来ております」

「客?」

「ええ。 お通ししても構いませんか?」

「好きにせぇ」

 普段外部の者をあまり近づけないファクラが自分に会わせようとする人物に興味が湧いたアクナディンはダンベルを置いて振り返る。

「許可が出たよ。 さあ、此方へ」

「ああ。 お邪魔しま・・・・て汗臭!? なんだよこの部屋!?」

 ファクラの横から出てきたのはイトスだった。

「なんじゃ、小僧の所のチンチクリンか」

「誰がチンチクリンだよ!? つかなんだよこの臭いは!? 王の部屋の臭いじゃねぇぞ?」

「じゃかましいわ! ワシは下らん装飾やらなんやらは嫌いなんじゃ!」

「それと臭い関係ねぇだろ!」

 もはやアクナディンに対しても素で対応する程順応しているイトスに感心しながら、ファクラは窓を開け空気を入れ換える。

「それよりなんのようじゃ? 明日の決勝が終わるまでワシはそっちと会う気はないけぇのぅ」

「いや、普通にバレるから虎仮面の正体」

「なんじゃと!? あの完璧な変装見破るとは、流石魔人ルシフェルの弟子っちゅうとこか」

 まだ虎仮面の正体がバレていないと思っていたアクナディンが勝手に感心する中、イトスは話が進まないとツッコむのを止め本題に入った。

「ウチの王の使いで、あんたの右腕の治療に来た」

「なに!? あの小僧にもバレとったのか!? いやそれより、怪我の治療とはどういうことじゃ!?」

 この怪我はレオナがノエルの援護射撃の為につけたもの。

 それをわざわざ治療すると言うのだから、アクナディンには訳がわからなかった。

「ウチの王様曰く、やるなら互いに万全にだそうだ。 あんたにはちゃんと正面から自分の全力見てもらいたいんだと」

 イトスの説明にアクナディンは呆気に取られた。

 普通ならこんな自分に不利になるような事はしない。

 ましてや明日の試合はノエルのプラネにとって大きな意味を持つ。

 少しでも有利な状況を作りたいはず。

 それは卑怯でも何でもない当然の事だ。

 それなのにノエルは正面から正々堂々格上のアクナディンとぶつかり合う気でいるのだ。

 アクナディンの口元に呆れ半分の、だが決して侮蔑ではない笑みが浮かぶ。

「ワレの王は本当馬鹿正直だのぅ」

「それ本人に言ってやってくれ。 同じ馬鹿正直のあんたに呆れられれば少しはあいつも堪えるだろうし」

「どういう意味じゃそりゃ!?」

「まあまあ、彼の治癒術は実に見事です。 明日の為にも彼の治療を受けてみるのも手かと」

 ファクラに宥められ、アクナディンは右腕をイトスに出した。

「折角の好意じゃ。 受けとらんと王の底が知れるからのぅ。 ここは受けちゃるわ」

 イトスはアクナディンの腕に治癒の術をかけると、右腕が暖かい光に包まれる。

 アクナディンは治療を受けながらノエルの事を思う。

 テンを倒したノエルを、アクナディンはもう弱いとは思っていなかった。

 むしろ強者の部類に入れている。

 そういう意味では最初にアクナディンの出した強さを証明するという条件は満たしている。

 だがそれだけではまだ駄目だ。

 個の強さだけでなく、王としてのノエルの強さ。

 それをアクナディンはまだ見極めていない。

(明日はたっぷり相手しちゃるけぇ。 全力でかかってこい、小僧)

 ノエルの全てを見極める為、アクナディンは治療を受けながら闘志を高めていた。


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