幕間 八武衆の集い
ラバトゥ杯予選、本戦1回戦が終わったその日の夜、アルハン宮殿の一室に集められた武人の集団八武衆。
その中心には宰相ファクラ、背後には彼の腹心であるラシータが控え集まった八武衆に視線を送る。
「諸君、忙しい中集まってくれた事に感謝する。 と言っても、全員ではないのが残念だけど」
集まった八武衆はテン、ヤシャ、カルラ、キンナラ、マコラガ、そしてまだノエル達と接触していない八武衆一の巨漢ケンダツバの計6人のみだった。
「リュウはデスサイズとの傷の治療中。 アシュラは陛下の警護をしている」
ケンダツバはその巨体通りの太い声で静かに淡々と説明し、デスサイズの名にレオナに予選で敗れたマコラガが複雑な表情を浮かべる。
「まあ、仕方ないか。 リュウに関しては傷もそこまで深くないと聞くし、そこまで気にすることはないだろう」
実際レオナと闘ったリュウとマコラガの傷は血こそ派手に出たがそこまで深いものではなかった。
現にレオナに敗けたマコラガも既にこうして動ける位まで回復している。
手加減されたという訳ではないのだろうが、実際それだけの余裕がレオナにはあった。
それは八武衆と五魔の実力の差とも言えるものだ。
対五魔様に選抜したラバトゥ最強の武人集団をもってしても五魔には及ばない。
無論まだ全員が闘った訳ではなく、最強クラスのテンも残っているのでまだそうと言い切れないが、ファクラは小さくため息を吐きながら気持ちを切り替える。
「それより本題だ。 デスサイズ・レオナと魔帝の子・・・・いや、プラネ王ノエルの力、君達はどう見る?」
ファクラの問いに答えたのは盲目の戦士キンナラだった。
「デスサイズの実力はある意味予想通りと言った所でしょう。 自身の能力を使わずあそこまで闘えるのは純粋に称賛に値する」
「悔しいけど私も同意見です。 リュウが敗けた今私達の中で勝てるとしたらアシュラかテン、それにカルラ位かしら」
「え~! あたしあんな怖いのに勝てる気しないよ~! ま、負ける気もないけどね」
マコラガの意見に大袈裟にリアクションしながら簡単には負ける気はないとカルラは茶目っ気を出しながらアピールする。
「やっぱり五魔の名は伊達じゃないか。 陛下は喜んでいるけど、此方としては万一の事もあるからどう対処すべきか」
「警戒するのは五魔だけじゃねぇ。 あのガキ・・・・ノエルも下手すりゃ相当やべぇ」
「うむ。 あの少年はなかなか筋がいい。 五魔と出会いまだそんなに時間が経ってはいないはずだが、あの力はかつて戦場で見た魔帝殿を思い出す。もっとも、まだ粗削りな部分が多いが」
ノエルと闘ったヤシャの言葉に近くで見ていたテンも同意する。
「皆の反応はどうだいラシータ?」
「はい。 黒騎士と女剣士レオナに対する注目度はかなりのものです。 実際、ラバトゥ杯を何度も見に来ている者達ですら、今年は虎仮面が負けるのではと予想する者がいるほどです」
「となると、辞退してもらうのは無理か。 盛況なのは嬉しいけど、なかなか面倒な事になったよ」
ファクラがここに皆を集めた理由はそこだった。
このまま大会が進み、万一アクナディン扮する虎仮面とテンが負ければ、それはラバトゥの力が、強いて言えば武王アクナディンの力が弱まった事を意味する。
そうなればラバトゥの力を見せる為に開催したのに完全な逆効果。
最悪恨みを持つ近隣の国から攻められる可能性もある。
そうなる可能性が現実味を帯びてきたからこそ、ファクラはこうして皆を集め意見を聞き、どうするか検討したかったのだ。
仮にプラネ側の条件を呑むと言い二人を棄権させるとして、それだけ注目されている二人が突然棄権すれば観客から不興を買うし、何よりアクナディンが激怒するだろう。
どうしたものかとファクラが頭を捻ると、テンが小さく笑いだす。
「ファクラ殿。 心配されるな。 要は勝てばいいだけのこと。 ならば拙僧と陛下が勝てば問題ない」
「しかし和尚。 君はともかく、陛下の相手はあの五魔だ。 万一ということも・・・・」
「此方とて武名名高い天下の武王。 そう易々と負ける事はあるまい。 万一負けたなら、今年の優勝は拙僧が貰うだけだ。 はっはっはっ!」
「しかし・・・・」
「ファクラ殿」
ファクラの言葉を遮りテンは穏やかな顔のまま静かに告げる。
「諸行無常。 永遠に続くことなどこの世にはない。 今回の事は抜きにしてもいずれ拙僧も陛下も敗れる時が必ず来る。 それがいつか、誰かはそれこそ天のみが知る事。 ならば起こるかもしれぬ変化を恐れるより、起こった時どうするかを考える事こそ、今の我らがすべき事ではないか?」
テンの言葉に、ファクラは少し表情を崩した。
「本当にこういう時のあなたの説法は説得力があるね」
「破戒僧の言葉でもそう言ってもらえるとありがたい。 なに、心配されるな。 拙僧も陛下も負けるつもりは毛頭ない。 故に起こった時の事を考えるのはまだ暫く後でも構わないだろう」
「そう言う意味では貴方も陛下も頼もしい限りだ」
ファクラは笑みを見せると、腹を括った様に八武衆を見回す。
「とりあえず、今は陛下達の勝利を信じる他ない。 ならば此方は二人が存分に闘える様しっかりとサポートする。 いいね」
「「はっ!」」
八武衆とラシータは頭を下げると、そのまま解散となり、皆部屋を出ていった。
「カルラ。 アシュラにもこの事をしっかりと伝えといてくれるかい?」
「はぁ~い♪ ま、アシュラ君ならこっちが指示しなくても陛下守る為なら全力でサポートすると思うけどね」
「知っているよ。 ただ、念のため」
「はいはぁ~い♪ 余計な手出しもしないよう念押ししとくよん♪」
軽いながらしっかりファクラの意図を察しカルラは部屋を後にした。
一人部屋に残ったファクラは明日の準決勝をどう乗り切るか静かに思案を開始した。




