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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
130/360

ラバトゥ杯・本戦2


『さあ続いては第三試合! レオナ選手対リュウ選手です!』

 シンのアナウンスで舞台に上がったレオナは、先に舞台に上がっていたリュウと向かい合う。

 布とローブで全身を覆い体型や性別も分からないリュウの不気味な雰囲気の中、レオナは布の隙間から見える視線に殺気の様な強いものを感じた。

(さっきのヤシャみたいに恨んでるタイプかな。 覚悟してたけど、そういう相手ってやりづらいのよね)

 どんな相手が来ようと打ち倒す覚悟はしていても、この手の相手にはやはり思うところはある。

 それに恨みを持つ者は理屈も通じづらく諦めも悪いから、その手の相手と戦うのは色んな意味で骨が折れる。

 心の中で愚痴りながら、レオナは剣を構える。

『それでは第三試合、始めて! ・・・・どわっ!?』

 シンの合図の瞬間、リュウのローブから幾つものうねった何かが飛び出し、レオナの前にいたシンの周囲をも巻き込んで舞台を抉る。

 シンは驚いた様に転げながら避け、その後ろのレオナも素早く飛び退きかわした。

 直後レオナのいた場所は完全に抉られていた。

『り、リュウ選手の正体不明の激しい攻撃!! 予選ではこのうねる謎の攻撃で他の選手全て凪ぎ払ってみせた! その恐怖の技がレオナ選手に襲い掛かる!!』

 体勢を立て直したシンは素早く実況を開始した。

 リュウは幾重ものうねる何かをレオナに向けて放ち、レオナはそれをかわしながら観察を始める。

(随分しなやかな動きね。 でも鞭にしたら明らかに固いし重い。 となると、正体はあれかな)

 レオナはかわした直後うねりの隙間をすり抜け一気に距離を詰めた。

 そして自慢の剣捌きでリュウの纏うローブと布を切り裂いた。

 そこから現れたのは、両腕に虎の刺青を持つ、褐色の肌が美しい黒い短髪の美女だった。

 露になったリュウの美しい姿に、会場から思わず息が漏れる。

 だがレオナは警戒を解かない。

 リュウはその整った顔とは真逆な好戦的な笑みを浮かべ、覆っていたローブが無くなったと同時に先程感じていた殺気が更に強まった。

「くくく、やるじゃないかあんた。 マコラガがやられるわけだ」

 楽しそうに話すリュウの両手には何本も枝分かれした鞭の様な形状の剣が握られている。

「随分面白い武器使ってるわね。 確かウルミだっけ? かなり扱いの難しい武器だって聞いたけど」

 武器の名を言い当てたレオナに、リュウは感心したような顔をし、ますます楽しそうに笑む。

「こんなマニアックな武器知ってるなんて、流石例の集団の武器使いね」

 アクナディンの命で五魔の名こそ出さないが、やはりリュウもレオナ達の正体は知っている様だ。

 だがレオナは違和感を感じる。

 殺気も強まり危険度は増した筈なのだが、露になった表情からは先程ノエルと戦ったヤシャの様な恨みはなかった。

「考え事かい? 随分余裕だね!」

 リュウは両手のウルミをレオナに振る。

 柔らかい鉄と称される程しなやかなウルミの剣先はまるで無数の毒蛇の様に不規則にレオナに襲い掛かる。

 レオナはそれをいなしながらかわしていくが、距離を詰められずにいる様だった。

「もしかして、レオナ圧されてる?」

 貴賓席のイトスの言葉に、リナも頷いた。

「普段ならまだ手はあるんだが、今回はちとヤバイかもな」

 リナがそう言うのにも訳があった。

 1つはこの大会ではレオナはその力を発揮できないこと。

 五魔であることを隠している以上、レオナ本来の能力である武器を産み出す力は使えない。

 その為相手に合わせて新たな武器を産み出す事も、数種類の武器を同時に使う事も出来ないのだ。

 普段のレオナならこの手の相手なら鉄根で武器を絡め取りそこから攻勢に出るだろうが、今は最初から持っていた剣1本のみ。

 故に攻め手に欠け、ああして守勢に回らざる終えないのだ。

 そしてもう1つの理由は、単純にリュウが強いのだ。

 恐らく予選で戦ったマコラガレベルならあの攻撃の中でも懐に潜り込んで倒せる。

 だがレオナはそれが出来ない。

 しかもローブが無くなり手元が見え、攻撃の軌道が読みやすくなったにも関わらずだ。

 つまりそれだけリュウの実力は高いということだ。

「こりゃどうなるか、ちと楽しみだな」

「そんな呑気な事言ってる場合かよ!?」

 焦るイトスを尻目にリナは横に置いてある菓子を摘まみながらニヤリと笑う。

「まあ見てろって。 で、しっかり見て学んだことをエルモンドに報告でもしてやれ」

 リナに諭され、イトスは会場に視線を戻す。

 舞台はリュウの攻撃でいくつも抉られていたが、レオナはそれをまだかわしていた。

『レオナ選手! 華麗な身のこなしでかわしていくが、攻め手を見つけられず防戦一方! これは大ピンチ~!!』

 シンは舞台の端でたまに来る余波を避けながらなんとか実況を続ける。

 レオナは舞台の石板を軽く剣で弾くが、石板はリュウに当たる前に粉々に吹き飛んだ。

「(やっぱり隙間もないか。 となると、面倒だけど一か八かあれやるしかないか。 でもその前に・・・)ねぇ、ちょっといい!?」

「あ!? なんだい!? こっちは楽しんでるってのに!」

「あなたって、あたし達の事恨んでるんじゃないの!? そんな殺気出してんのになんか変な感じするのよね!」

 戦いながらストレートに聞いてくるレオナに、リュウは一瞬ポカンとするがまた笑いだす。

「ハッ! んなもんあるわけないだろ!? 私は単純にあんたとの戦いを楽しみたいだけさね! 同じ女でも強いあんたらとね!」

 リュウが力を込めるとウルミの刃先が突然軌道を変えた。

 レオナはそれを避けるが、頬に掠り血が垂れる。

「ここの王様はいい人でね。 女だろうがなんだろうが強い奴は成り上がれんのさ。 お陰で私みたいなのでも、こうして八武衆なんてもんになれたんだ。 で、あんたやあそこの嬢ちゃんなんかも女でそんだけ強いだろ。 同じ強さで成り上がったもん同士、戦り合ってみたいって思うのが普通だろ!」

 リュウはそう話ながら先程と軌道を変え攻め続ける。

 そこでレオナは漸く理解した。

 彼女は根っからの戦士なのだ。

 そして同時に、女であることにコンプレックスを抱いている。

 戦士を目指す上で、どうしても力が弱い女は下に見られる。

 恐らく散々女ということで理不尽な扱いを受けたのだろう。

 だがリュウはそんな扱いにも負けず己を高め続けた。

 自分の思う最高の戦士になる為に。

 そんなリュウにアクナディンは目を付けた。

 性別も出地も関係なく力のある者を起用するアクナディンにとって、リュウのその姿は下手な男の兵の何倍も価値のあるものだった。

 そんな己の力で今の地位を手に入れたリュウにとって、同じ様に女でありながらアルビアの重鎮であったレオナやリナは自分と重なり、そして是非戦ってみたい存在だったのだろう。

(あたしはリナと違って戦い好きって訳じゃないんだけどね)

 レオナはそう思いながら、ある意味純粋に自分に向かうリュウにどこかホッとする。

(なら、あたしもそれに応えないとね)

 レオナは無数に飛んでくる剣先を、先程リナが考えていた様に持っていた剣で絡めとる。

 リュウの右手に持っていたウルミは完全に封じ込められた。

「それでどうする気だい!? まだこっちが残ってるよ!?」

 リュウが左手のウルミを一気にレオナに放つと、レオナは宙に舞った。

 そして手を剣を持つ手を思い切りひねり出す。

 すると剣に絡まったウルミが引っ張られ、リュウの右手から離れた。

「な!?」

「武器が出せないなら、相手から奪えばいいのよ!」

 レオナは素早く絡まった剣を取ると奪ったウルミを振るう。

 その剣先は奪った武器から放たれたとは思えない程正確にリュウのウルミと絡まっていく。

 驚くリュウを隙を付き、レオナは持っていたウルミを放し、一気に間合いを詰めた。

「ちぃ!?」

 すぐレオナの意図に気付いたリュウは、予備にサラシの様に巻いていた刃が1本のウルミを取り迎撃をしようとする。

「残念」

 リュウの刃がレオナに振るわれるよりも速く、レオナの剣は既に振り抜かれていた。

 瞬速と言える速度で振り抜かれた剣は、リュウの胸を切り裂いていた。

「かっ!?」

 リュウはそのまま仰向けに倒れ、見下ろすレオナを見詰めた。

「な、なんで私の武器を・・・・・」

 するとレオナは観客には聞こえない程度の声で答えた。

「こう見えても魔器なんて言われてるし、大体の武器は使いこなせるわよ。 勿論、この国の武器だってマスター済みよ」

 「使いなれてないけどね」とニコッと笑いながら言うレオナの姿に、リュウは技量の差を悟り、敗北を宣言した。

『勝者、レオナ選手!』

 観客から歓声が響く中、レオナは屈んでなんとか上体を起こすリュウに視線を合わせた。

「あなたにどう見えたかは知らないけど、あたしってそこまで戦いは好きじゃないのよ。 でも、あなたみたいな子となら、また相手してあげてもいいわよ」

 レオナの言葉に、リュウは小さく笑った。

 そこには戦闘中の殺気は、どこにもなかった。

「次は負けないよ。 上のあいつも含めてぶっ倒してやる」

「あたしとリナ一緒にしないでよ」

 そう言いながら見上げ、貴賓席で戦いたくてうずうずしているリナを診て苦笑するレオナだった。

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