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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
129/360

ラバトゥ杯・本戦1


 予選が行われた翌日、本戦が行われるその日も闘技場は満員の観客で埋め尽くされている。

 シンはマイクを手に舞台に上がると、観客達に向かい笑みを浮かべる。

『さあ皆様! お待たせ致しました! 本日よりラバトゥ杯本戦を開催致します!』

 観客の歓声が響く中、シンは進行を続けた。

『ではまず厳しい予選を勝ち抜いた選手達の入場です!』

 虎仮面を先頭に登場した選手達に歓声は更に大きくなる。

 全員が舞台に上がるとシンは紹介を始めた。

『まず一人目はラバトゥ正規軍の猛者サディール軍団長を一蹴した黒騎士選手! その経歴、素顔と全てが謎! だがその実力は本物! 今大会の台風の目となるかもしれません!』

 昨日の予選の影響か観客の声援に黒騎士であるノエルは若干照れつつ軽く手を上げそれに応えた。

『続いては我等が八武衆が一人ヤシャ選手! その荒々しくも機敏な動きは常人では捉えることは不可能! その戦いぶりで今日も相手を喰らい尽くす!』

 ヤシャは観客の声援には答えず、低く唸りながら隣のノエルを睨み付ける。

 昨日リナ達から八武衆全員に自分達の正体は知らされている事を聞いたノエルは、ヤシャのその視線は恨みによるものだろうと思った。

 勿論、いきなり感情のまま襲ってこないとは思うが、ノエルは用心の意味を込め気を引き締め直す。

『次に同じラバトゥ正規軍期待の新鋭! 鞭の使い手スタング選手! サディール軍団長の仇を打つことか出来るか!?』

 ラバトゥ軍の軽装鎧を纏うスタングは、好青年という風貌に似合わず闘志に満ちた強い瞳を会場に向け一礼した。

『続いてはまたまた八武衆! テン選手! 八武衆の纏め役にして実力もトップクラス! 勿論今大会の優勝候補! 今回こそ虎仮面から優勝をもぎ取れるか!?』

 本戦メンバーでは一番の巨漢であるテンは、その筋骨粒々の姿とは裏腹に穏やかな空気を纏い、落ち着いた様子で合掌をしながら軽く観客に向け頭を下げた。

『そして最後の八武衆はこの方! テン選手に次ぐラバトゥ最強候補の一人リュウ選手! そのしなやかながら激しい攻めは誰も防げない!』

 顔に布を巻きローブで全身を覆うリュウは、素顔は勿論、性別すらわからなかった。

 ただ静かながらヤシャ同様どこか殺気を帯びているように感じられた。

『さあ次は黒騎士選手同様異国からの謎の戦士! 女剣士レオナ選手! 八武衆であるマコラガ選手を目にも止まらぬ早業で仕留めた今大会注目選手です!!』

 シンの紹介に歓声が大きくなると、レオナは少し恥ずかしそうに「だから目立つのイヤなのよ」と愚痴いた。

『さあ選手紹介も残り後2名! まずは今大会唯一の魔術師、オズワルド選手! その華麗な魔術で屈強な戦士を次々と打ち倒した猛者であります!』

 法衣を纏うオズワルドは余裕そうに片手を上げて声援に応えた。

『そして最後はこの方! ラバトゥ杯最強の覇者! 虎仮面選手!! 今大会もその強さを見せ付け優勝記録を伸ばすのか!?』

「なんなら~!!」

 雄叫びを上げる虎仮面に観客達のテンションも一気に上がり声援が飛ぶ。

 虎仮面は嬉しそうにその声援に応える様に両腕を上げる。

『さて、それでは本戦の説明を行います! 本戦はトーナメント方式で行われ、1回戦から準決勝、決勝と勝ち抜いた選手が優勝となります! ルールは予選同様、相手を戦闘不能か降参させる。 または場外へ落とした選手を勝ちとします! 勿論相手を死なせる以外はなんでもあり! 存分にその力を振るってください!』

 盛り上がる会場の様子に貴賓席のファクラはなんとも複雑な表情を浮かべる。

「なんだよ? 盛り上がってんのに浮かねぇ顔だな」

「それはそうですよ。 本戦進出した8人中3人が異国の者なんですからね」

 からかうリナに対しファクラはハァとため息を吐く。

 そもそもこの大会は戦がない時の兵士達のモチベーションを下げない為に開催されたものであると同時に、ラバトゥの兵の精強さを他国にアピールする役目もある。

 その為八武衆の中でも武闘派の者まで参加させてその強さを見せ付けているのだ。

 勿論正規軍の者も八武衆が相手になる事を承知しており、その座を奪い取るつもりで常日頃強さに磨きをかけているので、サディールを筆頭に強者が揃っている。

 その為暗殺者を含めた異国の戦士が参加しても普段なら精々一人位しか本戦には残らない。

 それが3人。

 しかもその内二人はサディールと八武衆マコラガをあっさり倒したというおまけ付き。

 ノエルとレオナが参加する時点でこの事態はある程度覚悟していたが二人が予想以上に強かった為、本戦の試合内容次第ではラバトゥ弱体化等の噂が他国に流れる可能性もある。

 下手をすればその情報でラバトゥに手を出す馬鹿な国も出るかもしれない。

 まあ最もそんな浅はかな国に負けるラバトゥではないし、そんな噂が広がらない様既にファクラが手を回しているのだが、それでもやはりラバトゥの強さを普段の様にアピール出来ないのはファクラにとって面倒な問題ではあった。

「大丈夫ですよ~ファクラ様♪ あたし達がビシッと強いとこ見せますから♪」

「あんたはなんでまたここにいんだよ?」

 昨日と同じ様に普通にいるカルラにツッこむイトスだが、カルラは別に問題ないと言う様に変わらぬ笑みを浮かべる。

「だって暗殺者も片付いたし、会場はキンナラ達が見てるからあたしはここでファクラ様と観戦タイム♪」

「いやそんな呑気な対応でいいのかよ!?」

「まあまあ二人とも、お茶も入りましたし落ち着いてください」

「あ、ありがとう♪ 気が利くね~ノーラちゃんは」

「昨日の菓子まだあるだろうな?」

「ええ。 先程給仕の方々が運んでくれました」

 昨日からリナの給仕役に徹しているノーラがてきぱき菓子や茶の用意をし、それをつまむリナとカルラの様子にイトスは頭を抑え、ファクラも苦笑する。

「君もなかなか大変だね」

「そう思うならあんたもなんか言ってくれよ」

「いやいや、若者の仕事を奪うわけにはいかないから」

「俺はツッコミが仕事じゃね~!!」

 もはや相手が宰相ということもお構いなしのイトスの叫びが貴賓席に響く中、リナの目付きが変わった。

「おい、そろそろ始まるぜ」

 リナの言葉に皆の視線が武舞台に向けられる。


『さてまず第一試合はこの二人! 黒騎士選手対ヤシャ選手!』

 呼ばれた二人以外の選手が舞台から降りると、ノエルとヤシャは舞台中央で向かい合う。

 するとヤシャは先程より強い敵意を込め睨み付ける。

「てめぇがあの野郎のガキか。 よくまあ親父があんだけ暴れた国に図々しく入れたな」

「それを言うなら、先に攻め込んできたのはそちらですからおあいこですよ」

 ノエルの言葉にヤシャの瞳に殺気が籠る。

『それではいいですね? 一回戦、開始!』

 シンの言葉と同時にヤシャは両足の太もものフォルダーからジャマダハルという握り壊剣を取り出してノエルに襲いかかる。

「コイツ喰らってもその減らず口が叩けるかガキ!?」

 ヤシャは素早い動きでジャマダハルでノエルに斬りかかる。

 昨日のサディールを越える速度に、ノエルは腰に下げたものを抜いた。

 ガキンと言う金属音が響く中、ノエルの手には漆黒の刃を持つ1本の刀が握られていた。

『おっと黒騎士選手! ヤシャ選手の速攻を見慣れぬ剣で受け止めた~!!』

 ノエルがそのまま弾き返すと、ヤシャは素早く舞台に着地し、そのまま反撃せず中腰の体勢で構え直す。

「あれは、確かヤオヨロズのカタナか」

「流石宰相殿。 よく知ってんな」

 分析するファクラにリナは得意そうに笑みを浮かべた。

 ノエルが使った刀はドルジオスがラグザ達鬼人(オーガ)の故郷であるヤオヨロズの技法を元に、レオナが産み出した鉄、ゴンザ達から贈られてきた魔結晶を材料にして造ったノエル専用の刀だ。

 これは本戦前夜に転送魔法で送られた物であり、ドルジオス曰く「いつまでも俺らの大将を素手で戦わすのもなんだしな。 そのカタナってやつは普通の剣より格段に切れ味もいいし、魔結晶のお陰で魔力も乗せやすい。 レオナ殿から武器の手解きされたあんたなら使いこなせるだろ? 折角の大舞台だ! そいつの試運転も兼ねて大暴れしてきてくれや!」とのこと。

 ノエルはドルジオスの想いが籠った刀を構えると真っ直ぐヤシャと向き合う。

「ふん。 そいつがお前の本当の武器ってことか?」

「いいえ。 武器の訓練はしてきましたが、実戦で使うのは初めてです」

「はぁ!? 舐めてんのかてめぇ!?」

 ノエルの言葉にヤシャは激怒する。

 本来ヤシャは気性は荒いが戦士としては冷静な判断力を持っている。

 それは見慣れぬ武器を使ったノエルに対しすぐ攻めなかった事からもよくわかる。

 そのヤシャがここまで感情を露にする理由は、相手がノエルであるからというものだ。

 ヤシャからすれば本来ノエルがこの大会に参加したことが気に入らない。

 本音を言えばファクラとの会見の時殺しておくべきだったとすら思っている。

 ヤシャにとってラバトゥという国は誇りだった。

 そのあらゆる攻撃を寄せ付けない城壁も、屈強な軍もヤシャにとって素晴らしい存在であり、自身が正規軍に入れたことは何よりも誇らしかった程だ。

 だがその誇りはノエルの父魔帝ノルウェと五魔によって壊された。

 最強を誇るラバトゥの主軍でも抑えきれず、ついにラバトゥの象徴とも言うべき城壁が破壊された。

 あの時見た城壁が崩れ落ちる光景をヤシャは今でも鮮明に覚えている。

 それは何よりも誇りを重んじるヤシャにとって大きく深い傷となった。

 自分の誇りが崩れ落ちる絶望と魔帝と五魔、そして守ることの出来なかった己への怒り。

 その想いを抱き、2度とあの様な事をさせないと誓い強くなったヤシャにとってノエルの存在は誇りを汚した怨敵以外の何者でもない。

 そんな相手が自分と戦うのに初めての武器を使って戦うと言えば、激昂するのは当然の結果だ。

「てめぇは俺を、八武衆を、ラバトゥを侮辱した! 陛下の命だから大人しくしていたがこの場でてめぇはぶち殺す!」

「逆ですよ」

「ああ!?」

 殺意を露にし激昂するヤシャに対し、ノエルは怯むことなく刀を構えながら言った。

「この戦いは僕にとって、僕が背負った多くの者達の代表として戦う謂わば初陣です。 この刀も僕に付いてきてくれた人達の想いが詰まったものです。 その想いを背負う覚悟を示す初めての戦いだからこそ、僕はこの刀を使うと決めたんです」

 ノエルが真っ直ぐと己の想いを話すと、ヤシャの武器を持つ手がプルプル震える。

「ふざけんなこのガキが!!」

 ヤシャは怒りのまま舞台上を縦横無尽に跳び回る。

 その動きの速さは残像を生み、まるでヤシャが何人もいるかの様だった。

『あ~っとこれこそヤシャ選手の真骨頂!! まさに本物の獣の様な激しい動きに黒騎士選手耐えられるか~!!』

 シンの実況が響く中、ヤシャはジャマダハルでノエルに斬りつける。

 斬りつけては離れ、また斬りつけては離れるヒットアンドウェイを繰り返すヤシャはその速度を更に速める。

「覚悟を示す戦いだ!? なら尚更得意なもんで来いよ!? 想いだかなんだか知らねぇが、そんなもんで勝てるほど実戦は甘くねぇんだよ!!」

 ヤシャは激昂して叫びながら、一撃一撃に必殺の威力を込めて放つ。

 だがその攻撃が防がれている事を理解しているヤシャは更に苛立つ。

「そんなに大事なら、その想い事その剣叩き折ってやらぁ!!」

 ヤシャは武器を握る拳に力を込め、刀を折ろうと渾身の一撃を放つ。

 金属同士が激突する音が会場に響くと、次の瞬間宙に刃が舞っていた

 だが宙を舞っていたのはヤシャのジャマダハルの刃だった。

「な!?」

「漸く目が慣れましたよ」

 ヤシャは動揺しながらもすぐに切り替え残ったジャマダハルを前に突き出す。

 ノエルはそれを刀で受け止め根本が一気に斬った。

「ば、馬鹿な!? 俺のジャマダハルが!?」

「武器を体の一部にしろ。 僕に剣を教えてくれた人の言葉ですよ。 今の僕には刀も拳も同じなんです」

 その時漸くヤシャは気付いた。

 ノエルに武器の使い方を教えたのは恐らく五魔のレオナ。

 そしてそのレオナとノエルは何度も模擬戦を重ねたことも。

 あの大陸中で恐れられた五魔を相手に、それこそ武器が体の一部と思える程の模擬戦を重ねたなら、それは下手な実戦を重ねるより圧倒的な力となる。

 その事実に今気が付いたヤシャに、ノエルは刀を向ける。

「貴方達ラバトゥの民が武器を無くしても戦おうとするのは昨日のサディールさんでよくわかりました。 ですが敢えて聞きます。 降参してくれませんか?」

 ノエルの通告にヤシャはもはや自分が完全に詰んでいる事を理解した。

 敗因はただ1つ。

 過去の雪辱を晴らそうとノエルを無駄に敵視し、その本質を見抜けなかったこと。

 そのただ1つだった。

「・・・・・俺の敗けだ」

 ヤシャの敗北宣言に、会場の客は勿論、昨日のサディール同様再び向かってくるだろうと予想していたノエル自身驚いた表情を浮かべる。

 それを察したヤシャは舌打ちした。

「てめぇに敗けたのを認めるのは屈辱以外の何もんでもねぇ! だがな! サディールと違って自分の下らねぇ感情でここまで醜態晒しといて、更にみっともなく足掻くのは俺の誇りが許せねぇ! だから認めた! それだけだ!」

 そう言うとシンの方にヤシャは顔を向け睨み付ける。

「てめぇもさっさとこいつの勝ちだって宣言しやがれヘボ審判!」

 とても敗者とは思えない態度で怒鳴り付けるヤシャに、シンはビクッとしながら思わず姿勢を正した。

『は、はい! 勝者、黒騎士選手!』

 瞬間、会場から歓声が沸き起こり、ノエルは静かに刀を鞘に納めた。

 ヤシャは不機嫌そうに立ち上がるとノエルに背を向け舞台から降りようとする。

「ありがとうございました、ヤシャさん」

 素直に敗けを認めてくれた事に礼を言うと、ヤシャは「けっ」と言いながら足を止めた。

「別に実力で敗けた訳じゃねぇ。 俺が勝手に自滅しただけだ。 だからてめぇを認めた訳じゃねぇ」

 そこまで言うとヤシャは「だからよ」と言いながらノエルの方を向いた。

「俺を認めさせたかったら勝ち進んでみろ。 で、万一陛下に認められたら、そん時は俺も認めてやるよ」

「! はい!」

 不器用なエールを贈ったヤシャはノエルの返事を聞くと舞台から降りていった。

「いい修行になったな」

 舞台を降りたヤシャに声をかけたのは、次の試合に出るテンだった。

「悪かったな。 八武衆が無様なとこ見せちまってよ」

「なに、気にするな。 少なくとも陛下は楽しんでいたぞ。 無論、拙僧もなかなか楽しめた」

 穏やかな空気を纏いながら、テンはヤシャに歩みだす。

「主は些か精神的にムラがあったが、この試合でその原因も多少取れただろう。 後はしっかり彼を見ながら己を見つめ直すといい」

 テンがすれ違い様に肩に手を置くと、ヤシャはバツの悪そうに舌打ちした。

「相変わらずあんたの言い方は説教くせぇんだよ、和尚様」

「すまんな。 職業病というやつだ」

 テンはニコリと笑うとそのまま舞台に上がった。

『さあ第一試合の興奮も冷めませんが、このまま第二試合と行きましょう! 第二試合、テン選手対スタング選手!』

 舞台中央で二人が向かい合う中、テンは精神を統一するように静かに合掌する。

 スタングも自国最高戦力の一人を前に怯むことなく鞭を構える。

『それでは第二試合、始め!』

 シンの合図と共にスタングは素早く鞭を振るいテンに打ち付ける。

「そらそらそら~!!」

 スタングは反撃の隙を与えまいと素早く鞭を浴びせ続ける。

『あ~っと! スタング選手まさに疾風怒濤! テン選手に鞭の嵐を浴びせまくる~!!』

 全方位から容赦なく振るわれる鞭を、テンは合掌したまま受け続けた。

「それ!」

 スタングは一気に勝負を仕掛けようと鞭をテンの体に巻き付けた。

「これで最後だ!」

 スタングは鞭を持つ手に力を込めると、そのままテンを持ち上げ思い切り投げ飛ばした。

 テンの巨体は宙に舞い、石で出来た舞台に物凄い勢いで叩き付けられた。

 轟音が響き土煙が舞い上がる中、スタングは終わったと思い気を緩める。

 だがそんな想いは土煙から現れた人影を見た瞬間消えた。

「ば、バカな!?」

 テンは鞭に絞めつけられた状態でまだ合掌しながら平然と立っていたのだ。

『なんとテン選手! あの猛攻を受けても全然効いていな~い! 彼の体は鋼か~!?』

 シンの実況に会場が沸く中、テンは試合開始当初と変わらぬ様子で静かに閉じていた目を開けた。

「若いながら流石にこの大会に出れただけはある。 だが、少々慢心が過ぎたな」

「ま、まだだ!!」

 スタングは逃がさないと鞭に力を込め締め付けを強める。

「喝っ!!」

 瞬間、テンが一喝し、巻き付いた鞭を弾き飛ばした。

「う、嘘だろ・・・」

 自慢の武器が弾けとんだ事に一瞬呆然としたスタングに、テンは一気に間合いを詰め合掌から手刀を突きだす。

 手刀を胸に受けたスタングは「かはっ!」と息を詰まらせ、そのまま会場の壁へと吹き飛ばされた。

 壁にめり込んだスタングは白目を剥いて完全に気を失い、テンはまた静かに合掌をし直した。

『決まった~!! テン選手の勝利です! これぞ、八武衆の実力だ~!!』

 圧倒的な力を見せ付けて勝利したテンに大きな歓声が上がる。

「随分強いのが勝ち上がっちゃったわね。 大丈夫黒騎士様?」

 次にテンと当たるノエルを心配そうに声をかけるレオナに、ノエルは兜の中で心配ないと笑いかける。

「大丈夫です。 どのみちいつか戦う事になってたでしょうし、早いか遅いかの問題ですよ」

「すっかり逞しくなっちゃって」

 レオナはいつもの明るい笑みを浮かべると、気合いを入れ直した様に舞台を見つめる。

「じゃあ、先生のあたしもいいとこ見せないとね」

 レオナは剣を握り締め舞台へと歩みだした。


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