入国
ラバトゥの国境近くの砂漠地帯。
強い日差しが照り付ける中、移動する一団があった。
「あぢぃ~・・・・・いつになったら着くんだよこれ?」
唸るような声を出すイトスに、リナは呆れたような顔をする。
「だらしねぇな~。 こんくらいエルモンドでも音をあげねぇぞ?」
「むしろ砂の熱さを知りたいとか言って飛び込みそうよね」
「否定できねぇのが悔しい・・・・・」
レオナの指摘に項垂れるイトスに、ノエルは苦笑する。
現在ノエル達はラバトゥに向かう為ラシータに先導されながら砂漠越えをしていた。
ファクラと水晶越しに会談の日時を決めたノエル達はラバトゥに向かう人選と、準備を行った。
今回ノエルの留守中に更なる人員確保と国の纏め役としてエルモンドが、戦力面から多くの人形を操れるクロードと森の魔獣を統括するためジャバが残ることになった。
メンバーは王であるノエル、五魔からはリナとレオナ、エルモンドの代わりのイトス、そして魔力探知の優れたノーラの5人だ。
メンバーが決まると事情を聞いたギエンフォードが装備一式と砂漠移動用の水コブラクダを用意してくれた。
今ノエル達は日除け用のローブに身を包み、コブに水を蓄えたミズコブラクダに乗って移動していた。
ノエルはコブから水を出し一口飲むと、ふぅと息をつく。
「でも本当に暑いですね。 砂漠がこんなに過酷だとは思いませんでした」
「おまけに夜は寒いし、よくこんな那珂で生きてられるよな」
ノエルとイトスの言葉にラシータはクスリと笑いながら説明する。
ラシータはエルモンドの予測通り、自身を庇ってくれたノエル達に対し好意的に対応してくれている。
「この砂漠こそ、ラバトゥの最初の城壁なのです。 この環境に適応擦ることが出来ない者は、国に入ることすら許されない。 まさに天然の城壁です」
「ああ、それは身に染みてわかってる」
「皆暑さでバタバタ倒れて大変だったわね~。 エルモンドがウンディーネやシルフィーで暑さを和らげてくれなかったらあの人数の行軍なんて無理だったわね」
リナとレオナはラバトゥに進軍した時の事を思い出す。
灼熱の昼と極寒の夜、更に水や食料の現地調達も出来ず、物資輸送の中継地点を造るのも普段よりも何倍も手間がかかった。
食料はまだジャバが周辺の魔物を狩ることで賄えたが、軍を維持するだけの水の確保は完全にエルモンドのウンディーネ頼りだった。
もしこの二人がいなければ、当時のアルビア軍のラバトゥ侵攻はより困難なものとなっていただろう。
「五魔だなんだ言われても、自然には敵わねぇってこったな」
「そこは同感。 武器出せても重力操っても、砂漠じゃ意味ないもの」
「かの五魔にそう仰って貰えるなら、貴方達を敵に回さない限り我が国はまだ安泰ですかね」
ラシータはそう言うと、前方へと視線を向ける。
「見えてきましたよ。 あれがラバトゥです」
ラシータが指指す方角にノエルとイトス、ノーラは思わず息を飲む。
そこにあったのは巨大な壁。
国全体を囲むと言われる巨大な城壁が、視界の端から端までずうっと伸びている。
それは近づくほどに大きくなり、石造り壁の前まで辿り着くと高くそびえ立つ壁を見上げた。
「すっげぇ、これ全部壁かよ」
「ただの石ではありませんね。 魔力が壁全体に満ちている様です」
ノーラは感心したように壁を見渡した。
「石細工はラバトゥの数少ない名産です。 石の加工技術に関しては、ドワーフにも負けていないと自負しています」
ラシータが説明する中、ノエルは壁に埋め込まれた幾つもの石像に目がいった。
細かい造形で造られた幾つもの兵士や魔物の石像は、まるで壁を護る様に外を見据えている。
「これって、もしかして動きますか?」
「流石ノエル陛下。 よくお気付きですね」
石像の秘密に気付いたノエルに少し驚きながら、ラシータは説明してくれた。
壁に埋め込まれた石像は石動兵。
ラバトゥの石の加工技術の結晶と言われる石動兵は、石像に仮初めの命を与え主の命を聞く石人形を造り出すものだ。
ラバトゥは強固な城壁に加え、この石動兵が国の各所に配備され、有事の際は死を恐れぬ強固な兵となる。
頑強な城壁と石動兵は、まさにラバトゥの鉄壁の守りの要といえる。
「これ、昔よりかなり頑丈になってねぇか?」
「それは貴方とジャバウォック殿のせいですよ。 ラバトゥの歴史上多少の破損はあっても、あんなに豪快に壊されたことはないそうですよ」
「あ~、あれは確かに圧巻だったわね」
当時魔帝がラバトゥに攻め行った時、城壁に苦戦する中、リナの重力波とジャバの豪腕で壁をぶち抜いたらしい。
城塞国家の異名を持つラバトゥにとって、城塞を粉砕されたことはかなりの屈辱だったらしく、二度と壊させないように徹底的に強化したそうだ。
「あんた、相当恨まれてるだろうからバレないようにしなさいよ」
「んなヘマしねぇよ」
レオナにからかい半分の忠告をされ、リナはムスッとしながら了承した。
「ここから右に行けば扉がありますから、そこから入国します。 慎重にお願いしますね」
「ええ、お願いしますねラシータさん」
急に柔らかな笑みを浮かべおしとやか口調へと変わったリナに少し驚いたラシータだったが、すぐに案内を再開した。
実際この国でノエルやリナ達の素性がバレるのは、ある意味セレノアよりもマズイ。
五魔や魔帝に恨みを持つ兵士も多い状況で万一バレれば、すぐ戦闘となるだろう。
最悪それがきっかけでラバトゥと対立することだってありうる。
リナもそこは理解しているからこそ、すぐにおしとやか状態になったのだろう。
そのままノエル達は国の入り口の大手門の前までやって来た。
城壁に見劣りしないほど頑強そうな鉄の巨大門にその左右には門番の様に立つ巨大石動兵。
門の前には他国からの入国者が入国審査を受ける列が出来ている。
その列にイトスはうんざりした様な顔をする。
「おい、まさかこれ並ぶのかよ?」
「いえ、私も一応国の命で動いているので、列とは別で入れます。 彼らは我が国の貿易相手です」
「よくこんな暑い中並ぶよな」
「そこは我々も対処しています。 まあ、来慣れている方は既に冷却魔法なりで暑さ対策はしていますが」
「んなのあんのかよ。 そういやノーラは使えんの?」
「あまり得意ではありませんね。 そもそも使えたらノエル様達に使っています」
そりゃそうだと納得するイトスの横で、レオナも呆れた様に入国者の列を眺める。
「それにしても随分多いわね。 ここそんなに貿易盛んだったっけ?」
「いえ、普段はこの半分位です。 丁度今は時期が・・・・」
ラシータが説明をしていると、一人の兵士が近付いてきた。
「ラシータ様、お待ちしておりました。 到着早々申し訳ありませんが、至急中へ」
「何かありましたか?」
兵士の様子に何かを感じたラシータに、兵士はどこか緊張した様に告げた。
「宰相、ファクラ様がお待ちです」
門を抜けてすぐにある特別な来客用に造られた建物の応接間。
国の威厳を示す様に部屋内には豪華な調度品で飾られ、椅子やテーブルも一目で一級品とわかるようなものだった。
その応接間に入ったノエル達を宰相ファクラは人当たりのいい笑みを浮かべながら出迎えた。
「ようこそ、ノエル殿。 そして皆様。 ラバトゥ宰相、ファクラ・カジャと申します。 以後お見知りおきを」
恭しく頭を下げるファクラは、一見ノエル達を丁寧に出迎えている様に見える。
だが、ノエル達はファクラがノエルを王と認めていない事を理解した。
その証拠に、仮にも王を名乗る人間に対しファクラは陛下ではなく、殿を使った。
王同士ならともかく、王の臣下に過ぎない者が他国の王を殿呼ばわりするのは、完全にその者を見下している事を意味する。
それを知らないはずのないファクラがノエルを殿呼ばわりしたということは、王と認めていない、または属国の王等の格下として認識しているということだ。
ファクラの真意を悟り、イトスとドーラは抑えてはいるが不快感を滲ませている。
ノエルもそれを理解しているが、柔らかい笑みを浮かべながらファクラに応える。
「お初に御目にかかります。 プラネの王、ノエル・アルビアと申します。 この度は急な申し出をお聞きいただきありがとうございます」
この時、ノエルは頭を下げなかった。
普段のノエルは、この手の席ではいつも軽く頭を下げる。
だが今回はしなかった。
ノエルはあくまで王としてここに来た。
王たる者、他国の者に軽々しく頭を下げるべきではない。
それは自分だけでなく、自国の民すら軽く見られる事になるからだ。
例え大国の宰相でもそれは変わらない。
それはノエルなりの自分は王であるというファクラへの返事だった。
そんなノエルの様子を観察するように見ると、ファクラは先程とは少し違う笑みを浮かべる。
「いえいえ、我々としてもかの魔帝殿の御子息と御会いできて光栄です。 さあ、どうぞお座りください」
ファクラは自ら椅子を引き、ノエルが座ると自身も向かいに座った。
その時、ノエルの頭にノーラの声が響く。
(ノエル様、部屋の周りに兵士が数十名、更に強い力を持つ者が3名感じられます)
完全な包囲網。
恐らくファクラはここで自分達を試し、場合によっては排除するつもりなのだろう。
力の強い者というのも、リナ達対策だろう。
リナ達の力を知るノーラが敢えて強いと形容したということは、本当に強い者達を用意したのだろう。
完全に試されている。
そう感じたノエルは、自分の心情を悟られないようファクラに向き合う。
「さて、まずは此方の非礼を詫びましょう。 ラシータを使って貴国を探ろうとした件、申し訳ありませんでした」
「いえ、此方としてはそちらとこうして話す機会が得られたのですから、それは構いません。 しかし、確か会談はアクナディン殿とお会いするはずですが?」
「そこに関してですが、私個人としては少々貴殿と陛下を会わせるべきか迷っていましてね」
「貴国は我が国での諜報活動の非を認め、此方の要求を飲んだ筈ですが、それを反故にするという事ですか?」
ファクラに対してイトスが切り込む。
普段の口の悪さを引っ込め、エルモンドの弟子として相応しい態度で他国の宰相と渡り合おうという気迫が滲む。
そんなイトスに対し、ファクラは変わらぬ様子で答える。
「いえ、陛下は会うつもりでいます。 あくまで私個人としては、ということです」
「その理由は?」
「失礼ながら、貴国は我が国に後ろ楯となる事を望まれているとのことですが、果たしてそれだけの価値があるのかどうか、疑問が残りましてね」
「価値というのは、どういうものですか?」
ノエルの問いに、ファクラは報告書と思われる羊皮紙を取り出した。
「ラシータの報告によると、人口は約2000人弱。 本来なら国と呼ぶには規模が小さすぎますが、傘下として加わっている荒くれ連合なる組織の人員、更に密約を交わしている拳王ギエンフォードの軍を加え、勢力としては一万近く。 更にエルフ、ドワーフ、鬼人等多種多様な亜人を有し、それぞれの専門分野でかなり高い技術力を持つとのこと。 それらを抜きにしても、五魔を要しているだけで本来なら価値は十分と判断出来ます」
「なら何が不満だ? 俺達が怖いか宰相さんよ?」
素の状態で挑発をするリナに、ファクラは小さく笑い否定する。
「いえいえ、我々としてはその五魔の勇名、貴女の言葉を借りれば怖さの恩恵を貴国を援助するだけで得られるなら、喜んで協力しますともディアブロ殿、そしてデスサイズ殿」
「あら、あたし達の容姿もしっかり報告してるのね。 ラシータさんって結構マメなのね」
「私の自慢の懐刀ですからね」
報告書を仕舞いながらレオナに答えると、ファクラの雰囲気が少し変わる。
「ただ、それらのメリットよりも私としてはアルビアを敵に回すデメリットの方が、少々気になりましてね」
先程より強いファクラの視線がノエルを射抜く。
「現在我が国はアルビアと友好的な関係を築いています。 食料援助などの恩恵も、我が国としては大きい。 おかげで食料事情も改善された部分もあります。 10年という歳月を掛けてね。 聞けば貴国はアルビアと対決するということですが、間違いはありませんか?」
「ええ。 プラネは現在アルビアと敵対関係にあります」
「そのプラネに協力するということは、10年掛けて築いたアルビアとの関係を捨てろということです。 それは我が国にとって多大な損失です。 だから貴国が、そのアルビアとの10年以上のものをこのラバトゥにもたらすという確信が私は欲しいのですよ」
ラバトゥはアルビアに負けたわけではない。
だが、和平の時に奪った土地の大半を返却せざる終えなかった。
作物の実りやすい豊かな土地。
漸く手に入れたその土地の大半と引き換えにラバトゥはアルビアと和解し、食料援助や自給率を上げるための技術援助を勝ち取った。
それをファクラを始めとしたラバトゥの文菅達の必死の思いにより、10年という月日を経て漸く実を結ぼうとしている。
しかし完全に完成させるにはアルビアの援助はまだ必要なのが現状だ。
ラバトゥの現状と、ファクラの強い想いを受け止めながら、ノエルは口を開く。
「そうですね。 現状ではアルビア並の大規模なものは僕達には無理ですね」
ノエルの解答にイトスやドーラは驚き、リナとレオナは黙って見守った。
「おや、随分正直ですね」
「ええ。 ですが食料の自給率を上げる方法なら、現段階でアルビア以上のものを約束出来ると思います」
ノエルの言葉にファクラの空気が変わる。
「随分と大きく出ましたね。 この砂漠の地で暮らす我らでさえ、アルビアの援助を受けながら漸く多少改善の目処が立ったと言うのに、一体どうやって上げると言うのですか?」
「ドリアードです」
「? なんですって?」
「先程の報告書は、ギエンフォード殿の事まで明記されいて、よく調べられていると思います。 ですが、取りこぼしている情報もあります」
「ほう、それはなんです?」
「1つはドリアード達です。 彼らはプラネにはいませんが、僕達はガマラヤのドリアード達と実質主従関係を築いています。 そしてドリアードは植物を自在に操る亜人です。 そんな彼らなら、砂漠で育つ様に作物を改良することも、それを早期に大量生産することも出来ます。 ドリアード達にラバトゥへ来てもらえば、アルビアの援助よりも早く自給率を上げる方法を確率出来ます。 そうなれば、ラバトゥはアルビアからの援助なしで自立出来る筈です」
ノエルの答えに、ファクラは少しガッカリしたように肩を竦める。
「何を言うかと思えば。 そんな事はとっくにアルビアにも打診しました。 ですがドリアードは植物の特性を色濃く持つ亜人です。 その為砂漠を越えに彼らの体は堪えることは出来ないのですよ。 ドリアードが直接土地に干渉して作物を改良してくれるなら確かに貴方の言は魅力的ですが、それが出来ない以上私はやはり貴殿の国にメリットは・・・・」
「そのドリアード達を短時間で移動させることが出来るとしたら?」
「なに?」
怪訝な顔をするファクラに、ノエルは1枚の紙を取り出した。
その紙を見てイトスは慌て出す。
「おい! 流石にそれを見せるのは・・・・」
「出し惜しみして何も得られなかったら意味なんてないよ」
イトスの制止を振り切ると、ノエルは紙を床に轢いた。
そしてエルモンドから渡された水晶を取り出すと、ドルジオスを写し出す。
『んお!? ノエル様どうしたんですかい!? 何かトラブルでも?』
「いえ、大丈夫です。 それより僕の鎧を此方に送ってもらえますか?」
『鎧? ああ、了解した! 調度点検も終わったとこだ! すぐに用意する!』
ドルジオスが返事をしてすぐ、ノエルの轢いた紙に変化が現れる。
発光したと思った瞬間、紙の上に漆黒の全身鎧が現れた。
その光景に、流石のファクラも驚きを隠せなかった。
「まさか、これは転送魔法か!?」
「そうです。 プラネ傘下の荒くれ連合の秘術です。 この術式を使えば、砂漠越えをしなくともドリアードの人員をラバトゥに送る事が出来ます。 無論、他の援助もスムーズに行うことも可能です」
「貴殿は正気ですか!? この様な秘術、他国に知らせていいレベルのものではありませんよ!?」
転送魔法は確かにファクラからすれば魅力的なものだった。
もしプラネと協力関係となり転送魔法を使えれば、ドリアードの件だけでなく砂漠で行き来が困難だった国との物流は一気に盛んになる。
それどころか、上手くすれば北等の遠方の国とも国交を結ぶことが出来るかもしれない。
一方で同時に軍事利用すれば大量の兵士を敵の主要都市に送り込む等絶大な威力を発揮する。
現にもしラバトゥの首都にこの魔法陣を持ち込まれ使われれば、ラバトゥ自慢の城壁も意味をなさず短時間で陥落するだろう。
更に言えば転送魔法はその術式の複雑さから使い手が既に絶えたとまで言われる程希少な魔法だ。
現にラバトゥでも記述はあるが使い手はいない。
その希少価値と有用性は、一国の切り札としても言っても過言ではない。
ノエルはそれを惜しげもなくファクラの前で披露し、それを提供すると言うのだ。
ファクラからすれば、狂気の沙汰と言ってもおかしくないほど信じられないことだった。
そんなファクラに対し、ノエルは何でもないように、だが瞳に強い意思を宿しながら言った。
「先程も言いましたが、出し惜しみして何も得られなければ意味はありません。 貴方が10年国の為に心血を注いだ様に、僕達には果たさなければならない目的がある。 それを果たす為に、ここで立ち止まるわけには行かないんです」
ノエルの言葉が終わると、ファクラは不覚にもノエルに圧倒されている自分に気付いた。
その強く、そして真っ直ぐな覚悟を感じてしまったからだ。
「ふ、くく、ははは、は~っはっはっはっはっ!」
瞬間、ファクラは小さく笑い、それは徐々に大きくなっていった。
「全く貴方という人はなんて人だ! そんなにまっすぐ来られては、色々気を張って策を巡らせていた私が滑稽ではないですか!?」
呆れ半分ながらどこか吹っ切れた様に笑うファクラに、リナは意地悪な笑みを浮かべる。
「これが俺達の王だ。 文句あっか?」
「文句などありませんよ。 しかしあまり比較しすぎるのも失礼ですが、貴方といいノルウェ陛下といいやることが規格外過ぎます。 これは貴方の腹心となる人は苦労しますよ」
ファクラはそう言って、先程ノエルを止めようとしたイトスに視線を向けた。
恐らく似たような立場のイトスの気持ちを察したのだろう。
それに対し、イトスも諦め混じりでため息を吐く。
「別に腹心になるつもりはねぇけど、まあ当分はやり過ぎねえよう見張ってるさ」
「多分無駄だろうけど」とイトスも素に戻り疲れた様に言った。
「僕、そんな変ですか?」
「自覚ねぇのかよ?」
「わ、私はノエル様のその柔軟さは素晴らしいと思いますよ」
イトスにツッコまれたノエルを、ノーラは慌ててフォローした。
「貴方は本当に・・・・いや、余計なことは言わないでおきましょう」
ファクラはそう言いながら先程よりくだけた雰囲気で自然な笑みを浮かべる。
恐らく、これが彼の素なのだろうとノエルは思った。
「それで、あたし達はどうなるの宰相さん?」
レオナに問われ、ファクラは思案する素振りを見せる。
「そうですね、先程のお話は魅力的ですが、私の一存では決められません」
「てめぇまだ・・・・」
「ですから、ここから先は首都ダルラにある宮殿でお話ししましょう。 我が主、ラディン・アクナディン陛下を交えて。 それでよろしいですか? ノエル陛下」
ノエルを陛下と呼んだファクラの表情には、王に対する敬意が滲んでいた。
それは、ファクラがノエルを王と認めた何よりの証だった。
「そうですね。 よろしくお願いしますファクラ殿」
「お任せを」
ファクラはノエルに対し、恭しく頭を下げた。
こうして、ノエル達は無事入国することが出来たのだった。




