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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
124/360

取り調べ


 集会所ではノエルと五魔、そしてラグザやキサラといった各部門の責任者が集まっていた。

 その中心には縛られたラシータが座らされている。

 あの後ラシータはすぐに捕まった。

 既にリナの変装も解け・・・・というより、リナに殴られた影響で変装が破れ、今はファクラと会っていた時の美女の顔の状態だった。

「ふひひ、いや~これは凄いね。 マク樹の樹液を加工して造った様だけどここまでリアルな質感を再現するとは。 しかも何重にも被れる様に工夫されていて実に興味深いよ」

「ああ、こいつは正直俺も驚いた。 樹液以外も使ってるみてぇだが、俺でも製法が想像できねぇ」

 知識欲を刺激されたエルモンドと職人として興味を持ったドルジオスがラシータから剥がれたリナの顔の断片に感嘆の声を上げた。

「つうか、今見えてる顔も変装なんだろ? いっそのこと全部ひっぺがしちまうか?」

 ラグザの発言に、ラシータは一気に慌てだす。

「お、お願い! それだけは止めて!」

 素顔を晒される事に本気で怯えるラシータを見て、ノエルはラグザを制した。

「今はそこまでする必要はありませんよ。 それよりもこの人の目的を聞く方が先決です」

「了解ノエル様」

 元からその気はなかったかの様にラグザはすぐ引き下がった。

 ホッとしながらも、ラシータは恐る恐る聞いた。

「あの、私が偽物だって、二人は気付いていたんですか?」

「ええ」

「まあね」

 今まで1度も見抜かれたことのない自分の最大の武器をあっさり見抜いたと答えるノエルとレオナに、ラシータはショックを受けたように固まった。

「うそ、いつ・・・・」

「いや、そんな落ち込まなくてもいいわよ。 最初あたしも本気で騙されそうになったし」

「じゃあなんで・・・・」

「リナはあの状況だったらまずあたしにケーキ作れってねだるのよ。 リナに最初にケーキ作ったのあたしだしね」

「僕は単純に久しぶりのケーキにすぐ飛び付かなかったから、あ、この人違うかなと」

「お前ら判断基準がケーキってどういうことだよ!?」

 怒るリナだったが、実際あの後残ったケーキを全て一人で平らげた事もありそれ以上文句は言わなかった。

「リナズルい! おれも食べたかった!」

「うるせぇ! こっちは久しぶりだったんだから多目に見ろ!」

「まあまあ二人とも、話が進まないから後でね」

 ぎゃあぎゃあ言い合うジャバとリナを宥めると、クロードは仕切り直しとラシータに向き直る。

「さて、じゃあ本題に戻るけど、ラシータさんでいいのかな? それともラシータ君?」

「お好きな方でどうぞ」

「じゃあラシータさん。 君はどこから来たのかな?」

 ラシータは少し迷うが、これだけの面子に囲まれてる以上自分が逃げ延びる事は不可能だと理解している。

 ならば抵抗は無駄と考え、落ち着きを取り戻しラシータは素直に答えた。

「ラバトゥ」

 ラバトゥの名に、その場が騒然となる。

 それもそうだ。

 かつてアルビアと正面から戦って生き延びた強国だ。

 特に実際戦ったリナ達五魔も、あまり表には出さないようにしているが、確実に纏う空気は変わっていた。

「よりにもよってラバトゥとは」

「これは由々しき事態ですね」

 レオノアとキサラが難しい表情を浮かべる中、クロードは質問を続けた。

「では、君の目的はなんだい? 誰の命でここまで来た?」

「誰かは言えません。 ですが、目的はそこの王様の事を調べることです」

「僕を?」

 ラシータは頷くと話を続けた。

「魔帝の息子が五魔を集めて王になった。 そこまで聞けば、各国その真意を確かめようとするのは当然。 ラバトゥもそこは同じ。 それで貴方が何のために王を名乗ったのか、我が国と敵対する意思があるのかを調査する為にやって来ました」

 王を名乗るノエルに対し、ラシータは一応礼をもって答える。

 自分の行動1つでノエル達がラバトゥの敵に成りうる可能性がある以上、下手な対応は取れない。

 少なくとも侵入がバレた時点で向こうからの印象は良くないだろう。

 ならば友好までいかなくとも、敵対は回避しなくてはというのが、ラシータの今の考えだった。

「それで、そちらから見て僕は、この国はどうですか?」

「その質問に答える前に、1つだけよろしいでしょうか?」

「なんですか?」

「ノエル陛下は、ラバトゥと敵対する意思は?」

「ありません。 ラバトゥもですが、他の国とも争うつもりはありません」

「では、セレノアに五魔を率いて攻めこんだというのは?」

「そんな風に伝わっていたんですか」

 予想よりも荒っぽい印象で伝わっていた事に苦笑しながらノエルは答えた。

「攻めこんだというより、あちらにアルビアの亜人が拐われたので取り返しに行っただけです。 最初はこっそりやる予定でしたが、つい大事になってしまって」

「では、こちらから手を出さなければ 貴国はラバトゥと争うことは?」

「それは絶対にありません。 僕に他国を侵略する意思はありません」

 きっぱり言い切るノエルに、ラシータは少しホッとする。

 後は自分がどう立ち回るべきかと考えていると、エルモンドがいつもの笑みを浮かべる。

「ふひひ、でもノエル陛下。 向こうは既に間者を送り込んできているからね~。 これは向こうから手を出してきたと言うべきじゃないかな?」

 その言葉に、ラシータの表情が一変した。

「お、お待ちください! ラバトゥに貴国と敵対する意思はありません! 今回の件に関しては・・・・・」

「まおまあ落ち着いて。 それにファクラ君にその気はなくても、あの武王がどう判断するかわからないからね~」

「な!?」

 自分の雇い主を見抜かれたラシータは明らかに動揺する。

 そんなラシータにエルモンドはニヤリと笑みを浮かべる。

「1つ僕の案を進言してもいいかなノエル陛下?」

「お願いします」

 ラシータの前ということもあり、臣下としてノエルに接するエルモンドは話始める。

「さて、僕達としてもラバトゥと事を構えたくはないけど、今回の件を見過ごす訳にもいかない。 これは明らかにラバトゥによるスパイ行為だからね。 そこで1つ提案なんだけど、ラシータ君だったかな? 君に、というより君の上司のファクラ君に頼みがあるんだけど」

「な、なんでしょうか?」

「極秘で構わないから、ノエル陛下とアクナディン陛下の会談をセッティングしてくれないかな?」

 エルモンドの提案にラシータだけでなく周囲もざわつき出す。

「陛下とノエル陛下の会談、ですか?」

「そうそう。 ウチは少数精鋭と言えば聞こえはいいけどまだ規模としては小さいからね~。 だから貴国に我が国の後ろ楯になってもらおうと思って。 あ、会談場所はラバトゥで構わないよ」

 軽く言うエルモンドに無茶苦茶だとラシータは思った。

 まだ国と呼ぶには小さ過ぎる新興国の王に大国であるラバトゥの王が直々に会談なんて普通ならあり得ない。

 いくら魔帝の子であってもあまりにも格が違いすぎる。

 しかも会談場所がラバトゥということは、ノエルをラバトゥに入国させるということ。

 いくら極秘とはいえあの魔帝の子をラバトゥに入れればどうなるか。

 万一その場で命を狙われても文句は言えない。

 特に実際五魔と戦った軍の者の中には五魔に対する恨みが強い者もいる。

 そんな中に仮にも自分の王を入れるなどエルモンドの提案は自殺行為以外のなにものでもない。

 それにファクラはある理由からアクナデインを交渉の場に立たせることを極度に嫌う。

 他国の使者やどうしても会わねばならない相手には、最低限の謁見のみで後の交渉等は全てファクラがやっているくらいだ。

 そんなファクラがそもそも王同士の会談等認める筈がない。

 そんな問題が山積みの提案に、ラシータはどうするべきか頭を悩ませる。

「こ、これは私の一存では決められません! せめて我が主ファクラと連絡を!」

「う~ん、でもそれでファクラ君が返事を伸ばして、その間に攻め込むってこともあり得るよね?」

 本来ならそれはあり得ない。

 ノエル達のプラネはアルビアの国内にある。

 そこに軍を進行させればそれはアルビアに進行するのも同じだ。

 つまりプラネを攻めた瞬間、ラバトゥはアルビアをも敵に回すということになる。

 負けるとは思えないが、漸くかつての大戦の傷も癒えてきた今、アルビアと再び大戦など起こしたくない。

 つまりこれはエルモンドのハッタリだ。

 だが追い詰められているラシータに、そこまで冷静に判断する思考能力はなかった。

 完全に焦るラシータは、何か手はないかと必死に考える。

「構いませんよ。 ラバトゥ側の意見を聞いてください」

 ノエルの一言に、ラシータはパッと顔をあげる。

「よ、よろしいのですか?」

「ええ。 流石に一人で判断するには事が大きすぎますし、するならちゃんと話し合いたいですからね」

「いいのかいノエル陛下? この子にラバトゥと連絡を取らせる事はかなり危険だよ?」

「だからと言って、此方が向こうの意向を無視して全て決めてしまえば、不要な禍根を生みます。 なら、ラシータさんに連絡を取らせる事を、我が国の誠意としてもらった方がいい。 後ろ楯を頼むなら、いい関係を築きたいですからね」

「でもね~」

「くどいぞエルモンド」

 渋るエルモンドにリナが割って入る。

「ノエルがそうするって言ってんだ。 なら従うのが俺達の役目だ。 そうだろ?」

 リナの発言に、周りも同意するよう頷いた。

 その様子にエルモンドはわざと残念そうに肩を竦める。

「仕方ないね~。 その代わり連絡は僕の水晶を通してやってもらうよ。 それで構わないかい?」

「ええ、お願いします」

「あ、ありがとうございます!」

 ラシータが頭を下げる中、エルモンドは気づかれない様に小さく笑みを浮かべる。






「エルモンド」

 ラシータへの尋問が終え皆が退出すると、クロードはエルモンドに声をかけた。

「悪役お疲れ様」

「なに、あのくらい構わないさ。 というか、あれくらいで悪役だなんて思わないよ」

 ふひひとエルモンドはイタズラっぽく笑った。

「とはいえ、これでラシータ君もノエル君の事を悪くは言わないだろう。 追い詰められた所に手を差し伸べられれば、誰だって悪い気はしないからね」

 あの時エルモンドはラシータをわざと精神的に追い詰めた。

 精神的にギリギリになった所をノエルに助けられる事で、ラシータのノエルに対する信頼度を上げさせたのだ。

 無論、ノエルにはこの事を伝えていない。

 ノエルなら打算でなく自然とラシータに救いの手を差し伸べるだろうとエルモンドは確信していたし、その方がラシータの心を打つからだ。

「全く、相変わらず君の知謀は恐ろしいよ」

「いやいや、そうでもないさ。 今回はリナが予想外の事をしてくれたしね」

 自分がノエルに反論した時、真っ先にノエルに賛同したのはリナだった。

 この手の話し合いではエルモンドに任せっきりだったリナが、自分に反論してノエルに賛同する。

 それはリナ自身の成長の証であり、五魔のリーダーがノエルに従った所を見せたことは、結果としてラシータにノエルの王としての力を見せる結果となった。

「本当、ノエル君はいい影響を与えてくれるね」

 エルモンドは嬉しそうにふひひと笑った。

 後日、ラシータの報告を受けたファクラは、水晶を通してノエルとの会談に応じるという返事が来た。


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