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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
新国開拓編
123/360

偵察者


 プラネの開拓は順調に進んでいた。

 海人(シーマン)が加わったことで単純に労働力が増えたのもあるが、居住区はほぼ完成し、中央にはノエルやリナ達の屋敷が建てられた。

 ノエルの意向で豪華な装飾はされなかったがそれでも王の住む屋敷としてプラネの中では最も立派な屋敷となった。

 その他ゴンザ達を招いた集会所も、簡易的だったものからしっかりとした物に作り替えられ、来客をもてなす為の迎賓館も建てられた。

 ドルジオス達も本格的な鍛冶場を完成させ、今はゴンザ達から送られてくる魔鉱石を使って武具や防具の製作をしている。

 キサラも薬学室を完成させ、この前掘り出した温泉の成分と周辺に生えている植物の研究をエルフ達と始めた。

 エルモンドの人集めの効果もあり人口も2000人に届こうとしている今、人知れずある人物がプラネに侵入を果たしていた。






 住民が集う食堂でレオナは包丁を振るっていた。

 伐採による開拓作業が一段落したことで、レオナは元食堂の女将だったことを活かし皆の食事を作っていた。

 慣れた手付きで手早く食材の下ごしらえをしていくレオナの視線に、リナが写った。

「あれ? あんた確かレオノアさん達と狩りに行ったんじゃないの?」

 レオナに呼び止められ、リナはレオナの方に向き直る。

「いやな、でかいの取ったんだけどよ。 解体するから後はいいって言われちまって」

「ああ、それで暇もて余してたのね。 確かにあんたに解体させたら周りが血の海になるわよね」

「んだとアホレオナ!?」

「なによバカリナ!」

 いつもの喧嘩を始める中、リナは内心ホッとする。

(よしよし、同じ五魔も騙せてるなら問題はありませんね)

 そう思いながら、リナに化けたラシータはほくそ笑んだ。

 ファクラに命じられたラシータはその日の内にラバトゥを発ち、アルビアへと入り、プラネの場所を探しだし、情報を集められるだけ集めた。

 実際集めた情報は予想以上に興味深かった。

 自分達にとって恐怖の象徴みたいな存在である五魔の正体、ラバトゥとも因縁深いギエンフォードとの繋がり、ガマラヤから加わった亜人達の能力等、まだ完璧ではないが有益な情報と言えるものばかりだった。

 そして集めた情報の結果、侵入する為に選んだ変装対象は魔王ディアブロことリナだった。

 普通侵入場所の大物に化けるのは危険だが、その人物が留守の間なら最も自由に動くことの出来る最良の変装対象だ。

 ラシータは一旦新参者の海人(シーマン)の一人として潜入し、更に情報を集めながらリナが離れる隙を狙い、こうしてリナの姿となって行動を開始した。

 狙いは魔帝の子ノエル。

 既にある程度の情報は手に入れ、ノエルの目的が復讐などの類いではない事はわかったが、本当の狙いがなんなのかはまだわかっていない。

 ならば直接接触して聞き出すのが手っ取り早い。

 その内容次第ではノエルの暗殺も視野に入れてあるが、ラシータ自身戦闘力は高くない。

 今回大切なのはノエルや五魔達について確かな情報を持ち帰ること。

 それにより対立か、もしくはアルビア以上に手を結ぶ価値があるのか見極める事こそラバトゥにとって必要なこと。

 それを理解しているラシータはレオナと言い合いを演じながらリナとして聞いた。

「そういやよ、ノエルどこいるか知らねぇか?」

「なによ急に? この時間なら屋敷にいるんじゃない?」

「アホレオナに付き合ってたら腹へった」

「あんたねぇ、仮にもあの子あたし達の王様なんだから」

「いいじゃねぇか、菓子の1つ2つくらい。 んじゃ、俺行くわ」

「あんまりノエル君に迷惑かけるんじゃないわよ」

「わかってるよ」

 ラシータのリナが去っていくのを見送ると、入れ替わりに追加の材料を取りに行っていたリム達が帰ってきた。

「只今戻りました。 リナ様帰ってきてたんですね」

「そうね、この後どうなるか楽しみね」

 どこか含みを持つレオナの言い方に、リムは首をかしげた。





 屋敷に入ったラシータはノエルを探すとすぐに見つかった。

 ノエルは屋敷に備え付けられた台所で何か作業をしている。

「あ、リナさん、お帰りなさい」

 実際間近で見ると恐怖の魔帝とは思えないような穏やかな笑顔で出迎えるノエルにラシータはリナとして振る舞う。

「おうノエル。 なにやってんだ?」

「ええ。 そろそろ皆仕事も一段落するだろうと思ってケーキを焼いてたんです」

 一国の王がケーキ作りと一瞬驚いたが、ノエルは元々王族として育てられていない事は調査済みだ。

 趣味も料理でディアブロの好物もケーキだということも知っている。

 ならばこのくらいは普通かと思い直し、リナとして反応する。

「お! 気が利くじゃねぇか! 早く食わせろよ!」

 話を引き出すなら茶の席は丁度いいと思いラシータは席に付いた。

「もう、しょうがないですね。 本当は皆揃ってからにしようと思ってたのに」

「たまにはいいじゃねぇかよ。 それより早く早く!」

「はいはい。 じゃあちょっと待っててくださいね」

 そう言いながら、ノエルはケーキを並べ始める。

 最初は単純に旨そうだと感じていたラシータだったが、次から次へと運ばれてくるケーキの量に徐々に顔がひきつっていく。

 種類の違うケーキが合計20個。

 しかも全てホールケーキ。

(いくらなんでも多すぎじゃ・・・・まあジャバウォックがいるからこのくらいは・・・・)

 ラシータは動揺を必死に抑えながらまだケーキを焼き続けるノエルの方を向く。

「き、今日は随分あるじゃねぇか」

「あ、そうなんですよ! ゴンザさんの所からケーキの材料いっぱい送ってもらったんです! ほら、作物もあまり嗜好品の方にはまだ回せないじゃないですか! だからゴンザさんがリナさんの為にわざわざ送ってくれたんですよ!」

 嬉しそうに語るノエルに対し、このケーキ全てが自分用だとわかったラシータは背中に嫌な汗をかく。

(無理無理無理! こんな量食べれる訳ない!)

 そんなラシータの思いを他所に、ノエルは新しいホールケーキを並べる。

「最近あまりケーキ作れなくて我慢させちゃいましたからね。 今日は思いきり食べてください」

 ノエルの笑顔がとても邪悪なものに見えるラシータは、正体がバレない様にケーキの山に挑みかかった。

 

 十数分後、ラシータは既に限界を迎えていた。

 ケーキ自体はとてつもなく旨かった。

 他国の貴族に化けて王族のご馳走を食べたことのあるラシータですら、ノエルのケーキは絶品と言える品だった。

 しかし、どうしても胃袋には限界がある。

 最初こそその美味しさに目を輝かせ食べ進んでいたが、ホールケーキを2つ食べただけで既にもういっぱいいっぱいだった。

 ラシータはこの時美味しい物はいくらでも入るという言葉が嘘だと心の底から思った。

「どうしたんですかリナさん? 今日のケーキ美味しくなかったですか?」

「い、いや、久しぶりのお前のケーキだからゆっくり味わって食おうかと・・・・」

 なんとか誤魔化そうとするラシータだが、ケーキはもう入らない。

 というか当分見るのも嫌だ。

 何か上手く切り抜ける策はないかとラシータは必死に思考を巡らせる。

 だが、そんなラシータの努力も水泡に帰す事になる。

「おいおい、随分面白いことになってるじゃねぇか」

 突然聞こえた背後からの声に、ラシータは恐る恐る振り返る。

 そこには笑みを浮かべながらも目は全く笑っていないリナが立っていた。

「ゴンザが材料送ってきたって聞いたから急いで帰ってくりゃ、なんでもう俺がケーキ食ってんだ?」

 両の拳を鳴らすリナに、ラシータの思考は完全に停止した。

「お、美味しくいただきました」

「そうか、じゃあこいつも食らっとけ!!」

 リナの怒りの拳がラシータの顔面にめり込み、そのまま暫くラシータは殴られ続けたのだった。


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