最初の訪問者
開拓を始めた頃、エルモンドはもう1つ行動を開始していた。
それは人集め。
千人を越える規模になったとはいえ聖帝と争うとなるとまだまだ足りない。
戦闘となれば戦える人員は更に絞られる。
だからこそ人を集め、規模を更に拡大する必要があった。
エルモンドは自身の精霊シルフィーに特殊な風を送らせた。
それはノエルに協力する可能性が高い者だけに届く特殊な風。
風を受けた者達には現在のノエル達の事が頭の中に伝わる様になっており、本当に協力する意思を示した者には拠点の場所が頭に浮かぶ様になっている。
尚、協力を拒んだり、偽りの意思を見せた者からは先に頭に浮かんだノエル達の情報は忘れる様になっている。
結果、ノエル達の元にやって来る者達が少しずつ集まってきていた。
最初に来たのは、ノエル達にとって見覚えのある顔だった。
「ノエルの旦那~!!」
「ゴンザさん!」
来客が来たと言われたノエルとリナ達が集会所として建てられた建物にやって来ると、それはかつて偽五魔を名乗っていたゴンザ達だった。
ゴンザはノエルの姿を見ると立ち上がり嬉しそうに近寄ってきた。
「いや~お久しぶりでさぁノエルの旦那! リナの姉さん達も相変わらず元気そうで!」
「てめぇは相変わらずむさ苦しいな」
「がはは! こいつばっかは治りやせんよ!」
悪態を付きながら、リナもゴンザ達との再会に悪い気はしなかった。
「おやおや君達が噂の偽五魔かい? なかなか面白い面子じゃないか」
「あら、あなたが本物のルシフェル? ちょっと好みとは違うけどいい男じゃない。 ナイスミドルって感じね」
「ふひひ、そんな評価されたのは初めてだね。 君もなかなか個性的で素敵だよ」
偽ルシフェルだったミラにエルモンドは興味深そうに笑みを浮かべる。
「で、あんたも来たのね」
「ご、ご無沙汰してます姉さん。 その節はどうも」
偽デスサイズだったピンスはかつてレオナにしたこともあり、萎縮したように小さくなっている。
その横でジャバは自分の偽者だったスカーマンドリルと楽しそうにじゃれ合い始めていた。
そんな中、クロードとリーティアは首を傾げていた。
「リーティア、彼?は知ってるかい?」
「いいえ、覚えがありません」
クロード達の視線の先には男と思われる可愛らしい童顔の人物に向けられていた。
童顔の人物は見つめられ顔を真っ赤にしていた。
「えっと、失礼だけど君は?」
「ゾンマッス! 偽バハムートしてたゾンマッス! ほら!」
ゾンマはどこから取り出したのか偽バハムート時代に被っていた蜥蜴の様な被り物を頭にスッポリと被った。
「ああ、君か。 へえ、素顔はそんな顔だったのか」
「とても可愛らしいですよ、ゾンマさん」
「そう言われるの嫌だったから素顔で来たくなかったんスよ~!!」
ゾンマは蜥蜴の被り物で隠れた顔を更に両手で覆い恥ずかしがる。
聞けば偽五魔の時も、素顔を見られるのがイヤでそれを隠せるバハムートを選んだのだという。
「素顔の方が可愛いのに、勿体無いわね」
「この面子で女みたいな顔じゃ完全に色物扱いじゃないッスか! それがいやなんスよ!」
確かにゾンマの顔はノエル程ではないが、格好によっては女の子に間違われてもおかしくなかった。
「ヤバイなノエル。 ライバル出現じゃねぇか」
「そんなライバルいりません」
ノエルをからかいケラケラ笑うリナは、最後にゴンザ達から一歩離れ壁に寄りかかる男に視線を向ける。
「で、てめぇはなんでここにいんだ?」
「相変わらずキツい物言いだなディアブロ」
不機嫌そうな顔をしながら、ベクレムは顔を背ける。
「ベクレムにゃあ今ウチの連中鍛えてもらってんだよ。 元が真面目だからよく働いてくれて助かってんだ」
「よくまあ自分達利用した男をまた使うな」
かつて偽五魔を利用しアルビアを乗っ取ろうと計画していたベクレムをまた仲間に迎えたゴンザに、リナは呆れ顔で言った。
「元々ウチははみ出しもんの荒くれ達の集まりだ。 細かいことは気にしねぇよ」
「器がでかいんだか馬鹿なんだか・・・・」
そう言いつつ、なんだかんだ素直にゴンザと共にいるベクレムの姿に、リナもニヤリと笑みを浮かべる。
「所でゴンザさん。 今日はどうしてここに?」
「おお! そうだったそうだった!」
ゴンザ達はノエルの前にドカッと座ると頭を下げた。
「ノエルの旦那! いやノエル陛下! 俺達荒くれ連合2500人! あんたの配下にしてほしい!」
「ちょっと待て! 2500 !?」
「ウチより大所帯じゃない」
「ふひひ、彼以外と大物かもね」
リナとレオナが驚き、エルモンドは面白そうに笑う中、ゴンザは自信満々に胸を張る。
「おおよ! あれからあの辺りの山賊やら荒くれ連中皆集めたんだ! 今じゃ村の警護やらなんやらに駆り出されるちょっとは名の知れた傭兵集団よ!」
「管理は基本ミラと私に任せっきりだろうが」
「本当よね。 少しはこっちの苦労もわかってほしいわ」
「わ、わぁってるって。 そこんとこは感謝してるって」
二人にツッこまれゴンザが苦笑いしながら謝る中、ベクレムは一歩前に出る。
「勿論兵だけではない。 此方の忠誠の証として私があの場所に目をつけた理由の1つであるこの鉱石と、私の秘術を差し出そう」
ベクレムは懐から魔法陣の描かれた紙を1枚取り出した。
そしてそこに手をかざすと、黒光りする鉱石と、透き通る黒い結晶が現れる。
それを見た瞬間、エルモンドは目を輝かせた。
「おお!! これは凄い! もしやこれは転送魔法かい!? この系統の魔術や魔法が使える者は既にいないと思っていたけど、まさかまだ使い手がいたなんて! しかもこれは魔鉱石じゃないか! なかなか魔力の純度も高い! おお! 魔結晶石まで!」
興奮するエルモンドの横でクロードは魔鉱石を取り上げ鑑定するように見つめる。
「これは凄い。 リーティアの鎧に使っている物とほぼ同質の純度と硬度だ。 あの村でこれを?」
「ああ。 元々あの周辺は質のいい魔鉱石が取れる鉱山地帯だ。 だが防衛力の乏しい村では遠方までそれを輸出出来ず活かしきれていなかった。 私の魔法陣を使えばここへも極秘裏に運ぶことは出来る。 もっと規模を大きくすれば、多少の人数を悟られず移動させることも出来る」
「ふひひ、転送魔法は応用性が高いからね。 これはとんだ掘り出し物だよ」
エルモンドが魔法陣の描かれた紙を見つめる中、ノエルはベクレムの方を向く。
「申し出はありがたいですが、あなたはいいんですかベクレムさん?」
「なにがだ?」
「いえ、1度は王となることを目指したあなたが僕の下に付くのにあっさりしすぎる気がしまして」
「念の為言っておくが、私の考えは変わっていない。 弱者は強者の糧となる。 それが摂理というものだ」
ベクレムの発言に周囲に張り詰めた空気が流れる。
だがそんな空気も次のベクレムの発言で消えさった。
「だが先の貴様との戦いでその強者が私でない事がよくわかった。 ならば私が認めた強者の糧となる。 それだけのことだ」
ベクレムの言葉に一瞬ポカンとするが、リナはプッと笑いだす。
「くっ、ははは! なんだよそれ!
結局てめぇもノエルの力になりてぇだけじゃねえか!」
「君達が受け取った風は本当に協力する気のない者には届かないからね。 君がここに来た時点で君がノエル君の為に来たのはわかっていたことだよ」
「要するに、素直に力になるって言えないから回りくどい言い方したってことね」
エルモンドとレオナに見透かされ、ベクレムは舌打ちをしながら顔を少し赤らめる。
「がはは! こいつは本当素直じゃねぇからな! でも気持ちは俺達と一緒! 道を正してくれたノエルの旦那の力になりてぇんだよ!」
そう言うとゴンザは改めてノエルに向き直る。
「つうわけだ! 俺達もあんたらと共に戦わせてもらうが、いいか!?」
ゴンザと共に頭を下げるベクレムに、ノエルは柔らかい笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。 ゴンザさん達の力、使わせてもらいます」
こうして、ゴンザ達荒くれ連合はノエル達の傘下に入ることになり、今後ゴンザ達はベクレムの作った魔法陣を使い行き来し、物資や人員の補助をすることが
正式に決定した。




