表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
116/360

アーサーの行動


 その日、アルビア城のアーサーの私室ではいつもの金色の鎧兜姿のアーサーが書類と格闘していた。

 アーサーが慣れた手付きで次々と書類を処理していると、扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

 アーサーが答えると、扉が静かに開いた。

「お仕事は順調、アーサー様?」

「! お帰りなさいませエミリア様」

 エミリアの姿を確認すると、アーサーは立ち上がり跪く。

「そんな畏まらないで大丈夫よ。 留守の間ありがとう、ニコライ」

「はっ。 エミリア様、いえ、聖王アーサー様」

 アーサー、いや、ニコライは立ち上がると兜を脱いだ。

 そこには中性的な顔立ちの男性の顔があった。

 彼はニコライ・フィアーズ。

 聖王アーサー直属部隊隊長にしてアーサーの副官。

 アーサーの正体を知る数少ない人物であり、エミリアが不在中はこうして影としてアーサーを演じ、職務を代行している。






 エミリアは傭兵としての着ていた鎧や服を脱ぐと部屋に付いている浴室で軽く湯に浸かる。

 浴室の外では自分の鎧姿に戻ったニコライがエミリアのアーサーの鎧を用意している。

 すると、大きな音で扉が開いた。

「おお! 戻ったか嬢ちゃん!」

 豪快に入ってくるラズゴートに、ニコライは慣れているのか淡々と言う。

「今アーサー様は入浴中です。 それと、あまり正体に関わる発言は大声で言わないでくださいラズゴート様」

「おおスマンスマン!」

「構いませんよ。 もう終わりましたから」

 浴室から着替えて出てきたエミリアはラズゴートに笑みを向ける。

「お久しぶりです、ラズゴート殿。 長い時間留守にして申し訳ありませんでした」

「なに、このくらい問題ないわ! お前さんの代理も優秀じゃしな」

「恐れ入ります」

 ニコライは頭を下げるとエミリアの鎧の着付けを手伝い始める。

「しかしまさかノエル殿下とセレノアまで行くとはな。 流石に驚いたぞ」

「その件に関しては私も想定外でしたけど、なかなか有意義な旅でした。 こちらにはどの程度伝わっています?」

「殿下達がセレノアで暴れて王になる宣言したってとこくらいか。 陛下は随分慌てておったな」

「そうですか。 ではその件も含め報告します。 陛下にどうしてもお伝えしなければならないこともありますし」

 そう言うと、エミリアは兜を被り、聖王アーサーの顔になった。

「そうそう。 ガマラヤでラズゴート殿の部下の方にも会いましたよ。 ノエル殿の扱いで頭を悩めていましたが、今回に限りノエル殿関連の隠蔽は不問ということにしておきます」

「そいつはありがたい。 あいつらわしに似て頭使うのは得意じゃないからの」

 ラズゴートの軽口にクスリと笑いながら、アーサーはフェルペスに会うため部屋を出た。






 謁見の間にはアーサーとラズゴート、残りの幹部であるギゼル、クリス、カイザル、そして軍師が既に集結していた。

 フェルペスはやって来ると、真っ先にアーサーに笑顔を向ける。

「おおアーサー。 よくぞ無事で帰った」

「はっ。 長らく留守にし、申し訳ありませんでした」

「良い良い。 そなたが無事ならばそれで良いのだ」

 フェルペスは少し娘を想う父親の顔を滲ませると、すぐ王の顔へと変えた。

「それでアーサー。 セレノアで何があった? 詳しく聞かせてくれ」

「はっ」

 アーサーはセレノアであったことを細かく説明した。

 セレノアの現状、ダグノラの真意、メリウスの変革、暴走したセレノア王サファイルとノエル率いる五魔との対決、そしてノエルがダグノラを制し正式に王となる宣言をしたこと。

「そうか。 やはり真実だったか」

 フェルペスは平静を装おうとしているが、明らかに動揺している。

 今まで不確かだった敵が明確な意思を持ち自分に向かってくるとわかったのだ。

 五魔の驚異をよく知るフェルペスが動揺するのも無理はなかった。

「ガマラヤの住民の中では、今回の件で恩を感じた者が何人かノエル殿に付いていくでしょう。 元々あそこは魔帝ノルウェ殿の影響が強い場所ですし」

「致し方ないか。 それで、何か策を立てたのか? 向こうが準備を整える前に全軍で攻撃するか?」

「お待ちください陛下。 その件に関しては既に手を打ってあります」

「おお、流石だ。 で、一体どの様な手を?」

「五魔の一人魔人ルシフェルに和解勧告を申し出ました」

 アーサーの発言に、その場にいた全員が騒然とした。

「和解だと? それは本当か?」

「ええ。 あちらの有利になる条件を提示し、ノエル殿と相談し半年後に答えを聞くことになっています」

「正気ですかなアーサー殿?」

 アーサーの行動に噛みついたのは軍師だった。

「奴等は我らアルビアの敵。 既に少数ながら聖五騎士団幹部であるラズゴート殿とギゼル殿をも退けた危険集団。 そんな者に半年も時間を与えるなど、聡明なアーサー殿が下した判断とは思えませぬな」

「お言葉ですが軍師殿。 彼等はアルビア自体を害する気はありません。 ならばむしろ此方に取り込む事こそ、被害を最小限にし最大の成果を得ると思いますが?」

「世迷い言を。 アルビアを害さずともフェルペス陛下を害する意思はあるのでしょう? ならば策を巡らせ早急に叩くのが吉。 向こうが王となる宣言をしたならば、どう考えても早期決着は必定。 それとも、短期間共に過ごし情でも移りましたかな?」

「冷静に五魔とノエル殿の力を見定めた結論です。 彼の者達の力は此方に引き込めばアルビアにとっても陛下にとっても大きい。 加えて、魔帝の子を取り込む事で未だ我らに反意を秘める者達の心も変えるでしょう」

「アーサー」

 1歩も退かぬ両者の問答を、フェルペスが静かに制す。

「そしてギゼル、ラズゴートに聞く。 二人から見たノエル殿はどの様な人物だ?」

 最初に答えたのはラズゴートだった。

「真っ直ぐなお方でございます。 その意思の強さはノルウェ陛下とよく似ております。 五魔を集め従えた事がその何よりの証拠かと」

「私はラズゴート殿ほど誉める気はないが、ある種の魅力はあるでしょうな。 その魅力に惹かれる者も多いでしょう。

 加えて、己を高めようとする向上心も高く、成果も出しております。

 彼を味方に付ければそれだけ我が国の益になるのは確実かと推察出来ます」

 ギゼルも答え、フェルペスの視線はアーサーに向く。

「アーサー、お前はどうだ?」

「あちらで魔人ルシフェルに同様の質問をされました。 その時と同じことを言わせてもらうと青臭い夢想家で頑固者。 ですが現実を知りつつ理想へと進む姿は確かに頼もしく、とても眩しく感じるでしょう。 何より、セレノアのダグノラ元帥も彼に魅せられていました」

 ダグノラの名が出てその場の皆が、特にダグノラとも対峙した事のあるラズゴートは驚愕の表情を浮かべる。

「実際私も彼にある種の力があるのは感じました。 だからこそ、多少無茶でも敵に回すのではなく率いれる事こそアルビアの為になると考えました。 何より、彼の性格上本心では血族同士で戦うことを良くは思っていないでしょう。 和解の可能性が見えれば、表面上はどうであれノエル殿は必ず模索するでしょう」

「万一、彼が戦いを選べばどうする?」

「その時は私自ら彼らを滅ぼす覚悟です」

 真っ直ぐ自身を見据えるアーサーを、フェルペスは静かに見つめ思案する。

「・・・・・いいだろう。 アーサーに全て任せる」

「陛下!」

「アーサーがここまで言うならその判断を信じよう。 それにノエル殿は私の従兄弟だ。 私も本心では亡き叔父の息子とまで争いたくはないからな」

 そこまで言うと、フェルペスは立ち上がりその場の皆を見下ろす。

「この件はアーサーに全て一任する。 それに伴い、アーサーが定めた期限内でノエル一向に余計な手出しをすることを禁ずる」

「感謝いたします、陛下」

 アーサーが頭を下げると、その場は解散となった。






 皆が去った後、アーサーの行動を非難していたはずの軍師は一人小さく笑みを浮かべる。

(いやはや、正直ノエル一行と接触したと聞いた時は焦りましたが、上手く事が運んでいるようですな。 自分に反感を持っている人間は実に御しやすい)

 軍師はアーサーが己を良く思っていない事を利用し、敢えて反論することでアーサーを焚き付け、フェルペスにアーサーの言を納得させたのだ。

 己が率先して賛成する手もあったが、その方がアーサーは自身の考えの正当性をより確固なものと認識する。

 そうなれば、先程話した期日内でノエル達と争うことは皆無となる。

(これで、ラミーア復活までノエル一行は無事でしょう。 彼らには無事ここまで辿り着いてもらわないといけませんからね)

 誰も知らぬ自身の思惑を胸に、軍師は表向きの仕事へと戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ