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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
113/360

聖王の提案


 エルモンドに聖王アーサーと呼ばれたエミリアは、動じずる様子もなく口を開く。

「やはり、バレていましたか」

 自身の正体がバレていたことを気にする事もなく、エミリアはあっさり認めた。

「おや、随分あっさりしてるね」

「貴方程の知恵者なら、バレていても仕方ないと覚悟はしていましたからね。 ですがもし、出来るなら後学の為に何故わかったか教えて頂けませんか?」

「ふひひ、いいねいいね。 そういう姿勢は僕好きだよ」

 完全に聖王アーサーとして話すエミリアに、エルモンドは上機嫌に解説を始める。

「君がアーサーかどうかは別として普通の傭兵じゃないってことはすぐわかったよ」

「ほお、それはなぜ?」

「理由は幾つかあるけど、まず目につくのはその髪や肌だ。 確かに城で仕事をする人間にしては荒れているけどまだ荒れ具合が弱い。 傭兵なんて湯を浴びる事なんて稀だし、しても水浴びが殆どだ。 いくら元貴族でも何年もそんな生活を送っていれば確実に肌も髪ももっと荒れてる」

「なるほど。 それは盲点でした」

「他にもあるよ。 君の着けてる剣や防具。 見た目は使い古されていていかにも傭兵が使ってる様に見えるけど、その性能は段違いだ。 特に剣は君の技に耐えられるようにかなりいい職人が造っているね。 多分これは僕じゃなくてもレオナやクロード辺りならわかるんじゃないかな」

「なかなか貴重な意見ですね。 流石は魔人ルシフェルと言った所ですか。 これからの参考にさせていただきます」

 素直に助言を聞くエミリアに、エルモンドは面白そうに笑みを浮かべる。

「本当に素直な子だ。 皆この手の指摘を受けると大抵怒るのに」

「自分の未熟な点を受け入れられない者に、大義は成せませんからね。 むしろその手の話はありがたいですよ」

「なるほど。 僕としてもなかなか興味深いね」

「お褒めに与り光栄です。 それで、いつ私がアーサーだと?」

「簡単だよ。 あの黒曜隊のケンタウロス君に放った技。 あんな剣技、どんなに腕が良くても一傭兵が出来る訳がない。 出来たなら君がとっくに聖五騎士団にスカウトされてるはずだしね。 残る可能性はリナ達みたいに特殊な力を持つ者か、僕達がまだ会っていない聖五騎士団幹部である君しかいないというわけさ」

「随分言い切りますね」

「ああ。 だってあれだけの剣技を“実力の半分”も出さずにやってのけるんだからね。 それくらいの実力者じゃないと説明が付かないよ」

 エルモンドの解説に、エミリアは小さく笑う。

「本当に貴方は素晴らしい。 そこまで見抜くその慧眼、尊敬に値しますよ」

「な~に、あの剣技に関してはリナ達も何か勘づいていると思うよ。 あれ、わざと見せたんじゃないかい?」

「買いかぶり過ぎですよ。 ただ、五魔やノエル殿の力を間近で見て、少々私も抑えが効かなくなっただけです」

「それはそれで怖いけどね」

「それでどうします? 今からリナ殿達を連れて私を討ちますか?」

「ふひひ、意地悪だね~。 そんな気がこっちにないことくらいわかっているくせに」

「バレましたか」

「それよりこっちも知りたいな~。 なんで君が傭兵としてガマラヤにいたのか」

「いえ、ギエンフォード殿の所に立ち寄った後部下からガマラヤの異変を聞きましてね。 あそこはノルウェ殿が遺した重要な場所でしたから、私自ら身分を隠して赴いたんですよ。 まさか貴方達に遭遇したりセレノアまで行く羽目になるとは思いませんでしたよ」

「なるほど。 その様子だとその変装も何度かしてるね」

「ええ。 城にいるだけでは民の事はわかりませんからね。 最初はラズゴート殿に案内を頼み、徐々に自分一人で出歩く様になりました」

「ラズゴート君らしいね。 で、どうだった? わざわざ近くで観察したノエル君は?」

 エルモンドの質問に、エミリアの空気が少し変わる。

「・・・・・青臭い理想を求め、自分の意思をなかなか曲げない頑固者。 しかも現実を知らず青臭い理想を語る夢想家ならまだマシですが、現実を理解した上で尚その理想を貫こうとするのだから余計質が悪い」

「おやおや、手厳しいね~」

「ですが、その青臭い理想を真っ直ぐ見据え、叶えようとする姿はなかなか魅力的でもあります。 だからこそ、貴方方五魔を動かし、ラズゴート殿やギゼル殿を退け、ついにはあのダグノラ殿にさえ認めさせた。 その力は認めなくてはなりませんね」

「ふひひ、君もなかなか厄介だね」

「貴方程ではありませんよ。 あの王の宣言は貴方の入れ知恵ですか?」

「いや。 確かに僕はサファイル君の行動やその後の展開はある程度読んでいた。 だけど、ノエル君のあれは完全に予想外だったよ。 結果、彼は最も絶妙なタイミングで己の道を宣言したんだ。 いやはや、僕も彼には驚かされるよ」

 本当に楽しそうに語るエルモンドに、エミリアは少し思案を巡らせる。

「1つ、提案があるのですが」

「お、なんだい?」

 エルモンドは興味深そうにエミリアを見つめた。

「ノエル殿と我々の和解です」

 エミリアの提案にエルモンドは表情を変える。

「和解かい? 具体的にはどうするんだい?」

「文字通り和解です。 ノエル殿の力は我々も認めますし、その下の五魔の力も、この目で見て改めてその大きさを実感しました。 そして恐らく、彼の勢力は確実に大きくなる。 そうなれば、我々との全面対決は必至です。 ならば和解し、この国の為に共に力を尽くす良きパートナーとなるのです」

「なかなか面白いね。 それで?」

「勿論、今日まで我々との衝突は全て不問とします。 そして正式にノエル殿と五魔を認める声明を出し、貴方方が隠れ住む様なことを無くしましょう。 それと望むならアルビアの一部の自治も認めましょう。 国の王ではありませんが、魔帝の子として相応しい領土を用意し、そこで国がより良くなる為に働いてほしいのです。 勿論、陛下の説得は私が必ず成し遂げてみせましょう」

 エミリアの提案は常識的に考えればあり得ないものだった。

 今まで国の敵として行動し、自分達の幹部クラスですら退けてきた相手を正式に認めて、今までの行動も不問、領土すら与えるというのだ。

 しかも此方に賠償等は一切求めていない。

 ハッキリ言って破格の待遇と言えるだろう。

 だが逆に言えば、驚異となる存在を手早く処理し、かつ自身の勢力を増強する最も効率のいい方法でもある。

 余りにも大胆なエミリアに提案に、エルモンドは少し間を置くと、少しずつ笑い始める。

「ふ、ふひひ、ふひゃひゃひゃひゃ!! 面白い! 実に面白いよエミリア君! ノエル君も大概だけど、君もなかなか常識はずれで面白い!」

「それだけの価値があるということですよ。 無論、口約束で済ます事も決してしません。 そちらが条件を呑んでくれるなら聖王アーサーの名に賭け、今話したことを実現することを宣言しましょう。 今の話、ノエル殿に伝えて頂けますか?」

「勿論伝えるけど、でも彼の答えなら

、もう予想は付いているんじゃないかな? そして僕達も彼と同意見だということも」

「それでも、検討してもらうしかありませんね。 そして駄目なら、こちらも最後の手段に出るまでです」

 表情を崩さずさりげなく脅すエミリアに、エルモンドも変わらぬ笑みを浮かべたまま答える。

「そうだね。 君とはなかなか面白い話が出来たから、1つ僕からノエル君が確実に君の提案を呑む追加条件を1つ教えよう」

「ほぉ、それはなんですか?」

「ラミーア復活の中止だよ」

 ラミーアの名が出た瞬間、エミリアの顔つきが変わった。

「ノエル君が君達と敵対するのはラミーアが復活し、父親の築いた平和が壊されることだ。 なら、その根本的な原因を排除すれば、領地を渡さなくても彼は引き下がるだろうね」

「なるほど、確かに道理ですね。 ですが、こちらもそれだけは譲れない」

 エミリアの返答に、エルモンドは少し残念そうな顔をする。

「やはりか。 そこまで拘る理由はなんだい?」

「貴方ならわかるでしょう? ラミーアを手にすることで得られる磐石なこの国の安寧がどれ程のものか」

「ああ。 だがそれは制御できればの話だ。 君らにその制御法を教えた人間が正しい方法を教えたとは限らない。 いや、そもそも制御出来るかすらわからないんだよ? 下手をすれば話はアルビアだけじゃない。 世界がラミーアに喰い尽くされる危険も十分あるんだ。 それがわからない君じゃないだろう?」

 いつの間にか笑みを消し話すエルモンドに、エミリアは静かに答える。 

「魔力の減退」

 瞬間、エルモンドの表情が変わる。

「やはり気付いていましたか。 世界から魔力が減ってきていることを」

「なるほど、だからラミーアを」

「その通りです。 今この世界から魔力が徐々に失われてきています。 その影響はまだ我々の生活には現れていませんが、観測の結果、確実に減ってきている。 魔力とは本来自然に産み出されるものですが、恐らくこのままいけば何世代か後に確実に魔力は無くなります。 そうなればどうなるか、貴方ならわかるでしょう?」

 現在この世界の魔力による恩恵は大きい。

 もし魔力が無くなれば、確実に弊害が出る。

 その最も大きな打撃を受けるのは医療だろう。

 病気や怪我の治療の大部分は薬草を使ったもの以外医療魔法を使って処置している。

 もし医療魔法が使えなくなれば、今まで治っていた病気や怪我が治らなくなる。

 そうなれば確実に多くの命が消える。

「ラミーアを制御し魔力生産のエネルギー炉にすれば、私達は魔力の恩恵を失わずに済む。 そしてアルビアはラミーアを所持する国として、世界的に大きな影響力を持つことが出来る。 そうなれば、アルビアだけでなく、世界の安寧をも手に入れる事が出来るかもしれないのです」

「いやはや、本当に君達にその事を教えた者は厄介なことをしてくれたね」 

「本音を言えば、私もその人物を完全に信用した訳ではありません。 ですが、事実その現象は起こっている。 ならば手を打たざるおえません」

 そこまで話すと、エミリアはエルモンドに背を向ける。

「半年待ちましょう。 その間に答えを出しておいてください」

「なるほど、その辺りにラミーア復活の手順が整うと。 いや、もっと早いかな?」

 エルモンドの指摘にエミリアは小さく笑みを浮かべ、夜の闇に消えていった。

「やっぱりダメだったみたいだね」

 エミリアが消えると、クロードが物陰から現れる。

「ふひひ、まあ予想通りと言うところか。 悪いね、わざわざ隠れて護衛頼んだのに成果はなくて」

「なに、情報を引き出すことも出来たし、無駄ではなかったさ。 しかし魔力減退か。 私も他人事とは言えないな」

「君のリーティア達にとっては生命線だからね。 向こうに鞍替えするかい?」

「まさか。 さっきの話ぶりだと何世代か先なんだろう? なら別の手段を考える時間はまだある」

「そうなんだよね。 だが彼女は・・・・いや、どちらかと言うと聖帝の方か。 彼は完全に焦っているね。 エミリア君は父親の願いを叶えようと必死なんだろう」

「親孝行娘だね。 しかし、まさか聖帝に娘がいたとはね」

「僕は知ってたよ。 まさか性別を偽って聖王なんてものになってるとは思わなかったけど」 

「アルビアの為、父親の為か。 誰かさんの台詞とそっくりだ」

「なら、その誰かさんに報告に行こうかね。 僕達の王に」

 エルモンドとクロードはガマラヤへと帰っていった。


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