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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
112/360

帰還


 アルゼンからセレノアの残りの亜人を受け取り更に数日、ノエル達は漸くガマラヤのすぐ近くまで帰ってきた。

 一行はラクシャダから降り、そのままガマラヤへ向かう準備を始めていた。

 故郷が目前に迫りガマラヤ出身の亜人達からは自然と笑顔が戻り、ガマラヤ以外の亜人達ももうすぐ自分達の故郷を目指せると表情も明るい。

 彼女もそんな心を弾ませている一人だった。

「あ~、漸く帰れるのね」

「おい、本当に大丈夫かサクヤ?」

「平気平気。 ラグザが心配してずっとベッドに押し込めてるから、体鈍っちゃった」

 そう言いながらラクシャダから出たサクヤは大きく伸びをする。

 かつて単純な受け答えしか出来ないほど自我を抑え込まれていたサクヤだが、今は生来の明るい表情に戻り元気な姿を見せていた。

 ラグザはそんなサクヤを心配しながらも、自分の知っているサクヤが戻りその表情は明るい。

 勿論、まだ全員がサクヤの様に普通に戻った訳ではない。

「すっかり回復なされたようですね」

「ノーラ、ルトス」

 体を伸ばすサクヤの元にノーラとルトスがゆっくり歩いてくる。

 サクヤとラグザはそんな二人に自ら歩み寄る。

「お陰様で私はすっかりね。 ルトスも今日は顔色いいじゃない」

「う、うん。 皆嬉しそうだし、僕もなんだか嬉しい」

 少しおどおどしながら、ルトスは目元を隠した仮面越しに不器用に笑った。

 エルモンドの解毒とイトスの治療を駆使しても、完全に元の状態に戻りきらない者もいる。

 ドルイドの青年ルトスがそうだ。

 彼は拷問により体の損傷が他よりも特に激しく、現在イトスの調整した補助器具を足に付けて、その上で杖を突いて漸く歩いている。

 何より薬の効果が消えたことにより恐怖が振り返し、未だに夜中に悪夢で飛び起きる様な有り様だった。

 だがそんなルトスでさえ、セレノアから離れこうしてガマラヤの近くに来たことでその表情からは安堵が見える。

「ガマラヤに着いたら、一族の皆に紹介しますね。 あなたならきっとすぐ馴染めますよ」

「うん。 あ、ありがとう、ノーラさん」

 皆がガマラヤに戻る話をする中、ラグザは周りに気付かれず複雑な表情をしていた。






 準備が出来た一行はラクシャダを出発した。

 先頭をノエル達が歩き、最後尾では元の大きさに戻ったジャバを始めとした体の大きな亜人がまだ体が治りきっていない者達を運んでいる。

「しかし、よくこれだけ連れ帰ったよな」

「本当ですね。 無事に辿り着けそうですね」

 先頭を歩きながらノエルとリナは後ろに続く亜人達を見た。

 当初の目的だったガマラヤの亜人約100人に加え、アルビア各地の拐われた亜人達総勢約400人。

 これだけの人数を欠けることなく連れ帰れたのは、ある意味奇跡に近い。

「ふひひ、まあこれで後はギエンフォード君に連絡すれば残りの子達も皆元の故郷に帰れる」

「つまり、大成功ってことですね師匠」

「そうだね。 そう言えるだけの成果はあると思うよイトス」

「正直ダグノラとノエル君が戦った時は肝が冷えたけどね~。 特にリナが心配そうに・・・」

「てめ!? いらねぇこと言うんじゃねぇ!」

「え~、別にいいじゃない。 ね~、イトス君」

「そりゃそうだ。 今更んなことでいちいち照れるなんて年の割にはガキくせぇな」

「誰が照れてるだこら!?」

 顔を真っ赤にするリナとそれをからかうレオナとイトスのやり取りを見ながら、ノエルは無事に帰れて本当によかったと心から思った。

「もうすぐガマラヤの入り口ですよ、ノエル様」

「ええ、リーティアさん。 漸くです・・・・!?」

 ガマラヤの入り口が目の前という所まで来たノエルの目に、見覚えのある姿が飛び込んでくる。

 しかもそれは猛スピードで此方に向かってくる。

「てめぇらあああああ!!」

「あ、あれって、ラズゴートさんの所の!」

 此方に血相を変えて走ってくるのは、かつてノエルと戦った獣王親衛隊のリーダー格、狼の獣人ヴォルフだった。

「なんで彼がここに?」

「さあ? でも、ただじゃ済みそうにないわね」

 レオナの言葉にノエル達は身構える。

 そしてヴォルフはノエル達の目前までやって来ると、突然地面に頭を付けた。

「すまねぇ! 恩に着る!!」

「「「・・・・え?」」」

 ヴォルフの突然の行動にノエル達は呆然とする。

 すると、ヴォルフの走ってきた方から数人の人影が走ってきた。

「もうヴォルフ! なにやってんのよ!?」

「小生達を置いていくなど、言語道断ですよ!」

「じ、自分は走るのが苦手だ」

 ヴォルフと同じ獣王親衛隊であるハンナ、ラドラー、ライノの3人まで登場し、ノエル達は困惑する。

 そしてハンナ達もノエル達に気付くとその表情は驚きに染まる。

「え、ウソ!? ノエル様!?」

「もう戻られていたのですか!?」

「おいおい、こりゃどういうこった? まさかラズゴートのおっさんまでいねぇよな?」

 リナは辺りを警戒するが、それらしい気配はなく困ったように頭をかく。

 そんな中ライノが一歩前に歩み出る。

「心配せずとも、今回自分達は貴公らと争う意思はない」

「ふひひ、なるほどそういうことか」

「自分ばっか納得してねぇで、説明しろっての!」

 全てを理解した様に笑うエルモンドに、リナは少しイラつきながら説明を求める。

「ようするに、彼らはギエンフォード君の報告を聞いたラズゴート君が、僕達のいない間に寄越したガマラヤの護衛ってことだろ」

「仰る通りです、エルモンドさん」

「おや、ハンナかい。 久しぶりだね。 仮面越しでも綺麗になったのがわかるよ」

「いや、そんな・・・・て、いつまでそうやってんのよ?」

「うるせぇ! これは俺のケジメだ!」

 ハンナに言われ、ヴォルフは頭を上ゲ反論する。

「ケジメ云々の前にちゃんとノエル様達に説明しなさいよ! いきなり頭下げられたら向こうも意味がわからないでしょ!?」

「ぐ、いや、それは・・・・」

「全く、仮にも小生達のリーダーなのだからそこはしっかりしてもらわないと」

「貴公もそのすぐに熱くなる癖が抜ければいいのだが」

「だぁ~! わかった! 俺が悪かったよ!」

 皆に散々言われヴォルフは半分膨れながらもノエル達に向き直る。

「とりあえず歩きながら話す。 早く連中を村に帰さねぇといけねぇしな」

「わかりました」

「ラドラー。 お前はガマラヤにノエル様達帰還の報告をしとけ」

「承知」

 ラドラーが飛び立つのを見送ると、ノエル達はヴォルフ達とガマラヤへ向かうことにした。

 道中ヴォルフ達の説明によると、エルモンドの予測通りガマラヤと連絡が取れたギエンフォードが中央に現状を報告。

 無論、ノエル達の事は伏せてだ。

 最初はギエンフォードの部下達を警護に追加派遣する予定だったが、ヴォルフ達がラズゴートに自分達が行くと進言し、彼等が派遣されてきたというわけだ。

「ここは俺達にとってもう1つの故郷みたいな場所だからな。 顔見知りも大勢いる。 だからあんたらが皆を助けてくれて、本当に感謝してんだよ」

 裏表のない素直なヴォルフの感謝に、ノエルは柔らかい笑みを浮かべる。

「いえ、僕達はただ自分の出来る事をしただけですし。 向こうでも助けてくれる人がいたからこうして早く彼らを連れ帰れたんです」

「謙遜すんなって。 それに仮にもあんたは俺を退いたんだ。 もうちょっと胸張れよ」

「はい、ありがとうございます」

「でもよ、お前ら俺達の事捕まえなくていいのか? 別に仲間になった訳じゃねえぞ?」

 意地悪そうに言うリナに、ヴォルフは開き直った様に言い切る。

「さっきライノが言ってた様に今回はあんたら捕まえるのが任務じゃねぇ。 だからあんたらは亜人救出の為に協力した傭兵とでも思っておく!」

「あら、随分柔軟になったじゃない」

「ノエル様と戦ってから少しヴォルフも変わったんです。 今回だって父様の命もないのに自分から進言して・・・・」

「ハンナてめぇ! 余計なこと言うんじゃねぇ!」

 レオナに説明するハンナに照れ隠しで噛みつくヴォルフが、ノエルとリナには可笑しかった。

 後ろでは後方の集団に事情を説明しに言ったライノを見て「ライノ~!」と喜ぶジャバの声が聞こえる。

 かつて戦いこれからも戦うかもしれない相手だが、こうして共に笑える今の状況が、ノエルには嬉しかった。

 やがてガマラヤが見えると、歓声が上がった。

 ラドラーの知らせを受け、キサラ達各種族の族長を先頭にガマラヤの住民達が総出で出迎えてくれた。

 帰還した同胞達の中に家族や友人を見つけた者達は駆け出し、その者達に抱き付き涙を流し無事だったことを喜んだ。

 拐われた者達も無事に帰れたことを喜び、それを噛み締める。

 中にはもう帰れないと思っていた故郷に帰れて泣き崩れる者までいる。

 皆それぞれ心の底から再会を喜んでいた。

「ノエル様」

 そんな中、キサラを先頭にドルジオスやレオノア達族長達がノエル前に歩み寄ると、深々と頭を下げる。

「ノエル様、五魔の皆様。 この度は本当に、本当にありがとうございました。 皆を代表し、心から感謝を述べさせていただきます」

「いえ、僕はそんな・・・」

「だから堂々としろって。 さっきもヴォルフに言われただろ」

 背中をリナにバシンと叩かれ、ノエルはキサラ達の礼を受けた。

 そしてキサラはエミリアやラグザ達の方へ向き直る。

「エミリア殿も本当にありがとうございました。 そしてラグザ殿とノーラも、無事の帰還、嬉しく思います」

「私は雇われた分の仕事をこなしただけよ。 それが今回は規模が大きくなっただけ」

「俺も自分の我が儘で付いてっただけだ。 俺こそいない間一族の連中の世話、感謝する」

 二人がそれぞれ話すと、ドルイドの長であるマグノラは自分の娘の頭を優しく撫でた。

「良くやったね、ノーラ」

「はい、父上」

 父親の暖かい手に、ノーラも笑みをこぼす。

「よっしゃ! 今夜は宴だ! 町中の酒と食い物出して大騒ぎだ!」

「おお~! 早速準備だ!!」

 ドルジオスとジャックの大声の宣言に周りから歓声が上がった。






 その夜、ガマラヤは宴の声に包まれた。

 拐われた町の者達は親しい者達と盛り上がり、ガマラヤ以外の拐われた者達もギエンフォードの部下達の保護下に入り、漸く安心して宴を楽しんだ。

 ノーラに紹介されたルトスはドルイドの一族に暖かく受け入れられ、ラグザと共に帰還したサクヤも鬼人(オーガ)の仲間と再会を喜んだ。

 キサラは仲間のエルフ達と再会を祝し歌を披露し、ドルジオスやレオノアは酒の飲み比べを始め、ジャバはご馳走を食べながらライノや大きさの近いジャック達トロールと楽しそうに語り合う。

 ノエルやレオナはリム達と共に料理を作り、それにハンナも加わり得意の肉料理を皆に振る舞う。

 ヴォルフやラドラーはリナに捕まり好きな甘い者を取りに行かされ、ゴブラドに労られていた。

 イトスはクロードとリーティアが見せる人形劇を亜人の子供達も夢中になって見ている。

 皆それぞれ心から宴を楽しんでいた。

 そんな中、リナはヴォルフ達に取りに行かせたケーキを片手に町の物陰に入っていく。

「おい、てめぇは参加しねぇのか?」

 誰もいない暗がりに語りかけると「フェっフェっフェっ」と聞き覚えのある笑い声と、カメレオンの素顔を露にした老人メロウが姿を現す。

「遠慮しとくわい。 わしは騒がしいのが苦手でな」

「隠れて連中の様子見に来るなんざ、てめぇも随分過保護になったなじじい」

「フェっフェっ、わしから見たらまだまだヒヨッコじゃからな。 現にお前さんに使い走りにされて伸びとるじゃないか」

「ちげぇねぇ」

 ふっとリナが笑うと、メロウは何かを思い出す。

「そういえばあの小僧はどうした? とうとう逃げよったか?」

「いや、てめぇがいらねぇことしたせいで親父と特訓中だ」

 それを聞き、メロウは少し意外そうな顔をするが、すぐニヤリと笑いだす。

「フェっフェっフェっ、そうかそうか。 あの青二才もとうとう親父に泣き付く位の事はしたか。 あのポンコツも少しはマシになるだろうて」

「あんま俺の舎弟舐めんなよ」

 以前ライルがメロウのせいで色々思い詰めたのもあり、リナは殺気混じりで睨む。

 メロウはそんなリナを気にせず煙管をふかす。

「そう怒るな。 こちらとてあの小僧のせいで目論見が台無しにされたんじゃ。 痛み分けっちゅうことにしといれくれ」

「本当はこの場でぶちのめしても構わねぇんだが、それじゃあいつの立場がねぇからな。 今は見逃してやるよ」

「フェっフェっ、そりゃありがたい。 魔王相手にするのは流石にこの老骨じゃ荷が重いからの」

「よく言うぜ。 昔は伝説の暗殺者(アサシン)の名をほしいままにしてた怪物のくせに」

「昔の事じゃ。 それに、あの名はもう好かん」

 メロウはそう言うと煙管の煙を宙にふぅっと吐き出した。

「さて、じゃあ魔王様の逆鱗に触れる前にワシは退散するかね」

「そう言って俺達の事チクるんじゃねぇだろうな?」

「そしたら見逃したあやつらの立場が悪くなる。 そんなことはせんよ」

「ふん。 どうだか」

 言葉とは裏腹にリナは別に気にしていないという風に持っていたケーキを口に運んだ。

「ああ、そうそう。 魔王様の機嫌取りって訳じゃないが、1つ忠告しておこう」

「? なんだ?」

「お前さんらの大将がセレノアで王を目指すと言ったこと、もう伝わっとるぞ」

 メロウの言葉にリナの目付きが変わった。

「なんだよ。 もう聞いてんのかよ」

「ああ。 聖帝の小僧など随分慌てとったわ。 まあ、それも仕方ないじゃろうて」

 メロウは煙管を懐に仕舞うと、リナに背を向けた。

「恐らく他国にもこの事は既に知られとるだろう。 それらの国や組織がお前さんらをどうするかわからんが、精々注意することじゃな」

 そう言うとメロウは音もなく闇の中に消えた。

「んなことこっちはとっくに覚悟してんだっての」

 リナはケーキを頬張りながら皆の中に戻っていった。






 宴が終わり静まった深夜、ガマラヤの外の森を一人歩く人物がいた。

「ふひひ、どこに行くんだい?」

 呼び止められた人物が振り返ると、エルモンドが木の影から現れた。

「折角帰ってきたのに、別れの言葉もなしに行ってしまうなんてつれないねぇ、エミリア君」

 月明かりに照らされたエミリアは、突然のエルモンドの出現にも動じずいつとの態度を崩さなかった。

「ここでの仕事が終わったから去るだけよ。 キサラさんにはちゃんと断りを入れたわ」

「それにしても何もこんな夜中に出ていくことはないじゃないか? それとも、何か急がないといけない理由でもあるのかな? エミリア君、いや・・・・」

 エルモンドはニヤリと口角を上げた。

「聖王アーサーこと、聖帝フェルペスの子、エミリア・アルビア君」


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