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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
110/360

変わった男

 セレノアを発って数日、ノエル達はアルビア国内へと入った。

 本来ならこのままガマラヤ以外の亜人達をそれぞれの村や町に返して回りたいが、それでは時間もかかる。

 そこでノエル達は1度そういった亜人達も一緒にガマラヤに連れていき、ギエンフォードに任せようと決めた。

 その方が早くそれぞれの故郷に帰れるし、その後のケアも行われる筈だ。

 幸い、ガマラヤ以外の亜人達もアルビア国内に入ったことで精神的に安定し、不満も出ずその案を受け入れてくれた。

 そして今、ノエル達はとある町で食料の買い出しに来ていたのだが。

「うがう! ノエルあれ! あれ欲しいあれ!」

「ジャバさん落ち着いて! ああ! まだそれは食べちゃダメです!」

「ジャバ殿荷物! 荷物が落ちますから!」

「ゴブラド殿! 貴方のも落としそうです!」

 ジャバの行動に、ノエルとゴブラド、そしてノーラは完全に振り回されていた。

 今回、今まで荷物持ちをしていたライルの代わりをジャバが名乗りをあげた。

 実際今ラクシャダ内は保護した亜人達の分も含め大量の食料が必要であり、荷物持ちとしてジャバの怪力は大いに助かる。

 そう思ったノエルはジャバを普通の大男サイズにし、お目付け役でゴブラドとノーラを伴って出掛けたのだが、ジャバの行動は奔放そのものだった。

 興味があるものに目を引かれはしゃぎ、美味しそうなものはお金を払う前に食べてしまう。

 そもそもずっと森で野生児として暮らしてきたジャバにとってお金の概念は薄い。

 大事ということはわかっていてもなんで大事なのか理解できていない。

 だからついお金の存在を忘れてしまうのだ。

 加えて、普段その姿もありジャバを町に連れていく事は殆んどない。

 その為余計町の中が珍しく、ジャバの好奇心に火をつけてしまったのだ。

(リナさん達が付いてこなかったのはこういうことか)

 普段ならケーキやらなんやら自分の欲しいものをねだる為付いてくるリナ達五魔メンバーが誰も付いてこなかった訳を理解し、ノエルは心の中で大きな溜め息を吐いた。

「すみませんゴブラドさん、ドーラさん。 大丈夫ですか?」

「いえ、私は大丈夫ですが、ノーラ殿が・・・」

「わ、私も、大丈夫、です・・・」

 肉体派ではないノーラはジャバに振り回されたせいで肩を上下させ、仮面からはくぐもった荒い息を漏らしていた。

 ゴブラドもノーラ程ではないが、既にそこそこの荷物を持っている為疲れが顔に見える。

 かくいうノエルも鎧の中の表情は疲れを滲ませている。

 まるでやんちゃな子供に振り回される大人の様だと苦笑すると、ジャバが路地裏の入り口で屈んで何かを見つめている。

「どうしたんでしょう?」

「猫か何かじゃないですか? ジャバさん動物や魔物とも話せますし」

 ノエルは既に大量の荷物を背負っているジャバの背中から覗き込んだ。

「どうしたんですかジャバさん?」

「ノエル、これ大丈夫か?」

「え? 大丈夫ってなに・・・・が!?」

 ジャバが指を指す先には路地裏で倒れている一人の男性の姿があった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 ノエルが慌てて駆け寄ると、その男性から盛大な腹の音が鳴り響いた。

「・・・・・へ?」






「あぐ! ん! がっ! ん~美味! 美味ですぞこれは~!!」

「おい、こりゃどういう事だ?」

「す、すみません」

 物凄い勢いで食事を平らげていく男を見て聞くリナに、ノエルは申し訳なさそうに謝った。

 あの後ノエルは倒れた男をとりあえず近くの憲兵所に運んで保護してもらおうと思ったのだが、ジャバが男を心配しラクシャダまで連れて帰ってきてしまったのだ。

 そしてそのままノエルは彼の為に食事を作り、今に至るというわけだ。

「にしてもよく食べるわね~。 鉄分足りない時のあたし並よ」

「ふひひ、どこに入っているのか興味深いね~」

 レオナとエルモンドがその食欲に感想を漏らす中、リナは呆れたように息を吐く。

「これじゃ買ってきた食料が一気に無くなるぞ」

「まあまあ、人助けですし」

「にしても、怪しすぎだろこのおっさん」

 リナの指摘になだめるリーティアも反論できなかった。

 この男性、年は中年位でよく見ると割と整った身なりをしている。

 が、なんともセンスが悪い。

 ピンク主体で花柄の奇抜なスーツに星の形の色眼鏡、更にスーツと同じ色のシルクハット、そして顔には左右にピンと伸びる立派なカイゼル髭と、どこの奇術師かエセ貴族かという格好で、いかにも怪しすぎる。

 そんな彼だが、最後の皿を平らげ漸く満足したのか、丁寧に口を拭くと手を合わせ「ごちそうさま」と食事を終えた。

「いや~実に美味な食事でしたぞ! 貴殿はなかなかの料理人ですな~!」

「あ、いや、ありがとうございます」

 男に手放しに誉められテレるノエル。

「おいおっさん。 そりゃいいがあんた一体なにもんだ?」

「おっと、我輩としたことが恩人に名乗りもせずに申し訳ない」

 リナに言われた男は立ち上がると右手を胸の前に置き、少々芝居がかっているが綺麗な所作でお辞儀をする。

「我輩の名は、アルゼン・ボナパルト! ここアルビアを拠点に古今東西、あらゆる商品を扱う敏腕商人をしております!」

「商人? それにしたら何も売り物がないようですが?」

「よくぞ聞いてくれました美しいお嬢さん!」

 リーティアに指摘されるとアルゼンはオーバーなリアクションで語り出す。

「それには聞くも涙! 語るも涙な物語があるのです!」

「いや、聞いてねぇから」

「あれはそう、二日前の夜でしたな」

「こいつ全然話聞いてねぇぞ」

 呆れるリナとイトスに構わずアルゼンは続けた。

「我輩は秘書のリザと共に苦労して手に入れた商品を馬車に乗せ、この町の近くまで来ていました。 町に着いたら宿を手配し優雅なディナーをと計画していたのですが、そこに急に強盗が襲い掛かってきたのです! 急襲された我輩はなんとか抵抗しましたが多勢に無勢。 秘書のリザも馬車事拐われ、ボロボロにされた我輩はなんとか這いずりながら町に辿り着いたのですが、そこで力尽き倒れていた所をそこの逞しい御仁に発見され運んでもらったというわけです」

「おれ、役に立った!」

 ジャバが胸を張る中、エミリアは冷静に事態を整理した。

「なら、すぐに憲兵に報告した方がいいわね。 私が同行してあげるから憲兵所に行きましょう」

「なんだ? またラクシャダの中が怖くなったか?」

「流石にこれだけいれば多少は我慢できるわよ。 いつまでもお子様舌のあなたとは違うしね」

「誰がお子様舌だ!? 蛇くらいでピーピー言ってるくせに!」

「普通女で蛇得意な人の方が少ないでしょ!」

「まあまあ二人とも」

「それがそうもいかないのですよ」

 口喧嘩しそうになる二人をノエルが止める中、アルゼンが渋い顔をする。

「どういうことです?」

「実は襲われた時見たのですが、彼らはラクスーンの一派なのです」

「ラクスーン?」

「左様。 所謂裏家業を生業とする荒くれ者の集まりでして、特に首領のラクスーンは並の兵士では敵わない剛力の持ち主。 しかも頭が切れ、自分達の利益の一部を握らせ憲兵に黙認させている、もしくは仮初めの調査をさせて誤魔化しているとのことです」

「なんだそりゃ? てことはこの近辺の町で話しても適当な捜査されてそれで終わりってことか?」

「その通り! ああ! 聖五騎士団に助けを乞うにしても時間がかかりすぎますし! 一体我輩はどうすれば~!?」

 と芝居の様に大袈裟に言いつつ、アルゼンはチラチラとノエル達の方を見る。

「手を貸せってことか?」

「でしょうね。 凄い見てますし」

「でも俺達ガマラヤに急がなきゃならねぇんだし、今回は流石に・・・・」

「おれ! 手を貸す! アルゼンの役に立つ!」 

 ノエルとリナがヒソヒソと相談していると結論が出るより早くジャバが協力を申し出てしまった。

 するとアルゼンは待ってましたと言うように表情をパアッと明るくした。

「なんと! それは真ですかなジャバ殿! いや~我輩ごときを助けていただけるとはなんと優しい方々でしょう! 我輩感謝と感動で身が震える想いですぞ!」

「おれに任せる!」

 ジャバの手を取り喜ぶアルゼンを見ながら、ノエル達は苦笑する。

「これは、行かないといけませんね」

「だな。 ちゃっかり俺達も入れられてるしな」

「完全に向こうのペースね」

「ふひひ、なかなか商人らしいじゃないか。 まあ、商人と繋がりを持つ事はこれから必要だし、彼の言葉を信じれるなら、ここで借りを作るのも悪くないよ」

 エルモンドとジャバのみ楽しそうにしている中、こうしてノエル達はアルゼンに協力することになったのだった。

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