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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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さらばセレノア


 メリウスとノエルが握手を交わしたその日の夜、ノエル達に良くない知らせが届いた。

「売られた? どういう事ですかナーニャさん?」

 一度メリウスと共にラクシャダを後にしたナーニャだったが、ダグノラからの緊急の知らせで急いで戻ってきていた。

「それが、アルビアの亜人十数名が他国の商人に買われていて、もうこの国にいないらしいんですよ」

 ナーニャの報告にノエル達は頭を抱える。

 既にラグザ達の町ガマラヤの亜人約100名は回収し、その他のアルビアから拐われた亜人達も大多数が回収出来ていた。

 だがここに来て残り僅かとはいえ外に連れていかれたとなると、ノエル達にはどうしようもなかった。

「どうすんだよ? 流石に今から他の国なんて行けねぇぞ?」

「今いる亜人の皆だってそろそろ帰さないと。 もう精神的にも限界でしょうし」

 レオナの指摘通り、回収した亜人達は大なり小なり精神的にも肉体的にも消耗していた。

 特に奴隷として扱われた事で精神面で大きな傷を負った者も当然おり、ノエル達に救助されたことで多少持ち直したとはいえ、出来るだけ早く元の生活に戻す必要があった。

 その為には一刻も早くこの国を出る事が第一だった。

 だからと言って他の者を見捨てるわけにはいかない。

 悩むノエルに、エミリアが声をかけた。

「ねぇ、残りの人達はあのアルファって人達に任せればいいんじゃない?」

「え?」

「あの人達って追跡とかが主な任務なんでしょ? だったらその商人とかの追跡とかも簡単に出来るんじゃない?」

 確かアルファ達は追跡のプロだ。

 それは散々これまで追跡され、先回りされてきたノエル達が一番よくわかってる。

 そして今共闘関係にあるのだから、エミリアの意見は正しい。

 が、アルファ達に残りの亜人追跡を頼むとなると話が違う。

 アルファ達の本来の任務はノエル達の追跡と監視だ。

 今回もしアルファ達が亜人追跡に動けば、それは本来の任務であるノエル達を完全に見失う事を意味する。

 只でさえ聖五騎士団に内密でノエルと共闘した上、亜人救出の為とはいえ本来の任務を完全に放棄するのは彼女達の立場としてかなり危うい。

 無論今回立場を越えて協力してくれたのだから本心では亜人追跡を受けたい部分もあるだろう。

 だがアルファ達にとって今回の行為が自分達だけならまだしも、自身の主であるギゼルにまで咎めが及ぶ可能性もある為、断る可能性が高かった。

 その事を話すと、エミリアは少し考えてから「私が説得してみる」と言って、アルファ達が潜伏している場所まで出ていってしまった。

「説得って、んなこと出来んのかよ?」

「私が代わりに監視しとくからとか言い出すんじゃない?」

「そりゃ無理だ。 あいつラクシャダの中が苦手だからな」

「ふひひ、案外今出ていったのもラクシャダから出たかったからかもしれないね」

 リナ達の会話を聞いていると、ナーニャがノエルに申し訳なさそうに謝る。

「すみませんノエル様。 ダグノラ様も流石に国外に出ていった者までどうしようもなくて」

「大丈夫ですよ。 そこはわかってますから」

 実際まだ国内にいるならまだしも、他国の商人をどうこうするのは流石に無理がある話だ。

 ノエルもそこは理解している為、素直に納得していた。

 後はエミリアがアルファを説得出来るかどうかに賭けるしかなかった。

「とにかく、エミリアさんが説得出来たなら一度国に帰った方が良さそうですね」

 ノエルの言葉にエルモンドも同意する。

「その方がいいね。 亜人達の件もあるけど、君自身そろそろ向こうで地盤を固めなくちゃ。 他国でバッチリ王になるって宣言しちゃったんだからね」

 今回のノエルの宣言は恐らくすぐに他国にも伝わるだろう。

 魔帝の子が王を目指す。

 その意味の大きさはノエル自身理解している。

 傍観か警戒か、敢えて接触してくるか。

 それにより他の国が、そして何よりアルビア自体がどう対応してくるかわからない。

 わからない以上、ノエルには早く地盤となる拠点をアルビア内に造る必要があった。

「というわけで、僕達はエミリアさんの報告次第では明日にでもここを発ちます。 ダグノラ殿やメリウス殿に挨拶できなくて申し訳ありませんが」

「いえ、ダグノラ様達もそこは理解していますので、お気遣いは無用です」

 ナーニャは詫びるノエルにそう言うと、姿勢を正した。

「これはダグノラ様の、そして私個人からの言葉です。 貴方達のお陰で、私達は前に進むことが出来ます。 本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げるナーニャに、ノエルは笑みを浮かべる。

「此方こそ、あなた達と出会えてよかったです。 ありがとうございました」

 その後、エミリアがアルファ達の説得に成功したと報告を受け、ノエル達は翌日セレノアを後にした。






 ダグノラは一人屋敷の中庭で空を眺めていた。

「よろしかったのですか? お会いにならなくて」

 ダグノラが振り返るととマルクスと新しくダグノラ配下となった黒曜隊の面々が立っていた。

「よい。 協力関係を申し出ておきながら刃を向け、あまつさえ結んだ盟約すら完遂できなかったのだ。 今更会わせる顔がない」

「全て一人で叶えるなど神とて無理な話。 ノエル殿達も(あるじ)の事情は理解していると思うが?」

「ふふふ、確かになロウよ。 あの者達ならば私の力不足を責めることはないだろう」

 ケンタウロスのロウの言葉に自嘲気味に話すと、豚頭族(オーク)のボーグが笑い飛ばす。

「ぶひゃひゃ! そう自分を卑下するもんじゃないぜ旦那! あんたがあの後動いてくれなかったら、俺達は行き場所も、こうして話すことも出来なかったんだからな!」

「一人まだトラウマが残っている者もいますがね」

「な、なんだい? ディアブロの事ならもう大丈夫だって」

 リザードマンのジグにからかわれ、ダークエルフのヘラは顔を赤くし反論する。

 サファイルに使われていた時見られなかった彼らの人らしいやり取りに表情を緩ませながら、ダグノラは今回の件での己の力不足を痛感した。

 彼らや他の黒曜隊を治したのはルシフェルとその弟子のイトスであり、自分は彼らの希望を叶える事しか出来なかった。

 そもそもサファイルの行動を見抜けていれば、彼らにあの様な辛い目に会わすことはなかったのだ。

 もう少し遅ければ、彼らは回復不能なまでには追い詰められ、名前すら呼ばれずサファイルの道具として使い潰されていたかもしれない。

 それにサファイルの事もある。

 自分が臣下としてサファイルをもっとしっかり見ていれば彼の苦悩に気付き、ここまで追い詰める前に手を打つ事が出来たかもしれない。

(全く、ままならぬものよ。 これだけの時を生きながら、主一人満足に守れぬのだからな)

 後悔の念を抱きながら、ダグノラはアルビアの方を見た。

(思えば彼等が来たのも、天運なのかもしれぬな)

 ノエルが来なければ、もっと大きな被害が出ていただろう。

 メリウスは反乱を決行し黒曜隊と激突。

 同時に国は奴隷解放派と人間至上主義派の2つに割れ多くの民が死んでいただろう。

 また、来たのがノエルでなくアルビア正規軍だったら、本物の戦争となり今度こそセレノアは崩壊していただろう。

 全てはノエルが五魔を率いてきたからこそ、うまく収まったのだ。

「(ならばその天運を無駄にせぬよう、抗うのが我が役目か)ロウ」

「ハッ」

「ヘラ」

「はい」

「ボーグ」

「おう!」

「ジグ」

「はっ」

 全員の名を呼び黒曜隊が跪くと、最後にマルクスの方に顔を向ける。

「そしてマルクス、これから戦を始める。 国を変える戦をな。 苦労をかけるが、力を貸してくれ」

「御意のままに。 我が主よ」

 マルクスは胸に手を当て頭を下げた。

(次に会う時は、生まれ変わった我が国をお見せしよう。 その時まで、どうか健勝で、ノエル陛下)

 王と認めた若者のの行く末に想いを巡らせ、ダグノラは血を流さぬ戦へと出陣した。

 この国の人と亜人の未来のために。


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