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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
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ノエル対ダグノラ


 サファイルを庇う様立ち塞がったのは、ノエル達と協力関係にあったダグノラだった。

「ダグノラ殿」

「すまぬなノエル殿。 陛下に手出しをさせるわけにはいかぬ」

 ダグノラが助けに入ったことで、ギリギリまで追い詰められていたサファイルの顔に生気が戻る。

「お、おお、ダグノラ! よくぞ! よくぞ余を助けた! お前こそ真の忠臣! やはり最後に頼りになるのは・・・」

「陛下」

 サファイルの言葉を遮ると、ダグノラは威圧する様な目でサファイルを見詰めた。

「後で陛下とはゆっくり話し合わねばならない事がございます。 我が言、たっぷり聞いていただきますぞ」

 強く重いダグノラの言葉に、サファイルは無言で頷くしかなかった。

「ダグノラ殿。 なぜ今になってその人を守るのですか?」

「ふ、確かにここ数年私と陛下の考えは交わることはなかった。 少なくとも、亜人に対する考えはな。 だがだからと言って、陛下を見限った訳ではない」

 ダグノラは剣を構えるとノエルを見据えた。

「ましてや、主が過ちを犯したのだ。 ならば尚更それを放置したまま見限る等、臣下としてあるまじきこと。 その様な卑小なこと、出来るわけがあるまい」

 そこまで話すと、ダグノラは剣を振り上げ、勢いよく振り下ろす。

暴波天嵐(ぼうはてんらん)

 ダグノラが剣を振るうと、そこから巨大な竜巻の様な突風がノエルに向かってくる。

 ノエルは咄嗟に避けるが、持っていた兜が粉々に砕け散り、竜巻はそのまま天井を突き抜けた。

 ノエルはダグノラの技の威力に額に汗が滲む。

 先程のノーラの炎を渦が蛇なら、ダグノラの竜巻はまさに龍。

 正に桁が違った。

 リナ達と何度も殺し合いを演じたその実力は、老いて尚衰えることを知らなかった。

「退けノエル! お前にそいつはまだ早すぎる!」

 その事を裏付ける様にリナが初めて焦り声を上げる。

 そんなリナに、ノエルは敢えて笑みを見せた。

「いいえ、退けません」

「!? てめぇなに言って・・・」

「あんなにリナさん達が戦った後、僕だけ相手が強いからって逃げられる訳がないでしょう。 それにここで逃げたら、あなた達の王にはなれませんからね」

 ノエルの言葉に、場が騒然とした。

 魔帝の子が王となる。

 自分がそう口にすることが単なる比喩表現で済まされないことをノエルは理解している。

 現にその場にいた誰もがノエルの言葉を理解し、驚きを隠せなかった。

 その事実を知らなかったラグザやノーラ達も、同様に表情が驚きに染まった。

 ノエルは今、他国で己が王になることを宣言したのだ。

「王となる。 それは真か?」

 ダグノラが静かに聞くと、ノエルは頷いた。

「ええ。 まだ国土も民もない裸の王ですが、そう決めたんです。 守りたいものの為に」

 ノエルの強い決意を表す様な瞳に、ダグノラはほんの僅かに笑んだ。

「面白い。 では私は貴殿と言う王の最初の障壁となるわけか」

 ノエルの覚悟に偽りなしという事を理解したダグノラは改めて剣を構える。

「では、名もなき国の王よ。 貴殿が陛下に手を出す狼藉者で終わるか、それとも真の王となるか、不肖このダグノラが試させてもらおう!」

 ダグノラは再び剣を振るい、巨大な竜巻をノエルに向かって放った。

 ノエルは瞬時に魔力を両手に溜め、一気に解き放つ。

「黒雷!」

 漆黒の雷がダグノラの竜巻と激突し、辺りに衝撃が走る。

「ノエル!」

「手出しはダメだよリナ」

 リナを制止したエルモンドの表情は、いつもと違い真剣なものだった。

「これはノエル君が、僕達の王が自分が王だと皆に宣言する為に選んだ戦いだ。 仮にも臣下の礼を取ったなら、その王の戦いを見守るのも君の役目だよ」

 エルモンドの言葉に舌打ちしながらも、リナはその場に座りノエルとダグノラの戦いを見詰めた。

「そこまでカッコつけたんだ。 勝てよ、ノエル」

 漆黒の雷と竜巻が吹き荒れる中、ノエルは黒の魔術で自身を強化し拳を振るう。

 だがその拳はダグノラの剣に悉くいなされる。

「どうした!? 名もなき国の王よ!? 貴殿の覚悟にとはその程度か!? それで王になろうとは、片腹痛いわ!」

 ダグノラが繰り出す突きから突風が巻き起こり、ノエルを貫く。

 だが貫かれたノエルの姿は黒い炎となり消えた。

「!? 幻炎か」

 ダグノラは炎で偽物を作り出したノエルの技術に一瞬驚きながらも、すぐに己の死角の気配に剣を振るう。

 するとノエルの拳とダグノラの剣がぶつかり、ノエルを弾き飛ばす。

「器用よなノエル殿。 流石魔帝の子と言ったところか。 だが、その程度で私は倒せん!」

 ダグノラが剣を振るうと再び起きた竜巻がノエルを襲う。

 ノエルがそれをかわすと、周囲を粉塵が覆った。

 瞬間、粉塵からノエルが飛び出しダグノラめがけ突撃した。

「正面からの全力の一撃。 と見せかけ、本物はこちらか!」

 ダグノラは背後に剣を振ると、粉塵に紛れていたノエルが両断される。

 だがダグノラはすぐ違和感に気付く。

「!? しまっ・・・」

 ダグノラが斬ったノエルが黒炎となり消えると、ダグノラはすぐ振り返る。

 先程囮だと思っていたノエルが右手に魔力を溜め自分に向け拳を振るう。

 ダグノラは咄嗟に剣でそれを受け止めた。

「ぬおおおおおお!」

 だが更に力を込めると、腕に黒い炎と雷が宿る。

 するとダグノラの剣が折れ、その一撃が腹部へと炸裂する。

 ダグノラは後ろに吹き飛び、壁へと激突した。

「はあ・・・・・はあ・・・・・」

 一方のノエルも既に限界に近かった。

 致命傷となる傷こそついていないものの攻防の中かわしきれず受けた傷、そして何よりダクノラ程の実力者との対峙はその精神を予想以上に消耗させていた。

 自分より圧倒的強者が相手で一瞬のミスが本当の意味で命取りとなる攻防、それにより磨り減った精神を、ノエルはなんとか維持する。

 すると、ダクノラは壁からずり落ち、よろめきながら立ち上がった。

「ふ、ふふふ・・・・勢いあれどまだまだ稚拙よ。 かつての魔帝にはまだまだ及ばぬ」

 そこまで言うと、ダクノラはノエルに向けて小さな、だが穏やかな笑みを見せた。

「だが、その真っ直ぐな想いは、王と呼ぶに相応しい。 精進せよ、青き若葉の、王・・・よ・・・・」

 ダクノラはそのまま前のめりに倒れ、意識を失った。

 ノエルはそんなダクノラに、無言ながら敬意を込め頭を小さく下げる。

 そして腰を抜かしへたり込んでいるサファイルに向き直る。

 サファイルはダクノラの敗北が信じられないように呆然としていたが、ノエルが目の前に立ち我に返る。

「さて、どうしますか? あなたの言葉を借りるなら下等な奴隷ではなく、真の忠臣と呼ぶに相応しい臣下の敗北に、王であるあなたはどうするつもりですか?」

 自国最強戦力であるダクノラを倒したノエルに内心怯えながら、それでもサファイルは最低限の王としての虚勢を張る。

「な、なにが目的か? まさか、この国を乗っ取るつもりか?」 

 検討外れの考えに少し呆れながら、ノエルは続けた。

「僕達はこの国を支配する気はありませんよ。 ですが、いくつか聞いてもらいたいことはあります」

「な、なんだ?」

「1つは、最初に話した拐った亜人の解放。 要するに元の故郷に返してあげてください。 それはアルビア国以外の亜人も同様です。 そして彼らを2度と害さないでください」

「う、うむ。 よかろう」

「そしてもう1つ。 本当はそちらの国政に口を出すのは良くないですが、どうしても1つだけ」

「ど、奴隷制度は撤回せんぞ! あれは我が国を作り上げた、この国の真理なのだからな!」

 この国の王としての意地なのか、サファイルは残った精神力を総動員しノエルに最後の抵抗をする。

「それについては、この国の人が選ぶことです。 僕が口出しすることではありません」

「で、ではなんだというのだ?」

「簡単です。 人と亜人との婚姻を認め、それを迫害しない様にしてください」

 ノエルの要求にサファイルだけでなく、その場にいたセレノア側の人間は全員驚愕した。

「ば、馬鹿な!? 人と亜人の婚姻!? それが何を意味するかわかっているのか!? 人と亜人の忌み子を増やす事になるのだぞ!?」

「その忌み子に、あなたの精鋭は敗れましたけどね」

「ぐっ」

「別に構わないでしょう。 婚姻は個人個人の自由。 変えたからといって、それをどうするかは国民次第です」

 ノエルの言葉にサファイルは思考を巡らせ、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら結論を出した。

「い、いいだろう、認めてやろう」

 サファイルの決定に、周囲が一気にどよめいた。

 人と亜人の婚姻はこの国にとって禁忌といえる行為の1つ。

 それを現王が認めたのだ。

「その言葉、信じていいんですね?」

「ああ、王に二言はない。 だがな! 例え認めようとも、この国には亜人に恋慕する愚か者等いない! 貴様のしたことは意味のない要求よ!」

 せめてもの反撃と吠えるサファイルに、ノエルは受け流しながらあるものを取り出した。

「? なんだそれは?」

「別に大したものじゃありませんよ。 音声を取り込み外に流すものだそうです」

「音声だと? !?貴様まさか!?」

 サファイルの顔が青ざめる中、ノエルは普段あまりしない、どことなくリナと似た様な悪い笑みを浮かべる。

「僕もあなたと同じことをしたまでですよ。 最も、僕の場合声だけですけどね」






「しっかし、あの坊や随分えげつないことするもんだね~」

 そう話すベータの目の前には、サファイルの声を聞いて混乱する首都の人々の姿があった。

 王の醜態、魔帝の子と五魔達による敗北、そしてその要求を飲み一部の奴隷の解放と禁忌と言える人と亜人の婚姻が認められたこと。

 その全てがアルファ達が町の至る所に仕掛けた拡声器により、首都全体に知られた。

「こんだけ広まっちゃ口約束だからってなかったことにすんのは不可能。 しかももみ消そうにも首都の連中全員が聞いちまってるから国全体に広がるのも時間の問題。 要するに、あの王様は終わりってやつだ」

 ベータは軽い口振りながらその姿はどこか楽しそうだ。

 そんなベータに少し呆れながら、アルファとガンマも同意だった。

「実際王が認めたという事実は大きいわね。 元々絶対的な発言力のある王だったわけだし、私達の想像以上に衝撃だったみたいね」

「しかし大丈夫なんですかね~? これで余計混乱して血生臭い事にならなきゃいいんすけど」

「それなら大丈夫でしょ。 あの様子見てればね」

 アルファはそう言いながら混乱している人々を見た。

 確かに困惑したり、動揺する者が多いが、中には喜び亜人と抱き合う者も多かった。

 アルファが想像していた以上に、亜人にそういう感情を抱いていた人は多かった様だ。

「まあ、多少いざこざは起こるでしょうけど、それでもこの国は確実に変わるきっかけを手に入れたわね」

「ここまで計算してたなら、あの坊や本当恐ろしいっすね~。 それとも五魔のルシフェルか?」

「さあね。 どっちにしろ、敵なら恐ろしいのに違いないわ」

「でも、味方ならこの上なく頼もしい。 複雑ですね~、俺達も」

 ベータの意見に、アルファは無言ながらその気持ちは同じだった。

 何度も対峙し、そして監視し続けた彼女は皮肉にもノエル達がどういう人物か一番理解してしまっていた。

 一時はリナ達の力を危険視し本気で消さなければと思っていたが、この前のギゼルや仲間達への対応を見てその気持ちも消えていた。

 それは恐らくベータ、ガンマも同じだろう。

 だからこそ敵ではなく味方ならという考えが過ってしまう。

 今回成り行き上共闘したことで、その想いはより強まってしまった。

 だが通信で彼が王となると宣言したのを聞いた。

 これで聖帝側との対決は最早避けられない。

 無論、ギゼルが聖帝の下にいる限り自分達も聖帝側から離れるつもりはない。

 近い内再び対決することになるだろう。

 ベータの言葉通り、アルファの中では複雑な気持ちが巡り続けていた。

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