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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
105/360

ラグサの想い


 ラグザはサクヤに吹き飛ばされ床に叩きつけられていた。

「ラグザさん!」 

 心配するノエルの横で、漸く優勢な者が出てきたことでサファイルに当初の笑みが戻る。

「フハハハハ! どうだ小僧! これこそ我が黒曜隊の真の力! 残った3人は黒曜隊の中でも資質は元よりその類いまれなる戦闘能力は他の者共とは比べ物にならない程の精鋭! こやつらだけで十分挽回出来るわ!」

 サファイルはまるで勝ち誇った様に叫ぶ。

 だがノエルはそんなサファイルには目もくれずラグザに駆け寄ろうとする。

「来るな!」

 ラグザは一喝するとノエルは足を止めた。

「来んじゃねぇぞノエル殿。 こいつは、俺が止めなきゃならねぇんだ」

「ですが!」

「ちったぁ俺の事も信頼してくれよ。 それに、漸く探してた奴が目の前にいるんだ。 ここでやらなきゃ、俺は正真正銘のクズになっちまう」

 ラグザは愛刀の大刀を持ち直すと、ゆっくりと立ち上がった。

「ふん! では望み通りゴミクズとなるがいい! おい貴様! そのゴミを早々に片付け残りを殲滅せよ!」

「・・・はい」

 サファイルの命に、サクヤはラグザに斬りかかる。

「おらあああ!」

 ラグザは大刀でそれを受け止めると、サクヤを弾き飛ばした。

 だがサクヤは素早く体勢を立て直し、すぐ距離を詰めラグザを襲う。

 その無機質ながら正確で無駄のない身のこなしは、鬼人(オーガ)らしく豪快で力主体のラグザとは真逆ながら、戦闘民族の名に相応しいものだった。

 素早く繰り出させる小刀と体術により、大刀による大振りの攻撃がメインのラグザは小回りが効かない分防戦を余儀なくされていた。

「フハハハハ! 流石戦闘民族と呼ばれし亜人よ! 下らぬ感情を取り払うことでこれだけの戦闘力を身に付けるのだからな!」

「それもあなたがやったんですか?」

「その通り! 最もなかなか頑固で此方の言うことに耳を傾けなかったがな。 だからこう言ってやったのだよ。 貴様が大人しく言うことを聞けばこれ以上故郷には手出ししないとな。 そうしたらすんなり堕ちよったわ!」

 ノエルはサファイルを睨みつけるが、今はラグザの方が気掛かりだった。

 ラグザにとってサクヤは何としても取り返したかった幼馴染みだ。

 そんなサクヤが変わり果てた姿で自身を容赦なく襲ってくるのだ。

 しかもサクヤの意思とは関係なくだ。

 傷付けたくはないのに、倒さなければ取り戻せない。

 そんなラグザの葛藤を感じながら、ノエルはラグザを見守り続けた。

「さあさっさとそのゴミクズを処分しろ! そして残りも始末し、我が国の理念の正しさを知らしめてやるのだ!」

 サファイルの号令にサクヤは更に勢いを増しラグザに斬りかかる。

 そして小刀がとうとうラグザの首に突き刺さった・・・・様に見えた。

「ったくよ。 漸く目が馴れてきたぜ」

 ラグザはサクヤの手首を握り、寸前の所で防いでいた。

 サクヤは捕まれた手を軸にラグザに蹴りを入れるが、それも刀を持った方の手で防がれる。

「単調なんだよ、今のお前の攻撃は。 そんなんじゃいくら速くても、意味ねぇぜ!」

 ラグザは刀の峰の部分で思いきりサクヤを打ち抜いた。

 サクヤは息を詰まらせ、床を転がる様に吹き飛ばされながらすぐに体勢を整える。

「遅えよ」

 が、ラグザは既にサクヤの目の前に接近しており、その首を掴むと床に叩き付けた。

「くはっ!?」

 サクヤが衝撃に苦しむ中、ラグザはその手を休めない。

 まさに鬼の如くサクヤへの攻撃を加速させる。

「馬鹿な! 貴様にとってその亜人は大事な者ではなかったのか!? なぜその様な事が出来る!?」

 容赦ない攻撃に完全に動揺するサファイルを、ラグザは一瞥した。

「てめぇ、本当馬鹿だな」

「な!?」

俺達鬼人(オーガ)にとっちゃこのくらいじゃれ合う程度の事なんだよ。 普段のこいつなら笑って受け流してるぞ? それが殺す気で来てんのにこの程度かよ」

 そう言いながら、満身創痍で立ち上がってくるサクヤを見るラグザの目はどこか悲しげだった。

「こんなに弱くされちまってよ。 それも俺が未熟だったせいなんだろうな」

「く、ああああああ!」

 サクヤはマスクが破れ露になった口元から牙を剥き出しにしラグザに飛びかかる。

 瞬間、ラグザは刀を捨てた。

「!?」

 周囲がラグザの行動に驚く中、サクヤの小刀がラグザの腹部に突き刺さった。

 サクヤは表情は変わらなかったが、何かに動揺する様に小刀を握る手が震えている。

 そんなサクヤを、ラグザは強く抱き締めた。

「どうだ? 俺はこんなに強くなったぞ。 俺だけじゃない。 皆お前が思ってるより強いんだ。 だからもう、俺達を守ろうと踏ん張る必要はないんだ。 帰ってこい、サクヤ」

「ら・・・・ラグザ・・・・」

 サクヤはラグザの名を呟くと、目から涙を流した。

 それは薬と拷問により削ぎ落とされていたサクヤの感情が、甦った瞬間だった。

 サクヤはそのまま意識を失い、ラグザは慌ててその体を支えた。

「サクヤ! おいサクヤ!」

「慌てないで」

 ラグザが振り向くと、エルモンドがシルフィーの浄化の風と、ウンディーネの癒しの波動を二人に送っていた。

「まだ薬の効果が残ってるんだ。 本当なら長期間リハビリしないと戻らない程の強力な薬だ。 今は無理をさせない方がいい」

「治るよな!? サクヤは戻ってくるよな!?」

 エルモンドはラグザに対しいつものふひひという笑いで答えた。

「大丈夫。 この子は強い。 何せちょっとしたきっかけで自力で薬の効果をねじ伏せたんだからね。 僕からしたら素晴らしい出来事だよ。 勿論、きっかけになった君もね」

 誉められ少し照れながらも、ラグザは漸く安堵の表情を浮かべ、眠るサクヤの顔を見詰めた。

 その光景に、サファイルは拳をわなわなと震わせた。

「弱くなった? 余が調教し戦闘兵器として力を引き出したのに、弱くなっただと?」

 サファイルはこの戦いで自身の国のあり方の正しさを証明するつもりだった。

 人が使ってこそ亜人は活きる。

 亜人は人に使われるからこそその真価を発揮する。

 だから亜人の力を発揮させることの出来る人はその力の恩恵を手にする権利があるのだ。

 それこそこの国を豊かにしてきた理であり真実。

 サファイルはそれを再確認させることで、考えを変えようとする者、ダグノラの様な既に変えている者を元に戻そうとしていた。

 それこそかつての栄光を取り戻す唯一の道だと信じて。

 サファイルにとってこれはまさに聖戦だったのだ。

 所が自分が自ら選び、調教した奴隷部隊が次々に破れている。

 しかも五魔ならばいざ知らずそれに付いてきたアルビアの亜人にさえ負けた。

 しかもその内の一人は自分が調教する前の方が強かった等と口走る。

 サファイルにとって、それは屈辱以外の何物でもなかった。

「ぐ!? 何をやっておるかゴミ共!? 貴様らは余が選んでやったのたぞ!? 道具なら道具らしい働きをせんかこの役立たずが~!!」

 顔を真っ赤にし肩で息をしながら怒鳴るサファイルの耳に小さな笑いが聞こえた。

「誰だ!? 今余を笑ったのは!?」

 サファイルの視線にはエミリアの姿があった。

「あらごめんなさい。 これがあの大国セレノアの王かと思うと、哀れを通り越して滑稽だったものでついね」

 エミリアの挑発に、サファイルは怒りで己がどうにかなるのではないかと思える程だった。

「殺せ・・・・その女を殺せ!! 八つ裂きにし、原型すら残すな!!!」

 怒れるサファイルの命で、重装騎兵のケンタウロスは冑からフシュルルルという呼吸音を出しながらエミリアに迫る。

「いいわ。 そろそろ終わらせてあげる」

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