リーティアの熱線 レオナの演武
鎧姿のリーティアはイカの様な海人と対峙していた。
海人とはその名の通り海を住み、水辺の生き物の特徴を持つ亜人で、その種類は獣人と同じく多種多様。
人魚の様な者もいれば半魚人の様な姿の者もおり、イカやカニ、貝等魚以外の生物の特徴を持つ者もいる。
水中での素早い動きやそれぞれの生き物の特徴を活かし、本来海の中で暮らす穏やかな亜人である。
尚アルビアは海に面していない為海人はあまり見掛けないが、その代わり川や湖等淡水を住みかとする同系統の亜人、水人が存在する。
イカの海人は8本の触手の様な腕を鞭の様に振るい、リーティアに打ち込む。
リーティアはそれを巧みに交わすと、フレアランスを放つ。
だが海人は腕の1本を天井に伸ばすと、そのまま腕にある吸盤で張り付き素早くかわす。
「器用ですね。 陸は本来あなた達には不利なはずですけど」
「ゲッシャ~!!」
海人は奇声をあげながら一気に距離を縮めると縦横無尽に腕を振るう。
「まともに会話も出来なくされているなんて。 すぐ終わらせてあげます」
リーティアは素早く乱激を掻い潜り、海人の懐に入る拳を鳩尾に叩き込む。
だがすぐにリーティアは違和感に気付く。
グニャっとした感触を拳に感じると、リーティアはすぐに離れようとした。
だが既に遅かった。
海人は腕の1本を腹に巻き付け、その吸盤でリーティアの腕を押さえていた。
(あの攻撃は囮か!?)
攻撃が目眩ましだと悟ったリーティアだったが、次の瞬間床に思いきり叩き付けられた。
「ゲッシャ~!!!」
そのまま勢いに乗せ反対側に叩き付けると、海人は何度も左右にリーティアを床に叩きつけた。
床に亀裂が走り鈍い音が響く中、次第にリーティアは動かなくなっていく。
完全に動きを停止させたのを確認すると、海人は腕を放しその生死を確認しようとした。
瞬間、八つの熱線が海人の全ての腕を貫き天井に吹き飛ばす。
しかも熱線は本物の槍の様に硬質化され、そのまま海人を磔にした。
「ゲッ!?」
「申し訳ありません。 本当はそこまでするつもりはなかったのですが」
リーティアは何事もなかった様に立ち上がる。
「あの状態から抜け出すにはあなたの腕を切り落とさねばならなかったので、流石にそこまでするのは酷ですから串刺しにしました。 ご安心ください。 ちゃんと元通り治るように加減してます」
「ゲッ、ゲッシャ・・・・」
困惑する海人に、リーティアは優しく説明する。
「ああ。 なぜ私が無事かわからないのですね? それはこの鎧のお陰です。 あの程度の衝撃なら簡単に耐えられます。 勿論・・・・」
説明するリーティアの中からクロードが現れ、海人は更に困惑する。
「中の私も当然無傷。 最も、本当にリーティアが傷つきそうになったら私がその盾になるけどね」
クロードはそのまま腕を振るうと、リーティアが海人目掛け飛び上がり、今度こそその腹に拳を叩き込んだ。
「ゲッ!?」
「悪いけど、念のため気絶してもらうよ。 これ以上君みたいな人と戦うのは本意じゃないからね」
海人は気絶し、天井に力なく垂れ下がった。
レオナの剣とリザードマンの爪がぶつかり合い火花を散らせる。
かつてクロードと戦った聖五騎士団元聖竜ガルジと同族であるリザードマンの青年は爪を伸ばし、拳を強固な鱗で覆いレオナと対峙している。
だがそれはガルジの強度には及ばず、レオナの剣で徐々に削れていく。
「悪いけど、ちゃっちゃと終わらせてもらうわよ!」
レオナは両手を弾くと、リザードマンを峰打ちに捉えようとする。
だがすぐ異変に気付き後ろに飛び退く。
瞬間、レオナに目掛けて無数の鱗が弾丸の様に放たれた。
強度で細かい鱗の散弾は、流石のレオナでもかわしきれず体に幾つか切り傷が出来ていた。
「鱗飛ばすって、そんな芸当ありなわけ?」
レオナが愚痴ると、リザードマンは再び構えて鱗をレオナに飛ばそうとする。
「全く、めんどくさいわね」
「キシャ~!!」
リザードマンは雄叫びをあげると、再び鱗をレオナ目掛けて発射した。
「なめんじゃないわよ!」
レオナは時に華麗に避け、時に剣で反らしながら鱗の間を素早くすり抜けていった。
「ギ!?」
「軌道さえわかってればこのくらい、簡単にかわせるのよ!」
レオナはとっさに両手をかざしたリザードマンのガードの上から剣を振り抜き、そのまま吹き飛ばした。
リザードマンはそのまま壁に激突して意識を失った。
「全くもう、またリナにからかわれるじゃない」
幾つか出来た切り傷を見て愚痴りながら、レオナはリザードマンをエルモンドの元に運んだ。
「ば、馬鹿な! 我が黒曜部隊がこの様な!?」
動揺するサファイルに、ノエルは冷ややかな視線を送る。
「此方の力を見抜けなかったそちらの負けです。 引き際を見極めるのも王の務めですよ?」
「黙れ小僧! あれは奴隷共の質が悪かったのだ!」
「ではその適性を見抜けなかったあなたの落ち度ですね」
「ぐぬぬ!」
歯軋りするサファイルに、ノエルは内心呆れて果てていた。
当初こそあのダグノラやメリウスですら従わせるその王呼ぶに相応しい振る舞いにそれなりの敬意は抱いていた。
だが本性を現してからのサファイルは余りにも拙い。
本来ならダグノラ達を従えるだけのカリスマは少なくともあるはずなのに、魔帝への復讐心がそうさせたのか、それとも己の顕示欲か、今はその面影は欠片もない。
ノエルが敢えてサファイルの言葉に乗り戦闘に参戦しなかったのも、彼のこのお粗末な計画でリナ達が敗れる訳がないとわかっているからだ。
既に半数以上の相手を戦闘不能にしてる今、それは揺るがないだろう。
そうノエルが感じた直後、突如轟音が鳴り響き、床に倒れるラグザの姿が目に飛び込んできた。




