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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
102/360

黒曜隊


「ぶおおおおおおおお!」

 サファイルの命で豚頭族(オーク)の巨兵がジャバに掴みかかる。

 ジャバの半分程度とはいえ、その巨体をフルに活かしジャバと手四つで組み合い振り回そうとする。

「ウガアアアアアア!」

 ジャバはそれに応じ正面から力を込める。

 そしてお互い組み合ったまま、部屋の壁に激突した。

 すると壁が崩れ何人かの貴族が下敷きになってしまった。

「いけない! イトス!」

「はい、師匠!」

 イトスはエルモンドの指示で下敷きにされた者の救出に向かった。

「全く、まさかここまでの事をするなんて」

「切羽詰まってたにしても、これはないわね」

 リーティアの言葉にレオナも呆れた様に同意する。

 謁見の間はいきなり始まった戦闘で混乱を極めた。

 周囲にいた大臣や貴族もサファイルの思惑を知らなかった者が多かったらしく、逃げる者、腰を抜かす者、サファイルの命を健気に守りその場に止まろうとする者と反応は様々だが、今のジャバ達の衝突でその混乱は更に高まる。

 ダグノラも自分の配下の兵達に指示を出し、イトス達に協力させ大臣達を守らせようと奮闘している。

「これが一国の王のすることなんて、ヘドが出るわね」

 エミリアは吐き捨てるように言うと、目の前のケンタウロスの重装騎兵にゆっくり剣を抜く。

「殺すなよ」

「わかってる。 魔王様より手加減は得意よ!」

 エミリアの剣がケンタウロスのランスと激突する。

 リナはそれを見届けると自身の相手となるダークエルフと向き合い、好戦的な笑みを浮かべた。

 そしてノエルは、サファイルと向かい合ったまま動かなかった。

「そう殺気立つな小僧。 まずはお互いの配下の奮闘を楽しむとしようじゃないか」

 己の敗北など微塵も感じていないサファイルは余裕の態度を崩さない。

「随分自信がありますね。 昔五魔に散々敗北をした方とは思えません」

「女みたいな顔をしている割に言うではないか。 だがな、時代はあの時とは違うのだよ。 もはや五魔等過去の遺物。 10年間ぬるま湯に浸った過去の強者など、戦闘力のみを追及した我が部隊に勝てるものか!」

 サファイルの自信はそれだけではなかった。

 黒曜部隊は全て亜人の奴隷。

 亜人を仲間や友と認識するノエル達にとって、奴隷から無理矢理戦闘用に強化された黒曜部隊に本気を出すことは出来ない。

 そして都合のいいことに此方には向こうの顔見知りが混じっている。

(亜人が人等と下らぬ価値観を持つ愚か者めが。 その下らぬ感傷が、貴様らに敗北を、そして余に勝利をもたらすのだ!)

 サファイルにとって人間至上主義はこの国の、そして自分の全てであった。

 この国を形作る至上の真理。

 そしてそれはこの国の全ての民にとって揺るがない価値観だった。

 だがそれは魔帝により崩され、亜人奴隷は手に入りづらくなり国力は低下。

 更に国の最たる重鎮の一人であるダグノラや血を分けた兄弟であるメリウスですら亜人に対する考えを変え始めている。

 ダグノラの真意やメリウスとヨアの関係をまだ知らないサファイルであったが、二人の行動は自分への、そしてこの国への裏切り行為に他ならない。

 己の真理を汚す者を許すわけにはいかない。

 今回の事はサファイルにとって魔帝により生まれた大きな汚れを落とす御祓(みそぎ)の様なものだった。

 そんなサファイルの歪んだ笑みを見ながら、ノエルは無言で戦場に目を向ける。






「それで、ボルゴーが使ってた薬なら、あなたなら解毒出来るんじゃないの?」

 レオナの指摘にエルモンドは肩を竦める。

「出来るには出来るけど、かかりが強い上動きがなかなか素早いからね。 動きを止めてくれないと、正直難しいね」

「なら、私達が止めるしかありませんね」

 リーティアが白銀鎧(プラチナアーマー)を身に纏うと、正面からイカの様な海人(シーマン)、リザードマン、ドルイドが迫ってくる。

「しょうがないわね。 やってあげようじゃない」

「ドルイドは私にお任せを。 エルモンド様は解毒に集中してください」

 レオナは剣を2本の産み出し、ノーラは両手に魔力を込める。

「ふひひ、任せていいのかい?」

「はい。 父より受け継いだ魔術、特とご覧にいれましょう」

「じゃあ任せたよ。 後問題は」

「こっちは手を出すんじゃねぇぞ!」

 ラグザは既に刀を抜き、サクヤと斬り結んでいた。

「こいつは俺がやらなきゃならねぇんだ! だから手を出すな!」

「ふひひ、了解。 でも解毒はさせてね」

 こうして五魔対黒曜隊との戦いが始まった。


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