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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
亜人救出編
100/360

メリウスの告白

ついに100話まで来ました!

これも読んでくださる方のお陰です!

これからも頑張って書いていきます!(^_^ゞ


 「え? ちょっと待ってください? 妻ってことは・・・え!?」

「お、落ち着けノエル! 妻ってのは結婚して夜いいことを・・・・」

「あんたが落ち着きなさいよリナ!」

「ふひゃひゃひゃひゃ! まさかトロールを妻に迎えるなんて! しかもこの亜人差別の激しい国で! 君は素晴らしいよメリウス君!」

 メリウスの告白にその場にいた全員が騒然とした。

 冷静に努めようとしていたノエルと邪魔にならないよう敢えて余計な口出しをせず見守っていたリナは動揺を隠せず、レオナはそんな二人を宥め、リーティアは呆然とし、ジャバは「お嫁さん可愛い!」と無邪気な反応をし、エルモンドは先程以上の大笑いをした。

 先程までメリウスと真剣に言い合っていたダグノラですら、あまりのことに思考が完全に停止したように間抜けな顔で固まっている。

 それほどメリウスの発言の衝撃は凄まじかった。

 そんな中ノエルはいち早く我に返りメリウスに向き合う。

「えっと、し、失礼しましたメリウス殿。 その、妻というのは?」

「無論この国では正式に籍は入れられない。 だが私は彼女こそ生涯の伴侶だと確信している」

「お、お待ちくださいメリウス様! 一体いつからその様な関係に!?」

「2年前だ。 既に体も何度も交わっている」

 メリウスの告白に漸く理性を取り戻したダグノラは再び固まり、メリウスの後ろのヨアは少し顔を赤らめた。

「やはり、その様な反応になるのだな」

「いや、その、別に亜人との結婚がどうこう言う気はありませんが、何よりその、相手に驚いてしまって」

 ノエルがそう言うのも無理はない。

 実際人間と亜人の結婚自体は珍しくない。

 現にノエルと同行しているノーラも、ドルイドと人間のハーフだ。

 だが相手がトロールとなると話は別だ。

 トロールは亜人の中では元々ゴブリン以上に魔物に近く、現に大昔は魔物として扱われていた程だ。

 その最たる理由はその性質。

 トロールといえば臭い、醜い、頭が悪いの三拍子が揃った存在だ。

 その為見た目的にも人間や他の亜人からも嫌われ、敬遠されがち。

 おまけにその頭の悪さも手伝い行動は粗暴の一言。

 とても共に亜人と呼べる種族ではなかったのだ。

 それが近年、人間側からトロールと交流する者が増え、トロール自体もある程度文化を持った集団へと変わってきていた。

 その最たる例が亜人の村ガマラヤでノエル達の出会った、亜人の族長の一人ジャックが率いるトロール軍団。

 彼らは完全に亜人として社会に溶け込み、他種族との共存を果たしている。

 だがそんなアルビアですら、まだトロールと人間の結婚というのは例はなかった。

 その為ノエル達もあれほど驚いてしまったというわけだ。

 メリウスもそこは理解しているらしく、あまり気分を害してはいないようだった。

「いや、気にする必要はない。 私自身、彼女と出会うまでトロールと恋仲になるとは努々(ゆめゆめ)思わなかった」

 このヨアはトロールの中では小柄で整った顔つきをしているが、それでもやはりトロール独特の巨体と顔つきをしている。

 そんなヨアを見るメリウスの目は、完全に夫婦のそれだった。

「そもそもよ、なんでトロールが侍女になれたんだ? アルビアならともかく、ここじゃトロールは完全に力のいる重労働か軍の弾除け要員行きだろ?」

「それは私の指名だディアブロ殿。 と言っても最初は恋愛感情はなくただの興味本意だった」

 話によると、ヨアは巨体で不器用なトロールの中では珍しくかなり手先が器用らしい。

 自身の服を小さな針と糸を使いプロの仕立て屋並に直している姿をたまたま見かけたメリウスは、珍しいという理由だけで侍女として買ったのだった。

 言ってしまえば、ただの道楽だ。

「だがヨアを近くに置いて私のトロールのイメージは一変した。 他の者が気付かない細かい所まで気が回り、此方の意図をすぐに察する聡明さ。 正直周りの皇族や貴族達でもこれ程の女性はいなかったよ」

 メリウスの言葉に、ヨアは更に顔を赤らめる。

「やがて彼女を通して亜人への考えが変わっていくにつれ、彼女に惹かれている自分に気付いたよ。 初めて名を聞き体を交えて時の事は今でも鮮明に・・・・」

「メリウス様、それ以上は・・・」

 流石に耐えかねたのかヨアがメリウスを制した。

「完全にノロケね」

「ですね」

「はははは・・・・」

 少し呆れ気味のレオナにリーティアが同意し、ノエルは渇いた笑いをするしかなかった。

 事実、先程までの緊迫した空気はどこに行ったんだというくらいメリウスとヨアの間からほんわかした空気が広がっていた。

「つまり、彼女との結婚を認めてもらう為に解放連盟を?」

「いや、それだけだったらダグノラを見極めた後接触し、共に亜人の認識を変えるという方に動いただろう」

「では、なぜ?」

 メリウスは再び表情を引き締めると、まっすぐノエルとダグノラな向き合う。

「ヨアの腹の中には私達の子が宿っている」

「なんですと!?」

 皆が驚く中、真っ先に反応したのはダグノラだった。

「それは真ですかメリウス様!?」

「ああ。 恐らく来年には産まれるだろう。 これで私が事を起こさなければならないかわかっただろう?」

「なんと・・・・なんということか・・・・」

 ダグノラは驚きながら頭を抱え始める。

「ダグノラ殿、大丈夫ですか?」

「いや、すまないノエル殿。 しかし、なんということだ。 王族が、しかも現王弟が第一級罪を」

「第一級罪?」

「この国で一番重い犯罪ってことさノエル君。 そもそもこの国では人間と亜人の恋愛は禁止されている」

「!? どうしてそんな事が?」

「簡単さ。 この国では人間こそ至高の存在で亜人はそれに使われる家畜に浸しい存在だ。 そんな亜人と至高の存在の血が混じるなんて、この国の理念を大きく傷付けるもの以外に他ならない。 唯一例外は娼婦として亜人を抱くことだけど、それでも子が出来れば即下ろさなければならない」

「そんな、酷いことが・・・」

「それがこの国の現実さ。 現にこの国で亜人との恋愛、もしくはメリウス君の様に事実上の夫婦関係になった者は拷問の末見せしめとして国民の前で処刑されている。 無論、二人の子供も含めてね」

 エルモンドの説明にノエルが絶句すると、ダグノラが続けた。

「しかもメリウス様は王の弟。 つまりこの国の象徴とも言える存在の片割れ。 そんな方が亜人と子を成した等知られれば、確実に殺される。 何日も精神的、肉体的苦痛を与えられ、やがて自分が間違っていたと強引に認めさせられた状態で大罪人として処刑される。 貴方はその事を理解していた筈ですぞメリウス様!?」

「では私にどうしろと? まだ何も知らぬ無垢な存在である我が子を、己の命惜しさに見捨てろと!? そんな外道を私にしろというのかダグノラ!?」

 メリウスの気迫にダグノラが一瞬押されると、ノエルは静かに聞いた。

「では、今回の事はその子の為に?」

「ああ。 その通りだ」

 メリウスは立ち上がるとヨアのお腹を愛しそうに撫でた。

「勿論亜人に自由をというのも嘘ではない。 だが、子が出来て心の底から思ったよ。 何も知らぬこの子を、今を生きる我々が作ってきた悪しき文化の犠牲者にしてはならないとね。 その為なら、私は兄上を」

「お待ちくださいメリウス様! 今ここで事を起こせば、益々人と亜人との軋轢が広がるのみです!」

「ではどうしろというのだ!?」

「私がお守り致します!!」

 ダグノラは立ち上がるとメリウスとヨアの元に近付き膝まづいた。

「御二人とその御子の命、このダグノラが命に変えてもお守り致します! ですからどうか!」

 ダグノラの行動にメリウスとヨアは明らかに動揺した。

 ダグノラはメリウスのみでなくヨアに対してまで礼を払った。

 それはヨアをメリウスの妻であり同等の存在と認めた証であるからだ。

「お前は、認めるというのか? 私達を?」

「無論。 確かに当初は驚きました。 また現状を見れば御二人の行動を軽率だとも思います。 しかしメリウス様がヨア殿と真に心を通わせ結ばれたのであれば、反対する理由はございません。 そして御二人の御子は、これよりこの国の人と亜人を繋ぐ掛け橋となり得る存在、いわば我らの希望の火となりましょう。 そんな尊い子を、反乱の理由にしてはなりません。 どうか、ここは私を信じ、御二人の守らせていただきたい」

 ダグノラの正直で、それでいて真っ直ぐな言葉にメリウスは手を小さく震わせる。

「だが、お前が味方に付いても、反乱以外に道は・・・」

「お忘れですかな? この場には私以外の者がいることを」

 メリウスはハッとし、ノエル達の方を向いた。

「おいおい、俺達を利用する気かよ?」

「その通りだディアブロよ。 機を逃し、利用すべきものがあるのに使わぬのは愚か者のすることよ」

 悪びれずそう話すダグノラに、リナも口元にニヤリと悪い笑みを浮かべる。

「だとよ。 どうするノエル?」

 ノエルは改めてメリウスに向き直る。

「僕達の目的は、拐われた仲間達を連れ帰ることです。 この国の内政にまで関わるつまりはありませんよ」

 突き放す様なノエルの言葉の真意を察したメリウスは、会った時とは違う、しかし真剣な眼差しでノエルを見た。

「ああ、貴方にそこまで頼むのは筋違いであることは承知している。 だが、どうか一時私達に力を貸してほしい。 どうか」

 メリウスは頭を下げ、それに続きヨアとコポルトと頭を下げた。

 それはダグノラがかつてノエルに見せた誠心誠意の礼と同じ心からの懇願だった。

 ノエルはそれを見届けると、表情を崩した。

「わかりました。 ですが、僕達は自分の目的を最優先させます。 それでも良ければ、力になりましょう」

「! 感謝する」

 再び頭を下げるメリウスの瞳に、うっすら光るものをノエルは見た。

 思えば本来メリウスは争いを好まない。

 それでも自身の守りたい者の為に反乱を考えなければならないほど追い詰められていた。

 誰に頼ることもなく、ただ一人でその重圧を抱えていた。

 それが今ノエルとダグノラという協力者を得たことで、張り積めていたものが緩んだのだろう。

「というわけで、これから少々厄介なことになりますが、エルモンドさん」

「ふひひ、任せてよ。 策を考えるのが僕の役目だからね」

 出番と見てニヤリと笑うエルモンドは、既に己の脳内に広がる計画を話始めた。

「それじゃ、会ってこようか。 現王サファイル君に。 ふひひひひひ」


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