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五魔(フィフス・デモンズ)  作者: ユーリ
五魔捜索編
10/360

アラビカスと魔竜

今回はバハムートの登場です!

 1週間後、途中で聖帝の妨害もなく進んだ一行は、無事アラビカスに辿り着いた。

「か~!流石に賑やかっすね~!」

「凄い人・・・それにこんなに光る看板は初めて見ました」

「仮にも有名な歓楽街だからな。こんくらい当然だろ」

 行き交う人々と魔力で灯されるネオンに驚くライルとノエルに、リナはなんでもないように言った。

 歓楽街アラビカス、その名に相応しくこの街にはカジノや劇場等娯楽施設が多く、それに伴い多くの酒場やレストラン、ホテル、更には土産屋等が集まってきている。

 リナは人の多さに呆れた様に息を吐く。

「こういうごちゃごちゃしたとこは苦手なんだよな~・・・」

「あの、素になってますよリナさん」

「ここなら平気だ。 ここはとにかく遊ぶための街だ。 身分隠して来るお偉いさんも結構いるし、素性探ったりしないってのが暗黙のルールみたいになってんだよ」

「そういうものなんですか・・・」

「そんなもんだ。 ほら、さっさとあいつ探しに行くぞ」

「え~! ちょっとくらいカジノで遊んでからでもぐがん!?」

「んな暇も金もねぇだろ! 第一無駄遣いしてケーキ抜きになんかなったらどう責任とんだ!?」

「わかった! わかりましたよも~!!」

 しっかりケーキ抜きが効いているのに不思議な気持ちになるノエルは、ライルを殴り歩き出すリナに付いていく。

「バハムートってどんな人なんですか?」

「本名クロード・ミスト。 魔力と空中戦じゃ俺らの中じゃトップクラスの男だ。 色々めんどくせえ性格だけどな」

 リナの評価に、魔竜バハムートの噂があながち間違いではないなとノエルは思った。

 空を自在に駆ける竜のプラチナアーマーの騎士、その姿を想像し、ノエルは自然と高揚する。

「そういや姉さんはなんでこんな所にバハムートがいるって思ったんスか?」

「噂とあいつの特技だ。 ここ数年この街で人気な店があるらしくてな。 それがあいつの特技と同じなんで、多分あいつだと思って・・・と、ここっぽいな」

 リナはある劇場の前で足を止めた。

 そこは歩く途中で見たどの劇場よりも大きく豪華で、その後ろにはその劇場と同等の大きさの豪邸が立っている。

 ネオンの看板には大きく『アクタードールシアター』と書かれていた。

「ドール・・・人形劇ですか?」

「ああ。 生きてる人間の芝居みたいだって評判だったから多分間違いねぇだろ」

 魔竜の特技が人形劇?・・・とノエルとライルが混乱すると、リナは近くの呼び込みの女の子に声をかける。

「あら、綺麗なお姉さん。アラビカスの記念に、奇跡の人形劇、アクタードールシアターはいかがですか?今ならまだ午後の部に少し空きが・・・」

「クロード・ミストに会いたい。 通してくれ」

 いきなりの申し出に、呼び込みの女の子は戸惑いつつ冷静に対応した。

「あの・・・座長にですか?座長は今開演の準備にお忙しいので、申し訳ありませんが・・・」

「魔王と魔帝が来たって言え。 そうすりゃいやでも通すだろ」

 突然のリナの言葉に、ノエルとライルは慌てた。

「ちょっと姉さん!? なに言ってんスか!?」

「そうですよ! いくらなんでもそれは・・・」

「大丈夫だって・・・ほら、さっさと伝えてこい」

「わ、わかりました。 少々お待ちください」

 呼び込みの女の子が中に入ると、すぐ長い金髪に青い瞳の綺麗なメイド服の女性が出てきた。

 女性は笑顔でこちらを向くと、綺麗に一礼した。

「お久しぶりです、リナ様」

「リーティアか。 随分可愛らしい格好じゃねぇか」

「今此方でメイドをしていますので・・・そちらの鎧の方が・・・」

「ま、正確には息子だけどな」

 リーティアはノエルの方を向くとニッコリ笑った。

「お会いできて光栄です。 私はリーティア。 クロードの世話係です」

「あ、はじめまして・・・その・・・」

 口ごもるノエルに、リーティアは察した様に口を開く。

「ここでは話しづらいですね。 ではとりあえず邸に・・・そちらの逞しい方もどうぞ」

「逞しいだなんて・・・そんな・・・」

「世辞だ。 いちいち照れんな」

「姉さんひでぇ!!」

 抗議するライルを無視し、リナ達はリーティアの案内で豪邸の中に入った。

 中も豪華で、あまり詳しくないノエルやライルが見ても一目で高額だとわかる様な絵画や彫刻等が飾られている。

「悪趣味な家だな」

「こういうものでも買わないとお金が減らないんですよ」

 リナの感想に対しさりげに凄いことを言うリーティアに、この劇場がどれだけ盛況なのかよくわかる。

「着きました。 クロードの部屋です」

 クロードの部屋を前に、ノエルは緊張感に包まれる。

 リーティアはノックをすると、扉をゆっくり開けた。

 次第に部屋の中が見えてくる中、ノエルはバハムートの姿を探そうとした・・・が、それはすぐ見つかった。

 いや、見つかったが、ノエルはそれがバハムートとは思えなかった。

 しかしそれ以外それらしい人物は見当たらなかった。

「リナ様達をお連れしました」

「ありがとうリーティア」

 リーティアに礼を言った人物は奥のベッドに寝転がっていた。

「久し振りだね~リナ。 随分可愛らしくなったじゃないか」

「お前は随分肥えたな、クロード」

 そう、今ベッドに寝転がっているクロードは少し・・・いや、かなりの肥満体、言ってしまえばデブだった。

 顔も体も脂肪でパンパンに膨れ、そのせいで手足が短く見える。

 着ている服もボタンが止められない為、上半身は殆どはだけている。

 おまけに頭は真ん中に長く髪をゆわいており、まるで昔話に出てくる砂漠の国の悪徳商人みたいな姿だった。

 クロードは重い体を億劫そうに動かしながら、近くにある皿からクッキーをバリバリ食べている。

 かっこいい騎士を想像していたノエルとライルは、唖然としつつ、どこか騙された様な感覚になった。

「ムフフ、10年も経てば変わるって。 しかしまさか君がここに来るとはねぇ・・・個人的には嬉しいよ」

「お前も相変わらずへんてこな趣味してんな」

「君も相変わらず言うじゃないか・・・で、そこの彼が例の?」

 クロードに視線を向けられリナに促されると、ノエルは冑を取り頭を下げた。

「はじめまして、ノルウェ・アルビアの子、ノエルです。 お会いできて光栄です」

 ノエルの顔を見て、クロードは「ほ~」と声を出す。

「随分可愛い顔じゃないか。 本当は娘じゃないの?」

「え、いや・・・」

「ムフフ、冗談冗談。 ノルウェ様の子供に会えるなんて、何があるかわからないもんだね~・・・それで・・・」

 すると、クロードの顔つきが少し変わった。

「なんの用で来たの? まさか魔帝の子供が魔王連れてくるなんて・・・・ただの観光じゃないんだろう?」

 クロードの質問に、ノエルは意を決し話始めた。






「いやだね」

 ノエルの話を聞き終わるなり拒否するクロードにライルが激しく抗議する。

「なんでだよ!? あんた姉さんと一緒で魔帝の部下だったんだろ!? その子供が力貸してくれって言ってんだから・・・」

「そこだよ筋肉達磨君」

「んだとこのデブ達磨が!!!」

 いきり立つライルをよそにクロードは続けた。

「僕はあくまで魔帝の部下だった。 彼の部下じゃない。 いくら子供だからって言うこと聞く義理はないよ。 第一僕になんのメリットがあるの? どんな理由にしろ、今さら聖帝と事を起こしたって今の生活も仕事も全部無くすんだ。 それに見会う何かもないのに力を貸せなんて、ちょっと図々し過ぎるんじゃない?」

「この・・・腐れ豚野郎が・・・」

「待ってライルさん!」

 殴りかかろうとするライルを、ノエルが押さえる。

「クロードさんの言う通りです。 これは彼にはなんの得にもならない、むしろリスクしかない話です。 拒むのは当たり前です」

「でもよ・・・」

「わかってます。 僕もここで引き下がる訳にはいきません。 その程度の覚悟で来た訳じゃないんです」

 説得されライルが拳を下ろすと、ノエルはクロードに向き直る。

「ムフフ、で、どうする気なんだい?」

「クロードさん・・・あなたを雇うことは出来ませんか?」

「・・・なに?」

「確かにあなたが僕を助ける義理も理由もない。 それなら、僕が報酬を払いあなたの雇い主になればいい。 そうすればあなたも納得するんじゃないですか?」

「・・・金で解決しようっての? 顔に似合わずこすい手使うね」

「使える手段はなんでも使います。 あなたに動いてもらうならね」

 暫し見つめ合うと、クロードはムフォッと笑いだした。

「ムフォフォフォ! 良いね~! なかなか言うじゃないの! 綺麗な理想論ばっか言ってなんにもしない奴より断然いいや!」

「それじゃあ!」

「そうだね・・・もし君が本当に払う気があるなら・・・これで雇われてあげるよ」

クロードはその太い指を5本立てた。

「・・・50万ラックか?」

「んなわけないでしょ。 筋肉達磨は黙ってて」

「んだとこらぁ!?」

「お前は黙ってろ!・・・500万か?」

「ノンノン」

「まさか・・・5000万ラック?」

「50億ラック」

「「「50億!!?」」」

 とんでもない数字に3人は絶叫し、今まであえてノエルに任せてあまり話さなかったリナもクロードに食って掛かった。

「てめ~クロード! 50億なんてでたらめな数字どうすりゃ出てくんだよ!? ふざけんのも大概にしろ!?」

「ふざけてないし、これでもその子をちょっと気に入ったからかなり安くしてあげてるよ。 本当はもう1つ0付けたいんだから。 なかなかないよ? 450億もまけてくれる太っ腹な人なんて」

「ぐ・・・」

「どの道んな金普通の奴持ってねぇだろ!? てめぇやっぱり来る気なんかねぇだろ!?」

「そこは大丈夫。 契約を破る事は決してしない。 本当に払うなら僕はその子に付いていくよ。 魔竜の名と、魔帝の名に誓ってね」

「む・・・く・・・」

 助太刀に入ったライルも言葉が出ず、黙り混むしかなかった。

「さてどうする? どう見てもそんなお金持ってる様には見えないけど」

「ちょ! ちょっと待て!」

 慌てたリナ達は集まりコソコソ話始めた。

「おいどうすんだよ!? 流石に50億なんて大金、俺らの所持品全部売っても足りねぇぞ!?」

「バイトしようにも・・・僕の顔指名手配されてますし・・・」

「やっぱりあいつ来る気なんかないんスよ!」

「いや、それはねぇ。 あいつが契約って言葉使うのは絶対それを守るって時だけだ。 そこは俺が保証する」

「つっても・・・どうやって稼ぐんスか? 焼き菓子売ったって何十年かかるやら・・・」

 悩んでいると、ノエルはクロードに向き直る。

「クロードさん」

「払うあてでも出来た?」

「それってどんな手段で手に入れてもいいんですか?」

「なに? 強盗でもする気?」

「いえ、そうじゃなくて・・・ここで働いて稼いだお金でも平気ですか?」

クロードは「ほぉ・・・」と言いながら顎に手を当てた。

「考えたね。 確かに僕のとこなら君に50億分の給料は払う事はできる。 少なくとも、他で働くより早くお金を集める事は出来るね。 でも僕にそれだけのお金持ち払わせるだけの何か特技はあるの?」

 それを聞き、リナとライルは閃いたように目を見開いた。

「聞いて驚け! こいつの料理はこの国一番うめぇんだぞ!」

「え!?ちょっとライルさ・・・」

「その上な! ケーキとかの菓子もプロ並だ! 多分この街のどこの店より旨いぞ!」

「リナさんまでそんな・・・」

「ふ~ん。 すごい自信だね。 なら試しに何かおやつ作ってよ。 材料も道具もここの好きに使ったいいから。 リーティア、案内してあげて」

「わかりました、此方ですノエル様」

「ちょっと待っ・・・も~、どうなっても知りませんよ!」

 半分やけ気味に言いながら出ていくノエルに、リナとライルは「頑張れよ~」と無責任なエールを送った。


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