2.初戦闘
気付いたのは幸運と思えた。
夕暮れとはいえ平地を歩いているため、視界は良好。結果、油断が生まれてしまった。
あれから荷物を可能な限りふくろに移し、しばらく竹刀を片手に歩いている時にふと思った……というより感じ取ったというのが正しいのだろう。
『ミ ツ ケ タ』
「……ん? うぁぁぁ!!」
体中に悪寒が走る瞬間に反射的に跳躍する。その瞬間、それまでにいた場所に飛来物がちらりと見えたのを確認し、竹刀を両手で握りしめて向き直る。そこにいたのは……
『……』
1匹のゴブリンがいた。ただし、こちらを獲物と認識いしているように感じる。次に目に入るのは武器だ。鑑定が使えない為、不明だがおそらく銀の剣に近い武器を手に持っていると思われるが、銀装備特有の輝きは赤黒い汚れで失われていた。おそらく冒険者から奪った武器を使っていると思われる。
つまり、こいつにとっては俺は弱者(獲物)。
「これがこの世界の現実か」
そう呟いて、こちらも臨戦態勢を整える。現代の日本のスポーツではなく互いの命が掛った……死合だ!!
構えた後の幾ばくかの間が過ぎた時にゴブリンがこちらに飛びかかってきた。1~2m程度の距離をこちらの予想していた以上の跳躍力で迫ってくる。そして剣を俺に突き刺してくるのだろう。しかし、
「―――面!!」
試合での剣道の振りの速さに慣れている俺にとっては反応できる速度だった為、おまけに跳躍によって顔の高さぐらいまで来ていたゴブリンを空中でたたき落とした。
防具を来ていたない生物への打撃は初めてだった為か違和感があったが、打たれたゴブリンのほうは地面に激突してしばらく痙攣している。
ゲームでいえばスタン状態だろうすぐに起き上がることはできなそうだ。
すかさず、ゴブリンから銀の剣を奪い取り、力の限り首元に突き刺した。
『!?!??!?!』
刺された痛みで意識が覚醒したのだろう。また暴れそうだと判断し、マウントポジションを取り、複数回追い打ちをかけることにした。
やがて、ゴブリンの痙攣が止まり、何も言わない死体になった。
呼吸を乱しながらもふと考えた。
結果としてあっさり片付けることができたが、ゴブリンの一撃は急所狙いだったので攻撃が外れていら立場が逆になっていたのだろう。改めて自分のおかれた状況に危機感を覚えながらもふと、死体を観察してたら夕暮れの光に照らされている時に死体の中から小さな結晶を見つけた。
「これは水晶か?」
手に取った水晶を確認すると、持ち物の欄には魔結晶(***ゴブリン)と書かれていた。どうやらこの世界では持ち物の情報はすべてで識別されるものではないみたいだ。
自分がしていたエスカレートファンタジーだとイージー難易度はどのアイテムも取得時に自動鑑定される。そして最高難易度はアイテムの名前以外は未鑑定アイテム状態で取得する。その識別は鑑定スキル・冒険者ギルド・鑑定士のいずれかが必要となる。しかし、この世界は自分の知っている世界とは限らない。エスカレートファンタジーではないまったく別の世界の可能性が高いはずだ。ここで決めつけるのは得策ではないだろう。
やがて夜が間近に迫っているのに気が付き、回収した武器は倉庫に放り込んで急いでその場を離れることにする。
こうして、初戦闘に勝利して悠々と街に入ることが---
「---できるわけないよな。……って、うぉおおおお!!門が閉まり掛けてるぅぅぅぅ!!もしかするとあれか街に侵入させない為に締め出しかよ!!俺が入るまで待ってくれ―――!!」
現在、街まで全力疾走である。間近に近づいてきた街は鐘を鳴らしながら門が徐々に閉まり始めていた。
まあ当然だろう---なぜなら
『ウォオオオオオオオオ!! そのニンゲンをコロセ---―――――――!!』
俺の後ろからは多くのゴブリンが追い駆けているのだから。
いやまさか、別のゴブリンが1匹、どこからともなく現れたと思えば、俺を追い駆けてきたのを確認したときはもう無視することに決めて走り続けること、10秒程度で数十匹単位で増えていきやがった。
おまえら1匹見れば10匹以上とかゴ○ブリかよ。
『われらの英雄デストロイヤー様を亡きものにしたニンゲンをコロセ―……おい、弓を持て!奴の足を狙えーーー』
「―――っぷ、あいつデストロイヤーって名前かよww」
やばい、中二病っぽい名前が少し笑いのツボに入った。
『おのれぇええええ、どこまでも愚弄しおってーーー、弓はもういい!!このまま地の果てまで追い駆けてコロス!!』
火に油を注いじゃったけど、遠距離攻撃がなくなったので結果オーライ。
これは推測だが、若いものに狩りを教えるためにお手本としてボスが戦闘を仕掛けてきたとすれば、返り討ちにされたからその仇打ちか。この分だと大きな部落(コロニ―)のボスだったのだろう。
というよりもしかしてネームド(名前持ち)モンスターかよ。
冒険の最初で来るモンスターではない---いや、現実ならあるな。魔王とばったり街中で出会いそうだ。
そんなことを考えながらも、この鬼ごっこは俺のほうに軍配が上がった。
門まで来た時に閉まりかけた門の隙間に転がり、街の中に入ることができた。
荒い呼吸を立ててへたり込んでいると門がしまる音が聞こえた。
これであいつらは追ってこないだろう。
「―――ハァ、ハァ……間にあったぁ。」
全力で走り続けた足は痙攣を起こして、しばらくは立てそうになかった。
ふと足音が聞こえ、そちらに目を向けると西洋風の防具を身に付けた兵士が数名こちらに歩いてきた。
「外のゴブリンを連れてきたのはお前か?」
幾分か呼吸が落ち着いたので、最後に深呼吸して答えた。
「……そうだけど、あいつらが勝手についてきただけだ」
俺の言葉に質問してきた兵士が幾分かこちらをジロジロと見て、
「変わった服装だな。和国の服装に見えるがそちらが故郷か?」
……和国だと!?俺がやってたゲームに出てきた地域の中で同じ言葉があったぞ!!
「―――確かに俺は和国出身だ。というより知っている人がいたのが驚いた。」
「知り合いがいたからな。それよりも事情を聴かせてもらいたいが、詰め所まで来てもらえるか」
「いいですよ。けれど、外の奴らをどうします?」
俺の心配をよそに苦笑しながら答えた。
「―――まあ、心配ないだろう」
その言葉の真意を確かめようと声を出そうとした瞬間
『飯の種が来たぞ!』『俺の獲物だーー!』『ひゃっはーー!!生きのいいゴブリンだー!』
『盾持ちは前に出て弓兵を引きつけろ!』『前に出すぎるな!弓兵・・・・・・・放て!!第2射―――』
突如、大勢の声が周囲をから聞こえてくる。
その後にゴブリン側の悲鳴・人間の叫びが耳に届いた。すぐに金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
門の外側で戦闘が起きているのだろう―――古代の戦争ではないかと思う。
そして好奇心が生まれた。
「―――詰め所に行く前に行く前に寄り道をお願いしてもよろしいでしょうか?」