8話
…… コクリっとついりは頷いただけで、恐怖と驚きのあまり微動だにしない。
「(間に合わなくて、ごめんなさい。)」
ナギは近くに横たわる、ついりの親友だったものに視線を向けると…… 心のなかで詫びる。
目の前の死を真摯に受け止め、視線を白い結界に向けた、ナギの瞳には力強さが戻る。
視線の先には、結界の濃度が低下したこにより生じた結界の切れ目から無数のゲシュペンストが雪崩れ込んできている。
化物達は黒褐色の人の形をしていて、荒れ地をゆらゆらと木偶の坊のように進んでくる。
「木蠹蛾ばかりのようね。」
ナギは錆びた鉄柵に近付き、屋上から勢いよく飛び降りる。
地面に着地した、次の瞬間には右の靴裏に圧縮していた粒子を爆発して、ナギは50m程跳躍する。
跳躍している間に、左の靴裏に粒子を収束して、また、跳躍する。
ナギは右足、左足…… と跳躍を繰返し、あっという間に有象無象との距離を詰める。
無秩序に進行していた木蠹蛾達は覚醒したナギの存在を感知して、吸い寄せられるように向かってくる。
100体以上の敵と対峙する。
帯刀している【三日月】の柄を手にしたナギは姿勢を低くし、抜刀の体勢になり……
下腹部に酸素を送り込むように深く呼吸して、超高密度に圧縮した粒子を刀身に纏わせていく。
刹那、ナギによる斬撃が放たれる。
刀身から開放された粒子は、三日月のように反った形をしている。
その透明な三日月は、ダン! ダン! っと段階的に大きくなりながら、音速を遥かに越える速さで、標的に迫り……
次の瞬間には、100体以上の木蠹蛾を周囲の空気ごと真っ二つにする。
再生が不可能なレベルの損傷を受けた木蠹蛾達は刻々と、黒い霧と化していき霧散する。
黒い霧が集まり、まるで漆黒のカーテンのように風でなびく。
ナギが、反りが大きく、細身の三日月を鞘に収めた直後……
3体の玄兜が黒い霧を掻き分けて、襲い掛かってくる。
玄兜達の拳が鈍く見えるナギは、圧縮した粒子を、ハニカム構造状に変形させていく。
そして、瞬く間に、それを幾重にも重ねていき、透明な装甲を形成する。
装甲が拳を阻む。
首を傾げる3体は、ナギの手により、胸骨に風穴を開けられ霧散していく。
黒いカーテンも消失しており、白い結界がまた、目の前に広がる。
ナギが周囲のゲシュペンストを殲滅したことを確認していると、装着しているインカムに通信が入る。
「こちら、オカサトミヤ四国支部所属第08防衛班。 貴官の所属と氏名を述べよ。」
「こちら、 オカサトミヤ本部所属の特殊能力遊撃部隊【Chevalier】小隊長、宇治橋ナギ。」
インカム越しに、防衛班の能力保有者が息を呑んだ音が聞こえるが、ナギは気にせず進める。
「結界の切れ目から侵入してきたゲシュペンストは殲滅。ギフトの濃度が低下した、転換機の状況を教えて下さい。」
「該当の転換機は大破した為、これから仮設タイプの転換機を設置します。ご協力お願いします。」
ナギの肩書きを知った防衛班は丁寧な口調で応える。
「了解。無人地帯に先行しますので、増援をお願いします。」
背後から近付いてくるエンジン音に気付いたナギが振り向くと、軽装甲車や輸送ヘリが何台も駆け付けている。
周囲を警備するために、能力保有者や武装した請負人達が散開していく姿を見たナギはまた、跳躍を繰返しゲシュペンストの巣窟に先行していく。
ーーーーーー
「…… …… …… 」
ついりは未だに座り込んだままで、ナギが無人地帯に進んでいく姿を只々、見つめるだけだった。




