7話
―a few minutes ago― <数分前>
一機の輸送ヘリが夕焼けの空を飛んでいく。
ヘリの中には、パイロットと後部スペースの座席に座る若い女性の二人だけだ。
無機質で武骨な機体のなかで、彼女はまるでダイヤモンドのように栄えている。
すらっとした細い体型に沿うように、腰の辺りまで伸びた白銀の髪と色白の肌からは美しさを、鋭い瞳からはクールさを感じさせる彼女の名前は宇治橋ナギ。
昨夜に起こった研究施設の何者かによる潜入事件に関する現場検証と事情聴取を終え、帰路につく最中である。
ナギは穿いているカーキ色の短いキュロットスカートと黒いタイツの上でノートPCを開き、情報を整理している。
『死者・負傷者は無し、事件に巻き込まれたと思われる研究員達には事件に関する記憶が全く無い。
また、事件直前から直後までの間で監視カメラに原因不明の不具合が発生し、容疑者特定には至らず。』
ナギは一旦、キーボードから手を離すと何かを考える素振りを見せる。
「…… でも、どうしてこの2人のギフトなのかが不明ね。」
思わず、今、考えている疑問の一部がナギの口から漏れる。
ついりと秋沙の名前や能力順位等のプロフィールを表示するPCのウインド画面を隠すようにいきなり警告画面が表示される。
その警告は近辺でゲシュペンスト出現による救難信号を受信した際に表示されるアラートである。
「近いわ、急行して。」
ナギの指示通り、輸送ヘリが現場に向かう。
ナギはブラウスの上に装着しているショルダーホルスターに収まる回転式拳銃を手に取り、銃身が4インチの【M686】のシリンダーに.357マグナムが6発装填されていることを確認すると……
立ち上がり、隣の席に立て掛けている刀袋から鞘に収まった状態の日本刀を取り出す。
取り出したのは宇治橋家に代々、受け継がれている名刀『三日月』。
さらに、スカートに装着しているポーチから透明なケースに入っている白い粒状のギフトを取りだし、口に含むと……
ナギの聴覚が感知する、ヘリのプロペラの回転が徐々に遅くなっていく。
そして、視覚が捉えるヘリのハッチはやたらゆっくりと開閉していく。
本来ならば、勢いよくヘリ内に流れ込んでくる風もナギの肌は緩やかに感じ、シャボン玉のように浮かぶ透明な粒子を瞳が捉え始めると、ナギはハッチに向かって歩き出す。
パイロットはナギがパラシュートを着けていないことを、気にも留めない。
そして、ナギはヘリからふわりと飛び降りる。
ゆっくりと落ちていくなか、靴裏に意識を集中すると、周囲に点在している粒子が集合し、圧縮されていく。
「玄兜を一体、視認…… !?」
ナギの視界がゲシュペンストだけではなく、2人の少女の姿が映る。
ナギは靴裏に集めた粒子を開放し、逆噴射の要領で2人がいる廃ビルの屋上に進路を変える。
「攻撃の有効範囲に到達。これより、ゲシュペンストの殲滅を開始する。」
ナギは降下しながら、玄兜の背中に風穴を開けるため、粒子を圧縮していく。
すると、右肩辺りで見えない透明な弾丸が形成されていく。
そして、放つ。
ナギの長髪をさらになびかせた弾丸は、音速を越える速さで向かっていき、標的の背中を貫く。
風穴が空いた標的は少女に右手が掛かる寸前で動きが止まる。
再度、多くの粒子を開放し、ゆっくりと屋上に着地したナギは、少女のほうに視線を向ける。
「あなたが朝宮ついりさんね。」




