5話
放課後を告げるチャイムが教室内に鳴り響くと、生徒達は帰る支度を始める。
ついりも同じく、帰るために教科書を鞄に閉まっていると秋沙と綾音が現れる。
「朝宮、私達も帰ろ。」
秋沙は暑いのか、ブラウスの袖を捲り直す。
「うん、帰ろ。」
ついりが帰り支度を終えて、席から立ち上がった次の瞬間、教室の引き戸が開く。
「朝宮、小野はまだいるか? 2人にお客さんだぞ。」
見るからに体育教師の若い男性は、教室内を見渡して2人を見つける。
「はい、います。」
秋沙は返事をしたあと、怪訝な顔でついりのほうを見ると、怪訝な表情を浮かべるついりと目が合う。
体育教師のあとを付いていくと、2人は職員室の隣にある応接室に通される。
ついりが体育教師に促されるように引き戸を引き、室内に入る。
秋沙もその後に、続いて入る。
「初めまして。オカサトミヤ四国支部でPSC部門の人事を担当しております音無カリンと申します。」
黒いリボンのバレッタと黒縁のメガネが印象的なスーツ姿の音無は2人を見ると、立ち上がり軽く頭を下げる。
「えっと、朝宮ついりです。よろしくお願いします。」
ついりは同性でありながら音無の気品があり、聡明そうな姿に一瞬、見とれる。
「小野秋沙です。よろしくお願いします。」
秋沙はいつもの調子で返事をする。
「どうぞ、お座り下さい。」
音無は少しついりを見つめた後、座るように促す。
「本日は昨日、Chevalier の代表である宇治橋ナギサさんが話されたことに関する補足説明をさせて頂きたいと思い、お二人が通われている高校に足を運びました。」
音無は革張りのソファーに座ると、話を続ける。
「お二人の能力順位は、朝宮さんが第一位、小野さんが第四位でしたよね。」
音無は頷く2人を確認し、話を続ける。
「ご存知であるとは思いますが、能力順位について説明させて頂きます。順位の位は第五位、第四位、第三位、第二位、第一位の5つに分類されております。」
音無は革製の赤い鞄から2つの透明なケースを取り出すと、2人との間にある机の上に置く。
そして、さらに説明しようとするが……
「あと、無敵の第零位に分類される能力保有者の人達が居ますよね。」
秋沙が少し自慢気に割り込んでくる。
「ええ、そうですね。本来だとzehntは10番目という意味なのですが、第一位10人分の強さと称されていることが由来になっています。そして、第零位が本気を出せば、小さな町の1つや2つは一瞬で凪ぎ払うことが出来るとも言われています。」
音無は話の腰を折られて、苦笑しつつも応える。
「それで、ですね。今、お出ししたのは能力保有者が覚醒し、粒子を可視化して操ることが出来るようになるために必要な錠剤【GIFT】になります。」
音無が出した2つのケースには白い【GIFT】が1粒ずつ入っている。
「GIFTは能力保有者によって、服用出来る量と濃度が異なる為に、完全オーダーメイドになっています。」
音無はケースを2人に手渡す。
「私は第五位ですので、使用したことがありませんが、能力保有者の方達が覚醒した際の感覚の例えとしてよく言われるのがゾーンに入る感じだそうです。」
音無の例えに秋沙は頷いているが、ついりはいまいちピンと来ていない。
「ゾーンってなんですか?」
ついりは率直な疑問を音無にぶつける。
「そうですね。スポーツ選手の集中力が極限まで高まってボールが止まって見えたり、実際のボールのサイズより大きく見える状態のことです。」
疑問が解消しきれていないついりの為に、音無はもう1つ例を挙げる。
「交通事故の時に、ぶつかる直前の様子がスローモーションになる感じといえば伝わりますか?」
ついりは合点がいく。
「補足ですが、位が上がるほどあらゆる現象をより鮮明に視認出来て、より広範囲の粒子を探知することが出来ます。」
2人はへぇ!〜 っと納得する。
「確か、初めて覚醒するまでは自身が操れる粒子の性質は分かりませんでしたよね?」
秋沙が確認を取るように質問する。
「そうですね、因みに粒子の性質は幾つあるかご存知ですか?」
音無が問いかけると2人は考え出す。
数種類思い当たる秋沙とは、真逆についりは思いつかない。
「えっと、火・水・風・土・木だったはず。」
秋沙が全て答える。
「その通りです。ですが、これら以外の性質…… 異常性質を操る保有者もいます。」
音無は例えば? っていう表情を浮かべるついりの為に、応える。
「このほかには、量子そのものとかですかね。」
一瞬、口元が緩んだように見えた音無が続ける。
「どの性質かは、一度覚醒するまで分からない為、初回は必ず専門家立ち会いのもとで行って下さい。最悪の場合、粒子が制御できなくなり、深刻な被害を生み出すことに繋がりますので。」
音無は口調を強めて、注意喚起する。
「これで、私からの説明は終了します。少しでも、お二人の今後の人生の参考になれば有り難いです。」
音無は再度、2人に視線を向ける。
「はい、ありがとうございました。」
2人は息を呑むように返事をする。




