9話
何処からか蝉の鳴き声が聞こえてくる、夜の暗闇に覆われた、荒れ地のなかで明るい照明に照らされた一帯がやけに目立つ。
その一帯には、アサルトライフルやらスナイパーライフルやらを持った請負人達が周囲を警備していて、複数のテントが建ち並ぶ。
そのテントの高さは大人の背丈よりも高く、室内は10人程度の野営には十分に大きい。
そのうちのひとつの中から、すすり泣きが聞こえてくる。
テントの奥のほうで、2つ並ぶ黒い遺体袋の近くで2組の両親が泣き崩れている。
その状況を、入り口付近で見るついりは只々、呆然と立ち尽くしている。
布製の入り口をはためかせ、入ってきたナギは、ついりには目もくれず、2組の両親の元に歩み寄り、声を掛ける。
そして、深々と頭を下げる。
2組の両親に促され、ナギは頭を上げるが、もう一度、軽く謝る。
ナギが俯いているついりに向かってくる。
「私…… 見ているだけで何も出来なかったです。」
床には涙の跡が、次から次へと着いていく。
「朝宮さん、ゲシュペンストに対して無力な現状が嫌なら付いて来てくれるかしら?」
「…… はい。」
ついりは、震えながらも力強く返事をする。
ーーーーーー
ついりとナギを乗せた輸送ヘリが野営地から飛び立ち、首都である京都に向かう。
ナギがインカム越しに、ついりに話し掛ける。
「朝宮さん、音無カリンと名乗る女性と接触したのかしら?」
「はい、四国支部の方ですよね。」
「四国支部? そう…… 詳しくは本部に着いてから改めて聞かせてもらうわ。」
ついりの返答に違和感を示しつつ、ナギは膝上のノートPCに視線を戻す。
ついりがふとヘリの窓から見える景色に視線を向けると……
上空からの白い結界はまるで夜空に浮かぶ雲のように微かに見える。
一定の間隔で回るヘリのプロペラの音も相まってか、心身ともに疲れているついりは睡魔に襲われ、寝てしまう。
ーーーーーー
「あれ…… ここはどこ?」
さっきまで、ヘリに乗っていたばすのついりが気が付くと、目の前に濃くて暗い赤色の湖が広がってる。
暗闇に覆われている湖のなかで、水面の上に浮いているついりはピンポイントで照らされている。
水滴が一滴だけ、落ちる音が聞こえる。
水滴の波紋がついりの足下に辿り着いた次の瞬間、数発の銃声が響き渡る。
「なんだ、こいつ!? 銃が利かない。」
「くそ、秋沙逃げろ! うあぁ〜 」
「よくも優希を…… 怖くなんてないんだから、この化物!」
聞き覚えのある声が何処からともなく聞こえたあと…… 暗闇の中から水溜まりを歩くような足音が一歩、また一歩と近づいてくる。
照明の光が届く範囲のわずかさき、ほのかに明るい部分にまず、高校生が履くローファーが現れる。
ローファーが一歩踏み出すと、紺色のハイソックスと生気を失い冷たくなった脚までがほのかに照される。
また、一歩近づいてくるとついりも履いたことがある制服のスカートまでが照される。
また、一歩…… 胸の辺りに血痕が着いた制服のブラウスまでが照される。
「朝宮、逃げるなら早く逃げて!」
ほのかに照らされた口元が叫ぶ。
「いや、やめて……」
ついりは思わず、両耳を両手で塞ぐ。
「第一位なのに…… なんで、戦わなかったの…… ねぇ?」
「能力が暴走するかもしれなかったから仕方なかったの。」
ついりはその場にしゃがみこむ。
「あなたが戦っていれば犠牲者は出なかったのよ。」
また、何処からか女性の声が聞こえてくる。
「ゲシュペンストに対して無力な現状が嫌なら付いて来てくれるかしら?」
「うん…… だから、私は戦うことを決意したんだ。」
ついりは立ち上がり、叫ぶ。
ーーーーーー
オカサトミヤの首都本部にある滑走路に2人を乗せた輸送ヘリが着陸する。
うなされているついりを怪訝そうに思いつつ、ナギはついりの肩を軽く叩き、到着したことを伝える。
ヘリの後部ハッチが開いていくと…… スーツ姿のナギサが佇んでいた。
滑走路に降り立ったついりと目が合うと、ナギサが声を掛ける。
「ようこそ、Chevalierへ。」
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