Gespenst
『君は何を望み、君自身の力で何を叶える為に、必死になりたい?』
昨日、喫茶店でスーツ姿の若い男性から聞いた言葉が頭の中でこだまする少女は自身の右手の手のひらを只々、見つめることしか出来ていない。
少女の手のひらの上には、人指し指の第一間接程の大きさの白い錠剤がある。
「朝宮、逃げるなら早く逃げて!」
少女は鬼気迫る親友の声にハッ! と我に帰り親友のほうに視線を向ける。
「よくも優希を…… 怖くなんてないんだから、この化物!」
自分自身に発破を掛け、木刀を握り直した親友の眼前にはやや猫背の不気味な黒い化物が立っている。
黒い化物の頭は鈑金鎧の兜のように変形して、夕日を反射する黒い皮膚は身体中の骨や筋肉と同化して異常に隆起している。
「どうしよう…… でも、巻き込んでしまうかもしれないし……」
少女は再び、手のひらの錠剤に視線を向けることしか出来なくなる。
「やっ!」
親友は化物に向けて木刀を振りかざす。
化物は木刀を片手で難なく、受け止める。
木刀を受け止めた右手の皮膚は熔けるように爛れていくが、その進行は次の瞬間には沈静化していた。
「そんな……」
親友はほんのわずかしかダメージを与えられていない現状に狼狽える。
化物は右手に持つ木刀を、愕然として微動しない親友ごと振り上げ、コンクリートの床に叩きつける。
「きゃっ……」
親友は短い悲鳴を上げた後は、全く動かなくなり、床にうつ伏せになっている。
親友の遠ざかる意識に併せるように、木刀は徐々に粉塵と化していき空中に散っていく。
…
化物は息も絶え絶えの親友の元にゆっくりと腰を下ろすと親友のうなじと右肩の真ん中辺りにかぶりつく。
「…… いゃゃあ!」
痛みで親友の意識が戻る。
そして、親友の痛みに呼応するかのようにコンクリートの床の表面が割れ、木の杭が次から次へと突き出てくる。
化物はその内の一本に、左肩を貫かれるが意に介さず、食事を続ける。
貫かれた左肩は杭が引っ込むと、穴が徐々に塞がっていく。
「えっ……」
少女は腰を抜かして、親友が襲われる様を只々、茫然と見ることしか出来ない。
……
食事を終えた、化物は顔を上げると少女の方を見る。
化物は口の周りを汚したまま、四つん這いの体勢で少女との距離をゆっくりと詰めていく。
「いや…… 来ないで。」
恐怖で腰が抜けている少女は全く動くことが出来ないでいる。
その間にも、化物は口から血液やらを垂らしながら近付いてくる。
「?!」
少女は再度、錠剤に目をやり、飲み込むことを決意する。
次の瞬間、少女に辿り着く既の所で、化物は背中から胸骨までを貫かれ大穴が空いた状態で、フリーズしたかのように止まっていた。
「どうして……」
予期せぬ出来事に怪訝な表情を見せる少女に、次の予期せぬ出来事が空から舞い降りてくる。
「あなたが朝宮ついりさんね。」
夕日を反射する白銀の長い髪が印象的な若い女性は少女の姿を視認するなり確認を取る。




