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世界は魔法で満ち溢れている!  作者: 六侘 アヤ
第一章 世界は驚きで満ち溢れている!
3/6

世界は驚きで満ち溢れている! ⑤~⑥

いや、めっちゃ時間経ちましたね!

私なんて言ってました? 最終投稿したあとがきで。

「自分に使命感~」とか言ってましたね。



はっ、全然使命感なんて感じてなかったぜ! なんて言えません。

長いなぁ、とか思いながらちょいちょい書いてました。

まだまだ一話かぁ、長いな。


いやぁ、ホンと長いなぁ。


何かこれから先登場するキャラとか考えてます。

仲間とかも! 美少女大好きなんですね、はい。

        ⑤


「ふぅ~…お腹いっぱいですー」

 椅子にぐったりとしているセレアに、俺は呆れた声で言った。

「……食べすぎだ」

「あうっ……ふぅ……」

「誰のお金で買ったと思ってるだか。俺じゃないけど」

 俺は深いため息をし、空を見上げると、いつも通り綺麗な青い空が広がっていた。所々雲があるが、雲があることに落ち着きを感じる。

 家にいる時は空を見上げてたりボーっとしてるのが日課のようになっていたが、今は訳あってこの街、ディレクトルにいる。

 その訳とは、元々は仕方なくクエストを受注しに行く。というだけだったのだが何故か今は受注しに行くことではなく、ネルセマのどうでもいい恋愛事情のせいで、喫茶店で待機中なのだ。

 何故こんな事になってしまったのか……冷静に考えると。

「セレア、全部お前のせいだ」

「…………へ?」

 何で? とでも聞きたそうな顔こちらを見てくる。深いため息をした。

 頭に『?』を浮かべ、こちらを見ているが、もう面倒臭くなってしまったので無視をした。

 すると、俺達の他にも人がいる事を思い出した、ハーディラという少女は俺を見ていたので、人見知りのせいか視線を逸らしてしまった。

「そういえば、あの人誰よ?」

 俺の事を言っているのか思い、チラッと再び見ると、明らかに俺の方に指を向けていた。誰か? とハーディラの質問にもう一人の少女シエーナという少女はそれに答える。

「桜桃族の仲間……だそう。あの黒髪の男、言ってた」

「へぇ、……仲間ぁ~」

 少女ハーディラはジト目で俺には興味がないと言わんばかりの返答をシエーナにした。ちょっと傷ついた。

 前を見ると、セレアが食事を止め、瞬きをせず、目を開けたまま俺を見ている。

「仲……間?」

 シエーナとネルセマにだけセレアは、もう仲間であるかのような言葉をしたのを思い出した。

 思い出した俺はセレアに言った。

「あ、ま、まぁ……さっき、ちょっと……な」

 俺の言葉を聞いたセレアは無言で、似合わないとは言い切れない笑顔を俺に向け――お菓子やアイスを再び食べ始めた。

 思わず、釣られてしまい俺も笑顔になってしまった。

 そんな時、先程の少女達の会話がまた耳に入った。

「あれ……でも、どっかで見たことあるよーな……黒髪………紅目…………。――っあ! ああああ! 思い出した! え、えっと、どこの種族だっけ! えっとぉ……」

「種族……? あの男なら……紅魔族っていう種族、らしい、けど」

「紅魔族!? ……やっぱり、紅魔族なのね! すごいわ! これはスクープよ!」

 やたら紅魔族と言っているハーディラは、何故かトリプルアクセルをしながら興奮している。

「スクープ……?」

「シエーナ知らないの!? 紅魔族って昔、無差別に人を殺していく種族らしくてね。何でも一晩で色んな種族が跡形もなく消えてしまっているらしいの。でも、その無差別に殺す姿は誰も見た事はないの」

「え……でも、それ、勝手に紅魔族のせいにしてるようにしか、聞こえない……」

「そう、そうなのよ。でも、何か決定付けた事があったらしいの。種族には一つや二つと、その種族しかない、スキルがあるじゃない? 紅魔族のスキルは『暗視』と『黒剣技≪こくけんぎ≫』らしくてね、黒剣技は、紅魔族の独特な剣技らしいのよ。その一晩で村にいる種族全員を殺した剣技があるからと考えられているわ。だって、種族の村にはガーディアンクラスの強さが二人以上は必ずいるのよ? それを一晩で全員殺す……。しかも、一晩でなくなった村に一番近い街で武器を持った紅魔族を目撃してる情報は必ずあるらしか――」

 ぺらぺらと、人の気も知らないでハーディラが紅魔族についてシエーナ話していると。突然、声を遮ってセレアがテーブルを強く叩いた。

「な、なにッ!? 今――ッ」

「うるさいッ」

 何故かキレ気味のセレアはハーディラに対して冷たい態度をとっている。

「は、はぁ? あ、もしかして……仲間の悪口を言われた~とかで、「許せない」とか言い出すつもりかしら? さっさとそんなギルド辞めれば良いのに。そんな人殺ししか脳のない種族の傍にいたら、あなたまで同類だと思われるわよ?」

 凄いイラつくが、俺もセレアに会った時いったが俺も入る事に賛成はしていなかった。

 今も、考えは変わらないが。入るかどうかは、全てセレアに任せる。というか、辞めれば良いのにって言ってるが、元々入ってないので、悪口を言われているとはいえ、勘違いしながらまじめな話をして、それを聞いてると何故か愉快になるな!

 とりあえず、勘違いしてますよなんて、この状況も理由の一つなのだが、話しかける勇気なんてないので言わないでおく。

「…………」

 セレアがハーディラの言葉に沈黙した。


 誰も喋らない……というか、セレア以外たぶん皆喋るタイミングが掴めない。

 そこで、やっとセレアが口を開いた。

「あなたは、ロクヤさんを紅魔族としてしか見てないじゃないですか……。あなたはロクヤさんの事何も知らないじゃないですか……ッ! 私もロクヤさんとは、今日会ったばかりでロクヤさんの事、全然分かりませんッ! でも、だから……――」

 セレアが俺の事を否定していない事が伝わる。だが、また声を遮って誰かの呼び声がした。

「お、おぉぉおおい……! おーい!」

「あいつ……ネルセマか。随分服がボロボロだな……」

「誰ですか……あれ」

 遠く、ネルセマがいる。セレアはネルセマと誘拐された事はあるらしいが、話した事はなかったのかな?

 どうでも良い事を考えていると、シエーナとハーディラが無言で駆け寄っていくのが見えた。

 何か話しているようだ。

「ロクヤさん、どうします?」

「どうするって……個人的には帰りたいんだけど」

「帰りますか?」

「俺はそうしたいなぁ、セレアはどこに帰るんだ?」

「もちろん、自分の家じゃないですか。なに可笑しなこと言ってるんですか」 

 当たり前と言わんばかりの顔で言われた。自分の里に帰るのだろうか。

「そっか。じゃあ、俺はもう行くわ」

 セレアと別れを告げずに、どこにあるかわからない出口を探す事にした。

「とりあえず、フード被るか。目立つとめんどくさい事になるし……」

 歩くものの、出口を見つけたとしても自分の家はどこにあるかわからない事を思い出した。

 セレアが壁を破壊したところから入ったんだった……。出口からより、穴の開いた壁から出れば近道かもしれない。

 そう思いながら、また、目的の場所へと淡々と無言で歩く。穴の開いた壁を目指した。

「……ここ、どこだよ……」

 迷ってる。たぶん、というかこれ絶対迷ってる。そうか、ディレクトルに来たことがあるからって、それは何年も前の事だ。道は何となく覚えているかと思ったら全然覚えてなかった!

 困った。人に声をかけようとも思っているが、どうしても体が動かない。声が届かない。

 例え声をかけても今は紅魔族がいる事で街が騒いでいるだろう。そんな中、俺が街の人に声をかけたら……。

「な、なぁ! そこの黒いフード被ったお兄さん!」

「…………っ!?」

 な、なんだ!? 急に! ど、どうしよう……と、とりあえず返事した方が……。

「な……な、なんで、すか!?」

「ん? 何でそんな驚いているんだ? まぁいい、それは置いといて。お兄さん、あんた、あの伝説のエロ本「私の体をあなたの杖で突いて」シリーズ全十巻の内、今六巻を所持しているだろう? 私には、わかるぞ! お兄さんから六巻の臭いがする!」

 な、なんだこのおじさん!? 嗅覚が人間じゃなくないか!?

 おじさんはまだ話を続ける。

「じ、実は……あと六巻だけで全部揃うんだよ。私はもう、五十七歳なんだがね。子供の時「私の体をあなたの杖で突いて」を読んだんだよ。そりゃあ、もう感動したよ、私の色んなところが響いたよ。確か十八歳だったかな、私がこのシリーズを絶対集めようって夢を持ったのはね……。それから、私はそのシリーズを集めるためだけの旅を始めたんだ。そのシリーズは結構古いじゃないか? でも伝説となる程素晴らしい作品なんだ。エロ本コレクターの中じゃ、かなり有名だよ……」

「………………」

 何て言ったら良いんだろう。まだ語るつもりなのかな。

「もちろん、旅をするのは親には反対されたけど私はね、「母さん達が今まで育ててくれたから今の俺がいる! 母さん達が今まで育ててくれたから、今の俺はこの夢を追いかける事が出来る。俺は俺の夢を叶えたいだ!」って思いっきり言ってやったよ……」

 うわっ、こいつ最低だ!

「え、え……えと、そのお母さんとお父さんは最終的は、どうしたんですか……?」

「ん? ああ、確か「もういい、出てけ……」って静かに言って私の夢を認めてくれてたよ。見送りは恥ずかしかったのかしてくれなかったね。いつか、この夢を叶えたら母さんと父さんのとこへ帰って「夢、叶ったよ」って言って抱きしめるんだ。あはは、もうこれが夢なのかな……」

 あぁ、どうしよう。嫌がらせにしか聞こえなくなってきた。まずは親が可哀想だな。

 最低な夢を何十年も追いかけて、エロ本持った息子に抱きしめられる親の気持ちが想像出来ない。エロ本を探すと決意して何十年も親から離れて、その夢が叶ったら家に帰って親を抱きしめる。

 夢だもんな、絶対叶えるって決めて何十年も探し続けるくらい本気で……。でもやっぱり親の気持ちが想像出来ない。

 そういう事か……どんな夢でもこの人は本気なんだよな。

 まぁ、つまりこの本が欲しいって事かな……いや、そうか。でも結構お気に入りだしな、渡すのは勿体無いような。でも! 親はこんな夢追ってる息子でも会いたいもんだろ! くそう、俺は一体どうすれば良いんだッ! 俺、教えてくれよッ!


「お兄さん、もちろん、ただとは言わない。その本を買わせてくれないか……? そんなに持っていないんだが……六百万でダメかな……?」

「おじさん、あなたの親に伝えてください。おじさんの夢は最低な夢じゃないって。帰ったらぎゅっと抱きしめてあげてください……」

 俺は「私の体をあなたの杖で突いて」シリーズ十巻の内、六巻をあげた。

「うおおおおおおおおお! 終に……揃った! うっ……ぐっ……ありがとう! ああ、帰ったらぎゅっと抱きしめるよ。本当にありがとう。あ、これ、約束の」


 ロクヤは六百万手に入れた!



         ⑥


 さて、どうしたものか。

 広大な夢を持ったおじさんにエロ本をあげ、その引き換えに六百万を手に入れた。家に帰りたいけど、帰れないし。

「まぁ、そのうち見つかるかなぁ……はぁ」

 ため息を一つ。

「そういえば、美味いとか食った事ないなぁ。高級な物とか。金いっぱいある――っいた」

「ちょっと! どこ見て歩いてるのよッ! ちゃんと前見て歩きなさいッ!」

 考えながら歩いていたら女性とぶつかってしまった。

「す、すすす、すみませんでしたッ!」

「ふんッ。今度から気をつけなさい!」

 そう、女性は言い、また歩いて行った。買い物をするのは無理そうだなぁ。

 どうしたものかなぁ。俺は近くに建物と建物の間に出来た一つの細い道。言わばあまり人目が付かないような所に移動した。

 日陰が出来ていて、涼しい。ふと、懐かしさを感じた。

「はは……なんだろうなぁ。懐かしい気がする。……人殺ししか脳のない種族、かぁ。あはは、何でそんな種族なんだろうなぁ……」

 しばらく、何も考えないでいた。というか、何も考えられないでいた。

 どうして、俺はここにいるんだろう。どうして、俺は嫌われているんだろう。どうして、俺は……生きているんだろう。

 ネガティブな事しか考えられないなぁ。あぁ、自分にイライラする。どうしようかな、動きたくないだよなぁ。

「……あ、はふぅ……」

 静かに眠りに落ちてしまった。



 ここはどこだろう……あれ。

 ここは……。

「どこだよッ!」

 周りには武器がズラッと並べてあった。所所に。服も。

「え、マジでここどこ……ッ!? 武器屋!?」

「鍛冶屋と服屋ですよ、何可笑しな事言ってるんですか。これを見てレストランとかだとか思ってるんですか?」

「だ、だよな……ってセレア……あれ? 俺、お前と一緒にいなかったよ…………な?」

「はい、いませんでしたね。ハーディラとか言う生理的に無理な人の所まで一緒にいました」

「だよな……」

 それから俺はおじさんとエロ本と引き換え六百万も貰って…………寝たのか……な?

「んー……ちょっと記憶が」

「ロクヤさん寝てましたよ。ていうか、何で置いていったんですか」

 やっぱりか。え、置いていく? いや、でも何で俺こんな所にいるんだよ。武器屋……武器屋……いや、何でいるんだよ。

「ちょっと待ってくれ。何で俺武器屋にいるんだよ」

「え、そりゃあ武器や服装を買うためじゃないですか。わからないんですか?」

「わからねぇよ!」

 こいつ何言ってんだ!

「クエスト行くんですよ!? まさかそんな武器無しで行くんですか!?」

「……あ、あぁ……そういえばぁ……」

 そっか、目的はクエストの受注だったか。すっかり忘れてた。

「忘れてたんですか!?」

「わ、悪い……」

 いや、割と結構マジで忘れてた。何か驚く事ばっか起こってたから。

 いや、でもここまで運んできたのは誰だ……? 椅子に座ってるし……まさかセレアが?

「まぁいいです、で。どうするんですか?武器。私は全然お金ないので買える物は限られるんですけど。そういえば、ロクヤさん。お金は持ってるんですか?」

 沈黙。そう、この沈黙は計算! よくわからない間を空け、自分の所持金を教え、セレアが驚くという計算。セレア驚くだろうなぁ。

「ふふっ、俺にはこれがある……ってあ、あれ!? あれ!? え、え、あれ!?」

 な、ないッ! え、どこ!? 盗まれた!?

「ど、どうしたんですかロクヤさん!?」

「ふ、袋が無いんだよ! こ、これぐらいの大きな袋! ど、どうしよおおおおおお――ッ!」

 もうダメだ。あんな大金持てるなんて滅多にないのに……あぁ、死んだら盗んだ奴真っ先に恨もう。

 俺が絶望してると、セレアが俺の目の前に来て、何かを持っていた。

「あ、あ……それ! 俺のおおおおッ! お前が犯人かああッ! 恨む!」

「犯人!? せっかく持って来てあげたのにその言い方はないじゃないですか! もう、なんですかこれ。すっごい重たいんですけど……」

「え、あ、ご、ごめん」

 盗まれてなかった。勘違いが恥ずかしい。

「実はな、ふっふーん。はいっ」

「何ですかそのドヤ顔……ん? ……ん!? え、ええええええッ! な、何ですかこの大金!?」

 さすがに驚きを隠せないか! そう! 俺は結構金持ちなのだ!

「や、やばい……ロクヤさん……一体こんな大金どうしたんですか!? ぬ、盗んだならすぐ返して来てください! 全く目を離した隙なんて事をおおお……あぁああ……」

「待って! お前も勘違いすんなよ! お互い犯人じゃないから!」

「あ、そうなんですか……よかったぁ。ん? お互い?」

「はっはははは! 仲良いねー、セレアちゃん! 恋人さんかい!?」

 突如、レジの方から低い声が聞こえる。セレアの知り合いかな……?

 え……。人!? 人いるのおお!?

「は、はァ!? な、なわけないじゃないですか! へ、変な事言わないでくださいッ!」

 知り合い……か? 友達にしては結構老けてるなぁ。

 おじさん……。店の人かな? っておいッ!

「ヘイ、兄ちゃん! 初めましてだな! 俺はここの店長の……ん? 何で隠れるだ?」

 や、やばい……! な、何でこんな所に人が……。俺がこんな所にいたら、また……。

 いや、店だし、人が経営してるもんな。そりゃ人がいるよな、店長いるに決まってるじゃん。誰もいなかったら店なんて無いもんな。なに言ってるんだ俺。ってなに冷静になってるんだ!

 セレアの背中に男とか関係無く、恥じらいは無く。恐怖という意味で隠れる。

 何で俺は……。

「わ、悪いセレア……俺――ッ」

 早くここから離れなければ――ッ。

「兄ちゃん、怖がるな。俺はお前を否定しないぞ」

 また、突如。突如、声が柔らかくなった店長。

「………………え?」

 また、セレアも。優しく……微笑む。

「ロクヤさん、私たちは、ロクヤさんを否定しません。あなたは……何もしていない。真実かどうかはわかりませんが、あなたの種族の過去の人達が悪い噂を作ってしまい、過去の人が無くなって、同じ種族の未来のあなたが噂を貰ってしまった。今は、そういう状況です。ただ、それだけです。第一、その人殺しの種族が何で絶滅危惧人族なんですか? 殺ししか脳のない種族が殆ど殺されたんですか? ちょっと疑問持っちゃいますよねー。だってさっきの生理的に無理なハーディラとか言う人だって、色々言ってましたが。殆ど"らしい"ばっかじゃないですか? 自分で事実確認もしていないのに人が言ったのか知らないですがそれを全部鵜呑みにしてますよね、絶対」

「そうだなぁ、セレアちゃんの言う通りだ。人を見た目とかで差別してはダメだ。人は外じゃなくて中を見るんだ! はっはははは!」

「ガスさん、すいません笑えません」

「あはは、とにかく。ロクヤさん。私達はあなたを否定してません! わかりましたか!?」

「……あはは、……ありがとう」

 


 ……何赤くなってんだか。恥ずかしいなら言わなければ良かったのに。

 あぁ、何だろうなぁ。目が潤々してきた…………。や、やっばい。


「ちょ、あ、ご、ごめん!」

「え……、ま、まさか泣いちゃいましたか!? これはスクープ! 紅魔族のロクヤ、号泣! これは売れる!」

「死ね」

「はっはははは! まぁとりあえずそういう事だ! 兄ちゃんはセレアちゃんとこれから行動するだろうしな、それと話が出来る相手も増えてここへはちょいちょい来るだろう。……な?」

「来ますよ来ますよー!」

「おー! ありがとよセレアちゃん!」

 話が出来る相手か。まぁ、いないよなぁ。そういえば、挨拶してなかったな。

「あ、あの。ロクヤです。これからよろしくお願いします」

「ここの店長のガスだ! まぁそんな堅くなるな! ガスって呼んでくれ!」

 さすがに呼び捨てはどうかなぁ……。でも本人はそうしてくれって言ってるしな。

「が、ガス……」

「ああ!」

 よかった、何とか言えそうだ。

 ガスは、思い出した! と言わんばかりの顔で俺とセレアに言ってきた。

「そういえば、服や武器を見に来たんだって?」

 ああ、そういえばそうだった。また忘れてた。

「ああ、そういえば。そうでしたね」

 お前もかよ!

「あはは、で、どするんだセレア? 俺今、気分良いし、何でも買ってやるぞ」

 何故か、と聞かれたら答える事は出来ない。言葉に出来ない程……嬉しい。ただそれだけを答えると……ただ、ただ恥ずかしい。嬉しいなんて言ったらセレアにからかわれるから、これは言わないでおこうかな。いや、でもありがとうってお礼言ったし、嬉しいと分かってるのかもしれない……いや、まぁいいか。

 嬉しいだけは心の中に閉まっておこう。

「え、ほ、ホントですか!? じゃあこれください! 私これだけでいいです!」

「もう決まってたのかよ……えっと三百五十万……高ッ! ちょ、これはさすがに――」

 断りたい。その気持ちがいっぱいでセレアの方を向く。

 ジト目だった。さっき何でもって言っただろと言葉にしなくても伝わる。なんて事だ! 俺が何でも、と言わなければこんな事にはならなかったのに!

「わ、わかったよ,買うって言ったもんな。はぁ、もう少し遠慮しろよぉ……」

 セレアが選んだ物は武器の弓だ。その弓は白で彩色され、その上に綺麗な金属の塊が程好く付けられており、さすが職人と言ってしまう。素晴らしいデザインだ。思わず見とれてしまうが現実に戻ると三百五十万という大金を一瞬で無くなっている。

「はい、ありがとよー! 毎度ありー! あれ、兄ちゃんは買わないのか?」

「いや、俺は……」

 残り二百五十万か。これで買えるのは限られるし俺はいいかな……。突然セレアが声をかけてきた。

「ロクヤさん、ありがとうございますー! そういえばロクヤさんにぴったりな武器と服があるんですけど! これこれ!」

 また、勝手に。まぁ、見るだけならいいか。

「…………」

 セレアが持ってきた武器は剣だ。黒い剣。殆ど黒で、黒以外、別の色があるのは少し山になって出来た剣脊の部位に二つの白い線がある。そして剣格の部位は右と左、外側に二つずつ山が出来ていて、内側には赤く輝く小さな宝石のような物がある。そしてまた、剣格の部位に白い焔のようなデザインが彫られていた。

 正面から見たら蝶のように見える。その剣格の部位はまた少し山になっているようだ。

 服も……殆ど黒い。上はネックウォーマみたいな物が付いており首が隠れるように出来ている。二の腕の方は何故か鉄みたいなのがついているのがよくわからない。前から見るとお腹辺りには右と左にポケットが一つずつ、胸の辺りにまた、右と左にポケットが一つずつ。ただの上着に見えてきた。

 下の服は上着みたいな物が腰巻みたいなにされている。あとは……特に特徴が無く、普通のズボンだ。

「随分……黒いな……」

「ロクヤさん絶対似合いますよ!」

「はぁ。まぁファッションセンスとか俺ないし、てか服とかよくわからないし。まぁいいんだけど。あ、これ、いくらだ」

「二百五十万です!」

 ドンピシャ! ぴったりじゃねぇか! 何でぴったりなんだよ!

「これ、絶対買ってください! 買わないとこれから先危険な事が起こり続けるかもしれませんよ……ッ!?」

「なわけないだろ……でも、まぁいいかな。あ、ガス、これ買う」

「あいよ! 毎度あり! 兄ちゃん、どうだここで着替えて行くか?」

「おー! それはナイスアイディアですガスさん! ロクヤさん! はやく着替えてみてください!」

 何か……期待されているなぁ。

「まぁいいけど。見て楽しいような事じゃないだろう……」

「はははは! まァいいから着替えてこい! そこの試着コーナーって書いてるとこがあるだろう? そのカーテンの中で着替えて貰って構わないぞ」

 ガスが指指す方へ歩く。お、これか。

「あ、じゃあ使わせて貰うよ」

「早くしてくださいねー!」



 着替える事数分。



「き、着替えたぞー……」

 数分後。俺はカーテンから顔だけを出す。

「遅い! ロクヤさん、物凄く遅いッ! 女子か! 男ならぱぱっと着替えてくださいよ!」

 いや、これ、意外と恥ずかしいんだよ! 露出がある訳じゃないが、人に選んでもらった服を見せるって、何て言ったら良いかわかんないけど、凄い恥ずかしいんだよ。しかも女に選んで貰ってるし……。照れくさいというか。

「い、いや、でも……」

 は、恥ずかしいなぁ……。

「はっはははは! 可愛いなぁ、俺好みの反応だ! はははは!」

 ちょっと待て! 今危ないような言葉が聞こえたんだけど!? が、ガス!?

 信じない、信じないぞ。ガスが、ホが付くような人だって。

「どうしたんですかロクヤさん? 顔色悪いですよ?」

 当たり前だ! ガスが誤解を招く様な発言をしてる、と言おうとした瞬間――


 カーテンが開いた。


「もう、ぐずぐずしてないで、さっさと見せてくださいッ!」

 セレアに無理やりカーテンを開けられてしまった。


 くっ、油断した!

「くっ……ちょっ!」



 見られてしまった。

 着替えが終わった俺を見てセレアとガスが固まっている。

 な、なんで黙ってるんだ? あれ、そんな可笑しかったか?

「お、おい。どうしたんだよ二人共……」

 俺の質問後、変わらず間が続く。石化してるのかと疑う程長い時間止まっているので、これはおふざけではなく真面目に固まってしまったのかなと思ってしまう。

 まったく、人の着替えを見て固まるなんて失礼な奴だ……というか、これは本当に動かないのだろうか?

 変な事しても体触っても気づかないのだろうか? 時間が止まっているのだろうか?

 よし、触ってみよう。


 と、その時。

「これは驚きました。予想以上に似合ってますね……。女装とか絶対似合いますよ、ロクヤさん、ウィッグとか付けてみます?」

 突然喋ったので、心臓が止まるかと思った。逆にこっちが固まるとこだったぜ。ふぅ。

 ウィッグって……あれか。カツラみたいのか。

「い、いや。いい! て、てか、似合ってるの? マジか、それならよかった」

「ポニーテールだと俺好みだなっ! めちゃくちゃにしてやりたくなるわ! はっはっはははは!」

「ガス! もう俺に近づかないでくれ!」

 良い人っぽいけど警戒しなきゃ、死ぬ!

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