英会話の魔
数話思いついていたので、さらさら。
リーナリアはツンデレっぽく見えますけど、ツンデレではないです。
『お祭りのお知らせ』
部屋の中、一人チラシ眺める者はとても小さななりをしているが、この世の魔王である。魔王リーナリアはそのチラシを手にしながらため息をついた。
「後3日……ううん、大丈夫! 私ファイオー!」
沈み込みそうになっていた気持ちを吹き飛ばすため気合を入れた。リーナリアはお祭りに参加したいがために近日、毎日のようにヘイムダルを召還していた。
チラシを手に入れてからはそれはそれは楽しみで毎日が眠れない程に気になって仕方が無かった。
もう一度言おう、これがこの世界の魔王の姿だ。
「えーと、おーい誰か居るー?」
玉座に偉そうに(事実偉い)ふんぞり返りながら、部下を呼びつける。見た目通りの子供とは思えない雰囲気を漂わせているが、ただしそれは雰囲気だけであって言葉の形はまるでなっていなかった。
「はっ。なんでしょうか魔王様」
主の命を聞きつけ、骨だけで形を作っている通称スケルトンが現れた。しっかりと膝をつきながら主の言葉を待つ。
「ヘイムを呼んできて!」
と、主のリーナリアがスケルトンに向かって言いつける。しかし、それを聞いた手下のスケルトンは何やら困った様子だ。リーナリアはその部下の様子に不安を感じ、ヘイムダルに何かあったのではないかと心が焦る。
「な、何かあったの……?」
最近は魔王より相反する勇者の討伐する活動も多く、ヘイムダルもたまに勇者討伐に出掛ける事もある。いつ最悪な事態が目の当たりにするか、魔王であるリーナリアですら判断できない。
緊張感溢れる中、スケルトンは口にする。
「ヘイムダル様は本日、英会話の勉強をするそうで来れない。と……」
「えい……かいわ?」
全く想像もしていなかった返事に対して、リーナリアはその意味が良く理解できずポカンとした顔になる。
そしてゆっくり復唱し、意味が理解してくると怒りでワナワナと震えだした。
「いいから連れて来ーーい!!」
「ひっ。は、はっ! ただいま連れて参ります!」
リーナリアが叫ぶと同時にスケルトンは一気に部屋から飛び出してヘイムダルを呼びに行った。
「ヘイムダルをお呼びとあれ、参上仕りました」
呼び出されたヘイムダルは玉座に座る魔王の元に跪いていた。
「やっと来たわね、ヘイム。普通に呼んでも来ないから困ってたところよ」
「いえいえ、私はいつだって魔王様(笑)のお傍にいとう存じ上げます」
「そう。良い心がけね……って、今の含み笑いはなんなのよー!!」
言葉の節々に笑いを込めながら話をするヘイムダルにリーナリアは怒りながら指摘する。
相変わらずの従者の態度に主人であるリーナリアも威厳が保てない。元々威厳があったかどうかはさておき。
「それではナリア。私は勉学に戻らねばならないので」
「ああそう……ってこらーー! まだ用件どころか何も言ってないでしょーー!?」
ヘイムダルがこの場を去ろうとするので慌てて止める。それ以前にこの世界にとって英語の存在など、魔族どころか人間ですらまともに必要としていない。
「そもそも今更、魔族に勉強なんて必要なの?」
「何を仰りますナリアさん。ナリアこそ本業は勉学のお年頃では?」
「ちがーーう!! それに分かってて言ってるでしょ!? 私ヘイムよりずっと年上なんだからね?」
「つまり、ロリバ……」
「それ以上言うなぁぁーー!!」
二人のあまりもの会話で、ヘイムダルを連れてきた骨格のみのために表情の無いスケルトンですらも困っているように見えてしまう。そしてその当人のヘイムダルはしれっとした顔で立っており、リーナリアは顔を真っ赤にしながらゼエゼエと肩から息をしている。
そこでリーナリアは本来の目的を思い出した。このままではまた本題に入れない。
「ええとね、ヘイム? 実はね――」
リーナリアは先ほどのチラシを見せるように取り出す。ここまでしたら如何にヘイムダルであれ、本題に気付くはずであろう。
「三日後のこのお祭りに私を連れて行って!」
リーナリアは勇気を出し、本当に形振りかまわずにヘイムダルに言った。本当はもっとちゃんと形でしかも、相手の方から誘って欲しかったに違いない。つまりはデートなのだから……。
そしてその当ヘイムダルは――。
「ふむ、アポー? いや、アッポーか。りんご」
全く話を聞いてなかった。
そして英語の勉強をしていた。
「こぉぉるぅぁぁっっ!! 話をきーけーーー!!」
ヘイムダルが聞いてないことに気が付くといつも以上に怒鳴り声を上げるリーナリア。しかしそれでもヘイムダルは動じない。
「ふむ。ほう、この場合はノーセンキュー。か」
「何がよ!? 良いから話を聞け! 良いから聞いて! お願いだからぁぁ」
もはや何を自分で言ってるのか分からないほど激情して、涙声になるリーナリア。傍にいたスケルトンも黙っていられなくなり、二人をなだめた。
しばらくして、リーナリアも落ち着いてくると急激に気持ちが落ち込んでしまった。当然と言えば当然であろうか。
「うぅ……勉強なら私が教えてあげるから、連れてってよーー」
もはや半泣き状態だ。
「はは、ご冗談を。ナリアにはまだこの英語は早すぎるのでは?」
「ど・こ・が・よ! どう聞いても小学生レベルの英語じゃないっ! しかも私は大人! お・と・なっ!」
「はいはい。背伸びしたいお年頃なんでちゅねー」
「ちがーーーう!!」
先ほどスケルトンがせっかく二人をなだめたが、既にもう元通りになってしまっていた。ジタバタジタバタと玉座の椅子の上で暴れている魔王の姿はもはや年相応の子供にしか見えない。
しかし突然、暴れていたリーナリアがピタッと動きを止めた。その表情はしたり顔になっていた。
どうやら何かを思いついたようだ。
「ふふーん。ならこれでどう? 私が大人の姿に変身して教えてあげるわ!」
リーナリアは大人の姿……いや、本来の姿へと一時的に戻る事が出来る。そしてヘイムダルはそんなリーナリアの元の姿に対しては従順なのだ。
そしてヘイムダルは――。
「はっ、このヘイムダル粉骨砕身の身にして勉学へ励みますので、ご指導ご鞭撻よろしくお願い致します」
「なによぉー! その変わり身は!!」
ヘイムダルの急変振りに呆れてしまう。これでやっと話は聞いてくれるとはいえ、一つ問題を抱えていた。
「(でも、変身って短時間……それに数回しか出来ないのよね。どうしよ)」
そう。リーナリアは本来の姿へ戻れるのはほんの一瞬であり、長時間持続して行うことは不可能だった。しかも良くて1日に数度までが限界であり、とてもじゃないがヘイムダルの期待に答えることは出来ない。
つまりは変身した状態で勉強を教えるなんて出来やしないのだ。
「えっと、でも1回ぐらいしか変身できないから。この姿のまま教えても良い?」
「はっ冗談は見た目と実年齢だけにしろ。ぺっ」
「なんだとーー!? ってまた唾吐いたーーー!!」
期待に答えられないと分かると一瞬でヘイムダルの態度が一変した。もちろんリーナリアもその期待には答えたかったのだが出来ない事情と言うものがある。
結果的にヘイムダルに嘘を吐いてしまった形になり、そのまま怒るに怒れなくて次第に元気がなくなっていった。
「(どうして、この姿だとヘイムは酷いことばかり言うんだろ……)」
シュンと、可哀想なぐらいに落ち込むリーナリア。誰が見てもあまりの哀れそうな表情っぷりに構ってしまうことだろう。
しかしこの場にはそのような者は居らず、ますます沈み込んでいく。
そしてリーナリアはとあることを思いつく。
「(もしかして、私があっちの姿でもちゃんと記憶あることヘイム知らなかったり? だから冷たい態度を……)」
そう考えればしっくり来た。ならば後は誤解を解くだけだ。
「あのね、ヘイム!
実は私、大人の姿の時も私の記憶はきちんと――」
「あのー魔王様。申し訳ありませんが、少しよろしいですか?」
リーナリアが話し始めると、今までずっとそこに居たスケルトンが話に割り込んできた。
「何よ!? 私とヘイムの邪魔しないでよ!!」
そんな余計なことをしてきたスケルトンに向かってリーナリアはブスっとした顔で睨む。
「い、いえ。その……ですね」
萎縮するもののスケルトンは後ろに下がる事はせず、ただただ申し訳ない顔をする。しかしこのまま魔王の逆鱗に触れ続ければ部下であるスケルトンもただでは済まされないだろう。
そこまでして話に割り込むのだ。とても重要な案件に違いないだろう。
「はぁー……何よ? 言ってみなさい」
「は、はぁ。それでは――」
スケルトンは主の迫力に緊張したまま、そして口にした。
「ヘイムダル様なら、英会話の教材が切れたとのことで先ほど退室し……」
「はぁっ!!?」
ブンブンとリーナリアが首を勢いよく振って部屋中を見るがヘイムダルの姿は無かった。
ブチッと何かが千切れるような音がスケルトンの耳にも聞こえた。そしてギリッと、リーナリアの手が強く握られたかと思うと、魔王城全体に聞こえるような大音量の声が響き渡った。
「お前たち全員で至急速やかにヘイムダルを連れてこーーーーい!!!」
「は、ははぁっ!!」
スケルトンは仲間に連絡すると直に行動を開始したが、結局ヘイムダルは捕まらなかったと言う……。