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第四章―悲劇の始まり―

憂鬱な雨が降る。

窓から見える暗雲にエルジェベートは、何時も以上に苛立ちが隠せなかった。

最近は、以前にも増して酷い頭痛が起こる。

それだけでも悩みの種だが、特に苛立ちを覚えるのは、美貌の衰えのせいだろう。

艶と張りががあった筈の肌には、皺が現れ、自慢の黒い髪には、あってはならない白髪が所々に混じっている。

昔ならば、鏡を見る度に己の美貌に呆れる程まで見惚れていたが、現在は鏡を見るという行為が苦痛を増幅させる原因となってしまっていた。

どうにかせねば…。

それは分かっている。

しかし、どうにもあの魔女から勧められた薬では効果の兆しが一向に見られない。

ありとあらゆる薬草を磨り潰し、不思議な紫色の液体を混ぜたエキスでは、永遠の美貌を保つことは出来ないのだろうか?


「しっ…失礼致します、伯爵夫人。御髪を整えに参りました。」

「遅い!お前は私をどれだけ待たせれば、気が済むのだ!」

「も…申し訳、ございません!」

侍女は、恭しく頭を下げると震える手つきで化粧台の上に置かれていた櫛を手に取った。

此処からが肝心な所である。

決して失敗は許されない。


侍女は、緊張した手つきで髪を整え始めた。

年齢のせいだろうか?

少し硬くなった髪の毛は、上手く櫛を通さない。

焦った侍女は、無理矢理、引っ張ろうとするとブチという音と共に何本かの髪の毛が絨毯に落ちた。

「痛い!」

「あ…あの…申し訳、ございませんでした。」

「申し訳ないで済むのなら神など、この世に存在せぬわ!もう良い…お前如きにこの務めを任せた私が馬鹿だった…。」

「本当に申し訳、ございませんでした!」

侍女は慌てて深く頭を下げてから部屋を出ようとした瞬間、誤って化粧台の上にあった液体を肘で落としてしまった。

絨毯の上に気味の悪い色をした液体が染み込んでいく。

それを見てカッとなったエルジェベートは、振り向きざまに持っていたピンで電光石火の如く、侍女の頬を刺した。

幾度も幾度も…。

やがて息が絶え果てビクとも動かなくなった侍女の姿を見て、エルジェベートは冷たい眼差しを注ぎながら、ほくそ笑んだ。

この役立たずは、人間が本来あるべき場所に還って行ったのである。


エルジェベートは、ふと鏡に映った己を見ると、全身に返り血を浴びていることに気付いた。

「汚らしい…愚民の血だわ…。この私を汚すなど、最期まで嫌らしい女!」

そう叫ぶと台の上に置いてあった化粧紙を乱暴に掴むと血で汚れた腕を拭い取った。

その時、気のせいだろうか?

仄かな光に照らされた腕は血を拭い取った部分だけ黄金に輝いているように見えたのである。

まるで若き日の己のように…。

「血…そう、血のなのね…。若さと美貌を永遠に保つには…。回春の妙薬なのね。」

今までどうして気付かなかったのだろうか?

幼い頃から、頭痛が酷くなることが度々あった。

しかし、どういう訳か誰かの悲鳴を聞くことで先程までの痛みなどを忘れて落ち着くどころか快感さえ覚えたことがある。

それが例え、人間であろうと、動物であろうと…。


「エルジェベート様、如何なされたのですか?」

執事のヨハネスが窺うように扉を開けた。

絨毯の上に横たわっている屍には目もくれずに、此方に向かって来る対応は実に賢明だと思う。

「地下室に久し振りに行こうと思うの。」

「地下室で…ございますか?」

「そうよ。あぁ…其処にある死体は適当に片付けておいて頂戴。」

「かしこまりました。」

本当にこの執事はよく出来ていると思う。

エルジェベートは先程、思い付いた妙案に込み上げてくる笑いを隠すことが出来なかった。

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