表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第3話

 心地よくはない馬車の振動で、目が覚めた。どうやら少し眠っていたらしい。

 対面に座っているのは、しかめっ面のディートハルトだった。


「どうした、頭でも痛いのか? それとも、馬車の振動で、痔にでもなったか?」


 つい、昔の事を思い出していたからだろうか、頭が痛くなったのか聞いてしまった。何となく気取られたくなくて、つい誤魔化して痔にでもなったのかと追加で聞いてしまった。……年頃の女の子として、どうなのだろうか? まあいい、気にしないでおこう。


「……お前は、変わらないな。頭が痛くなったのでもなく、痔になったワケでもない。ただ、お前に紅茶をぶちまけられた詫びをして欲しいのだ」


「何だ、そんな事か」


 そんな事かではないだろう、と喚くイケメン皇子。黙って座っていたら目の保養にはなるかもしれないが、今の私にとって、五月蝿いだけだ。


「水も滴るいい男になったじゃないか。よかったな、イケメン」


 この世界に来て、二年以上になるけど、結局イケメン嫌いは治らなかったな。我が従兄殿の刷り込みは、げに恐ろしい。

 そんな私とディートハルトのやりとりを気にしたのか、旅に出る前も、旅に出た後も何度も聞かされたセリフを、またアリスから聞く事になった。


「いったい、ディートハルト殿下の何処が好かないのです?」


「イケメンな所」


 アリスがディートハルトを狙っている事は知っている。親友と言ってもいいアリスと敵対するのは避けたい。なので、やはりディートハルトは遠ざけておくに限る。アリスを敵にまわしたら、勝てる気がしない。魔王こそ倒せないとしても、勇者なら倒せる、アリスはそんな戦う美少女メイドなのだから。美少女って、何歳までならつけていいんだろう?

 イケメンことディートハルトは二十歳はたち過ぎても婚約者もいないし、後宮に女を囲っているわけでもないらしいので、アリスにはピッタリなのではないだろうか。まあ、身分の差などがあるのでそう簡単にはいかないらしいのだが……。日本で暮らしていた時に、身分の差で何かあった、なんて事を感じた事がなかったから身分の差で恋愛を諦めるという事が未だに理解しかねるんだよね。






――――※※※※――――




 帝都の街を、一人歩く。

 帝都と言うだけあって、なかなかに栄えている。人口も五十万人くらいいると聞いた覚えがある。この世界でも、最大級の人口を誇る都市らしい。ティンダロス帝国を超える人口数は、宗教国家である神聖アルハザード帝国の聖地ネクロノミコンだとか。……その名前を聞いて絶対に行きたくないと思ったモノだ。

 帝都の街を歩いて思った事は、自分が目立つという事。まず、黒髪の人間はこの世界にはほとんどいないらしい。それどころか、異世界からの勇者召喚に成功した、しかも勇者は黒髪の少女だとの噂が帝都の街では一部とはいえ、広がっているらしい。

 が、それ以前に今歩いているのが平民街というのも、私が目立つ原因だろう。貴族の令嬢が着そうなドレスみたいなモノを着ているのだから。まあ、材質がいいのだけは分かるけど、やっぱり動きづらい。普通の服が着たい。流石に高校の制服だと、異世界感丸出しなので、この世界の服を着る事が望ましいだろう。

 服屋を見つけたので、入ってみる。異世界召喚されたとはいえ、勇者補正が効いている為、文字の読み書きに困らなかった。つまり、服屋に入って困るという事はない。ただ、元々流行にも疎いし、ファッションセンスも残念――私はそう思わないけど、友人にそう言われ続けたので、そうなのかもしれない――なので、服を選ぶという事に関しては困るかもしれない。仕方ないか。

 この世界には冒険者と言われる人たちもいるらしい。そういった人たちが着そうな服装でいいのだ。王宮に帰れば、似たような服は沢山あるからこの際だ、この貴族の令嬢が着そうなドレスは売り払ってしまおう。……買い取ってくれるかな?

 服屋の店員に身動きとりやすい服装を勧めてもらい、数着買う事にする。店の奥で着替えをさせて貰える事になった。

 どう考えても値段的に釣り合わないけれど、ドレスといくばくかの現金と交換だ。足りない分は今後何着か無料で売ってくれるとの事だった。ま、いいさ。ドレスは私のじゃないし、例え値段が釣り合わないとしても、私の懐は痛まないからな。ちなみに、受け取った現金は帝都の上級な宿屋で二、三日泊って、豪勢な食事をつけてもらえるくらいの金額らしい。ドレス自体に正当な価値をつければ、上級な宿屋で一週間は泊れる金額になるらしいのだが。

 お礼を言われながら服屋を出る。これで、まあ、見た目だけなら冒険者に近付いただろう。でも、この世界では日本のような下着はあまりない。最悪、胸にはさらしを巻かなければならないかもな。

 暫く、ブラブラしようか。確か、銀座をブラブラする事を銀ブラとか言ったっけ。じゃあ、帝都をブラブラするのは、帝ブラとでも言うのだろうか? ……きっと、こんなふざけた思考を時々する性格になったのは、従兄殿のせいだ。私は悪くない。

 



 せっかく異世界に来たのだから、ネット小説によくある冒険者ギルドにでも加入してみようかな。いつまでも王宮住まいは、出来れば御免こうむりたい。

 道行く人に聞いてみたら、ちゃんと冒険者ギルドというのがあるらしい。よかった。なかったらどうしようと思っていたところだった。

 でっかい盾をバックに剣が交差している看板が目印らしい。

 教えられた通りにテクテク歩いていたら、嫌な視線を感じるようになった。遠巻きについて来ているアリスの視線ではない。……まったく、あの子も過保護というか、何というか。ま、だからこそ自由に動き回れているんだけどね。

 しっかし、うざいなあ……。


「撒くか……」


 この視線の持ち主――おそらく、数人だろう――を撒こうか、と考えひとり言を呟きながら、とりあえず細い路地に入ってみた。上手くいけば、アリスも撒けるだろう。

 路地に入ると、慌てて近付いてくる気配を感じた。さて、どうしようかと考えながら、眼についた路地に入ったりしていたら、いつの間にか目の前に帝都の城壁があった。

 いくら勇者補正が効いて文字の読み書きや言葉に不自由しないからと言っても、地理には疎かった。しかも、つい先ほどまでこの世界に来てからというもの、王宮の中にしかいなかったのだ。迷うのは仕方ないだろう。

 

 さて、どうしようと考えていたら、いかにもチンピラでございます、と言わんばかりの風体の男たちが数人現れた。四人、か。いつ出張ろうかと考えているのだろうか、少し離れたところにアリスの気配を感じる。


「へへへ、黒髪の姉ちゃん、俺達について来てくれねえかな?」


「痛い目に遭いたくねえだろ?」


 二人が私の目の前でナイフを見せつけている。うざいな。


「あんたなら、高く売れそうだぜ」


「俺達で楽しんでやってもいいぜ。誰も見てねえからな、大声あげても誰も助けには来てくれねえだろうよ」


「へへへ、いいんだぜ、叫び声あげてもよぉ……ッ、ぎゃああああああ!?」


 私から見て右側にいた男は、いきなり叫び声をあげた。自分が右手に持っていたナイフがいきなり右肩に刺さったのだ。驚くのも無理はないだろう。それに、叫び声をあげてもいいと自分で言っていたのだ。好きなだけ叫び声をあげてくれ。


「て、てめえ、何をした?」


 説明する必要性を感じないね。

 もう一人、私から見て左側に立ち、ナイフを見せつけていた男が、恐怖にかられたのか、ナイフを突き出してきた。私はそれを反転してかわしながら、男の鳩尾に左の肘打ちを決める。ついでに突き出された右腕を捻って逆関節を極めながら――もちろん、極めたのなら、折る。当然だな――、一本背負いの要領で投げる。頭から地面に叩きつけるところだが、首を蹴り上げて背中から地面に落してあげるあたり、私は何て優しい女なんだろう。

 肩にナイフが刺さった男には、ついでにハイキックを見舞ってやる。優しい私は、キスまでさせてあげた。もちろん、壁とだけどね。

 残りの二人も半殺しにしてやろうと考えながら視線を向けたらもう、いなくなっていた。


「どうしようかな……?」


 アリスはどうやら、残りの二人を追って行ったようだ。少なくとも気配は感じとれない。

 流石にここに放置して行っては、似たような人種に身ぐるみはがされて殺されるかもしれないな、そう考え、私は通りに面した所まで運んでやった。




 二人の男をとりあえず、通りに面した所まで運んでやる。もちろん、引きずりながら。

 右肘を折られた男の腕は、本来ならあり得ない方向に曲がっていたけど、気にしない事にした。人をナイフで脅すくらいなのだから、関節を折られるくらい、覚悟しているだろう。私は、折る覚悟は出来ている。

 ゴミ捨て場のような所があったので、そこに寝かせてやった。肘を壊された方は意識があって引きずられている時から声にならないような叫び声をあげ続けていたが、まあ自業自得だな。


「塵は塵に、灰は灰に、ゴミはゴミ箱に」


 アホ臭い事を呟きながら、私は通りへ歩き出した。人間のクズは、燃えるゴミでよかっただろうか?

 お腹すいたな……、そんな事を考えていたら、迷った。

 冒険者ギルドは何処だろう、と考えとりあえず歩いていたら、腰のあたりに衝撃を感じた。

 六、七歳くらいの女の子にぶつかられたようだ。


「ご、ゴメンなさい!!」


 鼻をおさえながら謝る女の子。凄く可愛かった。


「気にしないで。私も不注意だったね。ゴメンね」


 少しこの子と話をしたくなった私は、女の子と目線を合わせようとかがもうとした時、「いたぞ!!」という叫び声を聞いた。

 その声を聞いた女の子は、私の背中に隠れるように動いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ