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俺が少女になる時に  作者: 山外大河
二章  ハザードサモン編
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最終話 ネクストプロローグ

「にしても……よくあの状態から復元できたよな」


 高校の校舎の屋上で、ついこの前アポカリプスと戦っていた場所を眺めながら、俺とそう呟いた。

 あれから数日。

 無事に病院を退院し、俺は久々に学校に登校した。

 やはり通り魔に刺されたクラスメイトというのは珍しいらしく、心配する奴も居た半面、面白がってその時の事を聞いてくる奴らが多々居たが、思い出したくないから正直勘弁してほしい。体の傷は癒えても、心の傷はそう簡単に癒えやしないんだから。

 だからまあ俺はこうして、態々人が滅多に来ない屋上にまで来て、昼食を取っている。


「ほんと、凄いわよね、魔法具って」


 隣には藤宮が座っている。

 一人で食べてると友達がいないみたいで可哀想だから、と憐みの目を向けて着いてきた訳だ。

 心配すんな藤宮。ちゃんと友達は居る。通り魔に刺された事を面白がる様な奴らばっかだが。

 そんな現実に呆れて、俯き軽くため息をつき、再びあの場所に目を向ける。

 結局今回の一件は、世間的には大型の台風襲来で局地的な被害という無茶苦茶な理由で処理されたらしい。

 実際の所は大型の台風じゃ説明のつかない位の被害……即ち震災と呼べるクラスだったわけだが、それを魔法具の力を借りてなんとか修復したわけだ。

 使った魔法具は、指定した場所を数時間前の状態に戻す、エリアリセットと呼ばれている魔法具。まあ戻すのにも限度があるから『何も起こらなかった』ではなく『大型台風が来た』と言う感じに記憶を改変しなければならなかったんだが。

 それでも、大型台風程度で収まったんだから、ギルドの中では大勝利と言う事になっている。

 聞いた話だと、北陸大震災と名付けられているあの時は、今回と同じようにエリアリセットを使って、あのレベルまでしか復元出来なかったらしい。

 それと比べると快勝。超大勝利だ。

 そして勝利と言えば……もう一つ戦いがあった。

 アポカリプスの出現ポイントへ向かう途中に遭遇した時雨木葉。

 あの後……アイツはどうなったんだろうか。


「なあ、藤宮。結局時雨木葉ってどうなったんだ?」


「私が知るわけないじゃない。最後の目撃情報はアンタがボコボコにした時だってこの前いったでしょ?」


「いや、新しい情報でも入ってないかなって思ってさ」


「入ってきてないわ……まあほとぼりが冷めるまで雲隠れしてるか……また何かを企んでいるか。いずれにしても、私達に出来る事は何もないわ」


 そういうのは情報屋の仕事よ、と言ってサンドイッチを口に運ぶ藤宮。

 情報屋ねぇ……もう今野さんには極力会いたくないな。


「そうだ、聞こうと思ってたの忘れてた。宮代君、今日って予定ってある?」


 藤宮が唐突に尋ねてきた。

 そういえば、聞いた話だと今日は暴走精霊の出現は無いって話だし、俺は今日休みなんだよな。

 だったらやることは決まってる。


「ちょっと携帯の機種変に――」


「却下」


「却下ってなんだよ……」


「何故なら宮代君には予定があるから」


「なんで俺の予定表を勝手に埋めてるんだお前は……」


 まあ……機種変は何時でもできるし……別にいいけど。


「で、予定って何だよ」


「今日の六時にギルドの上の喫茶店に来なさい。あ、五分前とかじゃなく、ピッタリに来なさいよ」


「え……学校の帰りに寄るじゃ駄目なのか?」


「駄目。ちゃんと指定した時間に来ること」


「えーっと……ちなみに何すんの?」


「秘密よ」


「人のスケジュール勝手に埋め解いて、内容は秘密かよ」


 まあ藤宮らしいって言えば藤宮らしいが。


「分かった。六時に行けばいいんだな」


「分かればよろしい」


 そう言って藤宮はニッコリと笑う。

 俺は少々嫌な予感を感じながら、佳奈が作った弁当の卵焼きを口に運んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 午後六時。俺はギルド……っていうか喫茶店の前までやってきていた。

 佳奈には晩御飯はいらないと言って来てある。何があるかは分からないが、ギルド関連となると、そう簡単に帰れそうもない。

 今日は久々に何か食って帰ろう。

 久々と言えば、ギルドに来るのも大体一カ月ぶりだな。

 必死にアポカリプスと戦ったおかげで、一か月前となんら変わりはない。

 それにしても……毎日来ていた場所に、久々に来るというのは、なんとなく緊張する。

 それに……久々だから脅かそうとかいう理由で、何かしらのトラップが仕掛けられているかもしれない。

 もしかして、六時に来いというのは、トラップの準備期間か?

 今日は六限授業だから、トラップを張る時間は十分にある。

 なんか……嫌な予感しかしないんだが。

 何故かカーテンが閉められていて中の様子も見えないし……相当凝った仕掛けなんじゃないのか、これ。

 俺は小さくため息をついた。


「ま、立ち止まっててもしょうがねえよな」


 仕方ない。覚悟を決めろ……俺。

 入口のドアの取っ手に手を掛け、ゆっくりと引く。

 次の瞬間辺りに破裂音が響いて、俺は無意識に両目を閉じ、両手で顔を隠す。

 って……アレ? 追撃が……来ない?

 てかなんか火薬臭いぞ。

 不思議に思って目を開くと、そこにはギルドに面々のほぼ全員がそろっていた。

 そして俺の手には、色彩鮮やかな紙テープが掛っている。

 これって……クラッカー?


「せーの!」


 藤宮がそうやって合図をとると、その場に居た全員が、


『宮代、ギルド復帰おめでとう!』


 と、笑いながら言った。


「えーっと……藤宮。これって……」


「あなたの復帰おめでとうパーティーよ。仲間なんだからこの位やるのは当たり前よ」


 パーティー……本当だ。よく見るとそれっぽく装飾もしてあるし、料理だって沢山置いてある。

 これ、全部俺の為にやってくれたのか?

 驚きのあまり呆けている俺に、藤宮は笑ってこう言った。


「お帰りなさい、宮代君」


 それに続くように、折村さんや中村さん。そしてミホちゃんに雨宮さんに、松本さんと村上さん。そしてその周りのみんなも、おかえりという声を掛けてくる。

 なんとなく……心底戻ってきてよかったという気持ちが溢れてきた。


「さ、宮代君。次はアンタが何か言う番じゃない?」


 藤宮がそう言う。

 そうだよな……俺も言わないと。

 軽く深呼吸し、俺は皆に向かって笑ってこう言った。


「ただいま」

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