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俺が少女になる時に  作者: 山外大河
二章  ハザードサモン編
28/31

11 立ち上がれ

 あれから随分と長い時間が経過した。

 今日は俺にとってはなんでもない日だが、ギルドにとっては相当大事な日だった筈だ。

 中村さんの話しの通りに制作が進んでいるとしたら、今日は対アポカリプスの魔装具が完成する日だ。

 俺はベッドから降りて、ゆっくりと病室の出入り口に向かって歩き出した。

 もうほぼ傷は完治した。

 正直ほぼではなく普通に完治しているんだと思うが、病院はそういう所にうるさい。

 だから退院できるのはまだ少し先だ。

 今までの生活が騒々しすぎたから、入院生活はなんというか……ヒマすぎる。


「とりあえず……売店で菓子でも買ってくるか」


 そういえば今日って漫画の発売日だったっけ?

 発売日を思い出しながら、俺はドアの取っ手をつかんでスライドさせる。

 随分とドアが軽く感じた。

 どうやら佳奈が同時に同じ動作を行ったらしい。


「あ、兄貴!」


 随分と驚いている。

 分かる分かる。地味に驚くんだよな、同時に開けると扉が軽くてさ。


「おはよ、佳奈」


 今日は祝日だからな。学校も休みだしお見舞いに来てくれたんだろう。


「とりあえず……中に入れよ」


 俺は売店に行くのを取りやめ、佳奈を病室に迎え入れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 いつも通り何気ない会話を、佳奈と交わしていると、異変は唐突に訪れた。

 あまりにも唐突すぎた。

 今まで普通に俺と会話していた佳奈が、頭を抱えたかと思うと、


「……早く行かないと」


 と、今までの会話と全く関連性の無い事を口にした。


「え? どうした、佳奈?」


「どうしたって、アンタ今の話し聞いてなかったの?」


「聞いてたけど……」


 聞いてたからこそ訳が分からない。

 今は普通に佳奈の学校生活の話や、親父から送られてきた武勇伝メールの話をしていたんだが……少なくとも、何処かに行くなんて言葉に繋がる様な事は無かったはずだ。


「じゃあ早く行きましょ」


 佳奈が立ちあがってそう言う。


「行くってどこに?」


「聞いてたのか聞いて無かったかどっちなのよ……ここら一体に避難勧告が出てるから、避難するって話だったじゃない」


「避難勧告……って何の?」


 だからそんな話してなかっただろ? なんだよ避難勧告って。


「ホント……何が起きるんだろうね」


「え……知らないのかよ」


「うん。何が起こるか分からないんだけど……とりあえず此処ら一体に居る人は避難だって」


 なんだよそれ。そんな訳のわからない避難勧告を出して、鵜呑みにする奴なんているわけねえだろ。

 じゃあなんで佳奈はこうして信じ込んでるんだ? 佳奈はこういう事があっても、そう簡単に呑む奴じゃないと思うんだけど。

 冷静に考えろ……何かがおかしい。

 夢? ……んな訳が無い。

 じゃあやっぱりこれは……魔装具か魔法具の力なのか?

 もしそうなら、曖昧な内容を信じ込むのも頷ける。

 だとしても何の為に……此処ら一体に避難に避難を要請しないといけない事ってなんだ?

 少しだけ考えて、すぐに結論にたどり着く。


「……アポカリプス」


 思わず脳裏に浮かんだ単語を漏らす。


「ん? 何か言った?」


 俺の荷物をせっせと纏めている佳奈が、そう聞いてくる。


「いや……何でもない」


「何でもないなら手伝いなさいよ」


「ああ、分かった」


 そう言って、俺は荷造りを手伝う。

 クソ……マジでどうなってんだ。

 もしアポカリプスが出現するんだとしたら……予定より三日も早いぞ。

 大丈夫なんだろうな……藤宮。



 病院からの避難と言うのは、実に凄いものだった。

 重症患者は皆、別の病院へ搬送されていく。

 俺はというと、もうほぼ完治している為自力での避難となった。

 見える人から見れば、帯刀とか避難者のスタイルじゃねーだろとかツッコまれそうだが、置いてくる訳には行かないんだから仕方が無い。

 そんな俺達が避難してきたのは、病院から大分はなれた巨大な文化会館。

 巨大な建物の中に、色々な用途に対応できる施設が詰まったところだ。

 来るのは初めてだからよくわからんが。


「それにしても……何が起こるんだろうね」


 会館の中で不安そうな佳奈が、そう漏らす。


「……なんなんだろうな」


 佳奈に答えた俺は無意識に、腰に下げた刀を握っていた。

 俺……こんな所に居てもいいのだろうか。


「どうしたの、兄貴?」


「いや、何でもない……ちょっとトイレ行ってくるよ」


 そう言ってこの場を離れる。

 ホント……こんなんで良いのかよ。

 ぼんやりと悩みながら歩いていると、


「……宮代?」


 と、聞き覚えのある声が聞えた。

 声が聞えた方を振り返ると、そこに立っていたのは松本さんだった。


「松本さん!」


「……久しぶりだな。元気してたか?」


 松本さんは、酷く疲れた表情でそう言う。

 この際だ……聞いておこう。


「松本さん……今一体何が起きてるんですか?」


「……薄々分かっているんじゃないのか? アポカリプスの出現が早まったんだよ」


「早まったって……」


「……恐らく、時雨木葉が何かしたんだろう。ここ最近特級精霊の出現が無かったから、何か企んでいるんじゃないかと思ったが……まさかこんな事が起こるとはな」


 悔しそうにそう言う松本さん。


「ところで、松本さんはどうして此処に? ギルドに居た方が安全なんじゃ……」


 確か以前聞いた話だと、ギルドはそれなりの防衛設備が備わっていたはずだ。


「……単純な話だ。ギルドの防衛性能を持ってしても、アポカリプスの行動範囲に放り込まれたら、かなり危険って事だ。非戦闘員のメンツは此処に集まっている」


「って事は、雨宮さんやミホちゃんも?」


「……ああ来ている。上の階で作業中だ」


 作業中って……まさか。


「……対アポカリプスの魔装具を作っているって事ですか?」


「……ああ。まだ最後のプログラムが出来ていない。でき次第直に送るつもりだが、アポカリプス出現時刻には間に合わない……だから藤宮達と、他のギルドからの増援が、アポカリプスの足止めをする事になっている」


「足止めって……大丈夫なんですか?」


 あの時……どうにもならなかった相手だろ?


「……大丈夫な訳ないだろ。相手はあのアポカリプスだぞ……しかも、急な出現時刻が早まったから、こちらに来るはずの増援がまだ半数程しか到着していない」


「だ、駄目じゃないですか、それじゃあ!」


 それじゃあ……藤宮達が死ぬかもしれないって事じゃないか。


「そ、そうだ……この場は一旦引いて、完成してから立ち向かうってのは……」


 俺が藁にも縋る思いでそう言うが、松本さんは静かに首を振る。


「……そうしたいのは山々だが……それをやると、軽く日本の半分が滅ぶぞ?」


 だから引けないって事かよ……。


「……じゃあ俺はそろそろ戻る。オペレーターとしての仕事もそうだが、何より少しでもミホちゃんを手伝ってあげないと」


 松本さんは俺に背を向け、ゆっくりと遠ざかっていく。

 ……俺は、本当にこんな所に居ていいのかよ。

 このままじゃ……藤宮達が死ぬかもしれないんだぞ?

 そんなの……酷すぎるだろ。


「……松本さん」


 俺は松本さんにぎりぎり届く様な声で、引きとめる。


「……どうした、宮代」


 言え……言うんだ。

 そう言い聞かせていると、脳内に刺された時のビジョンが駆け巡るが、俺は必死にそれを振り払う。

 ……ここで何も出来なかったら、一生後悔する。だから――。


「……ください」


「ん?」


「アポカリプスの出現ポイントを……教えてください!」


 必死な思いでそう言った。


「……怖いんじゃなかったのか?」


 確かに怖いよ……あの時の恐怖は拭いされない。でも――


「俺は、皆に死なれる方が怖いんです! だから……」


「……分かった」


 俺の言葉を遮るようにそう言った後、ポケットからスマートフォンを取り出し、早々と操作する。

 そして指が止まったかと思うと、それをこちらに放り投げた。


「松本さん……これは?」


 画面にはこの辺りの地図が表示されている。


「……画面の印に向かって走れ。ナビゲーション機能が付いているから、土地勘が無い奴でも辿り着けるはずだ」


 そして松本さんは薄っすらと笑みを浮かべててこう言う。


「……頼んだぞ、宮代」


 そうしてその直後に、こちらに歩み寄ってくる足音が聞えた。

 その方角へ目を向けると……底に居たのは雨宮さんだった。


「何か騒がしいと思って来てみれば、やっぱりキミか」


「雨宮さん……」


「……ミホちゃんの作業の方はどうなってる?」


 松本さんが尋ねると、雨宮さんがこう答えた。


「とりあえず、私が手伝える事はもう無くなった、とでも言っておこう」


 そう言った後、白衣から何かを取り出し、こちらに投げてきた。


「餞別だ。受け取ってくれ」


 投げてきたのは緑色の宝石の様な物だった。

 おそらく……魔法具だろう。


「突風を引き起こす魔法具だ。なんの役に立つかは分からないが、お守り程度に持っておけ」


 お守り……か。ホント、ありがてえよ。


「……ありがとうございます!」


 俺はそう言って松本さんと雨宮さんに背を向け、出現ポイントに向かって走り出した。

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