俺、謎の勧誘を受ける!
クラスメイトの女子に校舎裏に呼び出されるなんてイベントは、ベタな漫画のみに存在する展開だと思っていたが、どうやらその解釈は間違っていたらしい。
俺は呼び出された校舎裏に向かいながら認識を改めた。
それにしても妙だ。
普通に考えて転校初日で特にフラグが立つような行動を取っていない俺が、女の子呼び出される事なんてありえないだろう。
それなのに俺は呼び出された……理由がさっぱりわからん。
「にしても……まさかアイツから呼び出されるとはな」
俺を呼び出したのは俺の席の隣に座る、ショートカットの女子、藤宮優子。間違いなく内のクラスでは一番可愛いし、前に居た学校にも藤宮に匹敵する程可愛い女子は居なかったと思う。胸元は……かなり残念だが、そんな事が気にならないほど可愛い女の子だ。
そんな子が転校生の俺を呼び出す理由ってなんだ?
そうやって思考を巡らせながら校舎裏にたどり着くと、既に藤宮が壁にもたれかかっていた。
「あ、宮代君。こっちこっち!」
そう言って手招きする藤宮の元に歩み寄る。
「えーっと……なんか用か、藤宮」
俺が頬を掻きながらそう言うと、藤宮は満面の笑みを浮かべる。
「ちょっと宮代君にお願いがあって呼んだの」
お願い? 態々校舎裏にまで呼び出して……それも転校初日の俺に頼む様なお願いって……。
「な、なんだよお願いって……」
「単刀直入に言うわ」
藤宮は俺の方に手を伸ばして相当緊張している俺の手を取り、俺にお願い事を告げる。
「宮代君、魔法少女になってくれないかしら?」
元気いっぱいにそう言う藤宮に反し、俺は今の状況を飲み込めずに立ちつくしていた。
コイツ今……なんて言った?
「は……え? 魔法少女?」
「そ、魔法少女」
と、マジな顔で言う藤宮。
「アンタが魔法少女になって、暴走精霊と戦うの。理解した?」
「できるかあああああああああああああああああッ!」
俺は全力でシャウトした。
「まあ予想通りの反応ね。逆に、はいそうですかって受け入れられたら私、宮代君の事軽蔑してたわ」
「俺は既にお前の事を軽蔑してるけどな!」
クラスで他の女子と会話する姿は普通に可愛い女の子だったのに……まさかとんでもない電波系? 痛すぎるぞ。
「軽蔑って……私は別に変な事言ってないじゃない。宮代君には魔法少女になるセンスがある、そして私は宮代君を魔法少女にできる。だから魔法少女に誘う事に変な事なんて一つも無いでしょう」
「一つもどころか、全てが変だから! 俺男だから! 少女じゃないから!」
「うっさいわね。気にしたら負けでしょそんなの」
「気にしてくれ! 特に自分のズレてる主観を!」
魔法少女の存在とかは置いておいても、男が魔法少女ってどんな発想だ!
「とにかくだ!」
俺は藤宮の手を振り払う。
「悪いけど、俺はお前の訳のわからない妄想につき合う気はねえよ……帰るわ」
俺はそう言って藤宮に背を向け、校門に向かい歩き始めた。
「宮代君!」
突然張りあげられた藤宮の叫びに反応して、藤宮俺は反射的に振り返る。
振り返った先に見えたのは、どこからか取りだした大鎌を構えてこちらに走ってくる藤宮。
「ちょ、おま……ッ」
そう言った直後、俺は三つの事を知った。
まず一つ。藤宮の狙いは俺では無かった事。
次に二つ目。どっから出したかは知らないが、大鎌を構えた理由は、上から降ってきたありえない物をなんとかする為だということ。
そして三つ目。ドラマなんかで車に轢かれそうな人が、避けれそうなのに避けないのは、避けないのではなく、体が強張って避けられないからだということ。
「な……ッ!」
目に映ったのは、俺に向かって爪を振り下ろそうと、空中から落下してくる巨大な猫。
そして、その猫に向かって大鎌から斬撃を放つ藤宮。
……猫の方が僅かに早い。
そう認識した直後に振り下ろされた爪が俺の腹を抉った。
「ぁ……」
感じたことの無い痛みを伴いながら、俺は地面に倒れ伏した。
地面が俺の血で赤く染まる。
俺を呼ぶ声が聞えてくるが、それもすぐに聞えなくなり、俺の視界はブラックアウトした。
次回から本編スタートです。